51話 桜さんの正体
「玉藻の前…それが桜さんの本当の名前なのか?」
「はい。」
その名前は、俺もゲームや歴史の本で聞いたことはある。
平安時代に存在していたで人物であって、妖怪としても有名な名前でもあるから、あまり驚きはしなかった。
だけどまさか桜さんが、本物の玉藻の前だったとはな…
「桜さんは、人と九尾の間に生まれたと言ってたけど、それは嘘って事でいいんだよな?」
「はい、玉藻様は正真正銘、本物の九尾でございます。」
「だったらなぜ、わざわざ本当の名前じゃなくて、別の名前で行動してるんだ?」
「おそらく神の使いを外れたからだと思います。」
「どうゆうことだ?」
神の使いを外れたから、名前を変えた?
普通はそこまでしなくてもいいと思うのだけど、やっぱりそこまでの重役を任されていたからこそ、責任をもって名前を変えたとかなのか?
「白崎様は、日本から来られたのですよね?」
「あぁ、そうだけど。」
「白崎様の世界でも、玉藻様の名前は有名ですよね?」
「そうだ、歴史上でも有名だし…妖怪としても有名だ。」
この時俺が日本から来たことにあえて何も言わなかったのは、元号の事を知ってる時点で、向こうは俺の世界を把握しているって事だからだ。
「その通りです。玉藻様は本来、妖であったからこそ、神の敵として見なされており、殺されるはずでした。しかし、最高神である天照様が、玉藻様を神の使いにして監視下にさせる事で、命を落とす事はなかったのです。」
「なるほどな。どおりで妖なのに神に殺されなかった理由が納得できた。」
「それから玉藻様は、神の使いになってからは大和の国の監視として、この稲荷神社の巫女として、務めを果たしており、のちに鵺様、鴉天狗様、雪女様を説得し、四柱となって大和の国を守っていってました。…しかし。」
「そこにぬらりひょんがやってきて、多くの人を殺していったんだな。」
「…そうです。」
橘花は顔を伏せて、今にも泣きそうな顔になって話を続けてきた。
「ぬらりひょんによって大和の国は崩壊していって、玉藻様は自分の責任として巫女をやめて、その後妖狩りになってからは、残った私たちにここをずっと守るよう頼まれてから行かれました。」
「ここに入る前に鳥居を潜ったんだけど、一気に景色が変わったのは、あの場所からは境界線みたいなものでもあるのか?」
「いえ…今玉藻様や皆様がおられる大和の国というものは、ぬらりひょんによって作られた庭なのです。」
「う、嘘だろ!?」
俺もそうだけど、リラと冬華さんも驚いてしまった。
だってさっきまでいた大和の国が、本当はぬらりひょんによって作られた庭だったとなったら、驚いてもおかしくない。
「じゃ、じゃあつまり……大和の国は、本来存在しない国なのか!?」
「違います…ぬらりひょんが行った大術式により、人だけをあの庭に閉じ込めたのです。」
「人だけを…!?」
「当時の玉藻様と私たちは、天照様の庇護下であったこの神社の境内の中にいたことで、難を逃れる事ができました。しかし、逃げる事の出来なかった10万人の人間と他の三柱様は、ぬらりひょんの大結界により、庭に閉じ込められました。」
「そんな…!」
リラは泣きながらも橘花の話を真剣に聞いていた。
10万人の人間が、ぬらりひょんによって殺されたのか…
「玉藻様はすぐに庭の方に向かわれて、他の三柱様に伝えて、多くの人を稲荷神社に行かせようとしました。ですがぬらりひょんはそれを予想しており、すでに先回りして鬼に多くの人を殺すように指示していました。」
「結果、多くの人が犠牲になったんだな。」
「はい…玉藻様は間に合わなかった人たちの仇を取るために、鬼に挑み続けました。ですが鬼の力は強大で、玉藻様や他の皆様でも太刀打ちできませんでした。」
「その鬼はもしかして、大樹にいる鬼で合ってるのか?」
