27話 妖狩りの巫女
「ただいまー…」
何事無く家にたどり着いたけど、考えすぐてしまってせいでドッと疲れが襲って来た。
何でなのかは分かんないけど、とにかく疲れた。
だけどまず第一段階は無事に完了だ。
問題はこの後の第二段階だ。
頼む、無事に成功の文字が頭の中に響いてくれ!
重い足取りになりながらリビングのドアを開けると、そこにはテレビを見ている真莉亜だけしかおらず、母さんと華怜の姿はなかった。
これは……成功と言っておこう。
これ以上、何も考えたくない。
「おかえり零君。遅かったね……――――その人誰? ていうかその耳何?」
俺が帰って来てソファーに座りながらこっちを向くと、俺以外に誰かがいるのに驚きつつ、隣にいる彼女に視線を定めた。
第一声がやはり隣にいる彼女か。
しかも視線が耳にしか向いてないのが一目瞭然だ。
まぁそうなるよな。
俺も顔や服装より刀に目が行っちまったし。
するとずっと黙ってた彼女が口を開き、真莉亜の方を向いて質問をしていた。
「夜分遅くにお邪魔してしまい申し訳ない。ここの家主は居られるだろうか?」
「あぁー…えっと…」
「あぁ多分ですけど、家主である母は家にいないと思われます。恐らく仕事で外出されてるのかと。」
母さんが家にないときは大体が仕事関連だ。
小説家として忙しいし、締め切り間近って言ってたから、十中八九それだろう。
だとしたら帰って来るのは明日か明後日になるな。
「ふむ、そうか。では申し訳ないが、しばらくここに滞在していてもよいだろうか?」
「あーうん、一応ここの家主の子だから、何とか言ってみるよ。」
「度々すまない。よろしく頼む。」
彼女に頼まれて母さんに連絡して、しばらく話してから俺は通話を切って二人に話した。
「どうやら二日は帰れないみたいで、和室の部屋を自由に使っていいみたいだそうです。」
「そうか。本当に感謝する。」
「それと零君、華怜ちゃんだけどお友達の家に止まっていくみたいだから、今日は私たちだけしかいないわ。」
「そうか。それなら今から話を聞いても問題ないな。というわけで悪いですけど、今から質問をしていくので少し付き合ってもらえますか。」
「分かった。こちらも自己紹介をする前にここに来てしまったから少し悪いことをしたと思っていたところだったからな。」
そういえば紹介しようとしてた時、何かしらの気配を察知して俺に安全な場所を言ってたから紹介してなかったな。
まぁ悪い感じには見えないし、結果オーライだったか。
お茶とお菓子を準備してからテーブルに置き、場が整った所で彼女が頭を下げて自己紹介を始めた。
「改めてここに匿ってくれてありがとう。妾の名は十六夜桜。大和の国で【妖狩りの巫女】をやっておるものだ。」
「「妖狩り?」」
初めて聞く名前に俺たちは首を傾げてしまった。
異世界でもそんな名前は聞いた事がないし、どうやら俺の思ってた異世界の住人じゃなさそうだな。
【妖狩り】について詳しく聞いてみたら、どうやら彼女は異界という俺たちの知ってる異世界とは別の世界から来た人物である事が分かり、彼女のいた世界には妖怪が多く存在しているようで、その妖は人を襲ったりしては補食したりして、妖が持つ妖力を強力している事が分かった。
そして彼女の役目は、人からその妖を近づけさせずに退治していく巫女をやってるみたいで、腰にぶら下げてる刀は妖を斬るために所持している事がようやく理解できた。
しかも彼女のような巫女は他にも二人いるみたいで、今回退治していた妖が一部の妖しか使えず、地球へ移動などができる「妖門」を使って逃げた妖を追っていたら、訳も分からずこっちの世界に来てしまったみたいだった。
話を聞いていて彼女がどういった人物かは分かったが、どうしても聞いておかないと気になって仕方ないので切り出すことにした。
「大体のことは分かったのだけど、最初から気になっていたその頭の耳と尻尾はいったい何ですか?」
俺は十六夜さんの頭の上にある狐のような耳と尻尾に指をさしてそれが何か聞いた。
もちろん俺だけじゃなくて真莉亜も同じみたいで、さっきから俺の質問に無言でずっと頷いていた。
異世界の住人じゃないのなら、何故その耳と尻尾が存在するのか。
どうしても俺たちはそっちに目が行ってしまいどうしようもなかった。
すると十六夜さんは素直にそれが何なのかを説明してきた。
「この耳は妾の先祖が九尾と逢引をしてな、子を作った際に遺伝で九尾の妖力を持った状態で生まれてしまってこうなっているのだ。それが今でも続いて、妖狩りをするものが妖を討つ力として子孫に受け継がれているみたいでな、耳だけではなく尾もこうなっているのだよ。」
そういって何かしらのオーラを出すと、後ろにあった尻尾が一本から九本になった。
それを目の当たりにした俺たちは、初めて見る九本の銀色の尾に見惚れてしまっていた。
まるでこの世のものとは思えないその姿に、美を極めたような姿に言葉すら失ってその尾をずっと見続けてしまっていた。
「あ、あの…無礼だと自覚して言いますけど、その尻尾…触ってもいいですか?」
突然真莉亜が尻尾を触りたいと言い出して不意に横を向いてみると、そこには獲物を見つけて飛びかかろうとしている獣のような目をした俺の彼女がいた。
いや怖ッ!
