132話 楽園派VS殺戮派①
俺の放った魔力でできた矢は、空を切って一直線に「殺戮派」の雑種どもに向かっていった。
もちろん、このまま当たっててもいいが、物足りない。
だから俺は放ち終えてから静かに口を開けた。
「――――――分裂。」
その言葉に従うかのように、放った矢は無数に分裂した。
まるで太陽の日差しの如く。
降り続ける雨の如く。
狙った“殺戮の悪魔”に襲った。
「………!」
『ッ!!!』
最後尾にいた下級たちがようやく気付いたようだったが、もうその時にはすでに遅し。
襲い来る無数の矢が一気に貫いていき、獲物の数を減らしていった。
「まだだ―――――狂い乱れろ。」
獲物を捕らえた矢は、役目を終えることはなく、次の獲物を狩るために軌道を変えてまた襲い始めた。
次へ、次へ、次へ……
吹き荒れる嵐のように四方八方から襲う狩人の前では、無力でしかなかった。
「…………。」
そんなやられていってる様子を見ていた「楽園派」の全員は、この時同じ事を考えていた。
『6代目勇者は、役目を終えても俺達のために戦ってくれてる』と。
先代魔王であり「楽園派」の創設者ガギエル。
そしてその息子であり6代目勇者であるレイ・シラサキ。
この二人の行動により、「楽園派」の戦士たちは無くしていた希望を完全に取り戻した。
そして戦おう、明日の光を掴み取るために!
「一発でざっと900ってところか? もう少し仕留めておきたかったな。」
「いーや、これで充分だ。見てみなよ。奴らが一気に乱れ始めた。」
父さんの言った通り、下級どもは恐怖で戦意喪失になってるし、上級どもは進行をやめてこっちへ目線を変えた。
「この矢の威力も分かったし、これでお役御免だな。」
戦烈弓を自分の創り出した空間に入れ込み、聖剣と妖刀を抜いて二刀流で構えた。
「倶利伽羅、俺はお前の背から外れる。」
「ご主人様?」
俺は倶梨伽羅に次からの行動を指示して、飛行できるように4枚の翼を展開した。
このまま倶利伽羅の背に乗ってもすぐに体勢を変えれなぇし、余計に動きずらくなるだけだ。
だったらいつまでもその場にいないで、自分から動いたほうがいいだろう。
「お前はできる限り「殺戮派」が多く固まってる場所を狙え。俺はお前の取りこぼした分を仕留める。」
「しかし……いえ、分かりました。ご主人様の指示ではなく、私も自分の意思で動いて見せます!」
父さんの言葉に感化されたかのように、倶利伽羅も自分のやり方で動くことを決めた。
だがもどっちかがしヤバくなったら、その時はまたどうにかするか。
「さてと父さん、この後の指示を出してやたんと、後ろのみんなが動かないままになるぞ。」
「ああ、そうだな。お前たち、敵が取り乱してる今が好機だ! 体に熱を与えろ!」
父さんの叫び声で一気に闘志が上がっていき、最高潮になったのを見計らって、父さんは十悪剣を鞘から抜いて息を吸った。
「行くぞ同志たちよ! 我らの底力、今こそ魔界に示す時ぞォォ!!」
『うおおおおおおおおおおッッ!!』
「突撃――――――ッ!!」
「楽園派」による逆襲。
「殺戮派」はこんなのを予想してなかったが故に、対応が完全に遅れてしまった。
これにより「楽園派」は、初めて有利な状態での戦いとなり、勝敗は分からなくなってしまっていた。
「先手必勝だ!“八咫烏”!」
先陣を切ったのは、魔王ガギエルこと白崎湊だった。
ロックバードの最高速度の中でも、微動だにせずにその背で乗っていた湊は、最も多くの敵を斬れる八つの斬撃を十悪剣で放ち、斬撃の餌食になった「殺戮派」の悪魔たちは、為す術なく両断されていった。
「数の暴力に時間制限付きなんだ。この際ザコ相手は考えずにゴリ押しで相手するぞ。」
「我が主、リーダー格はかなり前にいます。我らで正面突破をしますか?」
「いや、このままじゃ埒があかない。指揮権は俺にある以上、零を前に行かせる。あっちもそれを分かってて先に先頭集団を追ってるみたいだしな。」
湊が見た先には、自身の配下である倶利伽羅の背から離れて、敵をなぎ倒していきながら前に進んでいる零の姿があった。
言葉を交わさなくても理解できる。
それは親子だからこそ可能な芸当で、誰にも決して真似のできないやり方。
父を知ってるからこそ、自分が率先して先に行くやり方は、妻であり勇者だった彩音を知ってるからこそ理解していた。
「シリウス、下級6に対して上級1。上級2で同格1を仕留めれるように指示をしろ。数で相手すればあいつらでもやれるはずだ。」
「承知。」
「それともう一つ……、お前も全力でやれ。」
その言葉でシリウスは、時間が止まったかのように動きを止めた。
全力でやれ。
運命を賭けた戦いなら普通は全力でやるのが当たり前だ。
だが彼女場合は違う。
彼女だけは絶対に全力でやらせてはいけない理由が存在しているのだ。
「――――よろしいのですか?」
「こればかりはお前の力が必要だ。やってくれ、俺が許可する!」
「……ようやく、なのですね。」
