98話 一人の覚悟
「みんなに伝えておくけど、日が変わると同時に夜襲を仕掛けるからな。」
照の両親が死んだ翌日、身内で行われた葬儀などが全部終わった夜の8時に、俺は母さんたちを連れて“夢の世界”に向かって、別荘のリビングに全員を集めて話をした。
「まずメンバーについてだが、俺たちと一緒に異能者の組織がある場所の夜襲をするのが8名、残りのメンバーは夢の世界の防衛と夜襲でメンバー交代するための控えとして残っててほしい。」
「防衛っていうのは、神界からの奇襲を防ぐためですか?」
「念のためにな。だけど本命は先発と交代させるための控えであって、全員が万全な状態でも消耗戦になったら元も子もない。だから先にメンバーを絞って、残りは華怜たちを守るために残って欲しいだけだ。」
「なるほど。それで、先発は誰で行くのだ?」
「夜襲メンバーは俺と真莉亜と母さんたちを含めて、俺んとこはシグレ、サヨリ、アストレア、アジュールで、真莉亜のとこはリベル、レーヴェ、ルナ、エミリアで行く。」
「呼ばれなかった残りの皆は、ここにいればいいのか?」
「……いや、桜姉も一緒に来て。多分結界の方で協力しないといけないだろうから。」
「わかった。」
「それじゃあ時間もあと4時間後だから、各自何時でも出撃ができるように準備しておくように。」
俺の言葉に全員が頷いたのを確認してから一度解散して、俺は照と皇を連れて外に出た。
「照、一応確認しておくけど、もう大丈夫そうか?」
「うん。昨日は迷惑をかけてごめんね。」
「迷惑なんて思ってねぇよ。これから辛くなったら何時でも俺に相談しな。」
「わかった。ありがとう。」
「そんじゃあ、早速準備するか。」
俺は誰もいないのを確認してから地面に術式を書いていって、俺たち三人がちゃんと術式の中に入れる大きさに術式を書いていった。
「皇。こんな感じでいいか?」
「うん。あとは魔力を流し込めればうまくいくはずです。」
「こればかりは俺も記憶が曖昧だからどうなるか分からねぇけど、お前たちを信じてみるよ。」
俺が書いたのは『神界召喚』という術式で、神界への召喚転移みたいなものと同じであって、これを知ってるのは神界にいる女神と神徒だけしか知らない術式なのだ。
「よし、始めるぞ。」
俺は魔力を地面に書いた魔法陣に流し込んでいって、それに反応するかのように魔法陣も光り出していき、次の瞬間に俺たちは魔法陣の行き先に転移した。
「……せ、成功したのか?」
「うん、人になった私でも分かるわ。ここは神界の端にある島だね。」
どうやら無事に神界に来れたみたいで、今おる場所は神界の端っこにある島だというのが分かった。
「さてと、これからどうするかなぁ……」
「昔と変わっていなかったら、多分女神の誰かは気付いてくれるとは思うけどね……おっ、もう来たみたいだね。」
「ん?」
照が指を指した方向を向いてみると、距離があるせいでまだ小さいけど、確実に天使が数体こちらに接近してるのが分かった。
「ここで不穏な気配を感じたと思って来てみれば、まさか人間が神界に侵入するとはなぁ。」
「天使族の者に頼みがある、俺たちを栄光神の場所にまで案内してほしい。」
俺が一番前にいた天使に頼んで見たけど、向こうは俺の言葉で険しそうな表情になっていった。
「驕り高ぶるな。人間風情が我ら天使に指図などするな!」
「……やっぱ、アストレアのように軽い感じじゃダメか。」
天使族はプライドが高いからどうかなって思ったけど、予想通りの返しが帰って来てどうするかなって思っていたら、照が俺の前に立って話をし出した。
「エレネス天界騎士団長、時間が惜しいから教えてくれないかしら?」
「なっ……貴様! なぜ人間のくせに私の名を知っている!」
「まだ分からないの? 自分の自慢の剣技を教えた恩師の顔が違っても、微かに残った魔力で察するように、昔教えたはずですよ?」
「何を言ってるん―――――ッ!?」
照が言ってから、騎士団長と言われた天使は何かに気付いたのか、照の顔を見てからどんどん顔を青くしていきだした。
「………ま、まさか……ふぉ、フォルトナ様……?」
「ようやく思い出したようね、この馬鹿弟子は。」
「も、申し訳ございません!!」
騎士団長さんはどうやら照とは師弟みたいな関係だったのか、さっきまでの勢いが全くなくなって謝罪の一点張りになりだした。
「ま、まさか……フォルトナ様とは知らずに無礼な態度をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした!!」
「まったくこの子は……もういいわ。わかったのなら早く彼女の場所まで案内しなさい。」
「は、はい! かしこまりました!」
「それと、後ろにいる彼は転生した先の私の従兄弟であって、6代目勇者の白崎零よ。」
「なっ……ろ、6代目勇者……」
追い打ちをかけるかのように自分の弟子に俺の正体を教えてしまい、それで自分がどれだけ恐ろしい事をしたのかが理解してしまったのか、青色を通り越して白色なってしまってた。
「こ、こんな恐ろしい事をしてしまったとは……こうなれば、自分の腹を切って詫びをするしか……!」
「はいはい、もうあなたに何時までも付き合ってられないんだから、さっさと準備しなさい。」
「アッハイ……」
騎士団長さんはここで腹を切ろうとしていたけど、照はそれを芝居の一環として扱うかのようにあっさりと受け流して、それを見ていた俺は横にいた皇に耳打ちをして聞いてみた。
(あれって、恒例行事みたいなものなの?)
