53話 わずかな一時
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は、ただ戸を開けて庵の中に入ろうとしたら、何故かまだ外にいた。
しかも俺は、彼女である真莉亜からのタックルで倒れてしまい、理解が出来ないまま上の空になっていた。』
な…なにを言っているのかわからねーと思うが おれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…
ハグだとかビンタだとか、そんなチャチなもんじゃねぇ…
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
とまぁ変な現実逃避をしていたけど、腹と背中だけは本気で痛い。
「えっと…真莉亜さん、これは一体…」
「どうして…」
「え?」
「どうしてお守りの通信に気づかなかったのよ!!」
「…はい?」
涙目になった真莉亜の言ってる事が一瞬わからなくて考えていたら、真莉亜の右手には、出発する前に通信用のために渡していたお守りが握りしめられていた。
「えっと…つまり…真莉亜はずっと俺に念話を掛けていたって事だよな?」
「そうだよ!」
「あれ、でも俺の方には何も反応はなかったぞ?」
俺はジャージのポケットに入れていたし、受信した場合は淡い光を放つからすぐにわかるのだけど、少なからずともそんな反応は微塵もしていなかった。
あ、そういえばあの場所は橋渡しの場所だったな…
だったら境界を渡った瞬間に遮断された可能性もあるかもな。
「真莉亜、一旦落ち着け。零たちも妾たちと同じで疲れているだろうから、まずは休ませる事が先だ。」
「ぐぬぬぬ……」
「はいはい、後で頭を撫でたりしてやるから、まずは先に退いてくれ。」
「…約束だよ。」
ちょっと不機嫌だけど、真莉亜は俺から離れてから立って、桜さんにお互いの情報を話し合う事を提案させた。
しかし俺の彼女はホントに可愛いな…
『精神状態無効』と『精神統一』がなければ即死だったぜ……
「とりあえず少し休んでから、お互いの作戦の結果と、こちらで手に入れた情報を他の皆さんに話します。」
「あぁ、わかった。だがまずは体を休めるのが先だ。禊場に濡れた布を用意しておるから、それで汗を拭え。その間に夕餉の準備を済ましておく。」
「ありがとうございます。」
「でしたら白崎様から先にどうぞ。この中で一番疲れているのはあなたでしょうし。」
「いいんですか、俺が先で?」
「私たちは後からでも構いません。どうかお気になさらず。」
「それじゃあ、お言葉に甘えて先に失礼します。」
そうして俺は、二人の厚意に甘えて、先に禊場で瘴気と汗を流す事にした。
(あっ…そういえばまだステータスが更新してたのまだ見てなかったな。)
汗を流している途中で、俺はステータスが2回更新されたのを思い出して、話し合いの前にそれを確認した。
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白崎 零(勇者)
HP 4840/16000
MP 11200/18900(+8000)
NEW
加護『天照大神の加護』
妖術
理雨淵
呪獄爪
蛇散雀刃
妖門
神術『太陽神』
八咫鏡
封洞 天岩戸
浄化
陽皇女
スキル 聖眼→神眼
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おぉ…鵺が言ってた通り奴の技と妖力が讓渡されている。
しかも妖力に至っては、魔力としても利用可能になっているから、魔力の貯蔵庫が増えたのはありがたい。
それにしても『太陽神』ねぇ…
まさか俺のアレと同じものを持ってしまうなんてな。
これも運命か何かなのかな…
「えっと…妖術と神術は一つずつ『鑑定』していった方がいいな。」
現在半裸の状態で禊場にいて、その上外だから風邪引きそうだし、とりあえずサクッと確認してから、みんなの所に戻った。
部屋に戻ると、夕食の準備が出来ていたみたいで、全員俺を待っているかのように座っていた。
「すみません、遅くなりました。」
「いや、今出来たところだから大丈夫だ。零も早く座ると良い。」
「わかりました。」
桜さんから言われて、俺も真莉亜とリラの間に座った。
「では、みんなが無事に戻って来たところで、いただきます。」
『いただきます。』
桜さんの言葉の後に続いて、俺たちも作ってもらった夕食をいただく事にした。
「あぁ…あったまる。」
