31話 すごすぎた建築技術
「ではまず、ここはキッチンです。」
リベルに案内を任せるように頼んで、まず最初に来たのはリビングにくっついていたオープンキッチンだった。
「広さはリラ様が知ってる王都のキッチンを参考に、調理場を広めに、収納を多くをイメージとしたキッチンにしました。もちろんこの広さですので、数人でも窮屈にならないので安心してください。」
リベルに言われてキッチンを見てみたら、確かに広々とした空間のおかげで数人でもできるくらい広いし、何よりリビング側に向いてるから気持ちよく料理ができそうだな。
よくできたキッチンを見ていたけど、俺はある事に気づいてリベルに聞いた。
「なぁリベル、食材はどこに置くんだ?」
さっきから見ていてもあるのは食器や鍋、フライパンやオーブンなどで、食材の置いてある場所がどこにもなかった。
真莉亜も気づいたみたいで「そういえばないね。」と言って何処にあるか探していた。
「残念ながら、ここには食材はないんです。何故ならこっちに全部あるので。」
「「こっち?」」
リベルが指したとこにあったのは、隣にある一つの扉だった。
意味がよく分からずその扉を開けるて中に入ると、一つの部屋の壁全体に棚を作ってあって、すでに全体に野菜や調味料などが置いてあった。
「この野菜って、全部エメリルのか?」
「いえ、実はティファニス様が私たち用で多くの食材を持ってこられたものです。調味料は何処のかは分かりませんが、味を確認して使ったので大方どんなのかは分かりました。」
調味料と言われて棚に置いてある調味料を適当に出してみると、明らかに見覚えのある調味料がいくつもあって、どれもこれも全部日本で売ってある調味料だった。
(あの女神、日本に来てるなら一度は連絡してほしかったわ。)
夢の世界に食材を送ってくれた事への感謝と、日本に来ていたのなら一言くらい何か言って欲しかったことへの不満が交じり合って、零は複雑な気持ちになっていた。
けどそれをすぐに無くすかのように、真莉亜が床を見てその場にしゃがみこんだ。
「ねぇ、ここって開く仕組みになってるけど、何があるの?」
「そこは冷凍、および冷蔵の場所となってます。開けても大丈夫ですよ。」
リベルに言われて真莉亜が開けると、肌に刺さるような冷気が漏れ出してきて、中には魚や肉などが冷凍保存されていた。
広さは食材事同じで、全体に行くように中央の部分に冷却用の動議が置かれているような構造だった。
「あの真ん中にあるのって、もしかして冷却石?」
「だな。異世界の北の方でしか取れない魔力を帯びた石だ。よくそんなの持ってたな。」
「昔人間界に赴いた際にたまたま手に入れたのです。何かに使えるのではって思って取っておいたので、それがようやく役に立って安心しました。」
常時ニコニコしているリベルを見た俺は、彼女が時々悪魔王なのか疑いたくなってしまっていた。
彼女の実力も性格も知らないのは分かっている。
唯一分かるのは、真莉亜に対し絶対の忠誠だけ。
怖くはないが、底が分からないから無意識に警戒してしまっている。
「では次に、お風呂場に行きましょうか。」
再び案内の続きを始めたリベルがその場を後にして、俺たちは彼女の後を追いかけた。
(味方である以上、何時かは彼女の力を知らないといけないな。)
今はできなくても何れかは知れる時が来るのを願いつつ、彼女の案内に意識を向けた。
その後の案内は何事もなくスムーズに進んでいった。
次に向かった風呂場は数人が一緒に入れるような広めの檜風呂モドキがあって、窓の眺めが良かったのもあってか、普通に温泉気分を味わえそうな感じになってた。
その次は二階と三階の移住スペースで、ワンフロアに10部屋あって、自分たち以外でも住めるように多めに造ってあって、中はシンプルで机と椅子、タンスにベッドにトイレといった木の雰囲気全開の部屋になってた。
「結構しっかりとした造りの建物でびっくりしたわ。」
「だね。階段の踊り場部分に本棚やテーブルがあったのもそうだけど、一部の天井部分があるなしでここまで開放感が違うのに感動したわ。」
今の木造建築よりも発展してそうなロマンあふれそうな造りに脱帽しぱなっしの俺たちは、リベルの方を向いて質問してみた。
「リベル、これって自分たちで考えた建築なのか?」
「いえ、これはティファニス様が持ってこられた建築の参考書を持ってこられたのです。それを必死に読んだリラ様がすぐに設計図に取り掛かって、このような建築だったらいいと頭の中で浮かんだものを全部形にしてできたのがこれなのです。」
