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140話 正義の後悔

「第一、第二主砲、三式弾を装填――――放てッ!」

「“トランプアクション「クイーンエリザベス」”」

「“心霊現象(ポルターガイスト)”最大解放!」


夏休み初日。

俺の提案で始まった夢の世界(シープ・ワールド)での強化合宿。

場所は前に使ってた修練場。

ここに来て早々俺の相手をしてくれている沙羅先輩、陽菜先輩、加賀美の三人は、今の全力を同時に俺に向けて攻撃するように頼んだ。

理由は単純、俺のリハビリに付き合ってもらうため。


「歪め空間。“不可逆な歪曲(アルハザード)”」


三者からの強力な攻撃は、普通じゃ止めるのは至難。

防御魔法は守りに徹した方法だけど、それは魔力量によって左右される。

だから俺が最初にリハビリの対象にしたのは――――「空間」だ。

「空間」は最強の矛でもあり最強の盾だ。

「時間」は幸いにも停止だけ完全に使えるし、他のほうもリハビリがいかせて半分近くまで使えるようにもなったし、こっちは後回しでもいい。

今は片方を優先して戻すのが後々楽になるだろう。


神格にある「空間」を何度も干渉をしたおかげで、過去の技を使って三人からの攻撃を全部防ぎきった。


沙羅先輩の喚んだ戦艦から放たれた疑似三式弾。

陽菜先輩のクイーンのトランプによるギロチン。

加賀美による「異能」を使った瓦礫の雨。


全部が俺の目の前で止まり、脱力したかのようにそのまま地面に全部落ちて、瓦礫以外は全部消滅した。


「すごいわね。私たちの攻撃を全部防ぎきるなんて…」

「今のって、空気にある空間を歪ませたのよね?」


「そうです。一本線に横線を入れるかのように進行を遮断させ、それを空間魔法で応用させるだけの簡単な手順です。といっても燃費が悪いのと正面にしか有効がないので、改良の余地はすごいありますけどね。」


加賀美が使った瓦礫を“虚空”で塵にさせていきながら話し、今の自分と神格の馴染み具合の状態を確認するために身体にある神格に神理眼(ギネス)を連携させた。


(神格両方合わせて30%……やはり前世の最盛期の時の肉体を取り込んで正解だった。)


30万年前以降の転生は、前世の身体なしで神格のみで行動していた。

身体は転生させるのに「アレ」が邪魔して本来の行動ができずらかったし、何よりあの時代はニアラに対して致命傷を与える術がなかった。

『神殺し』があっても、奴はグァーラの肉体を取り込んでいたから出来なかった。

だから神格だけでも打破できる方法を探し、2000年前の最期でようやく完成させ切った。

それにあの時のように今は余裕がある。

今なら……凍結させてた「あの計画」がここで遂行できるかもな。

そうとなれば、共犯者(アイツ)が転生してるかどうかを確認しないとな。


「それにしても、先輩たちの異能ってエグすぎでしょ。沙羅先輩ならまだしも、陽菜先輩はもう完璧ですし。」


沙羅先輩の“提督(アドミラル)”による戦艦は、大規模戦闘においては本領を発揮できるけど、あのデカさだと小回りが利かないのが弱点だな。

何より使用してる最中の先輩は無防備だし、下に逃げられたら詰み確定だ。


対して陽菜先輩の“手品師(マジシャン)”は種類が豊富だ。

聞いた話だとトランプの攻撃では「キング」「クイーン」「ジャック」「ジョーカー」の四つ。

それ以外にも「シルクハット」「串刺し」「人体浮遊」の三つも含めて、合計で七つの技が使えるかなり強い異能だった。

遠・中・近の全部に対応できるトランプは何より強い。

大型の魔物には難しいだろうけど、レパートリーがいくつもあるのは高いな。

沙羅先輩とタッグを組めばお互いをカバーできそうだし、そのあたりは二人でなんとかできるだろう。


「先輩、何故あたしの名前が出てこないのでしょうか?」


自分の名前が出てこなかったのに不安を持った加賀美が、俺にジト目をしながら文句を言ってくる感じで睨んできていた。

まぁ強化合宿だし、弱点はスパっと言っておくか。


「お前の“怪奇現象(ポルターガイスト)”は浮かばせて投げるだけのやり方しかないじゃないか。これじゃあ念力とあんまり変わんねぇし、瓦礫だけじゃなくてもっと他の物を浮かばせて攻撃するやり方を考えろよ。」


