閑話 姫と魔術師の茶会
「あ゛ぁぁぁぁ……」
王都スカイティア。
その中心に位置する王宮の中庭で、二人の少女がお茶会をしていた。
そしてそこにあるテーブルにうつ伏せのまま唸っていたのは、元6代目勇者パーティの一人であり、王都スカイティアの王女であるアイリスだった。
彼女は零が地球に戻ったあの日から、ずっとこの調子なのだ。
「あ゛ぁぁん…あ゛ぁぁぁん…あ゛ぁぁぁぁぁ…」
「あのさ、何に唸ってるのよ?」
彼女の横で紅茶を飲みながら呆れていってるのは、同じく勇者パーティの一人であるメリッサだ。
二人は勇者パーティのメンバーでもありながら幼馴染で、昔から一緒にいる事があったからか、アイリスは彼女にだけ王女としてでなく、ただの女の子として接してほしいと言うほどの仲なのだ。
そして今のアイリスを一ヶ月も同じようになっていて、そろそろ怒りを覚えようかと考え込んでいたりする。
「だって…あの人が帰ってしまったから…」
「まさかレイの事を言ってるの?」
「それ以外何があるんだよ~」
彼女が項垂れて喚いている理由は、零が地球に帰ってしまったからだ。
彼女は零に恋していた一人の乙女。
聖女といった役割を持って、勇者の仲間として戦った二年間。
そして召喚されてから見守っている事一年間。
その三年間の間でアイリスは、彼の姿を何度も見てきていた。
剣を持ってひたすら振り続ける姿。
魔法を覚えるためにあらゆる本を覚えて会得しようとした姿。
勇者として誰よりも前に立って戦う姿。
そして、失った命を見てだれよりも悲しんでいた姿。
それを何度も見てきているうちに、いつの間にかその背中を支えるような人になりたいと思いながら戦い続け、それは信頼から好意へと変わっていってた。
しかしその答えを伝える事もできないまま、零が元の世界に帰還してしまって、自分の言葉を言えないまま別れてしまったから後悔しているのだ。
「だから私が何度も言ってたじゃない? キスしてから「ここにいてください!」って言って告白すれば、いてくれるはずだって。」
「それができたら苦労なんてしないのよ――――!!」
(このヘタレが。)
メリッサは大きくため息をしながら幼馴染を眺めていた。
彼女は幼いときは箱入り娘として育てられていたため、異性にどのように接すればいいのかはからっきしだった。
今は交流も多くなった事から、彼女も異性に対する交流も慣れてきているのだが、勇者召喚で呼ばれてしまった零とのファーストコンタクトは、彼女にとっては最悪な思い出となってしまっている。
それは文字通りの黒歴史として。
「大体、三年もあってやっとの思いでできたのが、あの手を握るなんでしょう? もうちょっと大胆に行けなかったわけ?」
「あの時の私はあれだけでキャパオーバーだったんですよ!!」
嫌な思い出を思い出してしまったのか、アイリスは目の前にあったクッキーをやけ食いし始め、乾いたのどは紅茶を飲んで潤し始めた。
そしてひと段落したら、また大きな溜息を吐いてテーブルにうつ伏せになった
「はぁぁ……レイ様がいた三年が一番楽しかったなぁ…。リラちゃんみたいに心が弱った人たちを何度も励ましていたレイ様のかっこいい姿。」
「うーん分からん。」
「旅を始めてからは人を助けたり、盗賊を何人も捕まえては誰かのために頑張ってた毎日が。」
「なんか違うなぁ…?」
「魔龍と戦った時に諦めからの大逆転勝利を味わったあの感動。」
「どうだろう?」
「魔王を倒した時、みんなで世界に平和を訪れさせる事ができたあの瞬間。」
「そうだっけ?」
「共感性全然合わないじゃない!!? ……あ、野宿する時にレイ様が作ってくれた料理がすごくおいしかった!」
「それは滅茶苦茶分かるわ。」
そこは否定しないのかいって思いながらも、アイリスは零の作ってた料理を思い出してはがっかりした表情になっていた。
「はぁー…。もう一度でいいから、レイ様に会いたい自分がいるのが恥ずかしい。」
「別にいいと思うわよ。恋する乙女としては、叶わない愛に恋い焦がれても。」
「なんでアナタは、そう簡単に言えるのよ。アナタだってレイ様に会いたいって思わないの?」
「私はアイリスほどじゃないけど、確かにもう一度会いたいわね。王都の魔術師が相手にならないから、一度でいいから本気で勝負したいわね。」
「アナタも大概よね、メリッサ。」
アイリスや零、それに王宮にいる人物しか知らないのだが、メリッサは魔法オタクと呼ばれるほどの魔法に関する探究心が強く、何より彼女は零と同じようにオリジンの魔法しか所有していない存在なのだ。
