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115話 倶利伽羅

「そして魔王だった少女は、勇者に好意を寄せるようになり、二人は恋を結んで再び悪と戦う日々を迎えるのだった。」


「「おぉー…。」」


二柱(ふたり)は俺の話を真剣に聞いてくれて、話が終わると同時にカップを置いて拍手をした。


「すごい人生なんだね。転生してからも変わらない(・・・・・)生き方をしてて。」


「うん…本当にすごい……ゼロは。」


「ありがと。俺も久しぶりに話すのが楽しかったよ。」


こうやって話すのは初めてだ。

物語(ストーリー)にして主役を目立たせ、脇役や他の主役を混じらせながら話を進める。


母さんの小説で得たやつがここで役に立つなんてな。

ある意味感謝だ。

強制的に読ませるのは許さないけど。


「ホントに面白かったわ。「お姉様」もいてくれたら…………あっ……。」


リリスはしまったって顔になって、慌てて口を抑えた。

レイラもヤバいと思ったのか、口に運ぼうとしていたアップルパイをポロッて落としていた。


二柱は聞こえていないようにって願ってるだろう。

だけどリリスの言った言葉は、俺の耳に入ってきていた。

現に、俺はアップルティーを飲もうとしたところで止めている。


「……ぜ……ゼロ…。」


「ゼロ……大丈夫…?」


リリスもレイラも、俺の心配を優先するか。

昔から変わらず優しいな。

だとしたら、俺も冷静でいないとな。

ちゃんと二柱を安心させよう。


「あぁ…大丈夫だ。リリス、気にする必要はないぞ。もう過去の話なんだ。何時までも過去に縛られちゃ、あいつに怒られるからな。それに俺もかつては、何度も過去を変えたいって思っていたしな。」


俺の虚空(ちから)は二つが一つになってる。


一つは、【空間】の超越。

数、大きさ、領域に制限はなく、あらゆる空間を無限に創り出すことが可能。

さらに「暗黒空間」を無限に創り出すこともでき、敵に当てて塵にさせるのも可能といった恐ろしい力だ。


そしてもう一つが、【時間】の超越。

俺が使ってた閉ざされた禁忌の世界(ザ・ワールド)の完全上位版で、「時間停止」に加え、過去や未来を現在に呼び寄せることができる。


俺の神格(ちから)は、いわばクロノアの上位版。

どっちが強いかっていったら、確実に俺が上になるだろう。


俺の神格を使えば、現在から過去や未来に行って、歴史を変えることだってできる。

でも過去を変える事は、現在(いま)を捨てなくちゃいけなくなる。

時間は戻せても、未来を変えることは出来ない。

たとえそれが―――――初恋(・・)の相手に逢いたいと思ってもな。


「ごめんなさい……思い出したくない過去を思い出させてしまって……。」


「もう大丈夫だって言ってるだろ? 昔のことを思い出しても、現在(いま)は変えれない。だったら俺たちは、進んで生きていかなきゃいけない。それが運命(さだめ)だ。」


「でも……あの時ゼロ以外がその場にいてくれたら……ゼロも……お姉様も失わなくてすんだのに……。」


確かに……あの時は運が悪すぎた。

向こうが用意周到だったが故に、俺もあいつも、初めからハンデを持った状態での戦闘になってしまった。

結果は分かりきってた。


だからこそ俺は……自分の「弱さ」を知った。

そして転生して、自分が背負う運命を受け入れると決めた。


「心配するな。俺がずっと過去を見続けてたら、あいつが……エリスが怒って文句を言い続けちまうからな。」


エリス……本当の名前はエリスティーナ。

前世の俺の初恋であり、一番最初に俺たちを受け入れてくれた、女神の長女。


エリス、お前は今どこにいるんだ?