見惚れてた精神が一気に消え去っちまったわ!
ていうか真莉亜ってもしかしてふわふわしたものが好きなのか?
ゲーセンに行った時もずっと柔らかそうなクッションばっかずっと見ていたし、癒しが欲しい系女子なのか。
「あぁ、構わんぞ。何せ妾もこの尾は結構気に入っているのでな。好きに触ってくれ。」
「で、では…」
桜さんからの許可が出ると、ゆっくり近づいてから尾を優しく抱きしめ、すっごいふわふわだったのか、一瞬ビクッっと体を震えさせると、今にも昇天しそうな満足げな笑みを浮かべて頬ずりし始めた。
それを見ていた十六夜さんは、満足してもらって嬉しかったのか、真莉亜の顔を見て初めてその顔に笑みを浮かべた。
「ふふっ、そんなに気に入ってくれるとは、妾も嬉しいものだな。日々毛並みを整えていたかいがあったわ。」
「すみません十六夜さん。迷惑じゃないですか?」
「迷惑とは思ってはいない。この者がここまで妾の尾を撫でまわしているのだから満更でもない。あと妾の事は桜で構わないぞ。」
「ありがとうございます桜さん。そういえば俺もまだ自己紹介がまだでしたね。俺は白崎零と言って、そこで尻尾を触って幸せな顔をしているのが神崎真莉亜です。俺たちの事も気軽に名前で呼んでもらって構わないですよ。」
「よろしくな。零、真莉亜。」
無事にお互いを打ち解ける事が出来て、真莉亜も満足したのか、快感に目覚めそうになりながらも理性を取り戻して、三人で雑談をしながらゆっくり時間を過ごすようにした。
「それにしても、桜さんはこの世界に来てもあまり驚かない様子ですけど、こっちの世界に来るのは初めてじゃないのですか?」
「いやこの世界に来るのは初めてだ。ただ逆は稀にあるのだ。この世界にいた者が妾たちの世界に彷徨ってしまい、こちらに技術を教えて帰っていく者がおるんだ。」
「へぇーそうなんですか。」
「人がそんなに出入りできる世界なのですね。」
「別に人だけとは限らない。ある場所ではこの世界から流れ込んできた物や道具がこちらにきて、それを活用していたりするから、其方の家に来てもあまり驚かなかったのだ。」
それを聞いて納得したのと同時に、『この世界から流れ込んできている』ってのにちょっと気になってしまった。
異世界でも似たような現象があったし何か接点があるのかもな。
ただ思ったんだけど、流れて来てるのって廃棄物などがたまに桜さんたちの世界に行ってしまっているってことじゃないのか?
それって大丈夫なのかな…?
不法投棄のごみがそっちに流れてたら環境に影響が出そうだな。
そんな事を思っていると、話をしていた真莉亜が何かを思い出したかのように会話を止めて、ある事に対して桜さんに尋ねた。
「そういえば桜さん。さっき妖狩りの説明の時に「逃げている妖を追ってた。」と言ってましたけど、どんな妖なのですか?」
真莉亜の言った質問で、俺はさっきの話を思い出した。
そういえば確かに桜さんは、「「妖門」を使って逃げた妖を追っていた」と言ってた。
それを聞いてる感じ、その妖はこの地球にやって来てるって事になるな。
すると桜さんは笑った顔をやめて、般若のような憎んでいるような表情になって、手は握り拳をし過ぎて血が出てきそうなくらい強く握っていた。
何かヤバいの言ってしまったと察した真莉亜は、慌てて桜さんにさっき言ったのなしにしようとしたけど、桜さんは歯を強く噛み締めながら言った。
「その妖は……異界におる妖たちを束ねている長であり、巫女たちが長年悲願としている平和をずっと壊し続けている憎き妖、ぬらりひょんだ!」
桜「おのれ…ぬらりひょん許すまじ!」




