110話 異能は消えない
時を戻そう!
「そろそろ、時間になるわね。」
「連絡しましたが、もう少しで着くみたいです。」
お偉いさんと話し合いをしてから数日経ったある日の朝、俺と博士はもう一度スコーピオンのアジトの前に来ていた。
理由は、奴らの研究材料をすべて抹消させるためだ。
スコーピオンの技術はこの世界からしたら害悪そのもの。
だとしたらここにある全部は、今のうちにバラバラにした方がいいからな。
「それにしても、あのお偉いさんは随分と優遇してくれたわね。」
「俺たちが元を消してくれたのと、何より翠嵐さんこれの信頼もあってこそみたいですけどね。」
この工場地帯は、現在封鎖されている。
表沙汰ではこの場所で大規模なガス爆発があったとされており、異能者や何もかもは公には公表されていない。
でもそれも時間の問題だろう。
何せうちの学校、清雲高校の生徒と教師全員と、洗脳されてた異能者だけでもかなりの人数になるんだ。
噂は次第に大きくなり、それを悪行しようとする人間も多く出て来るだろう。
そのためにも、俺たちや政府がどうにかしないといけないんだけどな。
「すまない、遅くなってしまった。」
早足でやって来たのは、俺と博士と一緒にアジトの中に入る人物であって、前に俺がそいつの妹を助けると言って約束していた、風巻駿太だった。
彼は俺が連絡をした時に、妹が目を覚ましたと言ってすごく感謝してきて、今回俺がアジト内の案内を頼んだら、快く受け入れてくれた。
「いや、別に待たせてないからいいよ。」
「ふぅ……改めて、妹を助けてくれてホントにありがとう。」
おいおい、来て早々頭を下げてきちゃったよ。
いやお礼をするのは礼儀として正しいけど、もうそれ4回目だからね君。
もう充分なんですよ。
「頭を上げてくれたまえ。事の発端はすべてあの女の仕業だったのだ。君はむしろ被害者であり、怒ってもいい存在なんだぞ。」
「そうだぜ。それに全部終わった事なんだし、もう何も気にする必要はないんじゃないのか?」
俺と博士が宥めようとしたけど、一向に辞めなかった。
てかどんだけ責任感強いんだよ。
ここまでくると心配になっちまいそうになるよ。
「それはわかっているんだ。だけど弱みを握られてしまい、悪の組織に入っていた事には変わりはないんだ。妹を守れなかった以上、兄としては頭を下げてでも感謝したいんだよ。」
いやその頭を下げるのが4回目だから言ってるんだよ。
ホントやめてくれ。
もうお腹いっぱいなんだよ。
満腹通り越して腹痛になるわ。
「はいはい、もう頭の下げるのはやめてくれ。これじゃあ今日ここに来た理由がなくなっちまうからよ。」
「あ、あぁすまない。今日はこの中を案内するんだったな。」
本題を話したらようやくやめてくれた。
この責任感の強さはいずれ大きな傷を作りそうだな。
俺はできる限り幸せになってほしいと願っているのに、これじゃあ幸せも夢のまた夢だな。
妹さんには、忠告ぐらいはしておこうかな。
あと本人にも。
「さて、時間も押してるし、そろそろ中に入りましょうか。」
「そうね。今日はかなり遅くなりそうだし、手早くやっていきましょう。」
中に入って、まずはビルの中を一から確認していく事にした。
ビル自体は普通のビルだし、階数も15階と全くと言っていいほどどこにでもあるビルだ。
でもそれが俺にとっては逆に不安でしかなかった。
普通だからこそ隠しやすい。
普通だからこそ誰かにもバレない。
……考えすぎなのかもしれない。
でもそれでいい。
それで不安要素がなくなるのだったらな。
「このビルは普段は隠しやすいようにビジネスを取り入れてる会社にしているだけで、本命はほとんど地下に集中しているからな。」
「恐らく外からの干渉される場合を防ぐためにそうしているんだろう。俺も一度ここ以外を電車の車窓から見たけど、異能者どころかそういった部分をきれいに隠しきっていたよ。」
「私もここには何度も来たが、君と同じで情報を得るのには骨身が削れたよ。」
博士でも苦労するほどの隠蔽……下手すれば一生わかんなかったのかもしれないんだな。
色欲こそ完璧に使いこなしていなかった奴だったが、隠れるに至っては流石と言ってもいいな。
「んん……一通り全部のフロアを見たけど、異能とは無関係な事ばかりだな。」
「これだけ探しても見つからないとなると、本当に上は普通のビジネスをしていたんだな。」
「……いや、そうとも言えないかないかもな。」
「博士、それはどうしてですか?」
「これを見てくれ。」
博士が見せてきたのは、数枚の書類だった。
そこには海外とのパイプを繋げるためのグローバル化の内容で、特に何も異常な事は書かれてなかった。
「あの博士、これが何か?」
