99話 真夜中の進撃
「ちょっと二柱とも、何処にも行かないから離れてよ。」
「ダメよ。どうせまた会えなくなるのだから、しばらくこのままにさせて頂戴。」
えっと……今の状況を簡単に教えるとなると、泣き止んだティファニスさんとクロノア様が照から一向に離れなくなってしまいました。
えっ……何でそうなったかって?
照が神界にまた何時来るのかが分からないから、今のうちに不足していた神友のエネルギーを貯めておきたいっていう事が引き金になってしまい、今に至るのだ。
「ねぇ……もう20分も経ったんだからいいでしょう…!」
「まだだ。たとえ十数年と神にとっては短い時間であっても、親友と突然の別れをした私たちにとっては長すぎる事なのだ。」
「―――――――本音は?」
「「事が大きくなる前に先に摂取しておきたいのだ。」」
「だと思ったよ!」
あぁ…まぁ確かに、十数年いなくなってしまった女神が突然帰ってきて、それが神界全土に広がってしまったら、まともに話せるようになるのは何時になるのかなんて分かんねぇもんな。
だったら今のうちにできる限りのエネルギーを摂って、しばらくは摂取しなくてもいいような状態にはさせておきたいもんな。
「それにしても照……どんだけ女神を誑し込んだんだよ…」
「私を女誑しみたいな言い方はやめてくれる! というか零ちゃんだって勇者だったんだから、女を誑してたりしてたんじゃないの!!」
「い~や別に。俺は男女関係なしに人助けをしていたから、お前みたいに女だけを救ってた訳じゃなんだぜ。」
「じゃあ何で従者のほとんどが女の子なんだよ!」
「奴隷を助けたり従者になるのがたまたま女の子だったんだよ。仕方ないよ。」
「嘘つけぇ―――――!!」
いやこればかりは本当の事なんだよなぁ。
盗賊や人攫いが攫っていた人もそうだけど、エルフや獣人の大半が女の子だったのは本当で、ほとんどが娼婦にされたり奴隷にされたりと、女として売られるのが多かったから、助けたのが女の子ばっかだったのは仕方のない事なんだ……だから俺は女誑しじゃない!
「まぁこんな事に付き合ってる時間も惜しいから、さっさと俺がここに来た理由を話そうかな。」
「そういえば、零ちゃんは神界に用があったからここに来たんだよね?」
「そうだ。こればかりは神界にいる最高神、しかも今信頼出来る女神にだけ話さないといけない事だからな。」
「それって?」
「……ここにいる最高神たちには先に言っておきますけど、俺は……『外側の歴史』について知っている。」
「「「!?」」」
「さらにもう一つ言うなら、俺はある神の記憶も微かに持っている。」
「「「……!」」」
俺の言った言葉で理解したのか、さっきまでの雰囲気が一変して緊張が走るかのような空気になってしまった。
「さっきの名前を呼び方といい、私を見た眼といい……まさかお前……『ゼロ』か…?」
「――――今は違う。だけどそう思ってくれていい。話したい事は山ほどあるが、俺がここに来た理由は、虚空の神格を回収しに来ただけですから。」
「回収?……理由を聞いてもいいか?」
「……聞かなくても分かるでしょう? あんた等が仕留めきれなかった『あの神』との決着までに、完全な状態にさせておきたいからですよ。」
あの神と言った事でようやく理解できたのか、クロノア様と照がハッと思い出したかのように真剣な表情になった。
だけどティファニスさんは思い出したかのように俺に聞いて来た。
