137話 家族の愛と心の傷
「―――以上が、俺が出かけてた内容だ。ユー・アンダスタン?」
「「「「「「「「「ノット・アンダスタン。」」」」」」」」」
あれから5日経った休日。
隠すのもめんどいと思った俺はあっさりとみんなに今の俺の正体をバラそうと、真莉亜・トモ・明日香・夏奈を含めた青春クインテットと、生徒会メンバーの全員を“夢の世界”に呼んだ。
そして来てもらって早々に自分の正体をカミングアウト。
ついでにサボった理由と休日の活動もインプット。
結果みんな思考をシャットダウン。
うん、全部言ったらこうなるのは普通か。
「じょ……情報が多すぎて分からん…」
「知ってた。だから理解して欲しいのは、俺の前世が邪神だったとこだけでいいよ。あとはどうでもいい。」
「その邪神っていうのは本当なの? 中二病で作った設定とかじゃないよね?」
「残念だけど現実だ。そもそも勇者はマジな時点で中二病じゃねぇよ。」
こっちだったら中二病って言われるのはまだ分かる。
でもあっちではリアルファンタジーな世界なんだよ!
命がいくつあっても足りないくらい死を覚悟したわ!
巫山戯じゃなくてマジなんだよ!
「ねぇ零君。もしかしてあの時ジョルメに言ってたのも邪神の言葉だったの?」
「まぁな。ただあのパウウェスは同じ邪神でも、神格を一切使わなかった。つまり奴は下の下の存在。言わゆる末席の邪神だったんだろう。現に照とお前の怒りの光線で消滅したのが証拠だし。」
あれはどう考えても弱すぎた。
神格がないから大罪を取り込んでどうにかしてたって感じだったけど、何故持ってなかったんだ?
でもこれだけは分かる。
俺の記憶にすらなかったって事は、前世の俺にとってはどうでもいい存在だったんだろう。
そんな中でよく生きてたもんだ。
「あの……白崎君。」
話を終えてようやく一息つこうとコーヒーを飲んでいると、夏奈がずっとある方向をチラチラ見ながら俺に声をかけてきた。
「何だ夏奈? 何かわかんない事があった?」
「ううん、そういったのじゃないの。ただ確認したいのだけど、あそこにいる白崎君のお父さんって、本物なの?」
「あぁ……あれは本物だよ。悲しい事にな。」
そう言って見ていた先には、ソファーに座ってる華怜に向かって土下座してる哀れな父親、横には共犯の罪で一緒に正座して座ってる母さんの姿があった。
「お父さん、お母さん、私が怒ってる理由は知ってる?」
「か、勝手にいなくなって……じ、自分の事を優先したことだと思います。」
「み、右に同じく…」
さっきから汗が滝のように流れてる二人を見てかわいそうって思うだろうけど、実際やった罪は数年に渡って続いてたんだからな。
父さんたちの正体に気付いたあの時も俺だって母さんに怒りたかったけど、あえて俺からは何も言わなかった。
だってこの未来が読めてたから。
こうなるだろうなって勘づいてたからだ。
「そうね。お父さんにも何かやり残したのがあったら行くのは分かるよ。私だってやり残したことは絶対にやるもん。でもそこに怒ってるわけじゃないわ。」
「で、では、どうしてお怒りに…?」
「なんで…」
「「?」」
「何でそんなやり方しかなかったの!?」
「「…ッ」」
華怜は怒りをあらわにして叫んだ。
目には涙が溜まっていて、二人は言葉を詰まらして何も言えなくなっていた。
「他になかったの? もっと分かりやすいやり方はなかったの? 私もお兄ちゃんも、お父さんがいなくなって寂しかったのを知ってるの?」
「「……。」」
華怜の言葉に、二人は沈黙で答えを出した。
本当なら俺が何処かで止めて、華怜の代わりに言うべきだと思う。
だけど俺は何も言わない。
俺も華怜と同じ気持ちだから。
華怜は俺の代弁者みたいなものなんだ。
華怜には、心の中の声を全力で言えとだけしか言ってない。
今はただ、俺ができるのは華怜が言い終えるまで見守る事だけだ。
「私…傷ついてるんだよ……、お父さんがいなくなって…ずっと寂しかったんだよ。他の子にはお父さんがいても、私にはいなかったんだよ…!」
「華怜…」
「羨ましかったんだよ……他のみんながお父さんの思い出を言ってるのに……私にはなかったのよ…!」
「華怜…」
「お父さんもお母さんも…約束して。もうこんな事は二度としないって約束して……絶対して!」
限界が来たのか、華怜はそれ以上は何も言わずに泣き出した。
俺も見るに耐えきれなくなって、華怜に近づき優しく抱きしめた。
11歳なんてまだ若いんだ。
俺とは違って幼い心のままの華怜にとっては、辛すぎる事情だもんな。
泣いたって当然の事なんだ。
「父さん、母さん、俺は勇者だ。父さんが魔王であって、母さんが勇者だったあの時と同じで、俺も真莉亜もあの世界を知ってる。」
嗚咽が込み上げてきてる華怜の頭を優しく撫でながら、泣き止むまでやめなかった。
俺は勇者で、真莉亜は魔王。
形が違っても、生き方は変わらないはずだ。
華怜のを見てて決めた。
俺も心にしまってた本音を言おう。
「俺の思う事なんだけどさ、親ってのは子供が大人になるまでは絶対に会いを与えないといけないと思うんだよ。家族の愛ってのは、他人では作れないし、他人が親になるのは本物の家族とはいえないんだよ。子供は親の愛がないと大人になれない。母さんは、それを一番知ってるんじゃないの?」
俺は母さんを見ながら問いを投げた。
俺は知ってる。