「て…的確な部分を言いましたね……後輩泣かせは楽しいですか…!」


「いや弱点を言って対策しやすく教えてやっただけだ。分かったんなら対策でもしとけ。」


なーにが後輩泣かせだ。

本気になれば精神もフルボッコにしてるっての。

やり方は飴と鞭、異論は認めない。

甘さだけだったら一向に成長しないからな。

心は鬼にさせ、その分飯は仏にさせる。

これが一番いい。



ドゴ―――――ンッ!!



「おっととと…荒れてんなぁ…ありゃ。」


いきなり爆発音のような轟音が夢の世界(シープ・ワールド)の中に響き渡り、鳴り響いた音のほうを向くと、俺が氷魔法で作り上げた巨大な氷塊を殴り続けてる野獣(トモ)はいた。


「あれって、もしかしなくても…?」


「あぁ…期末テストで唯一赤点を出しちまった自分に怒ってるんだよ。現にヤケクソで氷塊を自分の異能でストレス発散してるのが背中越しでもわかってるからな。」


数日前に期末テストがあったのだが、元々成績が低かったトモは赤点の常習犯でもあって、今回も水面下の戦いになると本人を含めて全員が察していた。

一応赤点にならないように俺と夏奈のトップ2でどうにか赤点を回避しようと努力したのだが、前から致命的だった数学で残念ながら赤点を出してしまったのだ。

そして今は、ヒーローになるはずなのに頭の悪さが惨めで仕方ないと叫んで、俺に氷塊を作るように頼んですぐに氷を殴りながら壊していって、今に至っている状態だ。


「なんていうか、見てて悲しくなってくるわね。」

「すでに三回目だけど、そろそろ止めてやるべきじゃないか?」


「ですね。このままだと自分の手まで壊す勢いですし、俺のほうはここまでにしてちょっと止めてきますわ。」


俺のリハビリ兼先輩たちの特訓を終えて、トモを止めるために俺は近くまで歩いて行った。

近くに俺が来ても一向にやめようとしない時点でわかる。

これはマジで自分に怒ってるわ。


「おーいトモ、そろそろ止まりな。試作品で作った腕甲(グローブ)の耐久実験の前にお前の体が壊れたら元も子のないんだからよ。」


俺の声が聞こえたのか、一心不乱に氷塊を壊すことしかしてなかったトモが動きを止め、ゆっくりを顔をこっちに向けてきた。

その顔はいつもの生き生きとした表情はなく、悲しみと怒りが交じり合ったような表情になってた。


「おれさ……マジで悔しんだよ…! 頭がバカなヒーローはヒーローじゃないだろう…!」


「おーおー見事な反省ぶり。それだけ己の弱さを自覚してるならいいさ。それを知ろうとしないバカが昔いた以上、お前はその分正しい行いをしてるんだからよ。」


「…でもよ、こんなダサいヒーロー…名乗っていいと思うかよ…!」


あーこうなると面倒なんだよな~

昔からそうだったけど、こいつは自分に引っ張られやすい。

それが枷となって全力になりきってないんだ。

幼馴染としてビシッと言っておくか。


「言っとくけどな、精神(こころ)ってのは自分の最大の敵だ。誹謗や賞賛などの他人の言葉ですぐに変わってしまうし、そのせいで自分の中に眠る最大の力を発揮できないまま終わってしまうこともある。一番重要なのは、何もかも精神(こころ)で受け入れずに、自分自身を信じて動くことが大事だ。迷いは捨てろ。枷を外して、自由に生きる意志を持ちな。」


