52話 新たな力
「それじゃあ橘花、俺たちは戻る事にするよ。」
「白崎様、少し待ってください。」
「? どうしたんだ?」
俺たちが庵に戻ろうと立ち上がったら、橘花が俺たちに待ったをかけてきた。
「皆様にも、私たちのように八百万の神々の加護をお渡しします。」
「俺たち全員にか?」
「はい、御三方も含め、今あちらで樹黙僧魔の方に向かわれている他の皆様に、神の加護をお渡しして、玉藻様を助けてほしいのです。」
どうやら橘花は、俺たち全員に神の加護を渡して、桜さんを助けてほしいみたいだ。
正直持っとくべきか考えたのだが、実際鵺と戦って少し苦戦していたのを思い出すと、後々必要になると思ったので、神様の加護を貰う事に承諾した。
「それでは準備に取り掛かりますけど、その前に一度体を清めてから開始します。」
橘花にそう言われたので、俺は渡された服に着替えてから近くにある禊場で体を清めた。
ところで今俺は体を清めるために禊場にいるのですけど、それがお湯ではなく水なのでちょっと寒いわけです。
だから今体が冷え切っているので温かいお茶がすごい欲しいんです。
橘花さん、どうか気づいてください。
とまぁそんなくだらない事を考えながらも、体を清めた俺たちは再び自分の服に着替えて、本殿に戻って来た。
「では早速、神降ろしの儀式に移るのですけど、まずはこれを持ってください。」
橘花がそうして渡してきたのは、結界石に似た赤い石だった。
「これは、結界石か?」
「おや、知っておられましたか?」
「色は違うけど、桜さんから結界石をもってるんだよ…ほら。」
そう言って俺はポケットから青色の結界石を取り出して見せた。
「確かにこれは玉藻様が持たれている結界石ですね。純度も同じで瘴気から身を守る事ができます。」
橘花は俺が見せた結界石を見て、懐かしいものを見たかのように笑っていた。
「少し話が逸れてしまいました。改めて、神降ろしの儀式を行いますので、結界石を両手で握るように持たれてから祈ってください。」
「わかった。」「「はい。」」
「では始めます。」
本殿の中央に立った橘花は、お祓い棒を手に持ってから、奥にある神樹の方を向いて降り始めた。
「八百万の神々よ―――悪に立ち向かいし兵たちに神秘の導きを―――祓い給え―――清め給え。」
儀式が始まり、周りにいた巫女たちが手に持ってた神楽鈴を鳴らし始め、俺たちは渡された結界石を両手に持って祈りを始めた。
するとだんだん意識が遠くなっていくような感覚になっていき、どこか遠い所から声が聞こえてきた。
『汝に、栄光の導きを与えましょう。』
一人の女性の声が聞こえたと思ったら、いつの間にか儀式が終わっており、俺の意識は再び神社に戻ってきていた。
「おめでとうございます。皆様にも私たちと同様、神の加護が付与されました。」
橘花が嬉しそうに俺たちに話してきたところで、俺たちは肩の力を抜いた。
≪スキル『聖眼』が、『神眼』に進化しました。≫
≪加護に『天照大神の加護』が追加されました。≫
≪神術『太陽神』が追加されました。≫
俺が深呼吸をした瞬間に、また懐かしいアナウンスが頭の中に響いた。
ていうか『聖眼』…こっちに来てから一度も使ってなかったな。
『聖眼』って言うのは、簡単に言えば勇者特典みたいなもので、勇者だけしか持たないスキルでもあり、魔族などを探すときに役に立っていたけど、地球に帰ってからはそのスキルも宝の持ち腐れになってしまっていたのだった。
「今皆様の加護を確認したのですけど、白崎様には『天照様の加護』が、リラ様には『宗像三女神様の加護』が、白雪様には『天之冬衣様の加護』が与えられたみたいですね。」
「俺の加護の神様は分かるけど、二人の神様は分からんな?」
「リラ様の宗像三女神様は、三柱の女神の総称であり、あらゆる「道」の最高神であります。」
「という事は、リラの加護には三柱の神様が加護を渡したってことなのか?」
「そうゆう事になりますね。」
何それズルくない。
同じ最高神なのに三対一って…え、何、リラの方が俺よりも神に愛されてるの?