(昔から憧れを持っていた人に弟子入りしたのはいいのですけど、責任感の強い所があの人に似たせいか、あんな風になってしまったのです。)
(あぁ……なるほど。)
責任感の強いのが感染ったのなら、あんな風になってもおかしくないか。
そんな事を思っていたら、騎士団長がでかいゴンドラを出してから神鳥を召喚して紐で括りつけると、申し訳なさそうにしながらこっちを向いた。
「お待たせしました。どうぞ、入ってください。」
「ありがとう。それじゃあ零ちゃんに萌歌ちゃん、乗りましょう。」
「あ、あぁ。」
「わかりました。」
俺たちはゴンドラに乗って座ると、天使たちの合図で神鳥が大きく羽ばたきだして、ティファニスさんのいる場所にまで飛び始めた。
「零ちゃんは、神界に来るのは初めてなの?」
「……いや、何度か神界のある場所でティファニスさんとお茶をした事があるから、それくらいかな。」
「そっか。でも数回来てるのなら、神界の世界にはあまり感動はもうしないのか。」
「そうでもねぇぜ………ここは相変わらず平和な場所だ。」
「「…?」」
そう……あの時からずっと………何も変わらずにな。
「皆さん、もうすぐで神殿に付きますので、到着為されましたら暫しそのままでお待ちになられてください。」
「わかったわ。さっきの事は黙っておくから、今後はそんな事をしないようにしなさい。」
「はい、ここで誓わせてもらいます。」
もうやめてやれよ。
騎士団長さんの精神は大ダメージを受けてるんだから、その辺りにしてやれよ。
「着きましたね。」
「エレネス、私の事はあえて伏せて、6代目勇者が来たってみんなに伝えて頂戴。もちろん、自分の部下にも言っておくように。」
「はい、分かりました。」
ゴンドラは神殿の入口前に降りて、俺たちはゴンドラから出て、言われた通りにその場でしばらく待った。
「ねぇ零ちゃん、何だか見慣れてるような感じに見えるけど、神殿の外には出た事があるの?」
「いや、神殿の外は初めてだ。」
「だったらどうして――――」
「悪い照、今は何も言わないでくれ。この後教えやるからよ。」
「う、うん……わかった。」
俺は照の口を手で押えてから一度静かにさせて、俺の言った事で理解出来たのか、照も皇もそれからは何も言わなくなった。
「すみません、お待たせしました。」
神殿の方から人の声が聞こえてきて、やってきたのはティファニスさんの神徒で側近であるオイフェさんだった。
「お久しぶりです、オイフェさん。」
「お元気そうでなりよりです。まさかそちらからここに来られるとは思いませんでした。」
「ちょっと急用な事ですので、強引にこちらから来させてもらいました。」
「そうでしたか。ところで、後ろの方はどちら様でしょうか?」
「あぁ……彼女たちはこの場では誰かは言えれないので、ティファニスさんがいる場所で紹介させてください。」
「そうですか。では先にこちらへどうぞ。」
オイフェさんには申し訳ないけど、照が優越神フォルトナなんて言ったら疑われたり事態の取集がつかなくなってしまうので、ここでは話さずに中の誰もいない場所で話し合たほうが収集も抑えられるからな。
しかしオイフェさんには色々世話にもなったし、“夢の世界”でリラたちの食料の事でも助かっているから、心が痛くなってしまうな。
「こちらです。どうぞ中へ。」
「失礼します。」
オイフェさんの案内で神殿内に入って付いて行って、ある一つの扉の中に入ると、そこは俺がよく知ってる草原の世界になっており、いつものテーブルを囲いながらお茶をしているティファニスさんの姿が見えた。
「レイさん! そちらから来てくれたのですね!」
「昔ふざけ半分で教えてもらった神界召喚を、彼女たちに見てもらってから来させてもらいました。」
「彼女たちって……あら? 後ろの方はどちら様ですか?」
「それは後にしてまずは先に俺の方から、俺が言ってた裏切り者の方はどうでしたか?」
俺はティファニスさんに言ってた裏切り者の件を聞いてみると、ティファニスさんは首を横に振って答えた。
「裏切り者なんですけど……どうやら上級神の一柱と神徒全員が洗脳にかかっていたみたいでして、元に戻してから今は謹慎処分にさせました。」
なんと…上級神がやられていたか。
