23話 魔王さん、学校に転校してくる
「ヴァ―――…なんか休める休日だった気がしない二日間だったなぁ。」
日曜日を跨いでからの月曜日の教室。
俺は机に突っ伏していた。
理由は昨日と一昨日の出来事だ。
あの後、俺たちはみんなに夢の世界の機能を一通り教えて、お互いにこれから仲間になるため交流会みたいにしゃべって仲良くしていた。
一応簡単なルールとして、建築や農作物を育てたりするのは許可をして、戦闘などはそこがどうなるか分からないから、最小限の被害になる程度の戦闘までは許可をしてあげた。
だいたい話終えると、ティファニスさんが電話で言った通りにやって来た。
その場が一瞬だけ騒然としたけど、俺が事前に電話で教えてくれてたのを話すと、真莉亜が昨日の俺と同じリアクションをしてくれて、それが少しだけ嬉しかったのは黙っておこう。
俺はすぐにティファニスさんに神器を返却すると、代わりとなる武器と新しい力を渡してくれて、真莉亜にも俺と同じ新しい力を渡していた。
それと俺を何時までも頼らなくていいように、夢の世界に入れる夢のカギのスペアを2本もらった。
正直スペアキーを作ったら俺の固有魔法の意味がなくなるんじゃないかって思ったけど、いちいち俺に頼らずに開け閉めを頼まないで済むなと思ったから、あえてそこにはツッコまなかった。
ティファニスさんからもらった新しい武器に至っては、今のところ使い道がないから保留って形にして、2本のスペアキーについては、真莉亜とリラに渡しておいた。
それで土曜日は終わり。
次の日曜日も、休みという休みはなかった。
日曜日は珍しく締め切り前なのに母さんが休みを取って、朝から真莉亜の日用品を全部買うために俺と華怜を付き添いにおいて買い物をして終わりだった。
これが今週の俺の休みだった……。
いや休みとは言えなかったな。
唯一、真莉亜とのデートだけが休めるようなものだったな。
ていうか、こんなことなら日曜日を夢の世界でゆっくり過ごしてから月曜日を迎えた方がよかったかもな。
「はぁ……めっさ眠い。」
「なーに寝ようとしてるんだ。まだホームルームすら終わってないんだぞ。」
「むぁ?……何だトモか。」
そう言って俺の背中を叩いてきたのは、俺の幼馴染の一人である相川智也だった。
俺はトモとあだ名で言って、俺に対しては零と言う仲で、小学校からずっと長い付き合いをした良き親友だ。
そして何よりも、トモは昔から悪い奴を嫌っていて、いつもイジメられていた奴を助けたりしていた。
そのため小学生時代はみんなからヒーローと呼ばれるほど好かれていて、俺もその一人だ。
「なんだとは何だ。休日が終わったからって、いきなりダレてたらいい事なんて起きないぞ?」
「お前は俺のオカンか。」
「お前のために心配してやってるんだ。ちょっとは感謝くらいしろよ。」
「はいはい、ありがとな。」
これがいつもの俺たち。
トモは俺がイジメられて以降からこうやっていつも心配してきて、毎日こうやって朝に声をかけてきている。
ただオカンはやめてくれ。
俺は常に健康なんだからよ。
「でも珍しいね、零が朝から眠そうな顔するなんて。夜遅くまで何かやってたの?」
トモの後ろから声をかけてきたのは、もう一人の幼馴染である加藤明日香だった。
明日香もトモと同じ、小学校からの付き合いで、トモとは恋人関係でもある。
その影響か、明日香もトモと同じで悪が嫌いな性格になってしまっている。
「まぁ色々あったけど、答えはホームルームで分かるぜ。」
「ホームルームで……か。まぁ、お前のことだから悪いことじゃねぇのは分かるし、気軽に考えとくか。」
「そうだね。」
二人は昔から俺のことを知ってるから、悪いことはしてないってのを分かってくれてるのは助かる。
分からなくても予想して理解してくれる幼馴染はホントにありがたいものだ。
「しっかしトモ、お前ずっと言ってるけど、何で高校に入ってから不良っぽい格好になってデビューしちゃった訳?」
「何でだ? 別に今は問題ないだろ?」
「いや今はそうだけどな……。」
トモの服装を見て言うと、本人な何でって感じで首を傾げて、それを見ていた明日香は呆れた感じでトモを見た。
トモの今の服装は、明らかに不良と言われてもおかしくはなかった。
髪が茶髪なのは地毛だからまだ許せるしそこはいい。問題の服装は、学ランの前は全部解放してるし、中のシャツも私服といった、不良のコスチュームを全体にに出していた。
本来、うちの高校はネクタイなどがあって、それを必ず付けないといけない。
けどこのトモはそれを完全に無視した格好をしている。
何度か先生に注意をしてと、俺や明日香に言ってくるけど、前に一度、グラウンドに本当の不良たちがバイクで侵入してきて、それをトモが一人でやっつけて以降、特別に許されるようになってしまった。
まぁ先生たちも、あの一件以来から何も言わなくなったし、生徒の方も、生徒会長の言葉で信じるようになったし、事実、あれから何もなくなって平和に学校生活が暮らせれるようにもなったしな。
ま、あの時は生徒会長が知り合いでよかったと思ったし、俺たちのことを知ってる人だったから話は早かったしな。
借りができて面倒だったけどな。
「にしても、今日はやたらと騒がしいな。」