「そうです。鬼の名は樹黙僧魔、元は法師だった人間が妖になった者です。」
「に、人間!?」
話に出てきた鬼が、今真莉亜たちが奇襲作戦で向かっている鬼で合ってたのはいいけど、鬼の正体が人間だったって事に驚いた。
「今の妖の頭はすべて最初から存在していなかったのです。鵺は元三柱様の一人で、鬼は法師だった人間、髑髏は殺された人の怨念が塊になった存在です。」
「そうか…だから鵺はあの時、俺に桜さんの事を頼んで、ここに行くように話してきたのか。」
俺はなぜ鵺が俺に力を渡し、ここに行くように言ってきた理由が分かった。
本当は桜さんと同じで人を守っていたんだ。
「…白崎様から鵺様の力が分かります。おそらく鵺様は、最後にあなた様にすべてを託したのですね。」
「多分な…鵺の記憶に桜さんと仲良く話している姿があったし、桜さんを奴から逃がしていたって事は、お互いに深い信頼関係があったんだと思うよ。」
「天照様に祈りを捧げて聞いてみたのですが、鵺様は玉藻様を逃がすために自らが囮となってから死なれて、その後ぬらりひょんによって操られていたと言っておられました。」
「そうか…あの時にはもう…」
ずっとしんみりした空気が続いてばっかりだ。
まぁでもおかしくはないか…実際に真実を知ってみれば、恐ろしい事になっていたんだからな。
「なぁ、3つほど聞いていいか?」
俺は気になっていた事を、全部橘花に聞いてみる事にした。
「なんなりと。」
「まず1つ目は、ぬらりひょんが10万人の人を庭に閉じ込めた理由はは分からないのか?」
「いえ…残念ながらこちらではわかる事は出来ません。申し訳ありません」
「いや、分からないならそれでいい。次に2つ目なんだけど、この場所はぬらりひょんの目には気づかれていないんだよな?」
「はい、ここは日本と庭を繋げる橋渡しみたいな場所ですので、ぬらりひょんの監視下には入っていません。」
「よし、ならここでの話は聞かれていないって事だな。」
俺の言ってる質問で本命は2つ目と今から言う3つ目だ。
元々1つ目は、はっきり言って今は気にする事じゃないから、まだ分からないてもいい。
「最後に3つ目だけど、日本にある妖術は、誰が教えたんだ?」
「レイ様、それはどうゆうことですか?」
泣き止んだリラが俺に聞いてきたので、リラに分かりやすく説明してやることにした。
「翠嵐さんが言ってた事を覚えてるか?妖狩りや大和の国は秘伝書に載ってあったけど、妖門や妖術の事はなにも言ってなかった。だったら妖術はその秘伝書に載ってあったと思うか?」
「はっ、確かに…!」
そう、俺が気になっていたのはそれだ。
翠嵐さんは大和の国も妖狩りの事も知ってたけど、それ以外については一体誰から教わったなどは言ってなかった。
だから仮説として、第三者が妖術を教えたとして、それがぬらりひょんじゃないのかって可能性も出てきたのだ。
「その事なのですけど、妖術は天照様が教えられたものです。」
「それじゃあ、今日本にある妖術は、神様の力と言っていいのか?」
「はい。全部で5つありまして、水、火、風、土、雷、この5つの力を、妖門から近い神主たちに1つずつ与えたのです。」
「その中で風は、常磐家になるって事なのか。」
橘花からそれを聞いて、妖術が神様の力だと知って一安心していたけど、橘花は俺にまた疑問を残すような事を言ってきた。
「ですが秘伝書の事についてですけど、その事については全くわからないです。」
「わからない?…ということは、その秘伝書はもしかして…」
「おそらく、第三者が渡したと思われます。」
「だったら多分その第三者は…ぬらりひょんの可能性もあるな。」
だとしたら、どうして妖狩りと妖門の事を秘伝書に書いて人に渡したんだ?
何かの作戦か、それとも別の何かがあるって事なのか?
