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136話 魔界に一筋の希望を

「さて、最後の仕事は俺だけじゃできません。ですのでここにいるみんなと召喚するゲストに手伝ってもらいます。」


「殺戮派」との戦争を終えてからしばらくした魔王城の入り口前。

しゃべれるけどずっと動けなかった俺の体がようやく動かせるようになって、地面に自分の足を置いた瞬間から「楽園派」のみんなから一気に来る賞賛の嵐。

長い戦争を追わせられたことに涙を流している者もいれば、俺をまた勇者として崇める者もいたりと、色々ごたごたがあったけど、やっと最後の仕事を始めれそうだな。


「まず最初に言っておくけど、今の荒廃した魔界全土を自然豊かにさせるのにはかなり時間がかかります。多く見積もっても100年200年で出来るようなレベルじゃない。」


俺の発言でほとんどが俯いた。

そうなっても仕方ないものなんだ。

何せ魔界は地上と同じ広さを誇る場所。

森や水が死んでる魔界を桃源郷のように出来るのは夢のまた夢だ。

現実にさせるのにどれだけ費やしても時間がかかるのは分かりきってる事。

だからみんな理解してるんだ……この場所はもう住めないと。


「ここで産まれて、ここで育って、ここで死ぬ。少なくともここにいる「楽園派」のみんなはそうしたいだろう。俺だって同じだ。生まれた世界で生きて死にたいさ。でもこの世界で生きるのは、すなわち自分の身を地獄に投げ捨てのと同じだ。」


「………。」


父さんもみんなと同じで悲しい顔をしていた。

前世の生まれて育った魔界は、今の父さんにとっては日本と同じ故郷だ。

ここを捨てたくないのは誰よりも思っているだろう。


「俺はさ、こう思ってるんだ。この魔界が自然であふれる場所になれば、争いなんてもう起きないんじゃないのかって。願望かもしれんし、理想なのかもしれない。でも実現させてみたいんだ。この場所を、どこよりも平和と呼ばれる理想郷(ユートピア)に。」