「…零。」


「それに、お前に飽きずにずっと10年も付き合ってる俺と明日香を頼りなよ。なにせ俺たちは、幼馴染なんだからよ。」


俺たちだけじゃない。

真莉亜や夏奈や先輩たちもいるんだ。

頼れる奴が近くにいるんだったら、素直になって話せばいい。

そこに恥はいらない。

自分を強くするのなら、誰かの力を教えてもらうのも正しいことなんだから。


「零…俺はこのままでも大丈夫か?」


「問題ねぇよ。完璧な人間なんて、この世の何処にもいないんだからな。」


笑いながらトモに話して、ようやく吹っ切れたかのように顔を何度も叩いて再び俺のほうを向いてきた。


「悪い、みっともないとこ見せちまって。」


「気にすんな。昔の俺もそんなんだったし、これであいこだ…5年越しのな。」


「ははっ、そうだったな。」


あの時とは違う。

お互い道が違っても、昔のようにはいかないかもしれない。

だから今を生きるしか、道がない。


「頼りにしてるぜ、正義の味方(ヒーロー)。」


「あぁ、任せとけ。」


握手の代わりに拳を当ててから仲直りして、本調子に戻ってくれたところで、俺はともに渡してた試作品のほうに話題を変えた。


「それでどうだ? その腕甲(グローブ)、試作品だから完成じゃないけど。」


「全然問題ないぜ。氷を殴っても全く手が痛まないし、何より軽いからスピードもそのまんまだ。」


トモに渡してた試作品の腕甲(グローブ)

ゴム手袋をイメージして手から上腕までを覆えるように作った武器。

“創造作成”“武器錬成”を同時に使用しているから、俺の魔力で強度はダイヤモンドの()でも傷一つ付けないレベルまで最大限の硬化にさせた。

ベースはもちろん、俺の魔装だ。

魔装は服でありながら鎧と同じ強度を持ってるから、それと同じやり方で作るのには難しくなかったし、実現させるのにも考えんですんだ。


「お前の場合は、拳や蹴りでの体術をメインとしてるからな。魔力を開花させれたし、魔装や魔武術(まぶじゅつ)をこの強化合宿でマスターできれば、一段と強くなるだろう。」


―――――魔武術。

俺がクラッシュに使った“蒼槍(そうそう)”のことを表し、体術や剣術といった攻撃に魔力を乗せることで、通常の攻撃よりも倍の威力を出すことができる。

トモの体術との相性は抜群だ。

この合宿で、完全に圧会えるようにさせないとな。


「俺は、今よりもっと強くなれんだな。」


「元々お前は頭こそ悪いが、感覚を覚えるのは早いからな。この調子でいけば、合宿中には完成できるだろう。」


「――――なぁ零、魔装や魔武術ってのを覚えさせたら、そのあとは俺のやり方でやらせてくれないか?」


「なんでだ?」


なんだ、トモから一人でやりたいなんて初めてだぞ?

俺が要らないのなら、明日香も同じだろうか?


その疑問に答えるかように、トモは理由を言ってきた。


「俺さ、自分の道は自分で歩きたいんだ。誰かに助けられるのは嫌じゃないが、やっぱ自分で決めたやり方は、誰にも邪魔させたくないんだ。だから悪いけど、俺は俺なりに探してみるよ……本当の力を。」


こりゃあ…グルブに何か言われたな。

ここまで言うってことは、何かに感化されたのが丸見えだ。

あの戦いでグルブとぶつかった時に変わったようにも見えるし、自分で探させるのは俺も賛成だな。


「分かった。それが終わったら、あとは好きにしてくれ。」


「ありがとな。」


「…んじゃ、休憩取ったら、先輩たちと特訓再開だな。」


「応ッ!」


コイツがどういった道を行くかは知らないが、今は見守ってやるとするか

願わくは、俺と同じ道を進まないことを願いながらな。

【東雲沙羅】

清雲学園の生徒会長。

異能【提督(アドミラル)】は彼女の父親が戦艦好きであり、その影響で海が好きになっている思考が異能によって具現化している。

異能を持ってる者の中では最強クラスで、戦艦を召喚できるのは異常。

昔からダジャレが好きで、毎回生徒会メンバーや零たちに披露しては冷たい視線が彼女に浴びせられてる。

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