「グローバル化は別にビジネスとして取り入れられてもおかしくはない、それは理解できるはずだろう?」
「まぁ…当たり前ですもんね。」
「だけど考えてみたまえ。奴らは海外にパイプラインを設けて、世界進出を目論んでいた。そして君の母親から聞いた地下にあった魔道具の銃器。そうなれば分かるかしら?」
俺は博士の言葉でハッとなった。
博士が渡してきた書類を見て、俺はそれを口に出した。
「……裏社会ですか?」
「そうよ。」
博士は俺の言葉に頷いた。
パウウェス、もといジョルメは世界征服を考えていた。
自分が持ってる色欲を使って、世界の人間を洗脳させるのは容易い。
けど色欲の洗脳は無限じゃない。
それ以上の洗脳をしてしまうと、自身の脳が焼けてしまい“死”に至ってしまう。
だとしたらどうするかとなったら、世界中の闇組織と繋がりを持てばいい。
日本だったらヤクザと。
海外だったらマフィアと繋がりを持つ。
そして奴らの好物は、金と武力。
『武器を売って金を得て、その金でまた武器を作る』
それだけで組織を成り立たせるのは簡単だ。
あとは日に日にパイプは大きくなっていき、いずれは政府や国家を転覆させる事も出来るだろう。
「な、なぁ…。俺、一つだけ思い出したんだけどさ。俺がスコーピオンに入る時に、ボスだったあの女が言ってたんだよ。」
「何を言ってたんだ?」
「確かこう言ってたよ。『どの世界においても、”正しい正義“なんて存在しない。人間には必ず悪が心の奥に潜んでいるんだよ。だったら最初から悪が正義を名乗って、世界を作ればいいんだよ。』…って言ってたんだ。」
「悪が正義を名乗る……か。」
不覚にも、同情してしまいそうになる自分がいてイラついてしまった。
確かに人には悪が必ず存在する。
たとえ自覚していなくても、いずれそれに気付かないといけないんだ。
「チッ……奴に同情なんて、愚の極みでしかないな。」
「まぁ俺もあの時は一瞬納得してしまいそうになったし、優しく誘うって感じに見えたから、心の弱みに溶け込むのを得意としていたのかもしれないな。」
弱みに溶け込むっていうのは、ある意味色欲として適正はあったのかもしれないな。
まぁ俺はそんな誘いがあっても断るけどな。
交渉と誘いは全くの別だからな。
「残ってるのは最上階の社長室とかになるのか?」
「ああ。俺も社長室は入った事がないから、どうなってるかは分かんねぇからな。」
「分かった。博士もよろしいですか?」
「……ごめんなさい。少しだけここの資料を見たいから、先に行ってちょうだい。」
「そうですか。それじゃあ上が終わり次第もう一回ここに来ます。」
俺は風巻と一緒に階段を上り、最後のフロア出る社長室がある最上階に来た。
最上階は三つの部屋に分かれていて、社長室,会議室,書庫と分かれてあった。
「社長室は俺が行こう。風巻は会議室を頼んでいいか?」
「ああ、分かった。」
俺は風巻にそう言ってから社長室に入った。
中は時に変わった感じのものはなかったが、とりあえず俺の観察眼を使ってから探すとしますかね。
「ふむ……気になるのは、三ヶ所ってとこだな。」
場所は机、棚、壁にある額縁に反応してるな。
まずは机だな。
引き出しにはロックはなく、一般的な机だ。
「これは…?」
机を漁っていたら、出てきたのはただのノート。
中も時にそれと言っていいほど内容はなかった。
しかしただのノートをここに置くのは怪しい。
となったらあり得るのは、引き出しの中。
「底が浅い。やっぱ二重板だったか。」
板をのけて中を見ると、そこには手帳があった。
さーてと、中身は一体何が書かれているのかのう~
「……地下基地の設計日時や材料とかが多く書いてあるだけだな。特に重要なのはないか。」
最初の日が六年前。
アイツらの異能は三年前だったから、その時にはかなり進んでいたんだな。
あのキノコの経緯も丁寧に書いてあり、それも既に最初の時からあったみたいだな。
それに何かしらの数字が、最後のページに書かれてあった。
これは何だ?
何かしらのパスワードか何かか?
「どうせ持ち主はいないし、持っていくか。」
次は棚だな。
棚は鍵が着いてるけど、ぶっ壊しても問題ないな。
さて、中にはファイルがあるな。
適当にパラパラ見ていくか。
「中身はビジネス系の資料ばかり。こっちは完全に関係ないな。」
そんで最後は額縁に入った絵だな。
俺の眼が正しけりゃあ、これの奥に何かあるな。
しかしちょっと大きいな。
一人で持つには少し無理があるな。
「なぁオイ、こっちはなかったぜ。そっちはどうだ?」
「あぁちょうどいい。ちょっとこの額縁を外すのに手伝ってくれないか?」
「分かった。」
俺と風巻で額縁を外すと、その裏には一つの金庫が隠されてあった。
ロックは番号を入力するタイプか。
数字は……手帳の奴か?
