20話 彼女の告白
「それから私は、最初の女神とは違う神様に頼んで、零君と一緒にいられるように人間にしてもらって、同じ16歳の少女になって、今に至るの。」
「…………。」
俺はずっと、言葉を失っていた。
真莉亜の過去は、俺の想像よりも遥か上にあって、その生き様はまるで地獄そのものだった。
言葉を失っているのはみんな同じだった。
リラや他のみんなも、奴隷になりかけとはいえ、一度は悪夢を見ていた物はいる。
でもその悪夢が可愛いって思えるほどの真莉亜の過去に、誰も彼もが冷や汗をかいていた。
対してリベルたちは、思い出したのか、それとも同情なのか、涙を流して真莉亜の話を聞いてた。
それを見て思ったのは、真莉亜の最期は一人ぼっちじゃなかったんだなって分かった。
しかし……俺も昔は辛かった日々があったけど、真莉亜の方がずっと上だから、何も言えなくなっちまったな。
でも、傷つけられる痛みは分かる。
俺も前は……その痛みを味わった事があるからな。
「何かごめんね、こんなにしんみりさせるような話になっちゃって。そうならないように少しは工夫したけど、ダメだったみたいだね。」
「ぁぁ……うん。大丈夫だよ、気にしないで。」
これは、言っておいた方がいいかもな。
同情っぽくなってしまうかもしれないけど、この際俺も言うだけ言っちまおう。
「なぁ、真莉亜。」
「ん?」
「俺もさ、お前ほどじゃないけど、昔イジメられた時があったんだよ。」
「そうなの?」
「小学生の時にな。当時そのクラスで一番ガキ大将だった奴が、俺になんの因縁もないのにボコしてきて、何度も怪我をした事があったんだよ。」
「そんな事があったんだ。」
真莉亜は今の俺を見て意外そうな顔をしていた。
まぁもうあれから時間はかなり経ってるし、そいつだけで終わって、中学からは普通の生活を遅れたんだからな。
真莉亜と比べたら、まだまだ可愛いものだ。
「俺の方はさ、母さんも華怜もいれば、俺の幼馴染が二人いたりしたから、一人で苦しんだりはしなかった。」
「うん。」
「けどさ、痛みの大きさは違っても、その痛みの辛さは俺も知ってるんだ。心に傷がある以上、その痛みがどんな苦しみを与えてくるのかは、理解出来る。」
「零君……。」
「つまらん同情だけどさ、何かあったら俺にいいな。相談には乗ってあげるからよ。」
「……うん…ありがとう。」
真莉亜は俺にお礼を言って笑うと、用意していたクッキーなどを食べてのんびりした。
俺もそれを見て少し気が楽になって、近くに置いてた煎餅を1枚取ってボリボリと咀嚼音を鳴らしながらのんびりお茶を飲んだ。
しっかし顔には出さなかったけど、真莉亜の笑顔……めっっっちゃ可愛かぁぁ……
あの二人の笑い顔には慣れてるけど、つい最近会った女子の純粋な笑顔にときめきを持ってしまいそうになる。
それに何故か彼女には、初めから信頼ができてしまう。
不思議にも、真莉亜には敵意を向けたくないって感じになってしまう俺がいる。
ハッ!これはもしや、魔王の囁きなのか!?
甘い蜜を吸わせようとするための誘いなのか!?
……いやないな。
そんなのはないだろうな。
「なんだかお二人を見ていると、離れ離れになっていた恋人のように見えてきましたね。」
「「ブ―――――ッ!!?」」
突然リベルが言った発言で、俺と真莉亜はお互いに飲んでた緑茶と紅茶を吹き出した。
何言い出すんだよこの悪魔っ娘は?!
俺たちの関係ってそんな感じに見えちまうの?
あっヤベェ……お茶と煎餅の欠片が変なところに入っていった。
「ゲホッ…ゲホッ……な…何言ってるのよリベル!!」
真莉亜は顔を赤くさせてからリベルに言ってたけど、それを見てさらに微笑ましそうにしていた。
「だって今のを見る限り、レイ様はマリア様を信頼して、マリア様は私たちだけしか知らない真実を普通に言った。それを見れば、昨日まで敵だった者同士が実は恋人関係だったと思われてもおかしくはないかと思われますよ。」
「だからって今言わないでよ!」
よほど恥かしいのか、両手で顔を隠してからシートの上でゴロンゴロンと転がりだした。
まぁ、そう言われたら恥ずかしいですもんね。
しかも的確に言ってくるから尚質が悪い。
え? 俺は恥ずかしくないのかって?
死ぬほど恥ずかしいですよ!
顔には出してないですけど今の真莉亜と同じ状況なんですよ!
「マスター、全然顔に出てないですけど、恥ずかしくないのでしょうか?」
「いいえ、顔には出しいてないけど、頭の中では死ぬほど恥ずかしがってるわ。ムッツリスケベさんめ。」
おいコラ勝手に頭の中を見ようとするな!
こっち見てニヤニヤすんな!
余計に恥ずかしくなってくるだろうが!