もしどこかにいるんだったら、謝らせてくれ。

お前を助けれなかったことを。

お前がずっと好きだったことを。

いるんだったら、絶対に見つけてやる。

たとえお前が遠い宇宙の果てにいても、俺は迎えに行くよ。


今度こそ――――――お前の手を離したくない。


「そういえば、レイラはこの後は冥界に戻るんだよな?」


「うん……どうして…?」


「昔お前に託した俺の記憶の半分が置いてある、冥界の最深部に行きたいんだよ。あの場所まで連れて行ってくれるか?」


「そうだった……ゼロの記憶…半分はあの場所にあったね……。分かった……案内は任せて…。」


おい今の発言、覚えてたのか?

お前に託したのに忘れてたのか?

いや、二千年も経ってるなら、忘れかけられてもおかしくはないのか。

うん、今回は目を瞑ろう。


「それじゃあ、そろそろ今日はお開きにした方がいいかな?」


「うん……。リリスも来る…?」


「ううん、私はいいわ。今日のお茶会で満足だから。」


どうやらリリスとはここでお別れみたいだな。

まぁこの森の管理をしないといけないから、無闇に離れる訳にはいかないもんな。


「リリス、今日のお茶会は楽しかったぞ。」


「私もよ。久しぶりにゼロと話ができて嬉しかったわ。」


「もしそっちの時間が空いた時は、ティファニスから貰った俺の空間になった、夢の世界(シープ・ワールド)に遊びに来な。いつでも歓迎するよ。」


最近ティファニスに頼んで、あの場所の権限を俺に変更してもらったからな。

前世の神格や記憶を全部取り戻したら、あとは決戦までリハビリになるし、かつての俺の兄弟が何処にいるのか確認しないといけないと、これから忙しくなっていくな。


それに今日は、何故か神界からいなくなってる創造神(・・・)に会いに行かないといけないのと、王都や魔界にも足を運ばないといけはいからな。


ホント、忙しい人間は辛いよ。

休みはしっかり休む。

これ、人間の常識。


「それじゃあ……行こうか…。」


「あぁ待て。行くのはコイツに乗ってから行った方が楽だから待ってな。」


「「コイツ?」」


二柱の疑問に答えるかのように、俺は手慣れた形で憤怒の化身獣であるドラゴンを召喚した。


「あら可愛いドラゴン。触っても大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だぜ。」


「私も……。」


リリスとレイラはドラゴンに触ろうと近付いて、優しくドラゴンの顔を撫でた。

ドラゴンも二柱が危害を加えないと分かったのか、抵抗することなくリリスとレイラの傍で撫でやすいように低い態勢をした。


「まぁ、とてもお利口さんね。名前はなんて言うの?」


「名前?……名前……。」


そういえば、忙しすぎて名前つけるの忘れてたな。

ジョルメとの決戦が初めてだったし、あれ以降は一度も召喚してなかったもんな。


一応憤怒の化身獣って扱いだけど、名前はつけるべきかな?


「もしかして、名前はないの?」


「名前は…まだだな。初めて召喚したのも少し前だし、これが二回目だからな。」


「だったら……名前…つけるべき…。」


「名前か……お前は欲しいか?」


「グルッ!」


どうやら欲しいみたいですわ。

しょーがない、つけてやるか。


ドラゴンにつける名前かぁ……。

憤怒だから「ラース」?

いやなんか違うな。

ドラゴンの文字から取るか?