俺は自然が大好きだ。

人や神によって創られたのではなく、誰の手も使わずに生き続ける植物の偉大さが好きだ。

神友であるリリスの管理領域であるあの大自然を、この場所でも作ってみたい。

ここを平和な世界にさせるためのスタートラインにさせてみたい。


「それを実現させるために、ここにいるみんなで証明させてみたい。だから協力して欲しい。お互いの理想のために……協力してください。」


プライド関係なしに俺は頭を下げた。

この際自分の理想を押し付けてもよかった。

俺は人を殺してるが、本心で殺したいとは思ってない。

願うならもう剣を持たなくていい世界にしたい。

殺すことしかしなかったら、それこそ「殺戮派」や奴らと変わんない。

だから平和を願っている……今も昔も。


「……勇者…いえ、御曹司様。」


「お、御曹司?」


最初に口を開いたのは、魔王城で父さんたちと話し合ってる時に入ってきていたあの悪魔だった。

誰よりも先に言ったのは褒めるけど、魔王である父さんの息子だからって御曹司はやめてくれ。

そこまで偉い立場じゃないんだから。


「我らは、皆が皆争いが嫌いです。この場にいる全員の代弁者として言わせていただきます。」


「それは「楽園派」としての願望としてでか?」


「いいえ、本心です。だからこそ聞きたいです。その理想は、貴方にとって何ですか?」


俺にとって……か。

そんなの、昔から変わんない。


「憧憬であり、俺の望む理想郷さ。」


種族の壁もない、憎悪による溝もない。

何もかもが武器を手にするのではなく、お互いの手を取り合えるような世界をこの眼で視てみたい。

その先に何かがあっても、笑いあえるような世界を創ってみたい。

もうあのような、地で染まった大地はごめんだ。


「……分かりました。それが貴方の本心であるのでしたら、このジラード、頭を下げてでもお願いしたい。どうかこの世界に、一つの希望を与えてください。」


彼の言葉に同調するかのように、その場にいた「楽園派」が次々と頭を下げてきた。

そして父さんも、俺に近づいて頭を下げた。


「俺からも頼みたい。もし少しでも希望の蕾が咲くのだったら、全力で協力したい。父親としてではなく、過去の魔王として頼みたい。」


「私からもお願いします。どうか魔界を救ってください。」


アジュールも頭を下げてきて、それに合わせるかのようにシリウスも無言で頭を下げてきた。

これで決まりだな。

トップが頭を下げれば、部下はそれに従う。

まぁこの場合は満場一致だから、どっちかに転ぶことはないけどね。


「答えが決まったところで、ゲストを召喚するとしましょうか。」


アジュールを召喚させたように地面に術式を展開させ、俺は植物において最も最強である二人をこっちに喚び寄せた。

植物専門なら、この二人を喚べば基礎はどうにかなるし、魔力もこれだけいれば広範囲は出来るな。


「召喚に応じろ。植物専門家である俺の従者たちよ。」


二人から承諾が来て、召喚術式はその役目を果たすかのように俺の従者であるある二人を召喚させた。


「レイ様の最初の腹心、妖精族はリラ。召喚に応じ参上しました。」

「同じく(しゅ)に仕える腹心、風の精霊エメリル。ここに参りました~」


俺が召喚させたのは、リラとエメリル。

本当はエルフなどに協力を依頼するのが妥当だけど、そこまで行くのに俺がめんどくさかったからやめた。

もっと簡単なやり方だったら、この二人をこっちに来させて、あとは事情を話せばどうにかできるといった投げやり法則でやってるけど、召喚に応じてくれた時点でそこは問題なしだな。


「話は省くけど、メインは俺とエメリルでやる。リラは俺のバックアップだ。」


「は~い。魔界に自然ができる瞬間、楽しみですね~」

「では私は、レイ様とエメリル様に魔力が送れるパイプラインの役をすればいいのですね?」


「ああ、リラはそうしてくれ。そんじゃ、始めるか。楽園への第一歩となる、第一次魔界大改造楽園化計画を。」


俺とエメリルが一番前に立ち、その後ろにリラが立って俺たちの背中を触り、その後ろに木の根っこを張って、他のみんながそれを触れば、魔力を送れるパイプラインの完成だ。


「自然魔法については俺は初心者だから、やり方はエメリルに合わせるからな。」


「は~い。それでは始めましょう~」


エメリルが足元に術式を展開したのを見て、俺も神理眼(ギネス)で視て完コピして同じ術式を展開させた。

詠唱は昔一度だけ言ってたのを覚えてるから、多分それを言えばいいだろう。


「「大地の母よ―――我は告げる。悲しき大地に恵みの雫を落とさんとする者より―――命の水を作らんとする。」」


いつもはフワフワしてるエメリルだけど、ここぞとばかりは真剣になるギャップ持ち。

シグレと同レベルのギャップ萌えをしたあの頃の思い出は鮮明に覚えてる。

いいよなギャップ萌え。

予想を覆すキャラはゲームでもお気に入りだ。


「「命とは尊く、命とは儚く、平たく与えられた命とは―――これこそ悲しき運命なり。」」


魔力が植物を生やしていってる。

送られてくる魔力から聞こえてくる「楽園派」たちの願いが俺の中に流れてくる。

理想にさせるにはまだ先だけど、遠い未来にさせないやり方はある。

だとしたら今がこの時だ。


「「我は愛そう―――悲しき大地を。我は与えよう―――希望の一つの命を。そして奏でよう―――我らの理想を創る恵みの鐘を。嗚呼―――これこそは我が生涯。これこそが―――我らの大地になり給うぞ。」


