35話 妖との初対面
「うむ……ここも特にないっと。零!真莉亜! そっちの方はどうだ?」
「こっちの方は特にないです。」
「こっちも同じです。」
従者たちと別行動で妖狩りの活動を開始した零と真莉亜と桜は、最初に言ってた河辺付近の様子を密かに探りながらやっていて、続ける事20分経ったが未だに妖と接触していなかった。
ちなみに桜の服装は見られたらマズいと思った二人は、耳を隠せるようにニット帽を付け、服装も上から薄手のコートを着せて目立たせないようにさせている。
「ここもダメとなると、河辺は全部ハズレの可能性がありますかね。」
「そのようだな。妖気もかなり薄くなっているようだし、ここはもう終わりにするか。」
これ以上やっても河辺には出現しないと断言した桜は、次に言ってた2ヶ所のポイントに向かおうと河辺から離れてその場所に向かった。
「それにしても、随分と人の気配がないな。」
「まだ9時過ぎなのに、流石に一人や二人相手もおかしくはないよね。」
行動をしてからずっと人と一度も会ってない事に違和感を覚えた零が言うと、同じように思っていた真莉亜もポケットからスマホを出して時間を確認しながら言って、明らかにおかしいと感じていた。
だけど桜だけはなんとなく人と会わない事に覚えがあって二人に思っている予想を言った。
「恐らくだが瑞風神社の者が人払いをしている可能性があるのかもな。だから普通の人間の気配がここまでないのかもしれぬ。」
「人払い? なんですかそれって。」
「普通の人を寄り付かせないようにするための術式だ。妖術師は基本的に妖と人が巡り合わないように術で人の行動を操っているのだ。」
「成程、そんなふうにしてるんだ。」
妖術師がそのような術を現代に使っているのに感心していた零だったが、真莉亜はある事に気付いて桜に質問をした。
「でもそれだったら、私たちも人払いの対象になりませんか?」
「その対象にはならないだろう。妖術師が使う人払いは2つの対象になっていて、「人払いの正体を知らない者」と、「妖術では抑えられない者」が人払いの対象外になってしまうのだよ。」
「つまり私たちは、妖術では抑えられないほどのエネルギーを持ってる者だから、人払いの効果を受けてないのですか?」
「其方たちの場合は両方であろうな。別行動をしている従者の者たちも抑えられないものをうちに宿しているのだから、人払いの結界など効果は効かないだろう。」
真莉亜は納得した感じで人払いの存在を知って、零は自分たちの従者たちが人払いの対象外になっていたのを聞いて一安心していた。
それからは何もなく道なりに進んでいって、目的の場所に近づいてくるにつれ妖気がどんどん強くなっているのが肌で感じ取れた。
「……この先、いますね。」
「あぁ……しかも誰か戦っているな。」
殺意や憎悪の塊が感じでくる中、奥のほうで爆発に近い音が何度も聞こえて来るのが分かって、その場で戦闘態勢の状態にさせた。
桜が鞘に手を伸ばし、それを見て零も“収納庫”から鞘に入った聖剣を取り出し、真莉亜も“武器錬成”で作った仮の剣を持って構えた。
「距離はそこまでない。このまま突っ込んで戦っている者たちに助太刀するぞ。」
「「了解。」」
零は本命を見つけた事を別行動している自分の従者三人に連絡を入れたのだが、誰も返答がないのに違和感を覚えたが、下手な事をしなければ死にはしないのを思って先に目の前の事に集中した。
桜が無言で走り出して、その後ろを二人が追いかける形で濃くなっていく妖気に当たりながら進んでいくと、数人の人影と何かしら日のようなものなどが見え始めていって、零や真莉亜は目を凝らしてよく見た。
そして見えてきたものに息をわずかに飲み込んだ。
そこには顔が燃え上がった鬼の首が宙を浮いて人に突進やかみつきをしたり、角が生えた子供のような何かが人の腕を喰ったりひっかきで顔を引き裂いたりしていた。
「あれが妖か…!」
「しかも戦ってるの、ただの人だわ!」
「ここからは個人で奴らを殲滅しろ! 被害をこれ以上広げるな!」