「体が冷え切っていたから、この味噌汁がすごくおいしく感じる。」
「本来ならもう少し豪華にさせる事ができたのだが、やはり瘴気のせいであまり良い食材が取れなかったからな。」
少し悲しそうな顔をしていた桜さんに、常盤と香織ちゃんが優しく声を掛けた。
「そんな事はないですよ桜様、このように食事があるだけでも満足ですので。」
「そうです。お気になさらないでください。」
「ありがとう、夏奈、香織。」
桜さんが笑った顔になってお腹が膨れてきているところで、あまり時間も掛けられないし、そろそろあの話を話した方がいいかもな。
「全員、食べながら話を聞いてほしい事があるんだ。」
「零君?」
俺が話をしようとしたら、ここにいるみんなが箸を動かすのをやめた。
「鵺を倒した後の事を話したいけど、その前に聞いておきたい事があるんだ。」
「聞いておきたい事?」
俺以外のみんなが首を傾げている中、俺は初めて見る黒髪の少女のほうを向いた。
「あなた誰ですか?」
「今更か!?」
少女も少女で予想していなかったのだろう、急に俺が誰なのか聞いてきたから、思わず持っていたお椀を落としそうにしながらツッコミをいれてきた。
「お、お主、今まで誰なのか分かっていなかったのか!?」
「いや、会うの初めてだから…」
「久遠さん、言っときますけどあなただけですからね、まだ自己紹介をしていないのは。」
「え、そうなのか?」
「はい。」
「……」
冬華さんに言われて、ようやく自分だけが自己紹介をしていなかったことに気付いた彼女は、なんか申し訳なさそうにしながら一回咳払いをした。
「わ、吾の紹介がまだだった事は謝罪しよう。改めて、吾は妖狩りの巫女が一人、鴉天狗の山風久遠じゃ。よろしく頼もう。」
「白崎零です。」「リラです。」
お互いに簡単な挨拶をして、俺は今度こそあの話をする事にした。
「話を戻しますけど、下山してからその後、俺たちはある場所に向かいました。」
「ある場所?」
「麓の細道の先にあった、稲荷神社って場所に行って、ぬらりひょんの事と桜さんの事を教えてもらいました。」
「…なるほどな。」
桜さんは落ち着いた顔をしているけど、多分この後俺が言う事を察しているかもしれないな。
だったらまずは、この世界の仕組みの方から話すとするか。
「まず、俺たちがいる大和に国なんだけど、この世界はぬらりひょんによって作られた庭なんだ。」
『!?』
俺を含め、先に聞いていたリラと冬華さん、それと桜さん以外は驚きを隠せていない。
と言っても隠せるわけないよな…
何せ今俺たちはぬらりひょんの掌で踊っているのと変わらないのだから。
「零君、それって本当なの…!?」
「あぁ、稲荷神社にいた巫女、橘花から聞いた話だけど、本来あった大和の国と全く同じ世界を作り出し、大術式を使って10万の人をこの庭に閉じ込めたんだよ。」
「それじゃあ、今この場所はぬらりひょんにバレてるって事なの!?」
「そうだ、だからあまり長話ができないから、できるだけ質問はしないようにしてほしい。」
俺がそう言うと、みんな何も言わないで頷いてくれた。
「そして俺たちが戦ってた鵺と鬼だけど、鵺は元々桜さんの仲間で、鬼は法師だった人間が妖にされた存在だったんだよ。」
「! そうか、だったらあの時見えたものは…」
「真莉亜のその言い方だと、鬼に力を貰った後に記憶を見たんだな?」
「うん、お坊さんみたいな人が、顔の分からない老人によって鬼にされた記憶を見たよ。」
どうやら真莉亜も俺と同じで力を貰って、同じように記憶を見たみたいだ。
という事は、今真莉亜の中には鬼の力が入っているって事になるのか。
まぁちょっと心配だけど、人体に影響が出てないなら問題は特にないか。
「ちなみに残っている髑髏だけど、正体はこの世界で殺された人たちが怨霊になって、それが集合体みたいになった存在らしんだ。」
「じゃあ、その髑髏の場合は…」
「殺すんではなく、解放するっという事なのだろう?」
「そうです、久遠さん。」
香織ちゃんが言おうとする前に、久遠さんがどうやって倒すかわかったみたいで、その答えを言った。
「それと、稲荷神社いにいた神の使い、橘花たちから神の加護をもらいました。」
「「か、神の加護!?」」
神の加護というワードに驚いたのは、常磐と香織ちゃんだった。
そういえば二人は巫女だから、そういった神の加護が簡単に貰えるなんてありえないんだろうな。
でもな、本当なら俺の中にはもう一つ神の加護があるはずだったんだ。
あの女神が忘れてなければ。
「し、白崎君の中に、神の加護があるの!?」