今でこそオリジン魔法は牽制されたりしているのだが、それは間違った事実だと言った彼女は、通っていた魔法学校を10歳になった時に自ら自主退学すると、その日から彼女は魔法への真髄にたどり着こうと研究を始めた。
そして12歳で零と初めて会って、彼女は零に基礎魔法は辞めておいた方がいいと言った後、簡単にオリジン魔法の事を話して魔法について何度か教えたりしている。
「初めこそはそこまででもないかって思ってたけど、魔龍との戦いが終わった辺りから一気に強くなったもんだから、一度でいいから相手しておけばよかったなって思ってるんだよね。」
「王都の宮廷魔導士の称号を蹴っておいてよく言えるわね…」
メリッサは零が地球に戻った後、エーリッヒ王から宮廷魔導士の称号を渡そうと話していたのだが、彼女はその話を断ってしまっているのだ。
その理由は、「魔法への真髄にたどり着いていないからこそ、その称号を持つにはまだ早すぎる。」と言って、彼女は魔王の討伐を終えても今まで通りの生活を送るかのように、魔法への探求を続けているのだ。
「それにしても、魔王が倒されてからか……あまりにも平和すぎて退屈になりだよね。」
「私も暇になった時間で乗馬や魔法の訓練をしているのですけど、やはり平和すぎると時間が長く感じてしまって困っちゃうのは確かなのよね。」
「魔物が活発的にならなくなったせいか、今では北の帝国が戦力を高めて戦争でも起こそうとしていたのを聞いたくらいかしらね。」
彼女たちが話している内容は、王宮内でエーリッヒ王たちが話されている事を耳にしたからである。
今パラディエスでは平和な世界となっているが、その平和を壊そうとしているのが、北の帝国なのである。
北の帝国は数多くの小さな国々が一つの大きな国となった連邦国であって、その国は年々ごとに戦力を拡大させてる危険な国とされている。
今でこそ王都と東ノ国が抑えているからこそ維持できているが、それも長くは待たないであろうと考えおり、王都の同盟国となってる各国で戦争の準備になっている噂が流れてきているのだ。
「失礼します。アイリス様、メリッサ様、今はお時間の方はよろしいでしょうか?」
そう言って中庭にやって来たのは、メイド長であるメリアだった。
彼女の手には一通の手紙を持っており、それを何も言わずにアイリスに渡した。
「これは?」
「先ほど教会の使者の方が、この手紙をアイリス様に渡してほしいと言われまして、こちらを渡されたのです。」
「協会から? 洗礼はこの前終わったっていうのに、何かあったのかしら?」
「メリア、その使者は何も言わずにこの手紙を渡してきただけなのかしら?」
「おっしゃる通りです。これは何の手紙なのかを尋ねようとしたのですけど、私の声が聞こえていないかのように後を去ったので、教会から何の手紙が送られてきたのかが分からないのです。」
メリアの言葉に疑問を持ったメリッサは、アイリスの手紙に当てさいも何も書かれていないのに気付いた。
アイリスもそれに気付いていたが、教会からの手紙だと信じ込んでしまっているのか、何かを忘れていないか菱に思い出すかのように頭を抱えた。
「むむむ……ダメ、全然思い出せない。」
「もしかして、巡礼の誘いかもしれないわよ?」
「巡礼ねぇ。最初に言ったのはもう五年前になるのかしらね。」
巡礼というのは、聖女になるものたちが受ける修行みたいなもので、今の聖女の力を持ってる子たちは、全員その修行を行っているのだ。
アイリスも10歳の時にそれを行っていて、聖女の力が弱まったりした場合は、もう一度巡礼を行わないといけないのだ。
「アイリス様。先に私が開封をいたしまして、中身の手紙を読みになりましょうか?」
「いいわ。それよりアナタはまだ他の仕事があるのでしょう? そっちの方を優先しなさい。」
「かしこまりました。それでは失礼いたします。」
メリアは二人に頭を下げると、その場を去った。
アイリスとメリッサは、渡された手紙に多少の不信感を持ちながらも、仕方なしに手紙を開封して中身を見た。
中に入っていたのは、何も書かれていない一枚の紙だった。
「なにこれ? 何も書かれてないけど?」
「アイリス、ちょっと貸してくれる?」
メリッサがアイリスから手紙を貰おうとした瞬間、突然紙が光り出して、彼女たちのいる場所に魔法陣が出現した。
「これは、転移陣!?」
「マズイわ! ここから離れt―――」
メリッサがアイリスを連れてその場から離れようとしたが、その時にはすでに遅く、二人は魔法陣を一緒に何処かに消えてしまった。
二人が見た手紙は、教会からの手紙ではなかった。
その正体は…――――――零や真莉亜たちが探している、大罪の悪魔からの招待状だったという事を、いなくなった二人は後から知る事になる。




