116話 冥界
「久しぶりだな。冥界の入口。」
倶利伽羅で飛行してから20分。
目的地である冥界の入口である大穴の目の前までやってきていた。
冥界があるのは、神界の真下。
神界の大陸と同じ大きさの冥界が地下にあり、死者はそこに必ず行く。
パラディエスの人間は、死んで最初はこの場所で魂を管理され、時間が流れていくにつれて再び輪廻に戻り子供として産まれる。
それがこの世界のシステム。
神が創りあげた永久機関だ。
「さすがにこっから先は倶利伽羅じゃあ行けないな。冥界に入れるのは「冥界神の加護を持ってる者」か「神格を持った神」だけだからな。」
「うん……ここから先は無理……可哀想だけど。」
倶利伽羅は加護を与えれば連れて行ける。
でも見た目が見た目だから、冥界の中にある魂たちがパニックになって大惨事になり、レイラに迷惑をかけられないからな。
だからここでお留守番をさせなきゃいけない。
こればかりはしゃーないもんな。
「倶利伽羅、悪いけどここで待っててくれ。」
「グルル……。」
明らかに落ち込んでやがる。
耐えろ…俺。
時には心を鬼にするんだ。
「すぐに帰ってくるからよ。そしたらまた別の所に行かないといけないから、その時まで休んでてくれ。」
「グルッ。」
また俺を乗せて飛べると分かったのか、倶利伽羅は一変して待ちますって感じにその場に待機した。
なんか忠犬に近いな……この龍。
もう忠犬はシグレとシラヌイがいるからちょっと要らんかな。
まぁ素直に待機してくれるなら、それはそれでいいか。
「じゃ、行ってくるよ。」
俺はレイラと一緒に冥界の入口である大穴に飛び降りた。
最初の方は普通に自然落下をしていたが、しばらくして落ちるスピードがどんどん遅くなっていき、視界が暗くなった時には、葉っぱが地面に落ちる速度と同じになっていた。
「明かり……付けなきゃ…。」
「いや、俺がつけるからいいぞ。」
レイラが出したランタンよりも先に俺が光魔法で明かりをいくつか出して、底が見えやすいように下の方に多めの明かりを出して、まだ見えない足場をずっと照らした。
「懐かしいな。こうやって冥界に行くのって、俺が一人になりたい場所をずっと探していた時だったな。」
「あの時のゼロ……少しだけ怖かった…。」
「あはは……あの時はクロノアやアメラとかがうるさくてイラついてたもんな。今思い出すとレイラには悪かったと思うよ。」
「いいよ……。あの時出会えたから…今の私がいる…。」
「そっか。ならあれは、お互いに運命を変える出会いだったんだな。」
かつて会ったあの時を懐かしむ一方で、俺はレイラに対して申し訳ないと思っていた。
クロノアもそうだが、当時生きてたフォルトナやアメラ、オルドラなどから長女であるエリスを失ったことで怒りを買い、俺は場所を失っていた。
そんな時に偶然、冥界に行ける大穴に入った俺は、そのまま静かだった最深部まで向かってしまい、レイラと初めて出会ってしまった。
最初は誰だって思いイラつきながら殺意を出してしまった俺は、レイラを思いっきり威嚇。
結果、レイラも威嚇することになってしまい、出会いは最悪になってしまった。
いやホントに馬鹿だろ昔の俺。
ガン飛ばす以外の選択肢を出せよ。
迷惑かけるやり方選んでどうすんだよ。
一発殴る権利はあるよな。
自分にやるのは癪だけど。
「…見えてきたな。」
「うん……着いた。」
下に照らしてた照明がようやく地面を照らしてくれて、俺たちは無事に着地して、周囲を確認した。
周りは暗く、昔と変わらず肌寒い。
唯一の明かりは冥界の至る所にある青い炎が入ったランタンが、わずかに地面を照らしてくれていた。
「無事に冥界に降りれたな。」
「うん……ここからは私が先に行く……ついてきて。」
レイラはゆっくり歩き出して、俺はその後ろをついて行くように歩いた。
左右には亡き人の魂が一つずつ籠の中に入っていて、俺たちが進んでいく道にも大量の魂があった。
「相変わらずここは、人の魂が多いもんだな。」
「うん……いつも多い。だからみんな……頑張ってる。」
「みんなって……あぁ番人や巫女か。」
俺はレイラの言ったみんなに一瞬だけ疑問を持ったが、それがここにいる番人達だってのにすぐに納得した。
本来女神には神徒がいる。
例として出すなら、白崎照には皇萌歌がいるように、ほとんどの女神には神徒が必ずいる。
でもレイラだけは例外だ。
レイラの場合、冥界に入れるのは限られている分、普通の人や神徒などはここには入れない。
そのためここには番人であるレイスと、指示を出してるヘカテーがこの冥界にある魂を管理している。
ちなみにレイラは、冥界のバランスを維持するために冥界を移動したりしている。