「あの時レイさんが言ってた言葉で分かっていましたが、やはり『彼』が教えてくれたのですね。」
「……正確には、伝言として伝えられたんですけどね。何せ俺に教えてくれたのは、初代勇者なのですから。」
「初代勇者……だと…?」
初代勇者という単語で真っ先に驚いていたのはクロノア様だった。
一番先に彼女が反応したのはおかしい事ではないのだ。
何せ彼女が初代勇者に加護を与えてサポートなどをしており、最後の結末を彼女だけが見送っているからだ。
「まさか……お前の憤怒の中に…あいつの魂が…?」
「はい。」
「……あいつは…私を恨んでいたか?」
「さぁ? それは知りません。ですがあの人は、あなたに恨みは持ってなさそうでしたよ。」
「………そうか。」
クロノア様は俯いて悲しそうになってたけど、俺は時間がないからそれを放って話をつづけた。
「時間がないんで大雑把に言いますけど、これから俺たちは色欲が作った組織に夜襲を仕掛けるので、早めに過去の俺の神格を取り込んで、体になじませておきたいんです。」
「わかりました……ですけどいいのですね? 過去に戻っても…?」
ティファニスさんは俺に覚悟があるかどうかを確認してくるかのように聞いて来たけど、そんなの…当の昔からできてるんだよ。
「構わない。ただ記憶が完全に戻った時には、今のように礼儀正しい言葉はないと思ってた方がいいですよ。」
「――――そうね。それほどの事を……彼にしてしまったのだからね。」
ティファニスさんはそう言って悲しそうな顔をしたけど、一瞬で気持ちを切り替えて、懐から一つの球体みたいなものを取り出した。
「これが、かつて私たちと戦った戦友の持ってた神格……『虚空』の神格よ。」
そう言って渡してきた神格を俺は手に取って、それを何も考えずに口の中に入れて飲み込んだ。
「―――――…うっ…! くかぁ……おぇ…」
急に神格を取り込んでしまったせいか、激しい吐き気を眩暈に耐えきれなくなって膝をついた。
「零ちゃん、大丈夫?」
照が横にやってきて俺の顔を窺って来たけど、俺は手で静止させて呼吸を整えた。
「はぁ…はぁ……あぁ、大丈夫だ。いきなり取り込んだから、一瞬だけ拒絶反応があっただけだ。」
「この後の夜襲は行けそう?」
「もう収まったから、心配する必要はない。それより、お前はどうするんだ?」
「どうするって…?」
「神格だ。お前は元々優越神フォルトナであったからこそ、拒絶は一切なしですぐに扱えるはずだ。」
「あっ………」
照は自分がまた女神になっていいのか迷っているかのように固まってしまった。
大方、また自分が失敗してみんなに迷惑をかけるような事をしたくないとか、人間から神になってしまったら、みんなから距離を置かれてしまうんじゃないかとか思ってたりするんだろうな。
(仕方ない。みんなの代わりに、俺が代弁してやるか。)
俺はその場から立って照の頭に手を置いて声を掛けた。
「心配するな。俺も今は過去の神(仮)みたいなもんだし、あいつらはお前が急に女神になったとしても、誰もお前から距離を置いたりしねぇよ。」
「でも……また何かあったら…」
「気にすんな、その時は俺も一緒に背寄ってやるよ。何せ俺はお前の従兄弟なんだからな。」
「っ! ……うん、ありがとう。」
照は俺の言葉で決心したのか、ティファニスさんの前に行って抱き着いた。
えっ待って……何で抱き着いたの?