大術式構築完了。

詠唱より術式の起動条件解除。

自然神リリス:第1の大自然作成術式設定。

装填完了。


「「今こそここに理想郷を―――“豊穣を招く(エウポリアー)神秘の鐘(・デメテル)”」」


術式の構築が完了し、枯れて廃れていた大地がどんどん見違えっていった。

乾いていた大地は皮のように剥がれていって、新たに草や花が生えた大地に変わった。

色が変色して生きてる証拠にもならなかった死んだ川は、生き物が暮らせる透明な水に変わって流れ始めた。

魔界の大地が、理想郷へと変わっていく。

「楽園派」たちの願いが、少しずつ叶っていってる。


「……あ‶ぁーもうだめだ! 打ち止めだ!」


広範囲にできるだけ自然を巡らせようと思ったけど、さっきの戦闘で体に来た負担がここで足を引っ張ってしまい、展開させてた術式を解除させて尻餅をついた。


「も……もう限界です~!」


エメリルも限界が来たみたいで、俺に遅れて術式を解除させてその場にへたり込んだ。

後ろにいたみんなもかなり魔力を送ってたみたいで、術式を解除したのと同時に全員がその場に座り込んだ。


「ど…どこまでいけた?」


「暗くてよく見えないですがー……あっ。」


リラが何かに気づいたかのようにその方向を向くと、魔界に初めての現象が起きていた。


「――――――朝日だ。」


それは誰がつぶやいたのか知らなかったが、その場にいた全員が同じことを思っていた。

この場にいる「楽園派」は初めて見るだろう。

魔界にも太陽が存在することを。

まぁ俺も初めて知ったんだけどね。

敢えて言わないだけであって、恥をかきたくないためだ。


「魔界にも太陽ってあったんだ。」


「え? 照知らなかったの?」


「ちっとも。」


……言っとけばよかったな。

逆に隠してたせいで恥かいてもうたわ。

そういえば優越神の時のあいつはマジで尖りまくってから、地上なんて見る価値すらなかったんだろうな。

そもそも女神なんだから地上くらい見とけっての。


「マスター、見えてきたしたよ~」


エメリルに言われて見てみると、かなり広い範囲に多くの植物が誕生していた。

川は透明なきれいな色をしているし、地面には草や花もだけど、多くの木が凛々しく育ってその存在を見せていた。


「距離からしておおよそ1キロ2キロはいってますね。」


「第一次魔界改造楽園化計画。栄えある一回目は成功となったな。」


俺の声に反応するかのように、後ろにいた「楽園派」のみんなが一斉に歓声を上げた。

理想の第一歩を間近で見た自分たちにとっては、これは大きなイベントになっただろうな。

勝利と希望。

二つも知ったのなら、これからは自分たちでも行動をしてくれるだろう。


「零、本当にありがとう。お前は自慢の息子だよ。」


俺の近くにやってきた父さんが俺を抱きしめてきて、俺も動かせる範囲で父さんの背中を優しく叩いた。


「気にしなくていいよ。大船にずっと乗ってたんだ。途中で降りるやり方は俺の性分になかっただけだよ。」


悪魔同士の戦争に参戦しても毛嫌いをしなかったんだ。

呉越同舟の船じゃない以上、戦争終わって帰りますは流石に甚だしいと思ったしな。

ここで少しでも役に立てるのなら立ってやるさ。

王様みたいなのになるのはごめんだけどね。


「ところで零ちゃん、明日学校だけど大丈夫なの?」


「あぁ……明日学校だったな。」


照が言ってきたことで思い出したけど、今日は日曜日だったわ。

この体で明日学校に行けと?

全身筋肉痛のような痛みと疲れでか?


……。

………。

…………。

……………。


「学校だけど………明日はサボるわ。」

【拘束魔法】

敵を拘束する魔法。

強い意志と魔力が必要となるためであって、基礎魔法にはなく、すべてがオリジンでしか存在しない。

そのため使用できるものはほとんどいない。

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