108話 悪は終わらない
再就職先に面接行ってきた。
「倒したの?」
「……いや、まだ死んでないよ。」
聖剣を鞘に納めた俺に、真莉亜がやってきて聞いてきた。
普通なら、体を両断された人間は死ぬのが当然だ。
でも、相手は神徒と名乗ってた邪神だ。
そう簡単には死なないだろう。
それに、俺はわざと急所である心臓を避けて攻撃したんだからな。
「照、奴はまだ死んでない。少し尋問するぞ。」
「了解。」
俺は照を呼び寄せてから、バタリと倒れたまま動かないパウウェスに近づいた。
うん、元に戻ってるけどやっぱ死んでなさそうだな。
伊達に神の一種を名乗った訳もある。
そう簡単に死んでもらっちゃ、困っちまうもんな。
「おい、寝たふりなんかしないでさっさと起きろ。」
体を蹴って仰向けにさせると、体を震えさせて睨んできた。
その震えは何だよ?
恐怖か?
それとも悔しいからか?
まあどっちにしたって、これからコイツの未来は決まってるんだし、さっさと尋問をしますかね。
「お前に聞くが、何時この世界に来た? そんで何を企んでいた?」
「…………」
おーおー、だんまりと来ましたか。
そりゃあそうか。
敵にあっさり答えを教える馬鹿なんていないもんな。
だとしたらどうやって答えを出させるか?
ちまちまと言葉で攻めていきますか。
「おまえ、色欲を持って簡単に操ってたって事は、パラディエスの出身で確定だな。」
「…………」
「しかも、自分の口から邪神というワードも出てきた。邪神って言うのは何だ?」
「…………」
これでもダメか。
思ってたよりも粘るな。
うーん……なら今度は少し煽ってみるか。
「そう言えば、お前邪神とか言ってたけど、神の一種なら神の技とか一度も使ってなかったよな?」
「っ…………」
おっ、こっちは一瞬反応したな。
だったらこのままでいくか。
「ほとんど色欲の力ばっかだったし、俺たちの巫山戯たやり方で攻撃も必死に避けてる感じでちっともやり返さなかったし、もしかしてお前って、ホントは邪神って名乗っただけのホラ吹きじゃないのか?」
「ふっ…巫山戯るな!! 人間風情が偉そうに私の存在を言うな!!」
うわぁ、煽った瞬間この怒りよ。
どんだけ沸点低いんだよ。
憤怒の俺でもここまで低くはねぇぞ?
「なんだ、普通にしゃべれるのか。だったら最初からしゃべれっての。」
「黙れ! 最弱の勇者と出来損ないの魔王なんかに、私が負けてたまるものか!」
「さっきからこの女、私にばっか出来損ないとか言ってたけど、今度は零君の事を最弱の勇者なんて言うなんて、殺してもいい?」
ヤベェ…真莉亜がヒートアップしてる。
コイツを殺すのはまだ早いし、今は静めさせるか。
「落ち着け真莉亜。考えて見ろ。その最弱の勇者と出来損ないの魔王に負けたコイツが、悔しくて負け犬の遠吠えをしてると思うと、随分醜く見えるぜ。」
「負け犬の遠吠え……プフッww確かにそう見えるわねwww」
よかった、あっさりと沈下してくれた。
あっ、ヤバイ。
自分で言ってて笑いたくなってきたwww
「き…さまら……ッ! 邪神である私に向かって負け犬とは、殺されたいのか!!?」
「だってwww下半身ない人が言っても全然怖くもないもんwww」
「まあ、もう立てない時点で弱さが溢れ出てるから、そう思ってもおかしくないか。」
「でも零ちゃん、仮に邪神であるこれだけど、私としては全然そうには見えなかったよ。」
「多分産まれたて何だろう。だから神格も全く感じられなかったんだろ。」
てか照、今コイツの事「これ」て言ってなかった?
もう最早人間として扱ってねぇよ。
あ、コイツ人間じゃなかったわ。
「あぁ、確かに昔から全く感じられなかったですもんね。だとしたら失敗作なんですかね。」
「その可能性が大だな。」
皇が前からって言ってる事は、そうなんだろうな。
ホントにショックだな。
俺の記憶が正しければ、ないのは出来損ないって言ってたっけな?
あんま覚えてないんだよなぁ……アイツら以外は。
「このっ……カス共があああああああ!!!」
「はい、スパッと斬ります。」
残ってた両腕で何かしてきそうなので斬りました。
あーあ、これでダルマになっちゃったな。
かわいそうに。
こんな乙女の体を滅茶苦茶にして。
酷いと思わないのかしら!?
まぁ俺は思わねぇけど。
それにコイツはもう乙女じゃないな。
コイツもう数十年は生きてるだろうし、どっちかっていうとババアが正しいか。
「あぁぁ……くっそ……くそ……ッ!」
「てかお前さ。さっきから思ってたけど、俺の正体に気付かないのか?」
「ハァ……ハァ……な、何の事よ…?」
あっ、本気で知らないみたいだな。
うーん…どうしようかな。
どうやったら認識してもらえるか。
―――――…やっぱ、アレしかないよな?
