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SS創造神 あの思い出をまた

「学園長、お茶をご用意致しました。」


「ありがとうシェチル。」


静かになった学園長室。

私は自身の机に置いてある書類に目を通しながら、カップに注がれていってる紅茶の匂いを堪能していた。


「シェチル、状況はどう?」


「王都全体で既に異変に気づいた者が多々おられるみたいで、それぞれで何が起きたのか分からずに警戒態勢になっております。」


「大方……予想してた通りになってるわね。」


窓越しでも分かるほど聞こえてくる混乱の声。

今この世界にいる全ての種族たちは、何が起きたのか分からなくてパニックに陥ることだろう。


「しばらくは、この混乱は収まりそうにないかもね。」


「神界の方には、連絡をされてるのですか?」


「彼が出て行ってからすぐにね。神界に行ってるなら、あの娘たちもすぐ気付くでしょうね。」


歴史の帳を知ってるのは神界にいる子供たち。

そしてこれをやって欲しいと言ってきたあの子だけ。

帳の役目は、過去の私たちの行いを隠すためであり、人類への大きな試練(・・)

これから起きる災害を自分たちでやるための布石。


地盤を固めるなら早めにすればよかったと思う。

でもこれは神同士の争い。

人類にとっては手が届かない場所。

だから人類は人類でできる事をさせる。

そのために私とあの子は400年前に計画を立てたのだから。


「―――――学園長、入ってもよろしいでしょうか?」


「いいわよ。入りなさい。」


部屋のドアをノックする音が部屋に響き、私が許可を出して、部屋に入ってきたのは、この学園の教頭をしているダステル教頭だった。


「お忙しいところ申し訳ありません。火急の用事でありまして……。」


「別にいいわ。何かあったのかしら?」


「はぁ……実は王都全体で起きてるパニックも同じですが、学園内でもかなり騒ぎになっておりまして……、一体何があったのでしょうか…!?」


息を少し荒立て、額の汗を必死に拭きながらも、私に分かりやすく話してきた。

流石、生徒の命を預けてる者としての責任感はあるわね。

もちろんこの異変は私が起こしたもの。

素直に言えば私の事などで何があるか分からないし、ここは嘘をついて学園長らしくするしかないわね。


「落ち着きなさい。まずは生徒のみなさんの騒動を抑えるわよ。全教師に伝達をお願いするわ。」


「は、はぃ…。」


オドオドしながらも、ダステル教頭は私の指示に返事をちゃんとした。


「あぁそれと、先程王宮の騎士から緊急の連絡がありまして、何でも中庭におられたアイリス王女とメリッサ殿が突然姿を消したと報告がありました。」


「アイリス様とメリッサが?」


出てきた二人の名前といえば、勇者だったゼロの……白崎零(レイ・シラサキ)の仲間だった二人。

一人はエーリッヒ王の愛娘。

もう一人はここを中退して独学でオリジンを研究している魔法士。

二人は幼馴染。

そして場所が王宮の中庭となると、誘拐は難しい。

それに王都の兵力は世界最大規模。

喧嘩を売ればどうなるか分からない。

だとすると転移系でやられたのか?


「目撃者は?」


「言伝だったのであまり詳しくはないですが、最後に見たのはメイド長のメリア殿でして、一度会った後に再び中庭を眺めると、既にお二人はいなかったそうです。」


王都の防衛じゃあ、わずかな時間での犯行は無理。

暗殺者みたいな気配を消したとしても、王都に住んでる魔族たちが察知されて無理。

ゼロやクロノアみたいに時間を止めたりする魔法は存在しないから無理。

となったらどうやって犯行をしたのかしら…?


「手がかりはないの?」


「そこまでは言われませんでしたので、こちらにはもう…。」


「…………。」


「……何か知ってるのかしら、シェチル?」


ダステル教頭の話を聞いてずっと黙ってたシェチルだけど、心当たりがあるのか、何か考え事をしていたのを止めて問いを投げた。


「……あくまで可能性ですが、最近巷の噂で聞く黒いローブの人物がそうかと。」


「黒いローブ? どんなのかしら?」


「顔は面を被って隠し、全身も黒いローブで覆い隠した者なのですが、何でもその者が宛先のない手紙を渡してくる案件を何度も耳にしまして、それを受け取った者が行方不明になってるという噂をしてました。」