いきなり抱き着いたからか、ティファニスさんもだけどクロノア様も皇たちもポカーンってなってしまってるんだけど。
「えっ……な、何で…?」
「ティファニス、もう大丈夫よ。私はもう自分を捨てたりしないし、みんなを悲しませたりしない。だから、だから……頼んでいいかしら?」
「…やっと、帰って来てくれたのね。」
「ティファニス、これから神界は慌ただしくなりそうだな。」
「ふふっ…そうね。」
ティファニスさんはそう言って笑うと、もう一つの輝かしい球体を懐から出して、それを照に渡した。
「この日を境に、優越神フォルトナにまた戻るわ。零ちゃんも、それでいいね?」
「あぁ。お前の選択肢に従うよ。」
照の眼にはもう迷いはなく、ティファニスさんから貰ったかつての自分が持ってた優越神の神格を、躊躇わずに取り込んだ。
「―――――――。」
「…神格が照に馴染んでいこうとしているな。」
「十数年……短いようで長かったな。」
「そうだね。しばらく神界は、彼女の復活で興奮が抑えられないでしょうね。」
ティファニスさんとクロノア様が懐かしそうにしながら笑い合っていると、照の神格が完全に馴染んだのか、何もなかったかのように目を開いた。
見た目こそはあまり変わっていないが、その表情には自信が満ち溢れているかのような顔をしていた。
「十数年間、待たせたわね。」
「全くだ。お前には色々と迷惑をかけ過ぎだ。」
「まぁまぁ…そのくらいにしておきなさい。それでフォルトナちゃん、これからは神界に居るようにするの?」
「ううん、しばらくはまだ人間として地球に暮らすわ。神格は取り込んだけど体はまだ人間のままだし、零ちゃんの協力をしていくから、もう少し先になるわね。」
おっ、どうやらそのまんま地球にいるようだし、これから協力的になってくれるのならありがたい。
ぶっちゃけこれから戦いの激しさも増していくと思うし、俺や真莉亜もどこまで通用するかどうかなんてわからないから、戦力が増えるのは万々歳だ。
「そうだな。まだ大罪の悪魔が残っている以上、それがすべて終わってから喜び合った方がいいな。」
「またしばらくは会えなくなっちゃうのか……もう少しだけ抱き着いてもいい?」
「それはもう勘弁して。それに神格を持ったから何時でも私と零ちゃんは神界に来れるんだし、定期的に会いに行くから、他の最高神のみんなにも言っておいてね。」
「わかった。他の奴らにも言っておくよ。」
「それじゃあ、用は済んだので、俺たちはこれで失礼します。」
「あぁ、二人ともちょっと待って。」
俺たちがその場を後にするため踵を返そうとしたらティファニスさんが俺たちに声を掛けてきて、俺と照は何だと思い振り返ると、二柱は嬉しそうな顔をしながら言ってきた。
「「おかえりなさい。」」
「「……ふっ…ただいま。そんで行ってきます。」」
俺たちがお互いに見合ってから笑ってそう言うと、向こうも笑って俺たちを見送ってくれて、これから色欲との戦いに向けて歩き出した。
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「「ただいま~」」
「ただいま戻りました。」
「零君、それに二人も、一体どこ行ってたの……って…!」
時間を見たらどうやら夜襲まであと少しだったみたいで良かったけど、真莉亜は俺たちの中にあるものにいち早く気付いたみたいだな。
まぁ隠す気にはならないから、さっさと教えてやるか。
「その表情から察するに、気付いているみたいだな。」
「うん……それって?」
「照の場合は優越神の神格を取り込んだからだけど、俺の場合は……まぁそれに近いって感じかな。」
「……大丈夫なのよね?」
「心配しなくてもいいよ。俺には害はないから。」
「――――――そう。」
あぁ…これは完全に心配している表情だな。
いや、それもそうか……なんせ俺はこの数日で色々と変わってしまっているし、心配も多くさせてしまったんだ。
(もう悲しませるのはごめんだな…)
俺は何も考えずに真莉亜の頭を撫でて、心配させないように笑った。
「大丈夫だ。これが終わったら、みんなには全部教えるからさ。」
「……わかった。」
納得してくれたみたいだし、とりあえず先発陣のメンバーの様子を伺ってみるか。
「待たせたな。準備のほうは大丈夫そうか?」