有名な神様の加護で嬉しいはずなのに、なんか喜べない。
「え、えーと…白雪様の加護なのですけど、天之冬衣神様は冬の神様でして、文字通り白雪様の雪女様の力を増幅させてくれたみたいですね。」
「私の半分が妖の血ですけど、それでも加護を与えてくれたのですね。」
「元々雪女様も柱の一人でもあったからだと思われます。私たちも妖狐の身ですけど、天照様の加護を持っていますので、白雪様は私たちと同じ境遇でもありますね。」
「えぇ、そうですね。」
俺がリラを見て羨ましがっている間に、同じ半人半妖の二人はほのぼのとしながら話していた。
まぁとりあえずこれで終わりだろうから、改めて俺たちは庵に戻るとするか。
「橘花、俺たちはそろそろ。」
「あっ、すみません、今はここで長居している場合ではなかったですね。では最後にこれを。」
そう言って俺たちに渡してきたのは、さっき使った赤い結界石だった。
「? なんで四つ渡して…って、あぁ、残りの四人か。」
「はい。玉藻様はもう天照様より加護を貰っておりますので、他に来ていらっしゃる三名の方に渡してください。祈りの場所は禊場に似た場所でありましたら問題ないです。」
「わかった、ありがとう。」
「それともう一つ、髑髏の場所なのですけど、おそらく人が多く住まれていた場所に潜んでいるんじゃないかと思われます。」
「それはどうしてだ?」
髑髏の場所は俺たち全員知らないから、橘花の言ってきたことに疑問を持った。
「髑髏は人の霊が集合体となっている存在です。でしたら、人の怨念が多く集まっている場所を拠点にしている可能性があるかもしれません。」
「なるほどな…だったら桜さんに聞いてそこにあたってみるか。」
「それでは皆様、どうか無事で帰って来てください。」
「あぁ、必ず全員で帰って来るよ。」
俺たちは最後にそう言い残して、稲荷神社を後にした。
石段を降りて行くまでは灯篭の明かりがあったのだが、鳥居を潜って異界に戻ってみると、外は薄暗くなっており、空は厚い雲が晴れて満月の明かりが木の隙間から零れていた。
「外はもう真っ暗だな…庵に行くのはかなり困難だな。」
「それに妖は月の光を好むので、今は活発化しているかもしれません。一度どこかで夜を過ごすしかないかと。」
「いや、活発化するならそれはまずいですね。」
しかし庵に戻らない事にはどうしようもできないし、この後の髑髏を探す時間を考えたら、ここで足止めするわけには……あっ!
「なぁリラ、お前の加護って、確か道の最高神だったよな?」
「え、はい、そうですけど?」
「だったら、早速その力で庵までの道を作る事はできないか?」
「「はっ!」」
俺の提案に、二人はなるほどと言わんばかりに納得してくれた。
橘花が言ってた通りなら、宗像三女神の力を使って道を作り、その通りに進んでいけば被害は少ないんじゃないかと思ったのだ。
「確かに、今のリラ様ならできるのではないでしょうか?」
「この際だったら賭けでもいい、やってみてくれんか?」
「はい、絶対に道を作って見せます!」
リラはそう言って目を閉じて祈り、彼女の加護主である宗像三女神に願い始めた。
「三柱様、どうか私たちを導いてください。『神術 栄光の箱舟』」
リラが言った神術の技は、おそらく俺の中にある『太陽神』と同じやつだろう。
しかし改めて思うと、リラの加護はリラ本人に適しているだろうな。
もともと異世界でも俺の最初の従者としており、王都を発った後は、何度か召喚させては俺たちを導いてくれたりしていたからな。
ホント…初めて会った時と違って逞しくなったな…
俺が昔リラと初めて会った時の事を懐かしんでいたら、リラが声を掛けてきた。
「レイ様、冬華様、三柱様への祈りが届きました。」
「どうだった?」
「はい、今私の目には光の道が見えておりまして、その通りに進んでいけば無事に庵に着く事ができます。」
「わかった、なら俺と冬華さんが妖から身を守るから、お前はそのまま俺たちに気にしないで案内してくれ。冬華さんも、それでいいですか?」
「はい、私もリラ様をお守りして見せます。」
「ありがとうございます、それじゃあリラ、頼む。」
「わかりました、では付いて来てください。」
それから先はリラを先頭にして、俺と冬華さんがそのあとを付いて行く形にして庵まで帰る事にした。
帰る際には、『ライト』で小さな光を使って足元を照らし、お互いの距離を離さないように言ってから進み始めた。
