102話 堕ちた者
「あーも当たれよ!」
「アハハ! 当たんないよ~」
「はあああああ!」
「んっふふふふ、太刀筋はいいわね。」
私とトモは、一体何を見ているのだろうか?
今目の前では、スコーピオンの幹部であるE2とE3と互角で戦っているようにしか見えなかった。
E3の攻撃を難なく避けているアストレアさんと、E2が高速で振ってる剣をいとも簡単に弾いて観察している先生を見ていて、この二人は私以上に強いんじゃないのかって思ってしまっている。
「トモ兄、もしかしてこれって…」
「あぁ、もしかしなくてもだ。」
トモも来斗も気付いたみたいだね。
私たちは、最強の助っ人を味方につけたみたいだ。
「ちょっと、何でさっきから当たんないんだよ!?」
「簡単だよ。君の攻撃が私より低いからだよ、少年。」
「は? 何それマジうざっ。」
E3は舐められているのにイラついたのか、顔をしかめて睨みだした。
それを見ていたアストレアは、逆に顔をヘラヘラしてE3を煽りだした。
「あ、怒った? 駄目だよ少年。いちいちそんなのに怒ってたら、大きくなれないぞ☆」
「あぁ?」
やめて! もうやめて!
さっきから殺気を出してるんだから、それ以上煽らないで!
もうさっきからトモもそうだけど、来斗と穂花も顔を青褪めているから、これ以上私たちの肝を冷やさないで!
「まぁそっちが本気を出さないなら、こっちから本気だっしちゃうぞ。」
「あぁ、さっきからうっせんだよ。死ね!」
「はいガード。」
アストレアさんは盾をどこからか出して防御すると、E3に一気に近づいた。
「足でドーン!」
「ごふっ!」
アストレアは強力な足蹴りでE3のお腹を蹴った。
それをまともに受けたE3は一気に飛ばされて行って、奥の壁にぶつかったのか、遠くで大きな音がした。
「それじゃあ、私は飛んで行った少年を相手してくるから、そっちはお願いしますね。」
「いいですよ。どのみち彼が援軍を呼んだみたいですし、こっちは任せてください。」
アストレアさんは背中に生えた羽をはばたかせて、そのままE3の後を追いかけていった。
「E3が…ただの足蹴りで飛ばされた…?」
「余所見してるなんて余裕そうですね。」
「しまっ……ぐぼほっ…!?」
E2は先生の回し蹴りで横腹に受けてしまい、そのままダウンしてしまった。
「ぐっ……貴様…!」
「はいはい動かないでね。今から解呪してあげるから。ほい。」
「なっ…これは…ぐおおぁぁぁぁぁ!!」
先生はE2の顔に手を置いて発行させると、E2が突然苦しみだした。
え? てか、あれって何?
「や、やめろ! そんな解呪を使ったら呪いがあぁぁ……アフン…」
E2は力を無くしたかのように項垂れて倒れてしまい、先生はそれを支えるように担いで壁に座らせた。
……え、終わり? 勝ったの?
「えっと先生、E2は?」
「大丈夫よ。色欲の洗脳で操られていたから解呪させてあげたから、もう襲ってこないと思うわよ。」
「あ…そうですか…」
なんかあっけなく終わってしまった。
私たちのこれまでの苦労は一体…?
「あー! もう終わってるー!」
「どうやら援軍必要なかったみたいですね。」
「……ん?」
後ろから高速で何かが迫ってくるのがわかって振り向いてみると、物語に出てくるようなドラゴンの羽を尻尾を持った女の子が二人やってきた。
「あら、やっぱりあなたたちが援軍に呼ばれたのね?」
「も~う! せっかく本気で遊べると思ったのに~!」
「こらアリア、この前レイさんの特訓でやったから我慢しなさいよ。」
「でもせっかく呼ばれたら体を動かしたいじゃなーい!」
「そうでけどさ、元々この世界は前の世界と違って平和なんだから、争いがそんな簡単に起きたりしないんだよ。」
なんかおっかない話をホイホイしてるけど、そこじゃない。
なんかついていくのに疲れてきたっちゃなぁ…
「そういえば、E3はどうなったの!?」
「…はっ、そうだ! まだアストレアさんが戦っているはずだから、応援に行かないと!」
「終わったよ~」
「「え?」」
いつの間にか戻って来ていたアストレアさんは、気絶しているE3を引きずって壁に置いた。
「随分と早かったですね?」
「いや~たった一蹴りでバタンキュ~するなんて思わなかったからさ、仕方ないから洗脳を解呪して戻してあげたわ。」
「そうですか。でしたらもう問題なさそうですね。」
「「う、嘘でしょ(だろ)…?」」
まさかスコーピオンの幹部がこんなにあっさり負けるなんて……
もう嫌だ…こんな非常識の空間……
「ぶぅぅぅ…こうなったら外に出て戦える人探そー!」
「あぁ、ちょっとアリア!」
アリアと呼ばれたドラゴン娘はそのまま天井を貫いて外に出ていき、それを追うかのようにもう一人のドラゴン娘も天井の穴に入っていった。
「どうしましょうか?」