「……ねぇ…零君。」
「どうした? もう大丈夫なのか?」
「……私たちって、恋人のように見えるのかな?」
真莉亜の顔は赤いままだったけど、なぜか寝ながら俺のほうを向いて聞いてきた
うーんどうだろうなぁ。
ぶっちゃけこの方19年も恋人のいない人生。
今は16だけどね。
正直俺にはわかんない疑問だ。
自慢じゃないが、俺は成績はよかった。
難しい問題は答えることができた。
でも、このようなものは分かんない。
専門外だから。
「俺にはそういったのは分かんないけどよ、他人からしたらそう見えるのかもな。」
「……そっか。」
ごめん、曖昧な答えで。
こればかりは恋の専門家に聞いてほしいです。
いやなんやねん恋の専門家って。
「うん、そう見えるならそうでもいいか。もう当たって砕けろ。」
「真莉亜?」
「零君、改まって言いたいことがあります!」
「あ、はい。」
急に真剣になってどうしたんだ?
何を改まるんだ?
いまだに顔が赤い状態だけど、真剣な目をしていた真莉亜に委縮しそうになった。
すると真莉亜は息を軽く吸って、俺の目を言っていった。
「私はあなたの事が好きです! 結婚を前提として、正式に付き合ってください!」
………ん?
いま…なんとおしゃいましたか?
突き合ってください?
何を突くの?
「マスター、多分考えてるのは間違ってます。今この人が言ったのは、恋人関係になりたいって言ったんですよ。」
え? そうなのシーナ?
付き合う……恋人……誰が誰と?
「………俺が、お前とか?」
「――――――――――はい。」
あーなるほど。
真莉亜が俺と付き合って恋人になりたいと。
恋人……恋人……
「―――――マジか…!」
少し理解するのに遅くなってしまったけど、ようやく真莉亜の言ったことが分かった俺は、本気なトーンで言葉を出した。
恋の専門家さん、これは本音の告白ですよね。
19年目にしてようやく俺にも春が来たんですか?
いや待て、この告白には二つの意味がある。
一つ、白崎零という人物を本気で好きになった。
二つ、勇者だから好きになった。
俺の本心では前者が一番いいが、後者だったら絶対に首は縦には振らない。
ここは見極めポイントだ。
慎重に進めていこう。
「いくつか聞くけどさ、何で好きになったの?」
「第一として言うなら、まずは私を助けてくれたから。二つ目は過去に呪われていたからこそ、解放してくれた零君がかっこよかったから。」
うん、二つとも似た意味だと思うけど、まぁセーフだな。
問題は今のとこなしか。
「あとはさ、何となく私に似てたんだよ。」
「お前にか?」
似てると言われても、あまりピンとはこない。
勇者と魔王だからとかじゃなくて、同じ生き方をしてないのに何が似てるのかが分からない。
何が似てるんだ?
「私もそうだけどさ、零君も悪人……しかも人を殺めた人間を嫌ってるし、奴隷を捉えてた盗賊も同じように殺めた訳じゃん。色々と考えてたらさ、お互いのやってきた行動って、似てると思うんだよね。」
ふむ、確かに言われてみたらそうだ。
俺も真莉亜も従者を持って、盗賊などの悪人を殺めてる。
そしてお互いが平和主義者。
「――――――かなり一致してるな。」
「でしょ。だから思ったんだよ、お互いに理解し合える者同士なら、心を許しあえるんじゃないかなって。」
許しあえるか。
確かに俺や真莉亜みたいに悪人を容易く斬れるのは世界でも極わずかだろう。
その中で俺たちは同じ意志を持ってて、同じ決意を持ってる。
ここまで一致してるのなんて奇跡って言ってもおかしくないな。
「それにさ……。」
「…?」
「零君を好きになるのが勇者だからとか、そんな理由で好きになんてなりたくないしね。」
「……ッ!」
確信した。
真莉亜は前者だ。
俺が望んでいた答えを出した。
アイリスや他の国の令嬢たちが言わなかった言葉を、真莉亜は言ってくれた。
……決まったな、俺の答えは。
俺はリラたちの方を向いた。
みんなは俺の望んでいる答えを知っているし、理想の女性がどんなのかは理解済みだ。
俺の視線の意味が分かったのか、みんなは何も言わずに頷いた。
リラだけは少し心配そうにしていたけど、みんなの表情を見て大丈夫だと分かったのか、リラの中にあった不安はなくなっていた。
みんなの答えは分かった。
念の為にリベルたちにも聞いてみるか。
「リベル、お前たちは否定はしないのか?」
リベルは俺から振られるのを予想してなかったのか、意外そうな顔をしていたけど、言葉の意図が何なのかが分かると、一度咳払いをして呼吸を整えた。
「私たちの答えはマリア様と同じです。マリア様の言葉が、今の我々と同じである以上、私たちも賛成です。それにあなたはマリア様を救ってくれた恩がありますので、否定をして恥をかくまねはしたくありませんので。」
「……分かった。」
双方の従者たちは、俺の答えに任せることになった。
ならもう、躊躇わずに言おう。
「――――――真莉亜。」
「はい。」
「俺もそうだったんだよ、同じ意思を持ってる人がそばにいて欲しいって。俺の意思はな、お前と全く同じなんだよ。」
「――――うん。」
「探してたんだよ……ずっと。これは家族だけじゃない、幼馴染にも教えてない。でも、やっと見つけたよ……俺の望んでた人を。」
「――――うん。」
「だから言うよ、俺も真莉亜が好きだ。共存できる者同士、これからお願いします。」
「――――――はい!」
真莉亜今までしてこなかったであろう涙を流しながらも満面な笑みをしながら俺に抱き着いてきた。
そしてここに最強のカップルが誕生した瞬間でもあった。
第二章も編集しようと考えてる自分がいますが、今は保留にしておこう(2021/10/3現在)