桁は6桁で、手帳には一つ存在している。
「4…6…1…7…3…4…っと。」
―――――――――ピピッ。
よっしゃ当たり。
手帳に書かれてある数字は、恐らく何かしらのパスワードか何かだ。
これなら地下でも使えるかもしれないな。
「中には何が入ってるんだ?」
「―――――…どうやら、地下の地図だな。隠し通路や各部屋の役割などが書かれてあるし、これは今から必要だな。」
レーヴェが開けた穴の先に階段があったかのように、どこかしらに隠し通路があったんだ。
あそこだけとは思ってもいなかったし、レーヴェ同様に破壊活動をしていくのは流石に疲れるからな。
しかし、この地下の地図を見ていて思ったんだけど…。
地下の方は、かなり隠し通路が多いな。
地図を見ていて分かったのは、隠し通路は全部で五ヶ所だ。
二ヶ所はすでに分かっているから、あの階段以外の四ヶ所を見ていかないといけないのか。
「とりあえず、ここにはもうなにもなさそうだな。あとは書庫があったよな?」
「あぁ。そっちは鍵が掛かっているけど、鍵は探すか?」
「いや、面倒だからぶっ壊そう。そっちの方が手っ取り早い。」
今からその場所の鍵を探すとなると、どれだけ時間が掛かるか分かんねぇからな。
だったら壊した方が早い。
それに本命は地下なんだから、上の方で油を売っている場合じゃないからな。
「ここが書庫か。鍵穴はいたって普通だな。ちょっと離れてろ。」
収納庫から刀を取り出して、切るだけ。
ドアも木製のドアだし、これも問題ない。
切ったドアはバラバラになって床に落ちていった。
「よし、入るか。」
「な、なぁ……今のって…?」
「ん? あぁ、これは俺の異能……いや、面倒だから正直に話すか。」
ここで異能と言ったら、それこそ後々面倒ごとになりそうだしな。
それに別に後で口止めをさせておけばどうにかなるだろう。
「俺のこの力って言うのは、異能の原点と言ってもおかしくない力なんだ。」
「異能の原点? つまり…どういう事なんだ?」
「まぁ簡単に言うと、魔法といった方がいいかもな。」
「ま、魔法……マジック……マジシャン……」
なんかコイツ、華怜と息が合いそうな雰囲気がするな。
もしかしてコイツもゲーム好きか何かか?
そんで魔法も使いたいという気持ちがあったりするのか。
まぁそんな事はどうでもいいや。
とにかくまずは中に入って確認していきましょうか。
「結構な量があるな。」
「これって、二人係でも大変かもな。」
「ごめんなさい。遅くなたわね。」
どうしたものかと思っていたら、博士が下から上がってきて、俺たちのいる書庫にやってきた。
「あっ博士。下の方はもういいんですか?」
「えぇ。あの場所にいくつか役に立ちそうな書類があったから、持っていくことにしたわ。」
「そうですか。俺たちもここの書庫にいあるものを全部見ていこうとしたので、一緒に手伝ってもらっていいですか?」
「分かったわ。時間も押してるし、手っ取り早く済ませていきましょう。」
それからは会話をやめて、書庫にある資料を一から徹底的に見ていく作業が始まった。
量も異常と言っていいほどの数があって、何かしら重要な部分以外は素通りしていくようにして、異能に関わってそうな物だけを見ていくことにした。
そして黙々と作業をしていたら、気付いた時には二時間もかかっていた。
「これで最後っと。二人の方はどうですか?」
「こっちも最後だ。」
「私も今終わった所よ。」
タイミングはほぼ一緒か。
何かしらの情報は欲しいものだな。
「二人はどうだった?」
「俺は海外の流出先のリストが多くあったぜ。」
「博士は?」
「私は異能者の個人情報ってとこだったかしら。君はどうだったのかしら?」
「俺の方は、異能の地下での実験リストと、その実験の被害者の履歴書がありましたね。」
全員で何人かはもう覚えていない
けど少なからず分かったのは、被害者のほとんどが……あのゴーストタウンの住人だった。
あの場所にいた人たちは、無慈悲に実験の被害者にされたのに気が付いた時には、俺はただ下唇を噛む事しかできなかった。
「…実験の被害者の件については、専門に任せた方がいいわよね。」
「……そうですね。」
博士は勘づいたみたいだな。
でもこればかりは、俺たちは何もできないのは分かっている。
だから俺が見た履歴書の方は、警察に任せるしかない。
できるならせめて、お偉いさんに被害者の慰霊碑を頼んでおくとするか。
学校の名前を今更出したww
ちなみに風巻駿太は零たちとは違う学校出身で同い年です。