しかも神徒も一緒に洗脳させていたとは、中々やり手の奴が『色欲』を持ってるみたいだな。
「それでレイさん、その彼女たちは一体…?」
「それは本人の口から言ってもらいましょう。オイフェさんもこの場にいてください。」
「え? あぁ、はい……」
オイフェさんは俺の言うことに疑問を持ちながらもその場に残ってもらって、俺たち以外が誰もいないのが確認できたとこで、俺は照に合図を送った。
「……栄光神……いいえ…ティファニス。見た目は随分変わってしまったけど、私は優越神フォルトナだよ。」
「――――――えっ?」
照の言葉で固まってしまったティファニスさんだったが、すぐに我に返って照に聞いた。
「ほ……本当に、フォルトナちゃんなの…?」
「本当だよ。彼女を手違いで魔王に転生させてしまって、その責任を負うかのように神界から姿を消した馬鹿な女神さまだよ。」
「…………」
照が多少笑いながら答えると、ティファニスさんは突然黙ってしまい、ポロポロと涙を流して照に近づいていき、そのまま抱きしめて泣き出した。
「……ごめんね……私たち…ずっと後悔してたの―――――あの時他の言葉をかけていれば……違った形ができると思っていたから……」
「泣かないでティファニス。私が神界から消えたのは責任を負うためにしただけで、みんなの励ましを無駄にさせてしまったと後から後悔していたの。だからみんなのせいじゃないわ。」
「うぅ……ごめんね…ごめんね…」
ティファニスさんの背中をさすりながらも、照は決してその体をはがそうとはしなかった。
それを見ていた俺は安心したのと同時に、ティファニスさんとクロノア様が言ってた通り、誰にも嫌われていないかったんだなって思った。
「あ……あの、本当にあの方はフォルトナ様なのですか…?」
「はい。ぶっちゃけ俺も探していた神様が従姉妹だったなんて思ってもいなかったですし、まさかこんな近くにいるなんて驚きましたよ。」
「私も驚きを隠せません……しかしあの表情から察するに、あの御方はようやく呪いから解放されたのですね。」
「魔王マリアベルだった彼女からも許しが貰えたようですし、もう彼女を縛るものはなくなって安心しました。」
「それを聞いて安心しましたよ、ソフィア。」
「ありがとう、オイフェ。」
オイフェさんが皇の事を『ソフィア』といったのは、恐らく神徒だった時の彼女の名前なんだろう。
―――――…さてと、俺もここに来た以上……自分の答えとアレの回収をしないとな。
「失礼するぞ、ティファニス。人間界からの信仰で……って、レイ!」
「あぁ、クロノア様。ちょっと今はお取込み中ですので、少しだけ待ってもらっていいですか?」
「あぁ、そうか。だったらまた後で……じゃなくて! 何故お前がここにいるのだ!?」
「それについても今知ってる範囲で教えるので、とりあえず一旦待て……クロノア。」
「ッ!?」
俺がただ時空神の名前を呼び捨てをしただけで、クロノア様はその気配で何かに気付いたのか、多少警戒をするかのように距離を置こうとしたが、察したかのように黙って頷いた。
「俺の事については、目の前の事が全部終わってからでお願いしますね。何せそちらが探していた女神が覚悟を決めてここに来たのですから。」
「探していた女神………って、まさか…!」
クロノア様はティファニスさんを抱きしめている照の正体に気付いたみたいで、ゆっくりと歩きながら近づいて行った。
「お前……フォルトナなのか…?」
「ん? あぁ…久しぶりだね、クロノア。」
「……お前……ようやくここに…」
「変な風に誤解させてしまってごめんね。何だか私がいなくなってから大変だったみたいでしょう?」
「あぁ……そうだ………お前は…もう大丈夫なのか…?」
「うん。彼女と会って許してもらったし、もう大丈夫よ。」
「ぁぁ……そうか……そうか……」
クロノア様も涙を流しだして照に寄り添い、照はしばらくこのままだなって思ったのか、半ば諦めて二人の頭を撫でたりと忙しそうにしながら慰めていた。
「まったく…種族が違えど、お互い色んな奴らに愛された者同士だな。」
俺はその光景を皇とオイフェさんの二人と見ながら、愛されてた女神の帰還を祝した感動の再開を目に焼き付けた。
雨が降る度にジメジメした空気がイラつく。
だけど晴れたら晴れたでめっちゃ暑い。
結論、夏は嫌いです。