親がいなくなって泣き叫んでる子供を。
命が軽い世界だと教えてくれたあの村を。
「俺は見たんだ。親が死んで泣き叫んでる子供が、俺に向かって悲痛の叫びを浴びせてきたのを、今でも覚えてるよ。母さんも勇者だったんなら、そんなのが一度二度あったんじゃないの?」
「……うん、あったわ。」
わずかな間はあったが、母さんは小さな声で言って頷いた。
母さんも俺と同じ勇者だったんなら、俺と同じ体験をしてるはずだ。
戦いによって帰ってこなった仲間の命を。
一期一会の出会いに次がなかった事も。
「パラディエスでは命は軽く、失うのもあっという間だった。それを何度も見てるからこそ、今回のやった事は俺も怒ってる。そこは理解して欲しい。」
「……うん。」
「ま、二人が反省してるなら俺からは終わるよ。既に父さんには制裁を下してるからね。」
「「本当に申し訳ありませんでした。」」
両親からのキレイな土下座をしてもらったところで、俺たちの説教はこれで終わらせた。
これ以上怒ったって、変わらないものは変わらないからな。
「まぁそれに、人の命を軽く見てるのは俺も同じか。」
「零…?」
「トモ、それに明日香。これはお前らに一番関わることだから聞いて欲しい。」
「俺らにか?」
二人は何故自分たちにって思ってるけど、俺が今から言うのに対して真剣になるはずだ。
「俺たちにしか分からない事だけど、お前らは山岸順平の事を覚えてるか?」
俺から山岸の名前を出すと、トモと明日香はすぐにそれが誰か分かったけど、他の全員は誰って感じで首を傾げてた。
「山岸……懐かしい奴だな。」
「まさか零、アイツに会ったの?」
「あぁ、つい最近………E4って名で生きてたよ。」
「E4?……もしかして、スコーピオンにか?」
「そうだ。しかもあの馬鹿は人殺しにジョブチェンジしてたし、叔父さんと叔母さんを殺した主犯だったのもあっさりと自白してくれたよ。」
『――――ッ!?』
さらっと話して一番最初に反応したのが母さんだった。
元々叔父さんは母さんの姉弟であって、母さんからしたら実の弟が殺されたのを信じたくないと思っていたはずだ。
しかもその犯人がまさかの俺をイジメてた山岸だ。
母さんも知らない訳じゃないだろう。
「零くん……本当なの?」
「信じたくないだろうけど、事実だよ。こればかりは嘘をついても得する事はねぇからな。」
俺だって最初は信じたくなかった。
嘘だと思いたかったし、信じたくなかった。
でも警察から事実を聞いて、それが嘘じゃないのが分かった瞬間、何も考えたくなかった。
俺にとっては、突然すぎる別れだった。
「そう……そう……」
俺から聞いて何も言えなくなった母さんに対して、俺は父さんに目で伝えて、父さんもすぐに理解して母さんを連れて外に出て行った。
俺はただ、二人が出ていくのを見るしかできなかった。
「白崎、お前は大丈夫なのか?」
沙羅先輩が俺の心配をしてきたが、すぐに俺は首を横に振った。
「大丈夫ですよ沙羅先輩。何時までも死から逃げ続ける訳にもいかないですしね。」
体の傷は消せても、心の傷は消せない。
人の心は傷つけば元には戻らない。
その傷は永遠にそのまんま。
俺も過去の傷は残ったままだ。
「阿賀谷の時も、こうやってしてれば良かったのかもな。」
零の口から懐かしい名前を出すと、トモも明日香も俯いて黙り込んでしまった。
彼らにとっては懐かしい人物なのだが、三人以外は誰か分かんないからどうすればいいか分からず、どうするべきかお互いに顔を見合わせていた。
静寂になってしまった空間を最初に壊したのは日下部だった。
「なぁお前ら、その……阿賀谷って誰なんだ?」
「……かつての零と同じように、山岸によって傷ついた奴です。あいつも、かなり苦しんでいたからな。」
「俺の場合は体の傷だけだったんだ。けどあいつは心に傷ができた。傷の大きさはあっちがでかいし、治せないなら尚更だ。」
奴が死んでも、俺とあいつは人生を狂わされた。
俺は傷ができて怒りや憎悪を覚えてしまった。
阿賀谷は、異性と対話が出来なくなってしまった。
傷の形が違えど、痛みは同じだ。
苦しかったし、辛かった。
泣きたかったし、助けてと叫びたかった。
あの時の俺はそんなのはしなかった。
迷惑をかけたくないと必死に抑えてしまった。
阿賀谷はその逆。
助けてと叫んでいた。
その違いで、俺と阿賀谷は分かちあえなかった。
「ねぇ、その阿賀谷さんはどうしてるか分かんないの?」
疑問に思った陽菜先輩は、俺たちに阿賀谷がどうしてるのか気になってるみたいだったが、三人揃って首を振った。
「分かんないです。先輩たちもそうですけど、神崎や常磐はあまり関与しないでくれ。こればかりは、俺たちの事なので。」
トモの言う通りだ。
こればかりは俺たちだけの話。
他者の介入はしないで欲しい。
「願わくは、また会って話し合えるのを祈ろう。」
今はそれだけでいい。
阿賀谷が何処にいるか分からないのは仕方ない。
深追いして余計な面倒ごとを増やすのはごめんだ。
それに今の俺には目的がある。
過去のやり残しを終わらせるのが今の俺の使命なんだ。
―――――まぁそれが、終わるまでに来ればの話だけどな。
イジメはリアルでも起きてることです。
実際に経験者である自分も心に傷があります。
言葉などで簡単に傷はできるので、悲しませる事は絶対にしないでください。




