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26話 異界からの来訪者

「この辺りは……特に異常はないな。」


学校が終わって放課後の夕方。

俺は真莉亜と二手に分かれ、不審に思われないように学校や集合住宅の周囲を歩きながら“気配感知”と“索敵”を同時に使いながら探索をしていた。

俺は集合住宅の中や周辺、それに人気(ひとけ)のないところを探索し、真莉亜は学校近辺と市街地を探索して、お互いに連絡を取りながら確認しあってた。


なんでこんな事をしているのかというと、夢の世界(シープ・ワールド)でのティファニスさんの手紙に書かれていた『脱獄囚』が何か関わっているんじゃないかと思ってしまい、今に至っているのだ。

地道な作業だけど、これも致し方ないのだ。

勇者と魔王は平和が恋しいんだ。

そのためにも、不安要素は一つでもなくしたい。


俺はスマホを取り出して真莉亜に連絡を入れた。


「真莉亜、そっちの方は何かあったか?」


『こっちは全然ダメだね。そっちはどうなの?』


「こっちも同じだ。もうすぐ夜だし今日はこれで一旦やめよう。また明日違うところを二人で探そう。」


了解(りょうか~い)。それじゃあ私も探索をやめて家に帰るわね。』


真莉亜との通話を切って、家がある方へゆっくりと歩きだした。

一応帰っている途中も気になって周囲を見たりしていたけど、やっぱり気配は特になく、五月の涼しい風だけが体に当たっていくだけだった。


(あの時の委員長、少しだけ暗い顔してたな。何も分からないからあんまり関与はできないけど、なーんか気になるんだよな…。)


同じ中学だったから何度か委員会で一緒になってる仲だし、高校に入学してからも何度か話しをしたりしていたけど、俺が知っている中で委員長がああいった暗い顔をしている時は何かあった時だってのはすぐに分かった。

だから俺も気になってはいたけど、相談とかしてこなかったってことはお家での事情なのかもしれないな。

お家の事となると、流石に簡単に足を踏み入れないんだよな~


「まっ、来週本人にでも確認のため一回聞いて、何かあったら相談相手にはなってやるか……――――ん?」


帰っている途中でふと公園の方を向くと、この辺りでは見たことのない人が独り木の目の前でポツリと立っていて、服装も巫女服に近い感じの服を着ていた。

近くにあの神社があるから、最初はそこの関係者なのだろうと思ったけど、それを秒で違うと言いきれるものがあった。

俺の眼が見せた先には、その人物の腰にぶら下がった二本の日本刀だった。

それを見て俺は足を止めて視線がそれにくぎ付けになってしまった。


(あんなところで何やってるんだ? ていうか刀持っているから警察に通報される前に一回声を掛けた方がいいよな!)


近くで住んでる人間からしたら、どうしても放ってはおけなかった。

だって銃刀法違反がこの近くで捕まったら、外出するのが一気に不安になっちまうよ!

勇者じゃなくても怖ぇよ!

ここはビシッと言っとくか!


家に帰る足を公園に向けて歩くと、敷地内に入って向こうも俺に気が付いてこっちを見てきた。

近づいて分かったことは、髪は銀髪のセミロングで身長は俺より少し低いくらい女の子のだった。

日本刀にも驚いたけど、よく見たら頭に狐のような耳と尻尾があるし、明らかに普通じゃないのはスキルを使って無くてもすぐに分かった。

こんな時、異世界で獣人になれちまってる俺ってどうリアクション取ればいいんだ?

一瞬驚いちまったけど、獣人とかで見慣れているせいで全然リアクション取れないんですけど!

と、とりあえず声は掛けてみるか。


「あの、ここで何をされていますか?」


見た目に気を取られながらも慎重にその人に訪ねて、向こうは少し警戒したような構えになっていたが、俺が普通に声を掛けたからすぐに警戒を解いてくれた。

俺のじっくりと見てくると、目の前にあった木の方を振り向いて口を開いた。


「この場所に桜が咲いていないか探していたのだが、どうやらもうすでに散って葉桜になっておるみたいだな。其方(そなた)はなぜ(わらわ)に声を?」


「あーいや特にないんだけど、その腰にある刀を持って外に出てたら警察に声を掛けられるから、何か布みたいなので隠しておいた方がいいと思い声を掛けました。」


刀を抜刀されないように慎重に話したけど、それを一気に覆すような事を彼女は次に発した。


「…? 警察とはいったいなんだ? それになぜ刀を隠さないといけない? (あやかし)に会ったら抜けなくなるではないか?」


「――――え?」


「それのここは何処なのだ? 何やら変なものばかりで全く分かんないのだが、其方よ、ここは一体どんな場所なのだ?」


「――――は?」


ちょっと何を言ってるのか分かんなくなってきたぞ。

妖? 何ですかそれは?

