130話 同格だった
「それからは魔王マリアベルが死んだのを機に、「殺戮派」を抑えるために魔王城に行ってはそいつらを抑え込んで、今に至ってるんだ。」
「……そうだったんだな。」
父さんの話を聞き終えた俺は、ようやくこれまでの行動の意味が理解できていた。
何故俺たちの前から消えたのか?
何故そこまでして魔界に行かないと行けなかったのか?
全部は過去の自分がやり残したことを終わらせるため。
俺たちに嫌われるのを覚悟のうえでの決断をした行動でもあり、同族であり同士であった「楽園派」を助けるためだった。
初めから悪に染まるなんてありえない事だったんだ。
まぁそれを最初に考えなかった俺も、父さんを信じてたんだろうな。
「これを聞いても、まだ怒ってるか?」
「もう怒ってねぇよ。人のために動いていた行動だったんなら尚更だ。」
「…ありがとう。」
「ただ俺たちを騙してまで「死」を偽装したのは反省してね。そのせいで華怜に人がいなくなる恐怖と言ったトラウマが出来ちまったんだから。」
「そればかりは本当にすまん。あの時の父さんは、かなり追い詰められてたからな。」
本気で反省してるみたいで、父さんは座りながら頭を膝に付けるくらい下げた。
人間にとって「死」は人生の終着点だ。
会いたくても会えない。
終わりが来れば、次はない。
小説や演劇などに使われる終劇と同じだ。
人間だけじゃない。
古来から存在する生き物のすべてが、生と死を持ってる。
無論それは、神も含まれる。
そして俺は知ってる。
失ったものは、永遠に戻ってこないのを。
大切にしていたものを失う悲しみを。
前世の俺は全部知ってる。
「しっかし、まさか父さんが先代魔王だったなんてなぁ〜……華怜が聞いたらびっくりするだろうな。」
「それどころか、魔王だって分かったら確実に距離を置かれる未来しか見えないんだけどな。」
あぁ父さんからしたらそっちか。
華怜に嫌われるなんて想像したくないもんな。
もちろん俺も嫌だ。
「それはねぇと思うぜ。何せ今ウチには俺が倒した魔王さんが名前を変えて人間に戻って居候してるし、仲良くしてるから父さんもあっさりと受け入れるはずだぜ。」
「「「…………え?」」」
魔王マリアベルが居候してる事をカミングアウトすると、俺以外の三人が言葉を失ったかのような顔になった。
そりゃあそうだよな。
何せかつての宿敵と一緒に暮らすなんて前代未聞だ。
けど安心してください、前例はいます。
現在進行形で俺の正面にいる男がそうなのですから。
「お前も……父さんや母さんと同じなのか?」
「二人ほどの関係じゃないけど、少なくとも恋人関係なのは事実だよ。」
「もしかしてですけど、色欲との戦いの際にご主人様と一緒に話してた金髪の方ですか?」
「そ。名前は神崎真莉亜。過去に人間として暮らしてたけど、死んで魔王に転生して、また死んで人間に戻って今に至ってるんだよ。」
「前世が人間……パラディエスの人間ですか?」
「いや、俺と父さんの住んでる世界……地球の出身だよ。」
勇者と魔王が仲良くする。
普通ならそんなのは天地がひっくり返ってもない事なのに、俺も父さん達も普通にやってのけてしまってる。
親がやったんなら、子も同じなんだろうな。
同じ生き方なら、血は争えねぇのか。
「なんてゆーか、随分とすげーのと恋人関係なんだな。」
「人に言われると確かにそうだけど、むしろ俺の方は、父さんの横にいるシリウスに驚いてるよ。多分だけど、格は王なんだろ?」
俺はそう言ってシリウスを見た。
最初から強いオーラは出てたけど、改めて見たら魔力がヤバいな。
多分アジュールに匹敵するかもしれないし、下手したらそれ以上の可能性もあるな。
「へぇー、シリウスの正体に勘づいてるんだな。こいつの本性を見抜けるのは滅多にいないけど、まさか出会ってちょっとの間で分かるなんてな。」
「我も同感です。久しぶりに動揺してしまいました。」
「いやいやお宅さん、顔色どころか表情も微動だにしてないじゃん。何処に動揺という要素があるんだよ?」
顔を見たらノーリアクションだぜ。
驚いてるところ皆無なんですけど。
もしかしてポーカーフェイスってか?
