103話 狂王再臨
「この魔力は…!」
真莉亜たちと合流しようと進んでいた零は、突然感じた魔力を知ってて顔をしかめた。
「クソビッチが、ようやく顔を出したみたいだな。」
俺は猫を床に優しく置いて、真莉亜たちの魔力が感じれる場所まで走った。
真莉亜たちが色欲と接触したのなら、俺の庇護下にさせたアイツらと、真莉亜の魔王権限がある限り洗脳には耐性を持つから飲まれる心配はない。
問題なのは今感じ取れる魔物の数の方だ。
感じ取れてもBランクとAランクが300は優に超えていた。
「間に合ってくれよ。」
走り続けていたが、その答えを裏切るかのように大量の魔物が道を塞いで俺の邪魔をしていた。
――――邪魔はさせないって事かよ。
「どけよ。俺の歩く道を塞ぐな。」
俺が“魔王覇気”を出して威圧したが、まるで効いていないかのように魔物たちは一歩も動こうとしなかった。
多分色欲の洗脳で操られているんだろう。
そしてこの魔物たちは、恐らく人間だった者も混じってるんだろうな。
「…そうか。なら、一秒でも早く終わらせてやるよ。」
どのみち人間だろうと魔物だろうと、どっちにしたって救えないんだ。
だったら俺ができるのは、一撃で葬る事しかできない。
「光魔法、闇魔法……結合。」
右手に光を集め、左に闇を集め、その二つを合わせるかのように俺は重ねた。
その魔法は、過去に初代勇者が使ったとされる魔法で、歴史上でも未だに一人しか使えておらず、禁術の一つに指定されてる魔法だ。
「『暗黒星雲』…展開。」
俺の手には光と闇が交じり合った球体ができ、それを魔物に目掛けて放った。
そして俺は願おう。
ここにいる魔物たちが、来世で祝福が訪れてくれる事を。
「“天秤制定”」
その攻撃は、魔物たちにとっては恐怖でもあり、闇から解放させてくれる一撃でもあった。
それを見て、彼らの心は一つになった。
―――再び生まれた時には、彼の力になれるようになりたい。
それは彼に届いたのか、それとも届いていないのか。
その答えは、誰にも分からないままだ。
魔物たちは零の攻撃によって耐えられるものはおらず、痛みを感じずに死を迎え入れる事が出来た。
「……眠ってくれ。そして次に目覚める時には、お前たちに幸福があらん事を。」
床に落ちていた魔石を一つ残らず、大切に取っていって回収した。
色欲によって壊された人を祈って送り届けよう。
彼らが災いに二度遭わないように。
「…行こう。この悪夢を終わらせるために。」
俺は走った。
敵がいる場所に、その世界の悪と会うために。
それからしばらく道なりに進んでいると、巨大な反応が一気に襲い掛かってきた。
「…っ!? 反応が二つに……!」
走っている途中でいきなりまた大きな魔力反応がしだした。
しかも色欲よりも遥かに大きい反応だった。
「この反応……まさか…?」
突然現れた反応に覚えがあった。
いや、覚えている、過去に戦った魔王の彼女と同じ反応が。
「あそこか!」
近くになっていき、目の前に見えるドアの先に、彼女たちがいる事が分かった。
俺は聖剣を取り出してそのドアを切った。
斬撃による衝撃でドアが吹き飛んで行き、中に入ると、そこでは想像していなかった光景になってた。
「あれは…?」
俺が最初に見たものは、部屋全体に這い巡らされた巨大な鎖。
色欲を持って魔人になった黒幕。
そしてそれを圧倒的な力で捻じ伏せている真莉亜の姿だった。
その部屋の中には、大量に散らばっていた謎の人形の亡骸と、魔物の心臓でもある魔石が床に大量に散らばっていた。
そして何よりも、今の真莉亜の姿に対して目を逸らせなかった。
真莉亜の魔装は、炎のように赤々としたドレスではなく、俺と同じように闇に溶け込むかのような黒い軍服のような物を纏っていて、彼女が持っていた魔剣は、作った時よりもさらに禍々しさが増していた。
そして何よりも思っていたのが、真莉亜の出す覇気だった。
その覇気は、最終決戦の時と同じ覇気でもあり、俺が持ってる魔王の覇気とそのままだった。
「まさかあいつ……魔王に…!?」
「レイ様!」
「我が主!」
「リベル、それにアジュール。」
俺の側まで走ってきたリベルとアジュールは、何事もなかった俺を見て安堵していた。
「ご無事でよかったです。」
「俺の事はいい。それよりリベル、真莉亜のあれは?」
俺が真莉亜の今の状態について聞くと、リベルは申し訳なさそうに俺に言ってきた。
「マリア様は、再び魔王として再臨されました。」
「…! どうしてだ?」
俺は何で真莉亜がまた魔王になっているのか分からなかった。
何でまた過去に戻ったのかが分からなかった。
まさか、俺のせいで魔王に戻ると決めてしまったのか?
俺が弱いからか?
俺が今まで死を目の当たりにしたからか?
