125話 会談④
「そんじゃあ、会談の続きをしようか。」
「あの子や他のみんなには話さなくていいの?」
「構わん。これは俺の案件になるからな。」
照に言った用事は本当だが、まだ会談は終わってない。
何せ終わりとは言ってないし、終わりと勝手に決めつけた訳じゃないしな。
「倶利伽羅、悪いがこれからは二人で話したいんだ。その間は悪いけど、この学園の見学でもしてもらってくれないか?」
「えっ、見学ですか?」
突然部屋を出て学園の見学をしてと言うと、倶利伽羅は通うはずのない学園の見学をするとは思ってもいなかったみたいで、俺を見ては手が点になってた。
まぁ普通はそうなるよな。
でもごめんな、これから大人の大事な話なんだ。
そしてこれは誰にも話せる内容じゃねぇんだ。
だから許せ。
俺はホルスティに目配せをすると、すぐに理解してくれて、合わせるかのように倶利伽羅に声をかけた。
「ごめんなさいね。これから話すのは私たちだけがいいから、少しだけ待っててね。シェチル、学園の見学をお願いするわ。」
「かしこましました。では倶利伽羅様、どうぞこちらに。」
「えっ、は、はぁ…。」
半ば強引に倶利伽羅を部屋から出して、ようやく話せる場ができたところで、俺から先に口を開いた。
「――――大罪の結晶核は、アトランティスの技術で出来てる。あってるか?」
俺は懐から憤怒の結晶核を取り出し、ホルスティに見せた。
『大罪の結晶核は、人間の負の感情を凝縮させたもので、これを取り込めば魔人になれる。』
――――これはクロノアの手紙に書いてあったことだ。
書いてあるのは本当だろう。
これを作ったイザベラも、間違いなくあってる。
だったら何故今出したのか?
それを今から紐解いていこうか。
「まずこの結晶核、明らかに普通の鉱石や魔石とかじゃない。スキルや魔法で作られたものでもなければ、ただの石じゃない。」
「…………。」
「だったらこれは何なのか? 答えは簡単。これ自体が「オリハルコン」で作られてる。しかも高純度のやつでだ。」
「ふむ……それで?」
「オリハルコンは本来アトランティスでしか存在しない。つまり結晶核を作ったイザベラは、アトランティスを知ってる人物……そうだろ?」
「まぁ、そうなるわね。」
「だけどアトランティスは既にお前たちによって歴史からは消えてる。だとしたらオリハルコンを知ることも出来なければ、入手できるのも不可能だ。これを全て掛け合わせていけば、ある仮説が浮かび上がってくる。」
『一つ、イザベラはルシェ族の生き残りである。』
『二つ、女神とイザベラは繋がってる。』
二つ目はまだ難しいが、一つ目はほぼ間違いじゃないはずだ。
だってオリハルコンはルシェ族にしか使用できない代物であり、神に対抗できる唯一の切り札されたいたものだ。
それを簡単に使って、しかも悪魔の塊である大罪の結晶核にさせる大馬鹿者なんて、明らかに限られてくる。
どうせホルスティも隠す気ないだろうし、俺の出た疑問を全部ぶつけてから答えを聞くとしますか。
「なぁホルスティ、俺はクロノアの手紙からずっと疑問だったんだ。なんで初代勇者と戦ったイザベラが、神界で『処刑』ではなく『幽閉』だったのか。理由は簡単だ。お前らや俺たちにとって、イザベラは重要人物だったからだ。」
「…………。」
ホルスティは俺に何も口を聞かず、黙って聞き続けた。
その沈黙に意味はない。
ただただ俺の言葉を聞き入れるだけ。
どっちにしたって言うだけだ。
当たって砕けろ!
「正直に言ってくれ。イザベラは敵か? それとも味方か?」
さぁ、どっちだ?
答え次第で、これからの行動に左右されるんだ。
正解か? 不正解か?
どっちだ?