「レイ様、先に行かれる人たちの準備は整っております。何時でも行けるそうです。」
「よし。それじゃあ行動開始だ。」
そう言って日本に戻ってからすぐに自分の力になった“虚空門”を使って、約束していた場所に移動をした。
「はい、到着っと。」
俺が合流する場所に選んだのは、博士たちが拠点もしている最寄りの駅の前だ。
理由としては簡単で、ここから敵の拠点まで近いし、何よりバレずに集まれる場所だからここに選んだ。
「すごい……こんな簡単に移動できるなんて…」
「これが零ちゃんの持った力よ。見た感じまだ本調子みたいじゃないけどね。」
真莉亜は感心してるみたいだけど、やっぱりまだ力が体に馴染んでないな。
門の方は最初から使えたから問題は無いけど、他はまだやめておいた方がいいかもな。
「おぉ、来たみたいだな。」
声と一緒に暗闇の中から俺たちの前に現れたのはトモだけで、どうやら先に来て準備していたみたいだった。
「悪ぃトモ。待たせたか?」
「いや、大丈夫だ。少し前に会長たちも合流したから、時間は問題ねぇぜ。」
「そっか。そんじゃあその場所まで案内よろ。」
「はいよ。」
トモの案内によってやってきたのは、今や家主が存在しない一軒家の前で、そこには明日香や夏奈を筆頭に、先生や生徒会の全員に博士たちに、今回の要となってくれる瑞風神社の人たちと、今回夜襲するメンバーが全員そろってた。
「来たみたいだな。」
「すみません、遅れました。」
「少ししか経ってないから問題ないけど……すごい人数だね。」
「魔王の配下とかじゃないですからね。勇者時代の俺の従者と真莉亜の従者を数人と、被害を大きくさせないための協力者を連れてきただけですよ。」
「…零が魔王という前から普通じゃないと思っていたが、まさか勇者だったとはな…」
沙羅先輩…何でそんな事を知って――――いや俺言ってないな、勇者だったって。
確かあの時は魔王とだけしか言ってなかったし、トモと明日香にしか教えてなかったっけな。
ごめんね先輩、反省はしてないけど。
「それよりも翠嵐さん、今回の夜襲の協力を承諾してくれてありがとうございます。」
「構わないよ。私たちも君たちに協力をすると言った以上、これくらいは造作もないさ。」
「助かります。時間もないので、早速作戦を説明しましょう。」
俺は全員に円陣を組ませるかのように囲わせて、簡単に作戦内容を言っていった。
「敵の拠点は工場地帯の真ん中にあるビルで、地上だけでなく地下もかなり広い構図だった…でいいんだよね、母さん。」
「それで合ってるわ。数体ほど召喚獣を入れ込んでから捜索させていたけど、外観は地下を隠すためのカモフラージュで、地下が本命のようだったわ。」
「人数は?」
「ざっと数えて500人ってとこね。」
「了解。先生、『引き裂けた道』の方はどうでしたか?」
「問題ないわ。すでに消滅していたし、物は外には出てきてなかったわ。」
「ありがとうございます。」
どうやらあれから大きなものがこっちに来た形跡はなかったようだし、大きくてもあのキノコと妹弟子だけだったのは助かった。
「地下に行くのは俺と真莉亜を筆頭にした異世界メンバーに、トモ、明日香、先生、来斗、穂花、母さん、シルヴィアのメンバーでいく。他の人は翠嵐さんたちが作った結界の守護と一緒に、外にいる異能者を片っ端から倒していってください。」
「零、異能者の実力はどのくらいなのだ?」
「桜姉ほどの実力だったら手間取る事はないと思うけど、油断をしなければ問題ないよ。」
「わかった。」
「それと地下に行くメンバーに先に言っておくけど、死なせない程度に本気で相手していいからな。」
「我が主、それは四肢のどれかがなくなっても問題ないという事ですか?」
「まぁ…再起不能にさせる程度でいいから、そこまではするなよアジュール。」
「かしこまりました。」
正直言ってアジュールは本気になれば殺す事も容易いだろうから、その辺りは俺が見ておかないといけないだろうな。
いや待てよ、確か俺のスキルを全員に使えるようにすれば、【救済王ノ意思】で識別は簡単だし、そこは後でどうにかするか。
「じゃあざっと作戦も言いましたし、移動を開始しましょうか。」
俺たちは日が変わる前にその場所まで行き、この事件に終止符を打つために行動を開始した。
次回で100話になるって思うと、これまで長かったなって思っている自分がいます(笑)