…くそ…全くわからん。
とにかく今は、髑髏とぬらりひょんをどうにかするしかないな。
「白崎様、1つ思い出した事があります。」
俺がこれからの行動の事を考えてたら、橘花が何かを思い出したみたいで、俺に声を掛けてきた。
「思い出した事?」
「はい…ぬらりひょんなのですけど、確か奴は、殺した人間に化ける事もできると聞いた事があります。」
「殺した人間に化ける、なんだそりゃあ?」
俺は全く意味がわからなかった。
橘花は俺にぬらりひょんの妖術について話してきた。
「ぬらりひょんは、殺した人間を取り込んで、そのまま殺した人間の姿に化ける事ができるのです。そのせいで、ぬらりひょんを見つける事が出来ないんです。」
「ぬらりひょんの消息がわからなくなったのは、いつ頃ぐらいかわかる?」
「確か…もう50年も前だった気がします。」
50年…そんなに長くも逃げてるのか。
謎の老人…殺した人間に化ける…老人…
「ぬらりひょんが化けてる人間に、一人だけ心当たりがある。」
「! 誰ですか!?」
「あくまで可能性だけど…稗田鵬祭、そいつに化けてる可能性があるかもしれん…」
「レイ様、確かその人って!?」
「あぁ、俺たちが出会った妖術師で、五人の当主の一人だ。」
リラの顔が一気に青くなっていくのが分かった。
そうなってもおかしくない、俺も冷静に言ったけど、かなり焦っている。
何せ今奴は翠嵐さんたちと一緒に居るのだから、いつ殺されてもおかしくない状態なのだ。
「その人に化けてるって根拠はあるんですか?」
橘花は俺の言った人が合ってるのかわからなかったみたいで、俺は全員に根拠となってるところを順に話していく事にした。
「まず一つ目は、妖門からの妖の出現。その時俺たちは、奇襲作戦をするって話し合っていた時だった。防衛する人数が手薄になるってわかったかのように、大量に出現していた。これって偶然か?」
「いわれてみればそうですよね。確かに聞かれているなら、そのタイミングで出現させてもおかしくないです。」
「次に二つ目、これは俺の直感だけど、ぬらりひょんはおそらく、老人に化けてると思うんだよ。」
「それはどうしてですか?」
「ぬらりひょんは元々老人の姿をしている。若者や女になったら、似せるために演技をしないといけないけど、老翁だったら初めからそんな事をしなくていいと思ったからだよ。」
「なるほど、一理ありますね。」
「それに、稗田鵬祭のところには部下がいなかった。普通当主の一人だったら、部下か側近の人間が一人いてもおかしくないのに、その男にはいなかった。これが、俺の思ってる疑惑だ。」
『……』
俺の話を聞いていた全員が、焦りと絶望に浸っていた。
多分リラは奴が翠嵐さんたちと一緒に居るって事への焦り、冬華さんと橘花たちは当主の一人に化けてるって事への絶望だろう。
「レイ様、急いで元の世界に戻った方がいいのでは!?」
「いや、戻ったら逆にこっちが不利になる。向こうにとっては、人質にする事もできるからな。」
「だったら…!」
「落ち着け、リラ。今はまず冷静になれ。」
「!……すみません、取り乱しました。」
リラは今知った非常事態に焦っていたけど、俺が冷静になるようにいうと、落ち着きを取り戻してから俺に謝ってきた。
「桜さんたちの方は心配するな。もし緊急があったら、真莉亜に持たせてたアレから俺に連絡をしてくるはずだ。それがないという事は、今は大丈夫だって事だ。」
「…はい。」
「それに今は、髑髏の捜索を先に優先してから、ぬらりひょんの事を考えた方がいい。」
「大丈夫なのですか…?」
「あぁ、とりあえずはまず庵に戻って、みんなが揃ってから話し合いをしよう。」
「わかりました。」
「冬華さんも、それでいいですね?」
「はい…お願いします。」
俺たちの目的も決まったところで、俺たちはこの事を残りのみんなに話すために、ここをすぐにでも出る事を考えた。
少しずつぬらりひょんの正体がバレていきます。
次回は金曜日の予定でしたが、仕事の関係上小説の作業が削られてしまうため、今週の投稿はこれで終了します。
こちらの都合とはいえ、申し訳ないです。
次回の投稿は来週の火曜日と金曜日の予定です!