桜の指示で三人同時にばらばらに行動をして、零は右側、真莉亜は左、桜が正面と向かって妖に奇襲する感じで戦っている人たちに助太刀にかかった。
「まずはあそこ……いや待て、あれってシグレか?」
先の向かった方向に近くになっていくにつれて見慣れた戦闘をしているのに気付いた零は、その正体が連絡のつかなかったシグレであった事だと分かって驚いた。
連絡がつかずに心配をしていたのだが、まさか先にここについて戦っていたとは思ってもいなかったみたいで、出遅れてしまった自分が情けないと思っていると、少し離れた安全な場所にリラが傷を負った人物に治療をしていたのが見えて、最初にリラのほうへ向かった。
「リラ、状態はどうだ?」
「レイ様! 私の治療のほうは大丈夫ですので、一人で応戦しているシグレ様の援護に行ってください! 幸いここにいる人はこの人で最後です。」
「分かった。無茶はするなよ!」
リラが問題ないという言葉に大丈夫と感じた零は、シグレの援護を優先して近くにいた宙に浮く鬼の首の三体を斬って数を減らした。
「主君!」
「遅くなってすまない。状況を簡潔に。」
「浮いている異形、“鬼火”と子供の化け物である“餓鬼”が桜殿が言われてた門と呼ばれてる場所から出現しているようでして、現在門を閉ざしているのですが、この通り数が多いのでこちらは全員で殲滅に至っております。」
「個体の能力は?」
「どちらもB~C級の魔物と変わりないです。魔法は周りの状況を見てまだ未使用ですが、いかがいたしますか?」
「許可する。多分ここにいるのは妖専門の討伐部隊だろう。あまり派手にはするなよ。」
「招致。」
零は聖剣を片手に次々と鬼火や餓鬼などの妖を斬っていき、シグレも同じように忍び刀を片手に、もう片手を水魔法で形成させた手裏剣で妖を斬っていき、劣勢と思われた状況を一気に逆転させていった。
最初にいた者たちは誰か分からずに混乱していたが、妖を次々倒していくのを見ていて見方のだと察し、邪魔にならないように自分たちで出来る事や門を閉ざしている部隊の援護に回ったりとしていた。
「この辺りは終わりか?」
「そのようですね。某たちもリラ殿の治療の手伝いに行きましょう。」
妖の気配が消えて問題ないとわかった零とシグレはリラがいた場所に向かい、ほとんどの人の治療を終えたリラのもとに近づいた。
「リラ、治療は大丈夫か?」
「はい、今は問題ないです。レイ様たちの方はどうですか?」
「今は収まったみたいだ。とりあえず動かせる者たちを安全な場所に移動させよう。」
零の言葉で二人は頷いてその場にいたけが人を安全な場所に動かそうとすると、零が抱えようとしていた男が袖を掴んで零に待ったをかけた。
「ま……待って…くれ…」
「どうした、何かあったのか?」
意識が薄れている状態で何かを言ってこようとしたが、声が小さく聞き取れなかった零は男の口元に耳を近づけると、途切れながらも必死にしゃべってきた。
「あ…あの奥に……土蜘蛛が……います……どうか…お二人を…」
「二人? 他に誰かがいるのか。」
わずかに指を動かして指した方向に目をやってもう一度聞こうとしたが、男の意識はすでになく、胸に手を当てて鼓動がしたのを確認してから生きている事に安心して、シグレとリラの二人を呼んだ。
「悪いがあの先に誰かいるみたいだ。俺が一人で行くから、お前たちはここを任せる。」
「はい。」「招致。」
二人にその場を任せて男が指した方向に気配を集中させながら山道に近い道をどんどん進んでいくと、蜘蛛の糸のようなものが木のあちこちについているのが増えてきて、その先に一際目立つ妖気を感じ取り、その近くに男が言ってた二人の人の気配を見つけた零はその場所に急いだ。
蜘蛛の糸を切りながら走っていると、糸を出してた土蜘蛛の正体を肉眼で発見し、二人の人が糸に絡まって動けずにいた。
「(あれか!)そこの二人、そのまま動くな!“煉獄・黒炎弾”」
糸に絡まって動けなかった二人は突然現れた人物に驚いていたが、言われた通りにその場に動かずにいると零が出した黒い炎の球が土蜘蛛に命中して、土蜘蛛は一気に苦しみ始めた。