「参考書? それってこっちの参考書?」
「文字自体はこちらの文字でしたので、もしかしたらあちらの世界から持ってこられたものだと思われます。」
参考書自体は持ってはいなかったみたいだったが、明らかにこの造りをすぐにできたリラに思わず引いてしまった。
何せ主人である俺が知らないうちにそんな才能を開花させてるとは思えないし、何よりすぐにそれを完成させた事にどうしても開いた口が塞がらなかった。
「ところで全部に使われてるガラスって、もしかして全部スキルで作った手作り?」
「はい。アストレア様が“創造作成”を使われたおかげで、こんなにも素晴らしい建物ができたので、勇者の従者であるお二人には尊敬の文字しか浮かびません。」
(リラとアストレアが貢献してるのなら、確かにその通りだな。)
スキルにある“創造作成”は俺とアストレアしか持ってないし、聞いてた感じ真莉亜の従者メンバーは持って無いのはすぐに理解できた。
でも二人がすごくてもここまですごいのができるのは流石としか言えない。
それだけはマジで思えた。
「ここまで広かったら、何時かは母さんや華怜にも紹介したいものだな。」
「そうだね。でもその時は私たちの関係も……」
「分かってる。その時は覚悟するさ。」
ここを教えるにあたってどうしても避けれない条件。
自分たちの正体と関係性をバラさないといけない事。
これだけはどうしても回避できないのを彼らは理解していた。
「できれば早めにバレて気分を楽させたい。」
「私も、お母さんたちに隠し続けるのは辛いわ。」
「あの…一ついいですか?」
隠す努力を考えてた二人に、リベルが気になってた事を二人に聞いた。
「どうしたんだ?」
「先ほどからお母様が出てこられてますが、お父様の方はおられないのですか?」
「「あ…」」
リベルは母親の名は出て来ても、父親の名が出てこなかったのに疑問を抱いて聞いたけど、二人…おもに真莉亜の方は「それはマズい」って感じで顔を引き攣らせた。
だが零は何も感じ無さそうにあっさりとその訳を話した。
「父さんはもう死んでんだよ。だからさっきから母さんと妹だけしか出てこないんだよ。」
「「え?」」
真莉亜は「言っちゃうの!?」って感じで零を見て、リベルは一瞬固まって自分が言った事を思い出してとんでもない事をしてしまったと思い、零に大きく頭を下げて謝った。
「も、申し訳ございません! レイ様の家庭の事を知らずにとんでもないことを…!」
「いや気にせんでいいよ。もうずっと前だし、俺は何とも思ってねーから大丈夫だぞ。」
必死に謝ってきているリベルを宥める零に対し、真莉亜は心配そうにしながら零に尋ねた。
「言って大丈夫だったの? 零君にとっては大事な家族なんでしょ?」
真莉亜の言った事に、零はだんまりで返した。
彼であれ決して問題ない訳ではなかった。
家族を失うのは、自分の体からなくなるのと同じ悲しみであり、それは真莉亜が一番理解していた。
「……確かに父さんは大事な家族さ。それは永遠に変わらない…いつまでもな。」
過去の父との約束である“真面目な生き方”を今でも忘れずにやっている以上、零の意思はずっと変わらないであろう。
零はずっと謝ってるリベルの肩に手を置いて、突然置かれたことで体が一度大きく揺らして焦ってるリベルに対し、ゆっくりと自分の本音を語った。
「心配せんでも、俺は怒ってねぇよ。生き物は生があれば死もある、それはどの世界でも当たり前だ。何時までも……過去に捉われるわけにはいかないからな。だから…これで終わりだ。」
彼の言った事は本音だ。
過去ばっかり見ても何も帰ってこないのは、勇者になってから一番それを理解していた。
零は前を向いて歩き続けた。
救えなかった命に代わりに生きるために歩き続けた。
それを真莉亜は、見ていたからこそ理解していた。
「さて、残りの場所を見ていこうか。この後用事があるから、早めに済ませておきたいからな。」
零が歩いて見てない所へ行こうとしているところを、二人は少しだけ間が開いていながらも彼の後ろを付いて行った。
「リビングは見終わったし、残りは隣接している部屋だけだよな?」
「…あ、はい。こちらにどうぞ。」
さっきの発言で明らかに落ち込んでるリベルを見た零は、溜息を吐いて近づいて頭を撫でた。
「うぇ…あ、あの…レイ様…?」
「リベルってさ、自分の発言に尾を引きやすいのか知らんけどさ、考えすぎるな。俺たちは仲間である以上、責任や何もかもにずっと影響なんてさせないよ。」
「レイ…様。」