いや安直すぎてダメだ。


これから長い関係になるだろうし、ここはちゃんとした名前がいいな。

となったら、地球にいたとされるドラゴンからつけるべきだな。

だったらつい最近知ったあれが一番いいかな。


「……倶利伽羅(くりから)…ってのはどうだ?」


「「倶利伽羅……。」」


リリスとレイラは俺の出した名前を聞いて沈黙になった。


正直、俺自身もこの名前でいいのか迷っていた。

俺の相棒になるんだったら、いい名前にしないといけないなって考えたけど、どうだろうか。


俺は二柱の感想を静かに待っていた。

そしてリリスは目を開けると、静寂を掻き消すかのように嬉々としてしゃべった。


「うん、いい名前だわ! 倶利伽羅、いい名前だわゼロ!」


「うん…私も……いい。似合ってる。」


良かった。

どうやら二柱から好評を貰えたようだ。

名前はこれで決まりだな。


「今日からお前の名前は、倶利伽羅だ。これから俺の相棒として、よろしくな。」


「グルッ♪」


名前を貰えたのが嬉しかったのか、倶利伽羅は俺に近づいて甘えてきた。


ドラゴンがこうやって甘えるのはいいけど、サイズがでかいんだよな。

君、大きさからして10m以上は確実にあるからね。

擦り寄ってくると重さでよろけそうだから優しくしてくれ。


「さて、名前も決まったし、行くとするか。」


「うん……倶利伽羅…よろしくね。」


「グルッ!」


レイラが頭を撫でて反応すると、俺たちが乗りやすいようにしゃがみ、俺たちは倶利伽羅の背中に乗った。


「じゃあなリリス、いつかは遊びに来いよ。」


「リリス……お茶会ありがとう…。」


「二人とも、気をつけてね〜。」


リリスと別れをして、倶利伽羅はゆっくりと羽を羽ばたかせて上に上がっていった。

木の少ない場所での上昇だったから、何の問題もなく上に浮上することが出来き、俺はレイラの方を向いた。


「冥界の入口は前と変わってない?」


「うん……おそこのまんま……変わってない。」


「了解、しっかり掴まってな。」


「ん……。」


レイラは俺にしっかり掴まり、大丈夫だと分かった俺は、倶利伽羅に指示を出した。


「よし倶利伽羅、安全運転でレッツゴー!」


「グオォォ!」


俺の合図とともに、倶利伽羅はレイラの管理下である冥界へ向けて飛んだ。

そしてそれを見送っていたリリスは、見えなくなったのと同時に息を吐いて空を見上げた。


「ゼロ……随分と変わってたなぁ…。」


リリスは一人、再開した神友の変わりようを内心で驚きながらも、何処か安心したかのような気持ちになってた。

彼女はゼロの過去を一番知ってるからこそ、レイラと一緒に彼がいなくなってからずっと心配していた。


「あんな過去があったのに……笑っていたわね。」


リリスは彼の過去を懐かしむかのように思い出した。


初恋である女神を失った。

同類であり自分の兄弟だった神を殺した。

女神からは何度も真実を追求されてた。


彼の姿は、見るに耐えれなかった。


瞳の中の光は消え。

心も体も崩壊寸前になってた。


最後に見た時の姿は、最早ブリキのおもちゃのように動くことだけを許された人形になっていた。


「もうあんな姿は、二度と見たくないわね。」


リリスの願いはただ一つ。

今のゼロが、過去と同じ末路を迎えてくれないことを祈るだけ。

そしてどうか今度は、幸せになって欲しい。


自然神リリスは、誰よりもゼロのことをを神友としており、優しさで出来た慈愛の心は、今でも彼を守りたいと願っている。


「さて、後片付けをしたら、森の中を見回っていこっかな。」


今日の彼女は、いつもよりも機嫌が良かった。

理由は単純。

かつての神友と再会をして、お茶会でも楽しい話ができ、遊びに来いと誘われる。

彼女にとってはどれだけ幸福なことか。

それが分かるのは、彼と交流している者にしか分からない事だ。


「次に会う時は、少し豪華なお菓子でも作ってあげようかな♪」


彼に会う時に用意するお菓子はどんなのがいいかを鼻歌を交じらせながら考え、この後の仕事を難なくこなしていくのだった。

【自然神リリス】

ゼロの神友。

神界にある大森林の管理をしていて、いつも精霊や動物たちにお菓子などをあげてる。

レイラと毎月1回だけやってるお茶会が、唯一の楽しみとしている。

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