だけどこの後、俺が全く予想していなかった事が起きた。
なぜなら、山の麓に着いた瞬間、リラと冬華さんが俺の隣に立って腕に抱き着いてきたからだ。
「あ、あの…二人とも…これは?」
「さっきレイ様が言ったじゃないですか、お互いの距離を離さないように進んで行こうと?」
「いやだったなんで腕組むの?」
「こうしていれば、レイ様が私から離れないで済むからですよ。」
まぁ確かにそうだけど、だったら手を繋ぐなり他のやり方があるだろうに…
「というか、なんで冬華さんまで俺の腕を?」
「すみません、鵺との戦いの前の時からなのですけど、あなた様の技に見惚れてしまったのですよ。」
「「見惚れた?」」
俺だけじゃなく、リラまでもが冬華さんが言った事に不思議がってしまった。
「私は見ての通り雪女の子、妖術も吹雪や氷を使った技ばかりです。」
「まぁ…そうですね。」
「ですが白崎様の技は、私が初めて見るものばかりで感極まりました。それは同じ氷の使い手としての対抗心ではなく、憧れそのものなのです。」
「憧れ…」
俺は自分の好奇心で作ったオリジナル魔法に憧れを言われたのは従者以外初めてだった。
ほとんどの全員は「勇者だから強い」や、「特別な存在」など言ったりして、俺を見てくれている人はあの人たちや従者のみんな以外はなかった。
だから俺の魔法を高く評価してきた人が久しぶりで、思わず驚いた。
「厚かましい限りの事ですがここで言わせてもらいます。私はあなたが好きです。」
「「!?」」
俺もリラも突然の告白に驚いた。
内心かなり焦っているけど、俺にはもう隣にいてくれる人ができた以上、二人目は流石にマズかった。
「俺を好きなのはわかりました。ですがー」
「わかっております、神崎様とは恋仲の関係なのですよね?」
「っ! 知っていたのですか?」
「なんとなくです、女性の勘は結構鋭いのですよ。」
「だったら…」
俺が言おうとしているのを、冬華さんは口に指をあてて止めてきた。
「さっきの告白は好意であって、本気の愛ではありません。私としての信頼でもあり、同じ氷使いとしての仲を深めたいための告白です。」
どうやらさっきの告白は、俺の氷魔法を見て、それに見惚れてしまっただけで、俺に対する好意でない事が分かった。
なんだろう…嬉しいような、悲しいような…
「ですので白崎様、良ければまた私にあなたの氷を見せてください。私も、あなたと同じように強くなりたいのです。」
「俺でよければ、いつでも構いませんよ。」
「フフッ、ありがとうございます。」
まぁ恋人という訳でもなく、師匠弟子の関係でもないけど、俺と冬華さんの間で特別な信頼関係になったって事になってしまった。
「よかったですねレイ様、私たち以外の人からレイ様の魔法を認めてもらえる人ができて。」
リラはさっきまで空気のような扱いになっていたけど、俺の魔法が褒められた事が嬉しかったのか、ニコニコしながら俺のほうを向いていた…ちょっと腕に力を入れていたけど。
「まぁ…うん、そうだな。」
「言いたい事も言えましたし、早く庵に戻りましょう。」
「アッハイ…」
その後はというと、なんか微妙な雰囲気のまま庵を目指して進み続け、途中で妖が襲って来ていたけど、俺と冬華さんがリラを守りながら進んでいたので、全員無傷のまま庵にたどり着く事ができた。
「何とか無事に庵に帰って来る事ができたな。」
「帰りは行きより遭遇する回数が少なかったので良かったですね。」
庵の前に着いてから、俺の腕にくっついていた二人が離れてからようやく楽になり、腕を何度か回したりしてから庵の戸を叩いた。
「桜さん、ただいま戻りました。」
「零、それに残りの二人も無事だったか!?」
「はい、遅くなってしまいましたが、全員無事です。」
「そうか、待っておれ、すぐに開ける。」
桜さんの声が聞こえ、俺たち全員無事である事を伝えてたら、戸を開けると言っていたので、少し待つことにした。
「待たせたな…その…入って良いぞ。」
「? ただいま戻rー」
「零くーーーーん!!」
「ゴハッ!!」 「「!?」」
桜さんのぎこちない声に何でだろうと思ったけど、戸を抑える棒をどかしてくれたので、何も考えずに戸を開けたら、最初にやって来たのが真莉亜からの強烈なタックルだった。
先週はこちらの判断で投稿を止めてしまい申し訳ありませんでした。
今週からは、いつも通りの投稿をしていきますので、どうかよろしくお願いします。
次回は金曜日の昼12時に投稿をします。