「知らないの? 今日は転校生が来るって話があったよ。ほら、周りの声を聞いてみて。」
トモは周りの様子が変なのに疑問に思い、それを明日香が答えて、周囲の声が聞こえやすいように耳打ちをし出した。
まぁ答えは分かってるけど、一応俺もやっとくか。
「なあ見たか? 今日入ってくる転校生の顔。」
「いや、俺はまだだ。」
「俺もだ。」
「さっき職員室の近くを通った時によ、そこ転校生の顔をしたんだけどよ、すっごい美人だったんだよ!」
「マジで。どんなのだったの?」
「金髪美女だよ金髪美女! 多分あれはモデルだぜ!」
「マジで! 俺ワンチャン告白してみようかな?」
あぁ……なんか、ごめん。
期待してるけど、俺からしたら君たちの理想は淡い夢になります。
そしてモデルって言ってますけど、本人は異世界の元魔王です。
「なんか、楽しそうなのは男ばっかだな。」
「女子はそれを聞いてて呆れてるな。見てて哀れだよ。」
「むしろ楽しそうじゃないのはアンタらだけだよ。」
「俺はまだしもトモは楽しんじゃダメだろ。お前ら付き合ってるんだからよ。」
「分かってるわよ。仮に楽しむようだったら絞めあげるだけだから。」
「「怖ぇよ。」」
その言い方だと、将来は鬼嫁になるな。
浮気絶対許さないぞって言いそうだな。
「零、何か変なの考えてないわよね?」
「まさか、考えてないよ。」
三人でいつも通りに朝からしゃべってると、担任である櫻井先生が教室の中に入ってきて、全員が自分の机に戻った。
「みんな、おはようございます。ホームルームを始める前に、まずは今日から入る転校生の紹介するわね。入ってきていいわよ。」
先生の指示に従って入ってきたのは、うちの高校の制服を着た真莉亜だった。
『おぉぉぉぉぉぉ!!』
入ってきたのと同時に、男子のほぼ全員が歓声を上げた。
女子たちも、男子の話を聞いてる時は呆れていたけど、真莉亜が思ってたよりも美人だったのか、女子のほとんども真莉亜を見て驚いていた。
俺は最初はなんとも思わなかったけど、確かに真莉亜は美人だな。
髪も金髪。
ルックスも整って可愛い。
スタイルも細いからモデルと言われてもおかしくない。
――――あれ? 俺の彼女…レベル高くね?
「みんな静かに。まずは自己紹介からお願いするわね。」
「はい。」
先生に言われて、真莉亜は自分の名前を後ろにある黒板に書いて、再び俺たちの方を向いた。
「今日からここの学校に通います、神崎真莉亜と言います。よろしくお願いいたします。」
『うぉぉぉぉぉぉ!!』
真莉亜の挨拶が終えた瞬間、男子が一斉に歓声を上げて、喜びを前面に出してた。
うん、キモイ。
馬鹿どもの集まりにしか見えない。
女子もまた冷ややかな目で見始めたし、もうめちゃくちゃだな。
「男子、他の教室の迷惑になるから静かにしなさい。」
先生の優しいかつ鋭い言葉が生徒全員に当てられ、ずっと興奮していた男子は一気に静かになり、教室に入ってきている風が静かに音を鳴らしていた。
てか三年ぶりだったけど、相変わらず先生の鶴の一声ヤバいな。
あんだけ騒がしかった教室が一瞬でシーンとなったよ。
しかし昔は怖いと思ってたけど、勇者で異世界にいたからか、今は全然怖くもなんともなかったな。
やっぱ慣れなのかな?
まぁ戦ってきた相手が相手でデカかったし、恐怖の対象と何度も出会ったりしたし、そうなってしまうのもおかしくはないか。
「神崎さんはこう見えて過去に色々あったみたいでね、人とは多く接しないようにしてるみたいだから、これから仲良くする時は気をつけなさいよ。」
「おっ、ちゃんと母さんは話してくれたみたいだな。」
実は先日、母さんと俺は真莉亜の事を学校にはどう説明しようか考えてるために話し合っていた。
今の真莉亜は家に住んでる居候。
もちろん苗字も違うから不審に思われる可能性も高いだろう。
だから俺は母さんと話し合って、マリアの事はこうすることにしたのだ。
「深刻な家庭事情で一緒に暮らす事となった同居人」って設定にして、学校側にもそのように伝えるようにしてくれていた。
そこまでしなくても良かったんじゃないかって思うだろうけど、何事も慎重にならないといけないからな。
特に真莉亜は今しがた美人だって事も自覚しちまったし、バレたら面倒ごとになるのは確定だな。
「ちなみに今神崎さんは白崎くんの家に居候してるみたいだから、二人の家庭事情には深く踏み込まないようにね。」
「先生、私と零君は付き合ってるので大丈夫ですよ。」
おい先生! なぜ隠してた部分バラすんだよ!?
そして真莉亜もそれに乗っかるなぁぁ〜!
『ええええええええええええ―――――!!?』
先生と真莉亜のカミングアウトにより、静かにしろと言われて静寂だった教室が再び騒がしくなった。
すると真莉亜は俺に気づくと、やってやったぜみたいにウィンクをして、俺の隣に空いてた席に座った。
「という訳だから、よろしくね零君♪」
「おまえはぁぁ~……。」
俺は腹の底からどすの利いた声を出して睨んだ。
何てことしてくれるんだよ!
おかげで今の学校生活にグッバイ宣言しなくちゃいけなくなっちまったじゃねぇかよ!
そしてその小悪魔みたいな顔がかわいいなぁ~もう!
「――――はぁ……憂鬱だ。」
空は青いのに、俺の心は厚い雲に覆われたような気分になった。




