131話 開戦
零「やはり戦いか……いつ出発する? 俺も同行する。」
父「息子院」
「魔界に散らばっていた「楽園派」よ。よく集まってくれた。」
魔王城の外に出てみると、外ではすでに戦う覚悟で集まった「楽園派」たちが待っていた。
数は見るからに約3万。
7割が下級魔で、残りの3割は上級か。
戦力を見ていいかと言ったら否だ。
明らかに戦力がない。
多分「殺戮派」は大半が上級だろうし、王都にいる戦力を合わせても厳しいだろうな。
「これより「殺戮派」と決戦を始めるが、先に言っておきたいことがある。零、前に来てくれ。」
父さんに前に来るように言われて、俺と倶利伽羅は父さんの横に並んだ。
「この者はこの戦いで我ら「楽園派」に加勢したいと名乗りを上げた者であり、我が息子である6代目勇者の白崎零だ。」
父さんが「楽園派」に俺の紹介をすると、その場にいた者たち全員が驚愕と同時にざわつきだした。
「レイって、あの6代目なのか?」
「だが待て、6代目は元の世界に帰還したはずじゃ…」
「でもあの姿…本物だよな?」
半ば俺が本物かどうか疑っていたが、シリウスが無言で手を叩いてその場を静めさせた。
「そしてもう一つ、皆には俺の正体を明かそうと思う。」
えっ、ここで言っちゃうの?
自分が先代の魔王だって告白するの?
…あっ、そんな顔してますわ。
ならいいや、俺にも火の粉は来るけど。
「ここにいる同士で薄々勘付いている者もいるかもしれないが、我が名は魔王ガギエル! 魔王マリアベルの先代魔王であり、人になって第二の生を歩んで再びここに戻ってきていた!」
父さんが自身の正体を明かすと、「楽園派」たちはまたも驚愕していた。
そりゃあ当然か。
何せ自分たちを守ってくれていたのが先代魔王だって理解したらどれだけ幸運なことか。
そして冷静になってみたけど、ここで正体を明かしたのは勢いをつけるためだろうな。
希望があるからこそ戦える。
それはどの戦場でも同じだろう。
「俺が「何某」として名乗っていたのも、魔王が二人になってしまったら人間にとって最大の脅威になってしまうが故の行いだった。今こうしてここにいるのは、自身のやり残した「楽園派」を絶たせなくないという願望を叶えるために、自らが行動をしてやっていたことだったのだ。」
家族を見放してまで、自身のやり残したことを遂行する。
二つの大切な物を天秤の左右の皿に乗せて決断した心は、かなりキツかっただろうな。
そもそも俺の怒りは妹の代弁であって、自分の怒りじゃない。
母さんと話したあの夜の時点で、答えは分かってたようなものだったからな。
「同胞たちよ、この戦いが最終局面だ! 勝てば明日を見れるが、負ければ先は闇だ。悲しみを抱いて生涯を過ごすか、希望を抱いて光の日々を迎えるか、今ここで、剣を持って答えを出せッ!」
鞘に納めてた十悪剣を引き抜いて上に掲げて問うと、「楽園派」たちは自分たちが持ってる剣を抜いて父さんと同じように上に掲げた。
もちろん俺も移動中に聖剣を取り出して懐に入れてて、それを上に掲げた。
「「楽園派」の同志たちよ! 今こそこの長き戦いに終止符を打ち、人と共にあるんで行く未来を築き上げるぞォォ!!」
『うおおおおおおおおおおッッ!!』
父さんの号令とともに、その場にいた全員が心から叫んだ。
それはまるで、消えかけていた灯火に火が付いたように見えた。
魔王じゃなくなっても、その意思は変わらずに生き続けてきた。
だからこそ父さんは、人になってもこのように悪魔たちを引き付けるカリスマを持てたんだ。
「やっぱ、かっこいいよな。」
誰にも聞こえない声で呟き、進軍の準備に取り掛かった。
翼を持ってる魔族はそのままで行くようだけど、父さんは翼がないからその場で召喚術式を展開させた。
「何を喚び出すの?」
「飛行ができて、尚且つ威厳を見せるのだったら、かつての俺の相棒を召喚させるのが最適だろう。」