「あぁ、加護の主は太陽神、天照大神の加護だ。」
「ほう、まさか妾と同じ天照様の加護を貰うとはな。」
二人は天照というワードが出てきた瞬間、開いた口が塞がらなくなってしまい、桜さんは同じ神様の加護なのか、どことなく嬉しそうにしていた。
「それに俺だけじゃなく、リラと冬華さんも加護を貰いまして、リラには宗像三女神の加護が、冬華さんには天之冬衣神の加護が与えられました。」
「なんと、その小娘にはあらゆる道の最高神、冬華には冬の神が加護を与えたのか!」
久遠さんもまた、二人ほどではなかったが驚きを隠しきれていなかった。
「それと桜さん、これを。」
そう言って俺は、『収納庫』の中に入れてた、赤い結晶石を四つ取り出して、桜さんに渡した。
「これは…」
「大体察しているとは思いますけど、橘花が真莉亜たちにも加護をと言って渡してきたのです。禊場で行えば与えられるとの事です。」
「わかった、なら早速始めようか。」
「という訳だ、まだ加護を持ってない四人は、桜さんと一緒に禊場へいってらっしゃい。」
「え、え…どういうこと?」
「まぁ行けばすぐわかる。ほら、残りの三人も早く来い。」
「あ、はい。」
「お姉ちゃん、まさかだよね?」
「なんじゃ、何か始まるのか?」
四人はあまり分かってなさそうだったけど、とりあえず桜さんと一緒に禊場の方へ向かうため、付いて行く事にした。
「あ、それと零よ。」
「ん、なんですか?」
先に加護を持っている俺たち三人は、待つ間暖を取ったりして待とうかと思っていた時に、桜さんが戻ってきて、俺はみんなが出て行った戸のほうを向いた。
「この後なんだが、其方たち三人と一緒に話をしたい、終わったら外に来てほしい。」
「はい、わかりました。」
そう言って桜さんは戸を閉めて、禊場の方へ向かって行った。
「…さて、まずは四人がどんな加護を持つかだな。」
「皆さん、ちゃんと加護が与えられるといいですね。」
「大丈夫だと思われますよ。皆様悪い行いはしてきておりませんので、必ず神の加護は与えられると思います。」
「…そうだといいですね。」
真莉亜は手違いだったとはいえ魔王という悪として存在としていた。
だけど根は真面目なんだからちゃんと貰えるはずだ。
だとしたら今は待つだけだ。
(とりあえず、お互いの奇襲作戦は無事に成功したのはいいけど、問題は奴がどこで仕掛けてくるかだな。)
鵺と鬼を失った今、ぬらりひょんが何もしてこないって事はほとんどあり得ないだろう。
いやでもその前に、なぜ10万人の人をここに閉じ込めたのが未だにわかっていないんだよな。
むしろそれだけの数を殺さないといけない理由とかがあるとか。
だとしたら何のために…
そうしめ考えていたら、一つの答えにたどり着いてしまった。
「…生贄。」
「レイ様?」
どうやら声に出してしまったらしく、リラが俺の方を向いて来ていた。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。」
「少しの間だけでも仮眠されてはいかがですか?」
「大丈夫、ちょっと考え事をしていただけだ。」
「そうですか…」
「……ごめん二人とも、『共鳴』使うからまた手を出してくれるか?」
「? はい」 「わかりました。」
さすがに一人で黙って考え事をして、しかもリラに何か心配させてしまって申し訳なくなってきたから、スキル『共鳴』を使って話すことにした。
『二人とも、俺の声は聞こえる?』
『はい、聞こえます。』
『同じく。』
『さっきは悪かった。気になるところがあって一人で考えていたけど、やっぱり二人にも話しておいたほうがいいかもな。』
『ごめんなさい、余計なお世話だったですか…』
『いや、心配してくれた事はありがとう。余計なお世話なんかじゃないよ。』
リラに心配事は極力控えよう。
あんなしょぼくれた顔見せられたら、良心が痛くなって後で後悔しそうだしな。
俺…リラに対してめっぽう弱いな…
『それで白崎様、考え事とは?』
『実は橘花の話を思い出して、なんでぬらりひょんが10万人の人を殺さないといけなかったのか疑問に思ってたんだよ。』
『確かにそうですよね。何か目的があるのかもしれないですね。』
『それで今さっき一つだけ、ある答えにたどり着いたんだよ。』
『ある答え、ですか?』
『あくまで推測だけど…何かの生贄に使われたんじゃないかって、思ったんだよ。』
一日遅れのメリークリスマス!
社畜の身には程遠いクリスマスをくらしました。
来週は火曜日と金曜日の昼12時に投稿予定です!




