128話 親子喧嘩
「―――チッ、外したか。」
土煙が立ちこむ中、見えてきたのは妖刀を白羽取りして難を逃れた父さんがいた。
ただかなり危なかったのか、焦った様子で妖刀を掴んでいるのは確かだった。
「まっまっまっ待って! お父さんだよ! お前の父だぞッ!?」
「ああ、分かってるよ。今目の前にいるのが俺の父親だって分かるし、父さんがかつて魔王だったってことも、薄々察してはいたからな。」
「だった何で父さんに攻撃してるのッ!?」
「そんなの自分の頭で考えろッ! “理雨淵”」
「―――ッ!?」
妖刀に妖術を流して攻めると、自身の本能がヤバいと感じ取ったのか、俺ごと後ろに投げ飛ばして距離を離した。
だけどこの程度で俺が攻撃をやめるはずもなく、妖術を解除させて、第二撃に強化した“禁じられた氷槍の雨”を展開させて投げた。
「“地獄こそ我が生涯の焔”」
父さんは俺が本気で攻撃をしてのが分かると、闇魔法で強化した炎で全部の氷槍を溶かしきった。
さすがは魔王だった父さんの実力。
かなり強力にしたけど、この程度じゃすぐにやられないか。
「ホントに待って! 零が怒ってるのは父さんが勝手にいなくなったことだろ? それについては今から謝るから待ってくれないか!?」
「……確かに勝手に死んでから俺たちの前からいなくなって、迷惑をかけてるのを自覚してるのは分かるよ。それは父さんの顔を見ればすぐに理解できる。」
「だったら何でッ!?」
「何で? 簡単なことだよ。父さんが死んだせいで華怜がトラウマを持ってしまったことに怒ってるんだよッ!!」
俺が怒ってるのは、父さんがいなくなったことじゃない。
華怜が父さんのせいであんな風になっちまった事に怒ってるのだ。
そして父さんはようやく気付いたのか、顔から冷や汗を流し、青褪めだした。
「まあ正直この怒りは本物だけど、何かしらの理由があったからこっちに戻ってきたんでしょ?」
「………。」
「無言は肯定とみるよ。それに俺が剣を持ってるのは、お互いに今の自分を知らないから見せてるんだよ。」
「――――ッ!」
……ゴギャッ!
俺の言葉の意味が分かったのかは知らないけど、突然自分の顔を殴って、鈍い音が静かな部屋に響き渡った。
口からは血が出てきて、痛々しいのは目に見えてわかる。
でもそれとは別に、さっきまでの顔つきとは違い、真剣な目で俺を睨んできた。
「ごめん……父さんの身勝手な行動は許さなくていい。後で文句は全部聞き入れるよ。」
「………。」
「でもその前に、やるべきことを済ませてからにしようか…!」
父さんは自分の足元の影に手を突っ込むと、一本の剣を取り出した。
その剣を見て、俺はゾッとした。
その剣は果たして魔剣なのか。
はたまた普通の剣なのか。
否、どっちも違う。
その剣は、そんな枠では収まりきれない。
明らかに桁が違った。
「【十悪剣・天魔】。歴代の魔王たちが使ってきた愛刀で、神をも凌駕すると言い伝えられてきた剣だよ。」
神をも凌駕する……多分本当だろうな。
俺の神理眼が視えるその剣は、積もりに積もって出来上がった闇が纏っていた。
短い年月じゃない、かなり長い年月。
多分初代の次……二代目辺りからだと思う。
闇が具現化した剣。
完全悪である魔王が持つにふさわしい剣をしていた。
「本気でやるには、妖刀じゃ対等に出来んな。」
妖刀を鞘に収めて、邪魔にならないように収納して、代わりに聖剣を抜剣した。
そして聖剣は俺の意思に答えるかのように、真名解放の時のような光を出し始めた。
『聖剣は持ち主の体の一部となる。』
かつてティファニスが俺に教えてくれた聖剣の存在。
聖剣は体の一部になる。
文字通りの「一心同体」。
持ち主に変化が起きれば、その影響を受けるのは確実。
憤怒の魔王になった時に何もなかったのは、まだ人間としての機能が残っていたから、特に大きな変化がなかった。
でも今回は邪神化。
前の魔王化とは意味が違う。
魔王だった半身が邪神になって、その影響は聖剣にいくのは確実だった。
だから使うのが怖かった。
でもずっと逃げる訳にもいかない。
今日がデビュー戦だ。
「随分と、綺麗な色をしてるな。」
「あまり舐めないでね。本気でやる以上、手加減は侮辱の意味になるんだからな。」
「そうだな。だったら俺も、本気でいくぞ。」
父さんの本気。
母さんとの勝負では母さんに軍配が上がったけど、果たして俺の場合はどっちに上がるか。
それに父さんの実力は分からない。
果たしてどこまで対等に戦えるか。
「先手はどうする?」
「そっちからでどうぞ。」
「それじゃあ遠慮なく……いくぞ。」
「―――ッ!」
距離は充分あった。
受けきるのは容易かった。
ただそれだけじゃ足りなかった。
一瞬にして俺との距離を詰めて、上からの振り下ろし。
瞬きの間に詰め寄られて焦った俺は、聖剣でガードするしか方法がなかった。
「…ッ……!」
「ほう、初太刀を難なく止めるか。」
「うぅぅ……うおおおおおおッッ!!」
防戦一方にされる前に押し返し、今度は俺が攻撃を仕掛けた。
「壱の太刀改“霜断ち”」
剣術は人の成長とともに進化していく。
俺が強くなれば、その分力や威力にも変化が起きる。
オーエドで知った。
剣にも魂が存在する事を。
「ぬぅん!」
対する父さんは天魔で俺の剣技を受けるが、氷の追撃で利き手が凍って押し切られ、それを見逃さなかった俺は続けて攻撃をした。
「参の太刀改“陽龍”」
「ぐッ…!」
手が凍らされたことで動きが鈍り、今度は直撃を喰らって後方に飛ばされ、部屋の壁に激突した。
「……これは中々。だったら俺も、剣で見せてやらねばな。」
来る…、父さんの剣技。
初見じゃ回避は五分五分。
だとしたらアレで回避するしかないか。
「いくぜ!“深淵”」
父さんが出した剣技は、剣の風圧に闇を合わせた黒い斬撃。
それに加えて、十悪剣の闇による威力増大。
回避は悪手だ。
だったら打ち消すのみ!