「うーん…とりあえず異能者と戦いつつ、他の部屋を手あたり次第開けていきましょうか。」
「あぁでも、この二人、どうしようか?」
アストレアさんは気絶している幹部の二人を指さすと、先生は少し考えて二人を抱えて小さな黒い空間を出して、その中に入れ込んだ。
「とりあえず解呪しても記憶は残ってる可能性はあるでしょうし、このまま私の“収納庫”の中に入れておきましょうか?」
「そうだね。それじゃあ他の部屋に向けてレッツゴー!」
そう言ってアストレアさんはピクニック感覚で進みだして、それを追うかのように先生も歩き出した。
「ねぇ…トモ、私たちのこれまでってなんだったろうね…?」
「さぁ……なんだったろうなぁ…?」
さっきの戦いを思い出しながら、重い足取りで二人の後をついて行く私たちだった。
**********
≪彩音サイド≫
「どおおぉぉぉぉりゃああぁぁぁぁ!!」
破壊行動をして囮役をしている5代目一行は、幹部か下っ端かわからないけど片っ端からレーヴェが倒していってるため、サクサクモードで解呪を行っていた。
「レーヴェちゃーん、そろそろ止まっていいわよー」
彩音の言葉で止まったレーヴェは、さっきまでイライラしていた顔はなく、スッキリしたかのようなすがすがしさで満足していた。
「ふぃ~ひっさしぶりにいい汗が掻けたぜ!」
「あ、あのレーヴェさん、タオルをどうぞ。」
「おう、悪いなルナ。」
レーヴェはルナからタオルを受け取って汗を拭いていると、さっきぶっ壊した穴にまた別の部屋に繋がっていたのに気付いて、その穴に近づいた。
「…おい、この穴地下に行ける階段があるぞ。」
「ん? 本当ね。さらに地下があるみたいね。」
「どうされますか? 念のために某が先に向かいましょうか?」
どうしようかな~
このままシグレちゃんを向かわせてもらうか……いやでも、念のために私も向かっておこうかな。
「いいわ、シグレちゃん。休憩がてらに行ってみましょう。」
まぁどうせ零くんが後から探していくだろうし、お母さんが仕事を減らしてあげますか。
そんな事を思いつつ、さらに地下に進んでいくと、そこには休憩ではすませれない光景があった。
「な、なんだよこれ…?」
「あれって、全部人が入ってますよ。」
その光景は、左右に巨大なカプセルのような物がぎっしりあって、その中に人が入って眠っていた。
「この中の人、全員生きてます…!」
「昏睡状態か?」
「み、皆さん、ここに書類みたいなのがあります!」
ルナが一枚の紙を見せてくると、そこにはこう書かれてあった。
「『人類魔物化計画』……ですって?」
「オイオイ、これってマジかよ…」
内容も明確に書かれてあり、カプセル内の人間を使って自我のある魔物を作り上げると書いてあり、その内容を見て全員が恐怖を覚えていた。
「この内容から見て、ここにいる人間が実験台みたいね。」
「この中に入ってる人を全員で助けるわよ! 全員で協力して!」
彩音の言葉で全員が一斉に行動を開始して、カプセルをどんどん壊していき、一人一人の安否確認をしていった。
「母上殿、全員無事でございます。呼吸も安定しております。」
「そう、よかったわ。」
シグレの言葉で安堵した彩音は、全員分の体を覆える布を作り出していって、全員にそれを着させてから、結界を張った。
「ここにいる人たちは一旦これで安全ね。後は零くんや他の誰かに頼んでもらうしかないね。」
「でしたら、某が分身で外に伝達を行いましょう。」
「できそう?」
「分身でしたら四,五人はできるので、最大まで分身を作って外に連絡させましょう。」
「お願い。できるだけ早めに頼んで。」
「招致。」
シグレは一斉に自分の分身を出現させると、一斉に外へ向かっていき、見張り役でルナとエミリアが残ると言って、彩音とレーヴェは二人で行動する事になった。
「人間を魔物化ね……随分と趣味の悪い事をしているのね、色欲を持った人間は。」
「正直、人のやる事ではないです…!」
いつもオドオドしているルナが本気になって怒っているのを珍しく見たエミリアは、ルナの頭を撫でながら同じ気持ちで思っていた。
「早く平和な時間に戻したいわね。」
「…はい。」
寝ている人たちを見ながら、二人は応援が来るのをただ待ち続けた。
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≪零サイドin真莉亜≫
「大分先に来たわね。」
「途中に幹部が出たくらいで、あとは特に何もなかった。」
「後ろの方で地響きがなってますけど、我が主が何者かと戦っているのかもしれませんね。」
彼女たちが進みだしてから後ろの方で零が戦っているのが分かって、すぐに戻ろうとしたけど、アジュールが邪魔をしないようにさせるために先に行かせたのだろうと言って、真莉亜を説得させて、今の状況になっているのだ。