妖怪の類語なのですか?

ダメだ、何が何だか分かんなくなってきた。

それにここが日本だってことが分かんないのか?

獣人のような見た目の人だけど、一体この人は誰なんだ?


「あの、あなたは一体?」


「あぁ、妾は……っ!!」


名前を言おうとしたところで何かに気付いたのか、周囲を警戒し始めた。

急にどうしたんだろうと思って“気配感知”と“索敵”を使用したが、何もなく近くに人の気配はなかった。

空を見上げてみれば、そろそろ夕日が沈んで夜になっていくしか今の俺には分かんなかった。


「まずいな、もうすぐ奴らが行動を始める! 其方よ、すまぬが何処か安全な場所に連れて行っては来れぬだろうか!?」


「ど、どうしたんですか? それに奴らって?」


「夜になると奴らが行動しやすくなる時間なのだ。どうか頼めるか?」


彼女の焦ってる感じ、何かあるみたいだな。

委員長の件が気になるけど、もしかしたら同じである可能性があるかもな。

家に連れて行くべきか考えたけど、この際どうなってもいいや。


「よく分かんないですけど、とりあえず俺の住んでる(うち)に行きましょう。付いて来てください。」


「すまない……助かる。」


言われるがままに家に連れて行くことにしたけど、俺の頭の中では三人にどうやって言い訳するか考えてしまっていた。


(勢いで言ったけど…どうしよう。真莉亜ならまだどうにか誤魔化せるけど、母さんと華怜にはどうやって誤魔化すかな~)


彼女を何度かチラチラ見ながら考え、結論として知り合いのコスプレイヤーがお邪魔することになったって仮定で決めてすぐに思考を止めた。

今の状況をちゃんと説明しきれるか不安になりながらも、家がある道を一歩一歩着実に歩いて行った。









そして場所は変わってとある神社の境内。

同じ時刻でありながらやたら騒がしくなっていた。

ある一人の男が急ぎ足で神社の本殿に向かい、中にいた当主の前でへたり込んで、荒い息を出しながら当主に報告をした。


「ほ、報告があります…! 少し離れた場所ですが妖気を持ったものが現れました!」


「何、それは本当か!?」


「はい! 妖かどうかは離れすぎていてまだ分かってはおりませんが、あの門が開いてしまった可能性があります!」


一人の男性の報告を聞いていたその場にいた人物たちは、焦りで騒がしくなってしまっていたが、当主である男は詳細を一つずつ聞いて言った。


「被害は?」


「まだ出ておりません。」


「周囲に人はいたか?」


「現在捜索班が数名向かっており、状況を確認しております。」


「…そうか。」


詳細を知った男はひとまずは安心したが、まだ心配ができてない部分があり、自分の頭をフル回転させて思考を巡らせた。


(一般人に被害がまだないからいいが、門が開いたのならこれは大問題だ‼ 妖だとしたら何としてでも食い止めないと…‼)


当主は苦虫を嚙み潰したような表情になって必死に考えていた。

この辺りにある何処かで門が開いてしまっていたら、妖がもうこちらに来るのも時間の問題になってしまっているため、今は全力で門を封じ込めてなきゃいけないような状態になっているのだ。

当主の男はどうにか冷静さを取り戻し、一回呼吸を置いて報告してきた男に指示を出した。


「とにかく今は捜索班の報告を待つしかない。他の場所でも門が発生する可能性がある。周囲の警戒を怠らないように全部隊に伝えろ!」


「はっ!」


報告してきた一人の男は、当主からの命令を聞くとすぐさま全部隊に連絡をするため行動を再開し、速足でその場を後にして出て行った。


(神様…、もう少しだけ持ち堪えさせてください。ここが終わってしまえば、娘たちを失ってしまいます。)


指示を終えた当主は、本殿に向かって中にある仏様の前に座ってお祈りをした。

大事な家族の命がかかっている以上、父親である男にできたのは神への祈りだけだった。

自分の言った言葉が届いてくれてるのを願いながら、当主である男は開いたであろう門のある場所に封印しに向かった。


「お姉ちゃん。私たちどうなるのかな…?」


「大丈夫よ香織。お姉ちゃんが付いているから安心して。」


その様子を近くで見ていた二人の姉妹は、この危機を救ってくれる人が現れてくれるのを祈りながら皆を見守っていた。

そしてこの事態を逆転できる人物が、すぐ近くにいるのを彼女たちはまだ知らなかった。

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