「手紙…ねぇ。」


手紙に転移術式を忍ばせる。

中身は封に隠蔽させればバレずに出来るし、ありえる話だ。

でもそんなのはもう使われなくなってるし、最後に見たのは200年前。

となると出てくるのは………大罪か。

可能性なら“強欲”か“嫉妬”のどちらかでしょうね。

私はあの子に関与してないから分からないけど。


「その件については、シェチルの言った黒いローブの者がやった可能性があると連絡した方がいいわね。」


「では王都の方は私が行きます。ダステル教頭、学園は貴方に任せます。」


「は、はい。シェチル殿もお気をつけて。」


「では学園長、失礼します。」


シェチルは急ぎで部屋を出ていき、私も自分の椅子から立ち上がって、部屋の外へと向かった。


「とにかくまずは、生徒の安全を優先します。二手に分かれて学園内の教師に説明していきましょう。」


「分かりました! では私はこちらから伝えていきます!」


ダステル教頭は急ぎ足でその場を去り、一人残った私は、窓を開けて外を見た。

空には自分だけにしか見えない帳がどんどん壊れていってるのが見えて、そこから大量の魔力が地上へと落ちて行ってるのが見えた。


ゼロ様(・・・)……貴方はもう憎まなくていいのです…。」


彼の母であり、我ら幾星霜の神々が崇める王。

邪祖神グァーラ様が玉座からいなくなって、もう何年経ったであろうか。

玉座に座ってる偽物の王が現れてから、宇宙の秩序(バランス)が崩壊をし続けている。


失われた神。

失われた星。

失われた宇宙。


かつての宇宙は美しかった。

夜になると私たちの星と同じように輝く幾星霜の星々。

あの時代は何物にも汚れてなくてキレイだった。

芸術家が描いた絵画に見惚れるかのように、その星空を何度も見ていた。


「でももう……あの星空を見ることができない。」


今の星空(そら)は汚い。

同じ星空なはずなのに、全く違った。

美しい絵画に黒い炭を流されたかのように汚かった。


あれから私は、星を見ていない。

今は地上に住んでる人を眺めている。

昔見た星空を、キレイな思い出のまま残しておきたいから。

私が大好きだったものが、汚れてほしくなかったから。


「……薄情だよね。何もかも見ないふりをしてる私も、「神」にふさわしくない。」


ゼロ様、私も同じです。

私も今の自分が嫌いです。

あなたが副王の名を嫌うように、私も創造神の名が嫌いです。


何故なら私も、自分の娘であるフォルトナを止めれなかったから。


私は、自分の娘たちにほとんど任せてしまい、自分はアトランティスや他の方を優先してしまった。

娘たちよりも、あの方たちの方を選んだ。

それが後に、私を苦しませた。

フォルトナが消えたのを知ったのは、2日後だった。


私は言葉を失い、無意識に神界へ走った。

ついた時には、悲しんだ顔をしたクロノアやティファニスたち。

そこで私は知ってしまった。

私は自分の娘を見捨ててしまったと。


「……私は結局、エリスティーナの時と同じ過ちをしてしまった。」


私の娘であり、あの娘たちの長女。

そして唯一、ゼロ様が心を許していた女神。

彼女が死んだを知った時も、私は言葉を失っていた。


「……うぅ……、くっ……ぁぁぁ……、ぁぁ……」


思い出した瞬間、私の心の奥にあった憎しみや悲しみが出てきて、嗚咽を出しながらその場に崩れて涙を流した。


嫌だった、何もできない自分が。

嫌いだった、選択肢を間違った自分が。

捨てたかった、創造神という玉座を。

呪いたかった、何もできない自分を。


私は一生、この呪いから抜け出せないと思ってる。

否、抜け出せなくていいって思ってる。

だってそれほどの罪を犯したのだから。


でもそれでも、私は進むしかなかった。

私は創造神。

この星の母であり、女神の母なのだから。


「返せ……、あの人たちの……ッ…! 私たちが好きだった楽園を返せッ……!」


歯から血が出てくるくらい強く噛みしめ、記憶の奥底に置いていた卑神の笑い声が、私の中の殺意を目覚めさせようとしている。


あの思い出が恋しい。

あの桃源郷が帰ってきて欲しい。

何十年も……何百年も……何万年も……言い続けた。


奴が憎い。

奴が恨めしい。

奴に……永遠の呪いをかけたい。


私は何度も懇願した。

この悪夢から目覚めたいと。

これが夢であって欲しいと。

でも現実である以上、幻想にいつまでも縋り付く訳にもいかない。

それに今日、ゼロ様とフォルトナがやって来たと思った瞬間、私は希望を目の前にしたのだから。


「また……あの方に救われたのね。」


かつてあの娘たちが、迫害をして追い詰めた方を。

恩を仇で返す行いをしたのに、また救ってくれた。

記憶がなくても、体が覚えてるかのように、勇者としても誰かを救い続けた。


「貴方はもう……罪を数えないでください…。 私も彼女たちも……貴方に救われたのですから……。」


この嘆きは届かないだろう。

この涙は知られないだろう。

でも……それでいい。

私は創造神。

この星を創った、神なのだから。


「……取り戻しましょう、あの思い出を。またあの時のように、笑いあえる日を。」


私は涙を拭いて、廊下を静かに歩いた。

望まれた未来が来るのを願いながら。

あの時のように、星を見上げられる日々が来るのを願うために。

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