「レイスはあれから増えてるのか?」
「うん……あれからかなり増えた…。だからヘカテーはいつもよりも頑張ってる…。頑張りすぎてる…。」
「いたたまれないな。まぁ外から人を借りることは出来ないし、こればかりは何も言えないな。」
それに連れてきたとしても、レイスなどで怯えるのがオチになるだろうな。
それから道なりに進んで行ってると、前の方で大量の魂が集まっていて、その真下で一生懸命やってる少女がいた。
「うんしょ…よいしょ…。ふぅ…今日はかなり忙しいですね。」
浮いてる魂たちを丁寧に捕まえては籠の中に入れていって、一通り終わったのか、額の汗をタオルで拭っていた。
「ルカ……お疲れ様…。」
「あっ、レイラ様。おかえりなさ……そちらの方は?」
こっちに気づいた少女、ルカがレイラに挨拶をすると同時に、後ろにいた俺に気付いて俺が誰かを聞いてきた。
見た目から普通の少女だし、多分彼女は巫女だろう。
俺はレイラ以外の住人は知らないし、会ったとしても変わってるだろうから、お互いに初めまして状態になるのは当然か。
「彼はゼロ…。私の神友…。」
「あぁ…彼がレイラ様がいつも言われてた神友の方でしたか。」
どうやら俺のことはレイラがいつもしゃべっていたから知ってたみたいだな。
だとしたら詳しい説明はしなくていいな。
「はじめまして、私は冥界神であるレイラ様の側近である冥界の巫女のルカと申します。」
ルカは俺の方を向いて、自分の名前を言ってきた。
そして予想通り、彼女は巫女だったか。
「俺はゼロ。今は地球で白崎零として生きてる。」
「人間? レイラ様の加護はなさそうですけど?」
「つい最近神格を持ったから入れたんだ。ここに来た目的は、この奥にある最深部に用があるからなんだよ。」
「最深部……。レイラ様と私しか知らないあの氷の棺にあるアレですか?」
「そうそれ。それ俺の前世の遺産なんだよ。」
氷の棺は俺の遺産が入った棺。
壊れないようにわざと氷で覆って、その後レイラに頼んで最深部に保管するように頼んでいたものだ。
側近だから知ってて当たり前か。
逆に知らなかったら俺がここにいる理由を疑われることになってた。
「ルカ…。仕事はどう…?」
「今のところは一通り終わって、ここが最後になりそうです。」
「そう…。私は…彼を最深部まで案内する…。だから…これが終わったら……しっかり休んで…。」
「ありがとうございます。御二方もお気をつけて。」
ルカは捕まえた魂の入った籠を持ってその場を後にした。
俺たちもその場にいる意味はなかったから、最深部に続く道を再び歩き始めた。
暗い道、冷たい空気、彷徨い続ける魂。
それをずっと見ながら、少しづつ目的地に近づいて行ってる。
そして近づくにつれて、俺自身の神格がの反応が大きくなってる。
『もう少し…もう少しだ…。』
心の奥から聞こえたかのように感じた。
それが空耳なのか…幻聴なのか…。
俺には分からない。
でも、これだけは分かる。
この声は、俺だ。
過去の俺自身だ。
奴に「憎しみ」を抱いた俺の声だ。
「あぁ…くそッ。」
「…ゼロ……?」
「気持ち悪い…昔の俺はこんなに気持ち悪かったのかよ…!」
憎悪が俺の心に入り込んで来ようとする。
その度に気分が悪くなる。
あぁ……そうか。
エリスがずっと言ってたのは……これだったんだな。
『憎しみを永遠に残さないで。』
アイツはずっとそう言ってた。
今なら分かる、あの言葉の意味が。
「……いこう…もうちかい…。」
「ゼロ…。」
レイラのほうには向かず、先を見て進んだ。
さっきより足が重くなった感じだったけど、関係なかった。
自分のやった過去に、また向き直さないといけない。
「おまえも……そうして俺の手を握ったんだからな…。」
進もう、前へ。
後ろは振り向かずに。
ゆっくりでもいい。
一歩、一歩、少しずつ進もう。
「ゼロ…。」
そんな彼の後姿を見ることしかできなかったレイラは、涙目になって彼の背中を見るだけしかできなかった。
「…憎んでるのね…あの神を…。」
彼女は知っている。
その憎悪が誰に向けてなのか。
憎悪の苦しみが、彼の体をずっと蝕んでいるのを。
「お願い……ゼロを助けて…。」
彼女の声は果たして誰に向けてなのか。
その声が果たして誰かに聞こえているのか。
今は分からない。
だがその答えは、必ず訪れる。
そして彼が救われるかは、「彼女たち」の選択肢によって決まるだろう。
【冥界神レイラ】
ゼロ(白崎零)の神友。
普段は寡黙で、他人とは話さないけど、神友のゼロとリリス、冥界の巫女であるルカにだけは心を開いて話している。
零が作ったアップルパイが虜になってる。