だったらちょっとはリアクションしてから言えよ。
信じるに信じきれねぇじゃねーかよ。
「で、実際はどうなんだ?」
「もちろん正解ですよ。我は魔界に三人しかいない王の一人。斬魔のシリウスとは我の事です。」
「二つ名が物騒すぎる。」
「斬」って入ってる時点でもう斬ることに特化した奴なのがもう分かる。
多分俺の“死狂い”みたいな切り刻む攻撃を専門に使ってるだろうし、果たしてどれほどの実力を持ってるんだか。
「てか零、今更だけどお前って王の階級を前によく平常心でいられるな。」
「ホントに今更だな……、まぁ俺の彼女である真莉亜……あぁ魔王だった子だけど、従者に二人の王を仕えてるし、俺も最近“憤怒の魔王”になった時に召喚で王が来たんだよ。」
「マジかよ………ちなみに誰だ?」
「アジュールって言うんだけど、知ってる?」
「彼女を召喚したのですか。最近気配がぱったり無くなったので死んだのかと思ったのですが、どうやら違ったみたいですね。」
父さんはアジュールを知らなかったみたいで、むしろ同じ階級であるシリウスが何かを思い出したかのように呟いた。
てか今サラッと死んだとか言ったよな?
同じ王なのに酷くね?
「お前……同じ悪魔王なのに毒舌をかますんじゃねぇよ。」
「彼女は元々戦い嫌いの戦闘アレルギーみたいな者だったので、そう思ってしまうんで仕方ないのです。」
「「いや仕方なくねぇよ。」」
毒舌かます悪魔とか嫌だな。
あぁでもこれが本来の魔族なのか。
周りが良い奴すぎて忘れがちだけど、悪魔って悪の塊みたいなもんだから、シリウスの性格が本当の形だったな。
気をつけんといかんな…うん。
「それで、我から見て貴殿の横に居られる娘はどなたですか?」
シリウスの視線が倶利伽羅に向かうと、倶利伽羅は格上だと思ってるのか、少しビクビクしながら俺の袖を掴んだ。
うわぁ可愛い。
今すぐなでなでしてやりてぇわ。
…っといかんいかん、ちゃんと紹介せんとな。
「こいつは倶利伽羅。元は憤怒の化身獣だったんだけど、何故か核と分離しちまって、今のように単独顕現出来るようになっちまったんだよ。」
「薄々分かってたけど、やっぱ憤怒の化身獣だったのか。初めまして。俺は君の主人である零の父である白崎湊だ。よろしく。」
「は、はい。よ、よろしくお願いします。」
少しぎこちない様子だけど、まぁ大丈夫だろう。
目だけはまだ生きてるようだし、恐怖で押しつぶされそうな感じには見えないしな。
まぁ何かあったら休ませてやるか。
「……ところでさ、ずっっっと思ってたんだけどさ……」
「どうした?」
「お前……、ホントに勇者か?」
「は?」
えっ、これもしかしてバレてんの?
勇者じゃなくて邪神だって事バレテーラ?
……ね、念の為確認するか。
「ちなみに父さんから見て、俺はどうなってる?」
「なんて言ったらいいかな〜……、空洞…って言えばいいのか?とにかく何かしら空っぽのような何かがあるように見えるんだよ。」
あっ…これ完全じゃないけど微かに気付いちまってるのか。
どーすっかなー……。
次いつ会えるか分かんねぇし、ここではっきり言ってた方が気持ち的にも楽になる。
あ〜もうしゃーねぇか。
疑われるより真実を話した方がいいな。
「―――父さんが言った空洞は合ってるよ。だからもう隠さずに素直に言うよ。」
「…おう。」
「……今の俺は前世の自分と混じりあってる状態で、その前世が宇宙の神の一柱だった邪神、虚空邪神ゼロって言うんだよ。」
「―――――――――は?」
うん予想通り。
顔を見たらすぐに分かる。
完全に思考が宇宙に行ってますわ。
そりゃそうだよな。
いきなり息子が前世は神でしたとか言われたらそうなっちまうよな。
「ぜ、前世が……か、神…?」
「うん。」
「夢じゃなくて?」
「過去だけど現実。」
「……オーマイガー…」
信じられないと思ったのか、父さんはソファーにもたれ掛かって上を見上げた。
まぁ気持ちはわかるさ。
でも実際に本当だから仕方ない。
嘘だと思えるが、嘘じゃない。
現にこれが夢じゃないのだから。
「実の息子の前世が邪神っていう神ねー……」
「嘘だと思うだろ?」
「そう思いたいけど、嘘じゃねぇのは目を見ればわかる。零の目には嘘がないんだからな。」
どうやら信じてるご様子ですな。
しかも目を見て信じるとは、やはり俺の父だ。
「まさか俺の息子が昔にいた神様だったなんてな~…ひっさしぶりに驚いたぜ。」
「気持ち悪くねぇか? 実の息子がそんな存在だったなんて。」
「まさか。お前が邪神だろうが何だろうが、俺の息子であるのは間違いじゃねぇ。現にこうして会いに来てくれてるんだから、ほかに理由なんていらねぇよ。」
「……何かっこつけてんだよ。人様を裏切っておいて、人のこと言えねぇだろが。」
「ははは、違いねぇ。」
久しぶりだな、こんなに楽しく話せたのは。
他のみんなと話すのも楽しいけど、父さんとは数年話せなかった分いつもよりも楽しかった。
本当なら帰ろうか考えてたけど、もう少しだけおろう。
今は気分がいい。
「何某様! 緊急事態です!」
前言撤回、一気に気分が悪くなった。
話をしようとした瞬間で部屋に一人の悪魔がやってきて、俺たちの楽しい時間を邪魔してきた。
てか誰だよ家族水入らずで話せる時間を邪魔する野郎はッ!