この声を聞いていたのはどれほどいたのか。
シリウスを知ってる者からしたら初めて見るであろう、薄らとした笑みは――――心の奥の恐怖を指でつついてくるかのような寒気が襲ってくる感覚がした。
その様子を間近で見ていた湊は、数十年ぶりの恐怖に冷や汗をかいていた。
「100年……200年……否、それ以上前の時以来ですね。歴史では400までしかないですが、まだそれより前の我が、かつて王になる前のアジュールと彼女と争ってた時の幸福感を味わえそうですね。」
「…………。」
指示を出した彼は終始無言だった。
恐怖で声が出なかったのではなく、すでにシリウスから目線を変えて襲ってくる「殺戮派」を斬りながら戦況を確認していた。
(このままシリウスを動かすのは得策じゃないが、人間界側の合流の時間が掛かってしまう以上しょうがない。)
王都に住んでる「楽園派」はすでに王都を発ったと連絡があったのが移動中であり、それから約2,30分は時間がかかると予想している。
そう考えながら戦闘をしている湊は、シリウスに一つの“縛り”を付けた。
「シリウス、地上組の仲間が合流する間までは許す。ただしそれ以上は許さん。」
「ふふふ…分かりました。ではその間は……「鏖殺」の時間ですね。」
自身の喜びをどのように堪能しようか考えていると、隙をついて襲いに来た「殺戮派」の部隊隊長とその配下70体が一気にシリウスを狙った。
悪魔王を仕留めるのは、どの種族にとっても最高の手柄。
もちろん「殺戮派」も、その手柄を誰よりも先に取ろうと活気になるであろう。
だが剣先が当たろうとした瞬間、シリウスの姿が一瞬にして消え、次の間には襲ってきていた「殺戮派」たちはバラバラにされて絶命していた。
しかも皆同じタイミングで、一秒のズレなく。
「……?」
「?……!?」
一体何をされたのか?
あの悪魔王はどこへ行ったんだ?
そんなのをわずかに考えたが、その答えはすぐにわかった。
彼らの後ろには、不敵な笑みを浮かべながらコウモリのような翼を広げて見上げてくるシリウスの姿があった。
最初は風か何かしらの魔法で浮遊していたのに、わざわざ翼を展開し、さらに両腕は初めの人のような腕とは違い、鋭い爪が伸びた異形の腕になって、左右には切り刻んだ「殺戮派」たちの血がべっとり付いていた。
「嗚呼……懐かしい楽しみ。懐かしい歓喜。昂る…昂る……乾いていた体が一気に潤うようだ。」
魔界の月が彼女を照らし、悪魔の笑みが月明かりに照らされさらに恐怖を込み上げさせてくる。
これがシリウスの本当の姿。
普段は「楽園派」と同じ戦闘はしない主義だが、かつては「殺戮派」よりも恐ろしい殺戮をおかす悪魔として魔界にその名が轟いていた。
【斬魔のシリウス】はその当時の名前。
魔王よりも強いとされていた彼女は、唯一負けた湊に仕えたいと願い、自らの意思で魔王ガギエルの右腕となり、彼の生涯を共にしてきた。
「宴はまだ始まったばかり。さあ……我の心を満たしてね?」
「殺戮派」たちが一斉に後方に下がる。
彼女が笑う度に全身が一気に冷える感覚を覚える。
本能で逃げろと体が叫んでいる。
まさに圧倒的強者。
上級と王の間にある絶対的な壁は、魔族にとって最大の実力差を理解させていた。
「う……うわぁぁぁ!!」
死を覚悟した1体の上級がシリウスを襲い、それに乗せられたかのように一斉に襲いかかった。
その数は約600。
対してシリウスの表情は――――
「数で攻めに来たか。ではまずは、前菜から召し上がるとしようか。」
悪魔にふさわしい満面の笑みで迎え撃ち、先頭から一気に切り刻んでいった。
1体…10体…100体。
異形の腕から出される黒い斬撃は、次々来る殺戮派を切り刻んでいって、空中で起こってる一方的な鏖殺は、敵も味方も関係なしに恐怖を味合わせた。
「自分で言っててなんだけど、これは酷い。」
それを少し離れた場所で戦いながら見ていた主人である湊は、自分の言ってしまった指示を後悔しながらも、「殺戮派」の数を減らせて結果オーライになっててなんとも言えない状態になってた。
「何が……いえ、ガギエル様。報告があります。」
「バーディラか。どうした?」
「殺戮派」がシリウスの方に向かったタイミングで、伝達役をしていた「楽園派」のバーディラが、湊の近くに来て報告を伝えに来た。
「地上から来ている「楽園派」が、たった今魔界に入国したとの信号がありました。」
「おっ、予想より早かったな。この勢いだったら後5分で挟み撃ちにできるな。」
「はい……あと、もう一つありまして……」
「何だ?」
何故かバーディラがぎこちなくなったのに疑問に思っていたが、次に出た言葉でさらに疑問が深まってしまった。
「実はあちらを率いているのが……一人の人間なんです。」
【シリウス】
魔界にいる三人の悪魔王の一人。
現魔界最強であり、元は殺戮派のような殺すことだけが快感だったが、当時魔王だった湊に負けて忠誠を尽くすと決意し、魔王ガギエルの右腕になった。