頭の中で邪念が渦巻いてしまい、どうにかなってしまいそうになった。
だけどすぐに、その邪念は消え去った。
「レイ様。決してあなたがマリア様を追い詰めたって考えは捨ててください。マリア様は、自分の意思で魔王になったのです。」
「…え?」
リベルの言った意味が分からなかった。
自分の意思で魔王に?
いや、そんな事よりも、何で真莉亜は魔王になる事が出来たんだ?
「レイ様、どうしてマリア様が再び魔王になったのかを教えます。」
今の状況がどうしてそうなってしまったのかは、今から10分前に戻る事になる。
**********
「はああああああ!」
真莉亜は全員に指示を出して行動させて、スキルを使った自分の脚力でジョルメに近づき剣を振った。
「無駄だよ。」
しかしあろう事か、横から来た人形に邪魔されてしまい、人形は魔剣によって両断されたけど、ジョルメには傷つける事は出来なかった。
「チッ……はああああああ!」
振った魔剣をすかさずもう一度振って当てにいこうとしたが、これも同じように人形に邪魔をされて当たらなかった。
「くっ…」
私は後退して距離を置き、今度は魔法で当てにいく作戦をした。
「焼き殺せ! “邪気を祓いし聖なる鳥”」
鳥の形をした炎をいくつも出して放ち、爆炎が起きて今度こそ命中したと思っていた。
しかしそれを裏切るように、ジョルメの前に魔物が数体、肉壁の役割をしたかのように守っていて、魔物たちは灰になって魔石を落として消滅していった。
「どういう事? 何でさっきから魔物や人形が邪魔を?」
そんな事を思っていると、向こうは笑いながら私を見てきた。
「全く惨めなものね。色欲の力を使えば、敵を操るのも容易いのよ。」
ジョルメの言葉に、私はハッとなった。
彼女の力は色欲であり、最強の精神支配の力。
だったら今の人形や魔物が、肉壁のような役割をさせていたのも納得がいけた。
「だったら、これはどうだ!」
私は闇を展開させて、自分の真下の影が膨れて、周囲に巨大な黒い波を出現させた。
「飲み込め、黒波!」
影によって作られた黒い津波が襲いかかり、今度こそ当たると思っていたが、黒い波はジョルメの前でピタッて止まった。
「えっ……?」
「馬鹿だよね。さっき言ったじゃない、神徒って。」
黒い津波はなかったかのように形を変えられ、そのまま自然落下していくかのように地面に吸い込まれていった。
……嘘でしょ。
神徒って闇を防げる力って持ってるの!?
いやそれよりも、これってマズイ状況だよね。
「それじゃあ、私の駒も他の奴らにやられているし、私も最初から全力でいてしてあげるわ。」
ジョルメは椅子から立つと、奴の後ろに大量の術式が現れて、そこから一気に火球が雨のように降り注いだ。
てか、あの火球の量はヤバイ!
全員を守ろうにも、距離がありすぎて囲う事が出来ないし、万が一できたとしても、人形や魔物も一緒に守ってしまうから意味がない。
「だったら、“支配海城壁”」
全部を水に沈めてしまえば、火球を防ぐ事が出来るし、人形や魔物に襲われることはない。
ただ問題なのは、みんなも一緒に巻き込んでしまっている事だ。
「皆さん、気を付けてください!」
「うおっ! マリアの魔法なのか?」
「まぁ、すごいですわね。」
「マリアさんの水魔法、私と同じかそれ以上かも。」
リベルの声で全員が私の水魔法を認識してくれて、それぞれで防ぎながら水を回避していた。
自分でやったから言うのもなんだけど、ホントにごめん。
後でみんなにはちゃんと謝っておこう。
「成程、水を浸かって私の火球を全部防いで、おまけに人形や魔物を動けなくさせるなんて、少しはやるようね。」
「生憎、私はアンタに恨みを持ってるからね。簡単にはくたばらないつもりよ。」
「恨み?」
ジョルメは思い当たる節がないのか、首を傾げて考えてた。
さっきからずっと気になってたけど、向こうは私が誰何か分かってないみたいだな。
恐らく転生をミスさせたけど、誰が転生されたかとかは分かってないのかもしれないし、これはある意味好都合かもね。
「分からないなら思い出す前に仕留めるわ。“王の悪食”」
私は闇と“武器錬成”で大鎌を作り上げると、それをジョルメに向けて振りかざした。
今度は人形や魔物が使えなかったから、大鎌が当たる前に避けた。
「ようやく、ふんぞり返ってた椅子から動いたわね。」
「なめるなよ小娘。私がまだ全力を出してないのは分かっているのでしょう?」
「そうだね。だから早く本気になりなさいよ。」
カッコつけて言ったけど、ぶっちゃけこれ以上本気になってもらったらかなりきつくなるんだよなぁ。
零君が来てくれたらありがたいけど、反応が遠い限り難しそうね。
「ならお望み通り、私の本気を見せてあげるよ。」
そう言った瞬間に消えて、私の首を持って壁にぶつけた。
「こほっ…!」
「マリア様!」
「よそ見なんてしていいのかしら?」
「なっ……くっ…!」
「リベル!」
「リベル殿!」
リベルが真莉亜の心配をしている隙に、ジョルメはリベルの後ろにまわって蹴り飛ばした。
他の二人も何とか助けに行こうとしたが、人形や魔物に邪魔をされてそれどころではなかった。
(一撃とか……シャレにならないわね。)
壁にめり込んだ真莉亜は、体を動かそうと必死になったが、さっきの攻撃のせいで頭が揺れてしまい、どうする事も出来なかった。
「あらあら〜、さっき本気でって言ったのに、ワンパンで終わりなの?」
「へっ…元神の使いであるアンタが、こんな事をやってて随分楽しそうね?」
「だってそうでしょう。私は元からあの神に仕える気なんてなかったのよ。」
「――――は?」
私は言ってる意味が分からずにジョルメを見た。
そしたら向こうは、嬉しそうにしながら話し出した。
「私はこう見えて、ある神から産み堕とされた存在なの。でもその神様はね、創造神と女神、それに裏切ったアイツらによって封印されたの。だから私は、その神様の封印した奴らに復讐を計画していたの、産まれてからずっとね。」
さっきから意気揚々に話しているけど、私にはさっぱりだった。
ある神に産み堕とされた?