そういって召喚されたのは、金色の瞳をした大型の赤い鳥だった。
「まさか…ロックバードか!? 生き残りがまだいたのか!」
ロックバードはパラディエスで絶滅リストに載っている貴重種の幻獣。
生息地が不明であったから生きてる事すら分かってない状態だったけど、まさかまだ生きてたなんてな。
「こいつは昔からずっと俺の相棒でな。雛だった時に拾って育てたから、俺の魂の一つといっても過言じゃないんだよ。」
そう言いながらロックバードに近づき、それに合わせるかのようにロックバードも顔を下げた。
「久しぶりだな相棒。20年以上もよく無事で生きていたな。」
「キュルルルルル」
「おおっとっと、相変わらず甘えん坊だな。」
父さんに撫でられるのが嬉しかったのか、ロックバードは父さんの顔に頬ずりをして甘えた。
姿が違っても、やっぱ育ての親の顔は忘れてないんだな。
親と再会した幻獣。
あぁ…見てるだけで眼福だわ。
「これから魔界の未来をかけた戦いが始まる。また俺をお前の背中に乗せてくれ。」
父さんの問いに無言で頷くと、乗りやすいように背中を向けた。
「さて、父さんも召喚をしたんだから、俺も最強の助っ人を喚び出すとしましょうか。」
「お前も誰かを召還するのか?」
「同族でありながら同じ「楽園派」のためなら、こいつも俺の召還に応じてくれるはずだ。」
そう言って召喚術式を展開させ、そいつに思念を繋げた。
スキルにあった“契約召喚”がなくなっても、さっき召喚術式を視たからやり方は簡単だし、従者との繋がりは魂に刻んであるから思念を伝達するのなんて朝飯前だ。
あとは向こうの答えを待つだけだが、返答はすぐに承諾の返事がやって来た。
「来いッ! アジュール!」
俺の返答に答えるかのように、術式からアジュールが召喚されて俺の前に現れた。
「我が主人の従者が一人、アジュール。召喚に応じ参上いたしました。」
「来てくれてありがとう。召喚された理由は、思念を通じて分かっているな?」
「無論です。しかしながら主よ、パラディエスに向かわれてから随分と魔力が変わっておりますね。」
「ちょっと訳ありでな。説明はこれが終わってから話すから、お前も「楽園派」の助太刀として戦ってくれ。」
「かしこまりました。」
俺の指示に答えると、何かを察知したかのようにシリウスに目を向けた。
「その魔力……もしかしてシリウス?」
「久しぶりだねアジュール。現を抜かしてウロウロしてた気分はさぞかし愉快だったでしょうね。」
「再会した友人に対して開口一番が毒舌なの?」
友人であろうと構い無しに毒舌アタックするのかよこの悪魔は。
父さんに付き従ってもそれ続けるとか根性あるな。
「準備は出来たな? それじゃあ進軍を始めるぞ!」
おっ、どうやら始めるみたいだな。
こっちはすでに準備は出来てるし、俺たちも行くとするか。
「倶利伽羅、アジュール、俺たちもいくぞ。」
「はい!」
「承知!」
倶利伽羅はドラゴンに変身して、俺はその背に乗り、アジュールも翼を展開して飛行できる準備をした。
てか今更だけど、アジュールの翼って俺と同じ天使のような翼だったんだな。
色は同じ黒でも、翼は2枚しかなかった。
「進軍開始だ! 俺に続け――――ッ!」
『うおおおおおおおおおおッッ!!』
父さんのロックバードと倶利伽羅は同時に飛行を開始し、それを追うかのように「楽園派」の全員も翼を展開して飛行を開始した。
向かう先は人間界に繋がるあの湖。
そこに着かれたら一斉に散らばって各地に広がるだろう。
だったらその場所に着くまでに……全滅させてやる。
となったらまずは武器だな。
射程的や威力を考えたら銃は役不足だし、ここは明日香に渡すつもりで改造する予定の弦弓を先に使って試しとして使うか。
「零、最初に言っておくが、同志が死んでも決して怒りを持つな。」
俺が武器の改造をしようとしたところで、戦闘機のように編隊飛行をして横にいる父さんが俺に話をしてきた。
怒りを持つな?