シバき倒すぞッ!
「おい貴様、我が主人は今客人と話し合っているのだ。報告は後にしろ。」
「いいよシリウス。それで、何があったんだ?」
「はっ! 偵察の者たちが「殺戮派」共が行動を再開したと報告がありまして、この魔王城にいた者たちを引き連れて侵攻を開始しました!」
「チッ、……動いたか。」
軽く舌打ちをして報告を聞いた父さんは、一度呼吸を整えてから話をした。
「数はいくつだ?」
「おおよそ5万。この城にいた奴らも含めて6万になるでしょう。」
「出てからどれほど経った?」
「まだ5分です。」
「なら今すぐ出るぞ。零、悪いが話はまた今度だ。」
父さんはソファーから立ち上がって、シリウスを連れて出ていこうとした。
このまま帰る選択肢もあるが、俺はそんな馬鹿な選択肢はしない性格なんだよ。
「…待って、俺も同行するよ。」
「零?」
俺が言ったことで、父さんたちはドアの前で止まってこっちを見た。
顔を見るからに、帰ってくれると思ったんだろうな。
だが甘いぜ、甘い甘い甘い。
俺だって仮でも勇者だったんだ。
ここで潔く帰るなんてその名に恥じる行いになるんだ。
だったらどうするか、一緒に戦うのが正解だろう。
「数は6万。されど6万だ。戦闘を好まない「楽園派」に対して、戦闘だけが取り柄の「殺戮派」を相手にするには、さすがに荷が重いんじゃないか?」
「貴様ッ! それは「楽園派」に対する侮辱になるぞ!」
誰よりもいち早く良かったのは、部屋に入ってきて報告をしてきた魔族だった。
こいつ怒りの沸点低くないか?
正直に話したのにそこまで怒る理由がどこにあるんだよ。
そんな事を思いながら罵声を聞いてると、父さんがそいつを止めて俺に言ってきた。
「奴らを追って人間界にいる「楽園派」と挟み撃ちにしようと考えてるが、勝算がないのは確かだ。だがお前を巻き込ませたくない意思で帰るように言ったのだが、それでも付いて来るのか?」
「当然だよ。「楽園派」には王都でかなり世話になったんだ。恩を返すなら、今がチャンスだからな。」
実際に「楽園派」に世話になったのは本当だ。
王都でも案内をしてくれたり、最初の修行で師匠の代わりをしてくれたりと恩がある。
これを逃したら、次がいつになるかわかんないんだ。
それに王都も標的になってるだろうし、助けに行くのは当たり前だ。
「……もう一回聞くが、その言葉に嘘はないんだな?」
「ない。あの時から約束を守って生きてきたんだからな。それに6代目勇者として、魔族の襲撃は見過ごせないからね。」
「はぁ…、お前も、母さんに似て前に突っ込むようになったな。」
「そりゃあ、父さんたちの子だからね。」
何となく予想はしてただろうし、ここまで言われたら断ることもできないだろう。
それにさっきの喧嘩でも俺は完全燃焼になれなかったし、ここで戦って少しは不安要素を消したほうがいいだろう。
「分かった、付いて来い。ただし戦場で泣き言はないからな。」
「了解だ。魔王様。」
そうして俺と倶利伽羅は父さんたち「楽園派」と一緒に戦うことになり、魔界の脅威である「殺戮派」と戦うために戦場に向かった。
倶利伽羅の最後はずっと無言ですが、平和のために戦おうとしてます……セリフなしでごめんね…