「じゃあさ、これ言ったら理解できるかな。」
「さっきから……何を言って…―――」
「** ** **** ****** **」
「!!??」
あ、気付いたようだな。
顔がポンッ!って感じになってるし。
目なんか飛び出て来るんじゃないかって見開いてるし。
「そ…その言葉は……貴様……まさか……」
「気付いたようだね、愚妹。」
「貴様……ゼロ!!」
やっぱ、生まれたてはこっちが認識しやすいか。
俺も久しぶりだから少し発音とか間違ってないよな?
大丈夫だよな?
照たちの反応は……よし、大丈夫そうだな。
そんで真莉亜はさっぱりって顔してるな。
どのみち教えなきゃいけないし、問題なさそうだな。
「何故……何故貴様がここにいる!? 貴様は死んだのではないのか?!」
「あぁ、それ不正解。だって俺たちは役目を果たしたら、自分たちで“輪廻転生”をして別々の世界である時期まで待ってたんだよ。」
「なっ……は…?」
あぁ、完全に心折れたな。
まあ死んだはずの存在が、まさか別の世界で生きてたなんて思いもよらないよな。
女神サイドでも、照以外に他にいそうだし、その辺りは詳しく聞いていくとするかね。
「さてと、尋問って言うような事はほとんどしてない感じだけど、もう別にいいか。」
「あれ、もういいの?」
「あぁ。生まれたてなら別に詳しい情報は持ってないだろうし、どうせいなかった間の事を、お前たちから聞かないといけないしな。」
「それでいいの?」
「あぁ。あとはアイツと創造神を探して聞いてみる事にするよ。」
「そっか。それじゃあ、あとは好きにしてもいいのね?」
おう、ゲスイゲスイ。
仮でもアイドルがしてもいい顔じゃねぇ。
てかよく見たら、真莉亜も似たような顔してるし。
やめろ、そんな顔は許しませんわよ。
魔王と女神のゲス顔って、誰得だよ。
「や、やめろ……私に何をする気だ…!」
「何って、自分の胸に聞いてみな。すぐに分かると思うわよ。」
「でもどうせもうすぐ死ぬんだから、聞いても意味はないけどね。」
ジリジリと迫っていってる二人に対して、今更かって言いたいほどの恐怖の顔をしている黒ヤギビッチ。
これ、ここにいたら危険かもな。
「皇、二人の邪魔にならないように離れて見ようか。」
「そ、そうですね。」
とりあえず10mは離れたら大丈夫かな。
でも心配だし、念のため“絶対領域”も使っておくか。
飛んできた石で被弾はシャレにならないからな。
「積年の恨み―――」
「ここで果たすわよ!」
「や、やめろおおおおおおおおおお!!!」
パウウェスの嘆きを合図に、真莉亜が蹴りで上に挙げて、二人で魔力を一気に溜め込みだした。
どうやら、恨みは一発で終わらせるみたいだな。
あぁ……魔力の量がおかしいな。
多分今の二人、3,40000ぐらいの魔力を放つつもりだわ。
俺たちの位置はどうにかなりそうだけど、外に張ってある結界は終わりだな。
「「“闇光の怨念滅殺波”!!!」
真莉亜が闇で、照が光の魔力をこみあげて放った巨大な光線は、絶壊の一撃となってパウウェスに襲い掛かった。
「う…うわあああああぁぁぁぁぁ………!!」
腕も足も失ったパウウェスは、防ぐ事のできない攻撃を受けて塵となった。
そして破壊しかできなくなった光線は、結界を破壊し、天の彼方へと一直線に伸びていった。
ていうか、やっぱ結界は耐えきれなかったか。
そんでもって俺たちも防御に集中しておいてよかった。
放った光線の衝撃波で風圧がこっちにまで襲い掛かってきたし。
危うく大事故に遭うとこだった。
あっ、色欲の結晶核が上から落ちて来てる。
下にいる二人は気付いて無さそうだし、虚空で回収っと。
よし、これで俺のと含めて三つ目。
残り半分になったな。
「「ふぅぅ…――――スッキリした!」」
「さいですか。」
ホント、こっちにまで被害が行ってるのにも気付かないほど鬱憤が溜まってたなんてな。
これ、隣町にまで見えてるから事後処理が大変だな。
それに結界の件も……後で翠嵐さんたちにお礼を言わないとな。
「しっかし、宇宙に行く程の鬱憤を溜めてたとか、どんだけ溜め込んでたんだよ。」
「いや~ここまでとは思ってもいなかったんだよ。まあでも、終わり良ければすべて良しって言うじゃない?」
「いやこんな有様になってすべて良しにはならねーよ。」
辺り一面が瓦礫の山。
ここ少し前まで工場地帯だったのに、今となってはその面影すら残っていない。
これって、かなりマズいんじゃねぇかな。
この場合、誰が責任取るんだろうな。
まさか俺じゃねぇよな!?