あぁもしかしてまだ俺の中に憤怒があると思ってるのか。
「俺の中に憤怒はないから大丈夫だよ。父さんは父さんのやり方でやっていいよ。」
「それもあるが、俺たちの今のことについてだ。」
「今のこと?」
あれ? どうやら俺以外にも何かあったのか。
まぃいいや、話を聞いてみるか。
「俺たちは何年も「殺戮派」と戦ってきて、多くの同志の命を失った。そこに最初は怒りはあったが、怒りは己の精神にとって毒だと分かり、俺はそれを捨てた。だから零、この戦いの後も決して怒りに任せて戦おうとするな。その行いは絶対に後悔に変わるんだからな。」
「……後悔。」
そうだ、俺はその怒りでいくつも失ってきた。
エリスの時も、母の時も、同じだ。
どれも全てに怒りが必ずあった。
どれも全てに精神に毒があった。
父さんの言った通りだ。
感情は時に大きな足枷になる。
自分に背いてる。
「……分かった。その言葉は絶対に忘れないよ。」
「よし、ならもう父さんは何も言わない。ここから先は、お前の意思で道を決めろ!」
「ああ!」
覚悟は決まった。
俺の意思は誰かのためでもない。
誰かに振り回されない。
俺の行く道は、俺が決めてやる!
「ガギエル様! “千里眼”が「殺戮派」の最後尾を捉えました! 距離は800m!」
「俺も今見えた! 最後尾にいる下級がざっと1200! こっちにはまだ気付いてねぇ!」
俺の神理眼が暗闇の空でもくっきりと「殺戮派」を捉えてくれた。
ブランクがあるからまだ本調子じゃないが、これだけでも充分だ。
「不意打ちをするなら今がチャンスだ。ここから狙う。」
「待て、まだ800もあるんだ! 射程じゃ弓以外は届かんぞ!」
「その心配はいらねぇ。今完成した!」
飛行してる間に弦弓を“武器錬成”で形を変えて、さらに強化された弓に進化を遂げた。
元の弦弓オネイロスの質が良かったらから、それをベースにしてらさらに強化させるのは容易かった。
さらに大きく、さらに強力に。
その一射ですべてを屠れるように。
親友が使いやすいように。
名を―――――戦烈弓ヤマト。
俺の背と同じ大きさはあるその弓は、存在してるだけで敵を奮い立たせる覇気を出していた。
「距離は充分。左右に動いてないのなら静止してるのと同じだ。」
俺は精神を集中させて弦を引いた。
だが俺の動作に違和感を持った父さんやアジュールが止めてくるかのように言ってきた。
「おい待てよ零! 弓があっても矢がないぞ!?」
「そうですよ! 矢がなければ何もできませんよ!?」
そう、俺が弓を引く前に矢を使ってないのだ。
そんな事をやっても矢は発射されない。
だが俺にとっては、矢などなくてもいい。
何せこの弓は、明日香の異能を一番発揮できる仕組みにしてるんだから。
「矢を作る必要はない。弦を引くのと同時に、矢は出来るのだから。」
未だに理解できてない二人だったが、俺の構えに合わせるかのように一本の矢ができていった。
矢をいちいち装填しなくてもいい。
常時魔力で具現するようにしたんだから。
「開戦の狼煙代わりだ。自分の罪をしっかり味わって死んでけ。」
――――――“禍絶の戦星”
【戦烈弓ヤマト】
弦弓オネイロスをベースとして改造した弓。
明日香に渡す武器として作り、効果は使用者の性質により変わり、軌道や分散などが付与される。