「それにさ、こう見えて俺は意外と無鉄砲なやり方もするんだぜ。そんで失敗もよくしてたわ。」
場を和ませるために笑いながら言って、優しく頭を撫で続けた。
リベルも気分が少し楽になったのか、肩の荷が下りたかのように微笑んで、零に体を向いて頭を下げた。
「ありがとうございます。おかげで気分が楽になりました。」
「そりゃよかった。なら、再開しようか。」
「はい。ここは和をイメージされた部屋となっておりまして、ヒスイ様とシグレ様、それにサヨリ様のリクエストとなっております。」
「なるほどあの三人なら納得だ。」
零はすぐに三人の名前が出てきて理解した。
三人は元々異世界では日本の和と同じ生き方をしているのを知っていたから、その三人が絡んでいるのではとすぐに察していたのだ。
「さて、大体は分かったしもう終わりでいいかな。他のみんなと会えないのは残念だったけどな。」
「待ってください。最後にもう一つだけ見ていってください。」
「もう一つって?」
リベルが見てほしいもう一つの場所を聞こうとした真莉亜だったが、リベルは「見ててください。」と言ってさっきみた和室の部屋などがある壁の近くの鉢植えが置いてある場所に向かった。
「ここの鉢植え、実はある仕掛けが施してあるんです。」
「「仕掛け?」」
何が何だかさっぱりな二人だったが、リベルが壁の窪んである場所に置いてある鉢植えを触ると、何かが外れたような音がして、彼女の横の壁が開きだした。
「…何……それ…?」
「驚きました? ちょっとした遊び心で隠し扉を作ってみたのです。付いて来てください。」
リベルに言われるがままについて行き、隠し扉の先にあった階段と降りて行った。
階段や下に行く際にもしっかりと発光石が使われていて、階段を下りるとその先は左右に別れた道になっていた。
「左はまだ改良中ですのでまだ何もないですけど、私が見せたいのは右の通路の先です。」
「こっちか。」
言われるがままに右の通路を進んでいって、一番奥にあった木製の両開きのドアをリベルが開けた。
その先を見た二人は、一気に言葉を失った。
「ここが最後に紹介する部屋、地下の海底書斎部屋です。」
その部屋は、彼女たちが作った中でも最高傑作と言われる場所だった。
部屋は地下であるが故に明るくされてあり、壁にはこれでもかって言うほど本棚があって、地下でかなり深くしてあったのか、階段を設けて一階部分と二階部分で本棚が分けてあった。
中身はほとんど本が入ってなかったけど、そんなのに目向きもさせなかったのは、壁の一部分を大きく円を描いた巨大な窓ガラスだった。
人の身長の二倍以上はある円状のガラスが部屋を明るく照らしていて、その先には別荘の横にあった巨大な池の中に通じてあった。
「すっげぇ……海の中にいるみたいだ…」
「ただこの部屋……書斎というよりもはや図書館レベルの広さね。」
「あら、来ていたのね。」
「レイ様、マリア様!」
自分たちの声とば別の声がして振り向いて見ると、奥で作業をしていたリラとエミリアがエプロン姿でやって来た。
奥で作業をしてる雰囲気があるのは良かったけど、零はどうしても気になってた事があって真莉亜に聞いた。
「なぁ真莉亜、俺の中での王って結構偉そうなイメージがあるんだけど、これが普通なのか?」
「安心して、この子たちが異常なだけだから。普通はこんなに馴染まないから。」
(どうやら俺のイメージは崩さなくていいみたいだな。)
目の前にいる悪魔王と吸血鬼王があまりにも平和的過ぎて感覚が狂いがちな状態に陥ってる零は、真莉亜の言葉を今現在進行形で鵜呑みにして何とか誤魔化し、そろそろ本題を話すように仕向けた。
「三人とも、この後用事とか作業とかある?」
「いえ、今は特に急ぎではありません。」
「「同じく。」」
「なら悪いけど、一度上のリビングにまで来てもらっていいか? 少しだけ話しがあるんだ。」
「「「?」」」
三人は突然話があると言われて何なのか分かっていなかったが、とりあえず零の言われるがままに一度作業を止めて一回のリビングに戻った。
―――妖との衝突まであと1時間50分
【別荘(従者たちの住居)】
三階建ての大型建造物で、全体が木造で出来た自然に馴染む建物。
設計者のリラが今まで見てきた建造物などを参考にして、自分たちがこれから住むのに不安がないように工夫して考えてあり、木造でありながらかなり頑丈な造りになっている。
ちなみに横の巨大な池は竜人姉妹やレーヴェなどの武闘派たちが掘削して、ヒスイやシグレなどの水魔法が使えるものたちがやって完成させたもので、水は純粋な真水なので汚れは一切ない。