「弐の太刀改“大魔猿”」
弐の太刀に比べて、範囲や威力を増した風魔法を加えた飛ぶ斬撃。
二つの斬撃がぶつかり合い、威力は共に互角。
だが十悪剣の闇だけを打ち消せれなかった分、俺はその分の攻撃を受けてしまった。
「………。」
「……フン。」
「いくぞッ!」
「来いッ!」
お互いに剣技を見せ合い、実力を見せつけあう。
そして共に同じ土俵にいるのが分かると、始まったのは二人による剣戟。
部屋に響き渡る金属がぶつかり合う音。
洗礼された互いの剣技がぶつかり合うと同時に部屋全体に轟く魔力の衝撃。
俺の中には、怒りなんてもうなかった。
今はただ、父さんと戦いたい。
母さんと渡り合えるほどの実力を知りたい。
そんな想いが、剣を振らせてくれる。
一心不乱にさせてくれる。
そっか、これが本当の戦いなんだな。
「肆の太刀改“金獅鬼”!」
「甘いぜ! “神威”!」
威力を捨てる代わりに速度に特化した肆の太刀。
普通なら人の目では追えない速度を出してるけど、父さんにはそれは通用しなかった。
俺が来るタイミングでカウンターを仕掛けてきて、逆にこっちがダメージを受けてしまう状態になってしまった。
しかも父さんが使ってる剣技、明らかに普通の斬撃をは違う。
恐らく十悪剣が魔力や肉体のバックアップをしていて、それによる強化で俺に攻撃をしている感じだろう。
「歴代の魔王たちが使ってきた十悪剣……おっかねぇな。」
次の手を考えてると、父さんは少し距離を置いて剣を下ろした。
何をするのか警戒をしていたけど、父さんはこっちを向いて笑い、剣を向けた。
「息子を殺す主義はねぇし、この喧嘩も長引かせる訳にもいかねぇ。次の一撃でこの喧嘩を終いにしようぜ。」
父さんはそう言って剣を構え、一気に魔力を剣に集中しだした。
しかも言葉通りで、次に出す一撃で決めるのは本当みたいだ。
最後の一撃に使うとしたら、最初に使ってた“深淵”が濃厚だな。
あれを防ぐ剣技はない。
加えて回避もできない。
しかもさっきは防げたけど、次は確実に無理。
「しょうがねぇ、かつて使ってたあれを使うか。多分今の俺の肉体なら、難なく使えるだろうし、威力も抑えれるだろう。」
俺の剣技には、二つ存在する。
一つは普段使ってる壱から玖の太刀。
もう一つは、前世の邪神時代に使ってた俺の剣技。
記憶に残っても、使えばかなりの反動を受けるのを予想していたから使わなかったけど、今の俺なら問題はないだろう。
「……【裏剣技】…」
俺は身体をねじらせて構えに入った。
そして構えに入るのと同時に魔力を剣に流し込んだ。
今の俺が使ってる剣技が表なら、前世の俺が使ってたのは裏。
使うのは使ってた中で一番剣技らしい技だ。
体をねじらせたのには意味は無い。
これを使うのに構えは何でもいいし、この場所で使える威力を考えたが故の構えだ。
「最大火力だ!しっかり味わえよ!」
「それはこっちのセリフだ!積年の怒り、これに全部乗せてやるよ!」
「喰らえ!“深淵”ィィッ!!」
「蹂躙しろ!“灼”ァァッ!!」
全てを喰らおうとする闇の斬撃。
全てを断ち切ろうとする神の斬撃。
互いに思いを入れながら渾身の一撃を放ち、その衝撃は、部屋全体を呑み込んだ。
この時、奇しくも二人は同じことを思ってた。
魔王は息子の成長に歓喜し、勇者は魔王だった父親と戦えた事に歓喜していた。
喜びによる分かち合い。
その勝敗は、すぐに決まった。
零の灼が深淵を断ち切り、その勢いで父親にまで届き、胴体に大きな傷をつけた。
かつての魔王とかつての勇者による親子喧嘩。
果たしてこの光景を誰が信じるか。
魔界で行われてるこの戦いは、世界に響き渡るのか。
否、それはありえないだろう。
何せこの争いには、憎しみは存在しないのだから。
【十悪剣・天魔】
歴代の魔王たちが使用していた剣で、にじみ出る闇は神をも凌駕するとされている。
真莉亜の手に行かなかったのは、先代だった零の父親が争いの負の連鎖を終わらせるために、あえて誰も知らない場所に封印して隠していたから気付かれなかった。