それに封印って、一体何なの?
「さっきからずっとしゃべってるけど、優越神を貶めた意味が全くないんだけど?」
「あぁ、そうだったわね。答えは単純よ―――――そこに居合わせただけ。」
「…は?」
「だ・か・ら。ただ居合わせただけで、特に意味はないわよ。」
「…は?」
つまりこうか?
私はこの女の勝手な都合で魔王にされて、加えて照ちゃんをあんなに追い込ませたという事か。
……この女は…
「まぁなんかその後勝手にいなくなったけど、私にとっては心底どうでもいいけどね。」
……この女は…
「まぁそういう事だから、私の邪魔をする為に来たんだから、ここで死になさい。」
ジョルメは真莉亜にトドメを刺さんと言わんばかりに、手刀の突きで息の根を止めにはいった。
「マリア様!」
「マリアさん!」
リベルとアジュールが何とかして駆けつけようとしたが、それを裏切るかのように真莉亜はジョルメの手をあっさりと受け止めた。
「……え?」
「ぶち殺し確定だ。」
そういって真莉亜は、ジョルメがトドメを刺しに来ていた手刀の手をボッキリと折って、そのまま蹴飛ばした。
「ごはっ…!?」
急に飛ばされたジョルメは、腕の痛みを抑えながら、今起きた事を必死に理解しようとした。
「ぐっ……な、なんで…?」
「もう我慢の限界よ。リベル、悪いけど零君が来たら説明しておいてね。」
「マ…マリア様…まさか…」
リベルは何かに気付いたみたいで、それを止めようと思ったが、あのジョルメが自分の主人を魔王に転生させたと分かったのか、もう考えないで自分の意思をはっきり言った。
「分かりました。ですがマリア様、レイ様を苦しめないように後で一緒にお願いします。」
「…ふっ、わかったわ。大切な従者の頼みだもの。」
そうだよね、もう私は独りぼっちじゃない。
大切な従者と、自分の好きな人や親友を傷つけないためにも、私が過去を何時までも引っ張っている訳にはいかないものね。
ごめんね零君、私はみんなを悲しませないために、もう一度過去の自分を受け入れるよ。
「術式展開。」
真莉亜の声と同時に、足元に術式が展開されて、そこから大量の魔力が彼女を覆うかのように渦巻きだした。
「第一、第二セーフティ解除。封印術式…マリアベル解錠。」
その術式は、女神が何かあった時のために、彼女の過去を封印させており、本人の許可が下りれば何時でも封印は解けるようにしていたのだ。
「ジョルメ、さっきアンタに恨みがあるって言ったけど、これでも分からないかしら?」
「この魔力、この反応……まさか、魔王マリアベル!」
ジョルメもようやく彼女の正体が分かったみたいで、今相手している彼女が、過去の自分のやった転生者だって事に気付いたみたいだった。
それを目の当たりにしたジョルメは、頭の中が混乱していた。
(何で彼女がここに!? いやそれよりも、どうして彼女がまた人間に転生して……ま、まさかあの女神たちがまた彼女を転生させたのか!?)
そんな事を考えている暇も与えないかのように、真莉亜の攻撃がジョルメを襲いだした。
「くっ…人形…ぐはっ…!?」
色欲のスキルで人形を呼び寄せようとしたが、人形はすでに全部壊されてあり、魔物も全部魔石に変わっていた。
「覚悟しなさいクソビッチ。私の積年の恨み、ここで全部晴らしてもらうわ。」
今ここに、魔王マリアベルが再臨した。
そして魔王は、過去の恨みと愛する人の家族を苦しめた存在に、鉄槌を下さんとしていた。
え? 魔王が二人いるのはおかしい?
細かいのは気にしない気にしない(ヾノ´°ω°)