零は二人に付いてる糸に火が行く前に切って安全な場所にまで移動させ、土蜘蛛は炎に焼かれながら消滅していった。
「二人とも、怪我はない………って、委員長?」
「白崎君!? ど、どうし……ッ‼」
助けてくれたのがまさかクラスメイト、しかも少し前に電話したはずの零だとは思ってもいなかったから驚いていたが、破れた巫女服の腕の部分から血が滲んできて苦しみ出した。
零は彼女の同意を得ずに袖をまくってみると、微かに紫色になった引っかき傷が2ヶ所あり、傷を見てさらに苦しみ出した彼女を隣で泣きながら心配している香織を見て零は急いで治療に取り掛かった。
「色から見て少しだけ毒が混じってるのかもな。だとしたらこっちで完治させた方が早い。“オール・キュア”」
夏奈の腕にあった傷の近くに手を近づけ、かつて勇者だった時の仲間の一人であるメリッサから教わった回復魔法を使った。
メリッサから教わったこの魔法は傷もそうだが、毒や呪いといった人体に害をなすものも全て治す魔法であり、メリッサ本人が独学で作り出したオリジナルの魔法でもある。
緑色の光を出しながら治療していた傷口は一気になくなっていき、紫色になっていた場所もキレイな肌色となっていった。
「うそ……傷が消えた…!」
「呼吸も正常になってるって事は、やはりさっきの傷口に毒があったのかもな。腕は動かせそうか。」
「う、うん……普通に動かせる。」
「よ、よかったぁ…」
香織は夏奈の容態が良くなって安心すると、緊張が解けたかのように泣き出して夏奈に抱き着いた。
夏奈も妹に心配をかけてしまった事に申し訳なさそうに頭を撫でてあげて、落ち着きを取り戻して零に何でここにいるのかを聞いた。
「白崎君はどうしてここにいるの? それにさっきの炎って…」
「詳しい話はするけど、まずはこの場所から離れよう。夜で視界も悪ければ、妖がまた出てきたら面倒だ。」
「妖を知ってるの?」
「それも後で説明するよ。」
零がジャージのポケットに手を入れて中に入れてると思わせて“創造作成”で包帯やガーゼなどを作って取り出して、念の為に夏奈の腕の傷があった場所に巻いて治療を施した。
途中で誰かが来てると思って振り返ると、リラとシグレに聞いてやって来た真莉亜が夏奈を見てさらに夏奈はパニックになった。
「やっぱり委員長も妖狩りの一員だったんだね。」
「予想はできたからな。そっちは終わったんだな。」
「うん、今はね。けが人も自力で立てるくらいまで回復したし、桜さんから場所を移動しようって言ってたから伝えに来たの。」
「了解。二人もそれでいいかい?」
「え?え?…待って、何がどうなの? なんで神崎さんもここに?」
未だパニックになってる夏奈もそうだけど、香織もすでに灰となってる土蜘蛛を見てあの炎がどれ程の火力だったかを思い知って戦慄していた。
流石に話ができないんじゃあどうにもならないと思った零は夏奈の顔を前で手を叩き、夏奈もそれでようやく現状を思い出したかのように我に返って零を見た。
「常磐、確認だけど瑞風神社は行っても大丈夫何だよな?」
「え、あぁうん、大丈夫だよ。」
「よし、ならまずはそこに行ってからどうなってるかを知って、ついでに妖狩りの協力をする事を話し合うか。俺たちの正体は歩きながら話すからよ。」
次の目的がまとまった所でその場を離れて、月明かりと零の光魔法での照明で最初にいた場所まで戻り、桜たちと合流をした後に瑞風神社に向けて歩き出した。
【常盤夏奈】
瑞風神社の当主である常盤翠嵐の長女。
風の妖術と札での解呪やお清めなどができる。
両親の背中を見て育ってきたために妖術師の道を選んだのだけど、父親の過保護が強すぎるせいで本番に出たのはたった一回だけ。
中学の時に零と智也、明日香の三人と出会い、それから交流を持って仲良くなる。
【常盤香織】
夏奈の妹で妖術師。
母親似でやる気と負けん気が強く、昔から怖いもの知らず。
妖などの化け物は怖くないけど、何故かホラーが苦手。
妖術はまだ未熟な面もあるが、解呪や結界などは姉より優れている。