「……流石ですね。」
ずっと黙って聞いてたホルスティが出したのは、関心の一言だった。
しかも俺に対して敬語でしゃべった。
かつてのあの時と同じように…―――
「すごいですね。流石は【万物の副王】と呼ばれた方です。」
「……その名はやめてくれ。今はあまり気に入ってないんだ。」
「失礼。昔を思い出したもので、つい言ってしまいました。」
「そうか。あとその敬語もなしだ。お前が敬語で話すと気味が悪い。普通にしゃべってくれ。」
「ふふっ、分かったよ。」
イタズラっ子みたいに笑い、いつも通りのしゃべりに戻ったけど、俺としては過去の名称を言われて複雑な気持ちになってた。
さっきホルスティが言った【万物の副王】は、邪神時代だった俺の肩書きだ。
宇宙の王だった母、邪祖神グァーラの長男として生まれたからつけられた名前。
王のNo2…だから副王。
だが今の俺は、その名が嫌いだ。
俺は一度も……誰かを導いてないんだから。
「ゼロ?」
「あぁ悪い。それで、最後の質問はどっちだ?」
「―――■■■だよ。」
「……そうか。奴は……あの場所にいるのか?」
「そうよ。でも今じゃなくて、全部終わってからがいいと思うわ。」
「あぁ、そうさせてもらう。」
先に優先すべきは、大罪の結晶核を回収することからだ。
それが全部終わってこそ、その段階に進めるんだ。
「ちなみにこれを作った理由とかは?」
「知らないわ。彼女の行動は分からないけど、接触したのは一回だけ。それ以降は会ってないわ。」
「その時何か言ってたか?」
「確かこう言ってたわ……「今は出来なくとも、未来に希望がある。だから私は待つわ。」――――って言ってたわ。」
「未来に希望が……なるほどな。」
そいつの意図が読めなくも、俺たちの今後の方針は完全に固まった。
多分この結晶核には、何かしらの意味があるはずだ。
それにもしかしたら、向こうとの関係もあるかもしれないし、ぼちぼち答えも分かってくるだろう。
「ともかく、まずは残りの大罪が何処にいるかだな。一つでも分かれば、おおよその目処は着くんだけどなぁ……」
「今のところは分からず仕舞い?」
「いや、“傲慢”だけは何処にいるか分かる。だが残りの三つは不明だ。」
「そっちの“眼”が戻れば、すぐに場所は掴めるけど、今はどうしようも出来ないのね。」
「まぁな…。でも俺の予想だけど、また近いうちに大罪の誰かが仕掛けてくるとは思わない。」
「なんで?」
「――――なんとなくだ。」
「なんだそりゃ?」
ホルスティに言っておいてなんだけど、ホントは適当に言っただけ。
根拠は何もない。
まぁでも今のところは何もないし、少しの間は気分を落ち着かせてるべきだな。
しばらくは“色欲”の後始末に追われるけど。
「あぁ後もう一つあるけど、奴の駒だった邪神の生き残りは、こっちに仕掛けてきたりしたか?」
「いいえ、今はないわ。そっちも?」
「あぁ。少し警戒しておいた方がいいな。今回のジョルメのことを考えると、他も有り得るからな。王都の戦力も減ってるとは思うし、俺と真莉亜の従者をこっちに送るよ。」
「その真莉亜って子、もしかしてフォルトナの?」
「そうだ。本人とは和解できてるし、しばらくは俺の知り合いの所で居候してるよ。」
皇も一緒にいるし、寂しくなっても俺か華怜の所に来るだろうし、その辺は考えなくてもいい。
だが神格を持ってる以上、何れ勘づかれるのも時間の問題。
夏奈にバレてないって事は、恐らく隠蔽みたいなのを使ってカモフラージュしてるのだろう。
色欲のせいで精神的に来てるだろうし、早めに準備はしておくか。
「…あ、そういえば異能の件、ありがとな。お前が助太刀してくれたおかげで切り抜けられたからよ。」
「え?何の話?」
「何の話って、お前だろ、生徒会に異能を渡したのは。」
「何言ってるの?私は一度もそっちに助太刀なんてしてないよ。」
「え?」
予想外すぎる言葉に、思考が一瞬止まって、俺はその場で固まってしまった。
助太刀してない?
でも会長たちには間違いなく異能がある。
しかも自身の長所を具現化させた力。
そんなことが出来るのは創造神であるホルスティだけだろうと思ってたけど、予想は全然違った。
じゃあ誰がやったんだ?
俺の兄弟か?
いや、あいつらにそんなことが出来るのは知らない。
「ホントに、何も関与してないのか?」
「してないわ。何せこの学園の理事長をしてから神界には帰ってないから、そっちの事情もほとんど知らないわよ。」
言い方からして事実だな。
現状わかんねぇなら、今はお蔵入りしておくか。
そのうち分かる情報が風といっしょに来てくれるのを祈りましょ。
「あとはもうないな。帳を解いたら俺は行きたい場所があるからそっちに行くだけだし、そろそろ頼んでいいか?」
「分かったわ。それじゃあ、始めましょうか。」
ホルスティはソファーから立って、両手で印を結んで術式を展開した。
俺の眼で確認できたけど、下の術式は解呪の術式だな。
解呪の術式は呪い、もしくは呪縛などを解呪させるために作られた術式。
北の帝国にいる呪術師などに対抗できる術式で、あまりパラディエスでは使われてない術式だったな。
「―――闇の帳に蠢くは失落の海―――歓喜な光を迎えしは古の朝―――我らの業に宿命はなく、我らの罪に哀れみなどを作らず、運命られた真実に身を委ね託すの者なり―――我、その神髄こそ我らの終焉に導き、暗闇に終わりを告げ、永久の栄光を君に授けよう―――」
ん? 解呪の術式に長文詠唱なんていらなかったよな?
いや、違うか。
詠唱が帳を外すパスワードになってるのか。
一文一文がロックを解除させるワードとなってて、それを唱えながら解呪することで正式に帳を解けるんだ。
「伊達に400年もまんまだったんだ。うまく考えたものだな。」
そんなことをぼやいていると、詠唱を続けることに術式がどんどん解除されていった。
「我らの神よ―――今こそ我らを導き、暗き夜に光を与えたまえ!」
詠唱をすべて唱え終えた瞬間、床に展開されてた術式が光の粒子になっていき、帳の解呪は終わった。
この時までは気が付かなかったが、解呪が終わったときに、この星を覆っていた人には見えない歴史の帳が解かれ、あらゆる種族に本来の魔力が平等に配られていかれたとのことだった。
人、獣人、エルフ、魔族。
どの種族も、突然の出来事で混乱するであろう。
だがそんなのを無視して、時は進んでいく。
そして歴史も進んでいく。
この時―――止まっていた歴史の歯車が、再び動き始める音がした。
邪神の補助
ゼロ(白崎零)は宇宙で二番目に生まれた神で、太陽系や異世界の星などを含んだ宇宙の領域を管理していた。
そのため転生先を地球にして身を隠していた。