そのまま進んでいってると、幹部と見られるE1といった人物がいたけど、特に何も苦戦するような状況はなくあっさりと終ってしまい、それ以外は何も進展などはなかった。
「零君、大丈夫かな?」
「心配はないと思うぞ。マスターは魔王になってまで私たちを信じてくれたのだ。私たちはただマスターを信じよう。」
真莉亜はかつて奇襲をされて命を失いかける戦いを二度知っていた。
二度あることは三度あると言った言葉の通り、また命に係わる戦いをしてしまうのではないかって思ってしまっていたが、彼を信じる事を選んで進む方を選んだ。
「ねぇ…この先に何かいるよね?」
「いますね。しかもかなりどす黒い何かが。」
「もしかしなくても、色欲で決定でしょうね。」
「…行きましょうか。」
進みにつれてそのどす黒さは増していき、ドアが開くとその正体が明かされた。
その部屋はかなり広く作られていて、正面には巨大なスクリーンがいろんな場所を映していた。
「ようこそ、スコーピオンの本陣へ。」
画面を見ていた一人の女性が椅子に座っていて、こっちを向くと同時に魔人の持つ魔力を漏らして威圧を掛けてきた。
(気持ち悪い覇気ね。気分が悪くなりそう。)
真莉亜は零と同じで色欲が嫌いだからこそ、漏れ出している魔力で顔をしかめた。
「アンタがここのボスみたいね。」
「そうよ。私がスコーピオンのボスであって、パラディエス最高神の一柱、優越神フォルトナの神徒のジョルメよ。」
スコーピオンのボス、ジョルメはそう言って舌を舐めて言い、その眼はまるで獲物を狩る獣のような眼をしていた。
しかし彼女は、ジョルメの表情よりも聞き捨てならない言葉が出たのに意識が向いていた。
「優越神フォルトナ……ですって?」
「それって、もしかして…!」
真莉亜とシルヴィアは優越神の正体を知っているからこそ、“白崎照”の元神徒だって事に驚いていた。
「アンタ、もしかして優越神を裏切ったの?」
「本当は少し違うけどね。まぁでも、あの女神の転生を少しだけずらして、一人の少女を魔王にさせてあげた張本人であるのは合ってるわね。」
ジョルメはそう言って顔を歪ませるかの勢いで笑い出した。
それとは正反対に、真莉亜は全身の血が沸騰しそうなくらい怒りを覚えてた。
何故なら彼女の前世の元凶でもあり、白崎照を陥れた張本人が目の前にいるのだから。
(落ち着け、怒りに任せてやるのは違うわ。何を言われても冷静に、相手に隙を作らせない戦闘で勝ちに行くわよ。)
真莉亜は“収納庫”から魔剣を取り出して、魔装を展開させた。
しかし彼女の魔装が前と違っていたのに気付いたサヨリは、真莉亜に問いを投げた。
「…ん? マリア殿、その魔装は…?」
「新着にしたわ。いつまでも過去を引きずっても意味はないからね。」
前の彼女の魔装は、それこそ魔王時代に来ていた紅いドレスだった。
しかし今の彼女は、前の魔装の面影は一切なく、黒い軍服のような衣類を身に纏っていた。
(新しく作った魔装、今日までに間に合わせる事が出来て良かったわ。)
彼女は照の正体を知った後の特訓の前からずっと、過去の意思を少しでも捨てるために特訓を続けていたのだ。
そして何よりも一番、それを引きずってた魔装を新しく変えようと、リベルや夏奈に付き合ってもらいながら黙々と魔装を変えていき、つい最近になって、今の魔装を完成させたのだ。
「まだ零君が来てないけど、先に始めさせてもらうわよ。クソビッチ!」
「ふふふっ。威勢があるのはいいけど、私一人だけじゃないからね。」
ジョルメの指パッチンが部屋に響き渡ると、壁から大量の人形が現れて、ドアからは様々な魔物の集団が部屋に続々と入ってきた。
「オートマタ。ドワーフが作ってた戦闘用の人形だ。」
「魔物の方は多分……全員元人間かもですね。」
「さーて、この数をあなた達で凌げるかしら?」
彼女は椅子に座りながら笑っており、彼女自身は動かないようだった。
(ホント、舐め腐ってるわよね。自分は高みの見物ってか。)
真莉亜は大きく息を吸って吐くと、その場にいた全員に指示を出した。
「零君の代わりに指示をするわ! リベルとアジュールは人形を! サヨリとシルヴィアちゃんは魔物を任せるわ! 私はあそこで踏ん反り返ってるクソビッチの相手をするわ!」
「分かりました!」
全員に指示を出した彼女は、自分の切り札である『魔王権限』を使って全員の士気を一気に高めた。
「戦闘開始!!」
『了解!』
過去の自分の元凶である敵を逃さないというかのように、彼女はジョルメに向かって突っ込んだ。
それを合図に、他のみんなも行動を開始して、色欲との戦いが今始まった。
今更思ったけど、魔物ってどんなのがいるのか全然分からん!!(ドーン!)