あ、その前にトモたちのとこに行かないとな。
「みんなー!」
「「「「ん?」」」」
後ろの方から母さんを筆頭に、結界の外に送ったみんながやってきた。
てか母さんがあんな全力疾走してきてるって事は、来るな…アレが。
「さあ息子よ! 愛する母の抱擁を受けてくれたまえ!」
「嫌でござんす。」
ハグされる寸前で横に避けて回避し、母さんはそのまま地面にヘッドスライディングした。
ホント時々こうやってタックル気味の抱擁をしてこないでほしいわ。
前に一回くらって腰痛めかけたってのによ。
「零くん! どうして母さんの抱擁を避けたの!?」
「いや、人前でされるのは恥ずかしいお年頃なんですよ。」
「そ、そんな。それじゃあ母さんは、誰に抱擁すればいいの…?」
「照か華怜にしろよ。二人は避けないんだからよ。」
「それもそうね。照ちゃ――――ん!」
「叔母さ――――ん!」
俺の次に照をターゲットにしてハグをしに行き、照も受け入れるかのように二人でハグをした。
ホント、昔から変わんないよなあの二人。
「白崎君。」
そんな二人を見ていたら、翠嵐さんと夏奈、香織ちゃんも駆けつけに来てくれて、俺は翠嵐さんにお礼を言った。
「翠嵐さん。今回の結界の件、ホントにありがとうございました。」
「いいや、前に君たちに助けてもらった恩返しだと思ってくれていいよ。それに君たちには、これから協力をするって言ったからね。」
「それにしてもお兄さん、この惨状はどうするつもりですか?」
あぁ、やっぱり言っちゃうよね。
正直この有様をどうしようか考えてるし、地下の方は隠さないといけないしな。
その辺りは、母さんと先生に頼むしかなさそうだな。
「んんん……それについてはどうしようかねぇ……あっ、そういえば母さん、地下で猫を置いててくれてありがとね。」
「えっ、猫?」
「だって母さんが猫を召喚しててくれたおかげで、元となってたキノコの薬をぶっ壊す事が出来たんだからよ。」
「何言ってるの? 猫なんて召喚させてないよ。」
「……え?」
猫は召喚してない?
じゃああの時俺に近寄ってきたあの猫は一体なんだ?
それじゃあ先生……でもないな。
真莉亜も照たちも同じ。
だったらあの猫は一体誰のだ?
「それよりも零君、少し聞いていい?」
「? なんだ?」
「ジョルメと話してた時に言ってた事、あれって何て言ったの?」
あぁ…やっぱ気付くよなぁ。
仕方ないよな。
だってああでもしないと気付いてくれ無さそうだったし。
しかも俺の顔を見て気付かないって事は、多分生まれたてだったのかもしれないな。
まぁそれをもう本人には確認できないから意味はないんだけどな。
しょうがない、白状しますか。
「あの時俺が言った言葉は、女神とある神しか聞き取れない言葉なんだ。」
「女神とある神…―――――それってもしかして、邪神って事なの?」
「―――――――…ん?」
え、嘘? 知ってるの?
待ってそれは想定外。
もう知ってるなんて思わないし、もしかしてあの野郎言ってたのか?
いやでも、どのみち全部さらけ出すし別にいいのか。
「あぁぁ……ごめんけど真莉亜、この事についてはほとぼりが冷めてから話す事にするよ。今はこれからの事を考えていかないといけないからな。」
「ああ、だったらこの件については私がどうにかしよう。政府に話すなら、私が一番適任だからな。」
おお、それはありがたい。
確かに翠嵐さんは政府と繋がりを持ってるから、この件に至っては適材適所だな。
「翠嵐さん、政府への話はお願いしたいのですが…――――今回の異能での事件に至っては、政府のお偉いさんには公表するって形で頼んでいいですか?」
「え? どうしてなんですかお兄さん? 元凶を倒したのなら、すべて終わりなんですよね?」
「…いや香織、そうはいかないんだ。多分彼は、この事件は全部終わらないと思ってるんだよ。」
「え……そうなんですか?」
「――――――…あぁ、そうだ。」
元凶を倒せば終わり。
そんな都合のいい話なんてないんだ。
何故なら現に、俺たちの学校に加えて、洗脳から解放された異能者がいるんだからな。
本当の害悪を俺たちがやったとしても、それでも多すぎるんだ。
スコーピオンの下っ端や幹部と俺たちの学校を合わせると、少なからず1000人は下らないだろう。
「白崎君、この件については後日話し合おう。今は先に周りで倒れてる人たちをどうにかしよう。」
「そうですね。それにまだ地下でトモたちもいるので、とりあえずこれは置いておきましょう。」
それから俺たちは、その場の収拾をするために一度話し合いをやめて、別々で行動をした。
俺は一度夢の世界に行って全部話し、総動員で異能者たちを治療させるように指示を出し、地下に残ってるトモたちを回収したのち、みんなと一緒に怪我人の治療に勤しんだ。
今回は前の妖とは違い、世間に大きく出回る事になるだろう。
そしてこれだけは言える。
――――色欲は、この世界に大きな爪痕を残した。
ただ今は、それだけしか言えなかった。




