97話 悪が満たす世界への怒り
「それじゃあ二日目も、頑張っていくぞ。」
「おー。」
「お願いします。」
二日目は朝からの行動で、今回の目的はもう一人の異能者狩りの捜索、そして昨日と同じ異能者狩り兼、敵の巣窟の侵入をしていこうと思っている。
「アジュール、お前の戦闘はどういったものだ?」
「私は主に全部に対応できるような魔法を持っておりますので、戦闘につきましては近距離や遠距離などは得意です。」
「全部に対応できるって、具体的にどんな魔法なんだ?」
「私の魔法は『暗黒物質』という闇のオリジンを使っておりまして、極限スキルの一つである【創造神ノ意思】と闇魔法を組み合わせた魔法であり、自分の想像を具現化させて攻撃を行っております。」
「具現化させるって、例えばどんなの?」
シルヴィアが珍しく自分から口を開いて聞くと、アジュールは掌を出して、そこから黒い球体を出して発射させると、球体は鳥の形に変わっていき、地面に当たるとその場が一気に燃え上がった。
俺とシルヴィアはそれを見て、ただただ呆然とした。
「このように、自分がイメージした攻撃をそのまま現実に作り出す事ができまして、人間みたいに魂を形にさせる事はできませんが、人形みたいな仮の肉体を作る事はできますよ。」
「「マジか……」」
魂以外の製作は可能って、それもう完全なチート魔法だろう……
そんな事は俺やアストレアも出来ないし、下手すれば上級神に匹敵する力を持ってるかもしれないな。
「魔力量はどれくらいあるんだ?」
「今の私ですと、290000はありますね。」
「おいマジかよ……」
コイツ普通に強いとかってレベルじゃねぇ。
異世界での冒険者の戦闘力は魔力の量によって決まっており、B〜Cランクの冒険者で1~2000、S〜Aランクで3~4000って辺りで、万を超えてたりすれば英雄の申し子って二つ名を持ったりする事ができる。
ちなみに俺の初期ステータスの魔力は8000で、これは勇者特権みたいなものだから当たり前と前にティファニスさんが言ってた。
「お前……魔王になりたいとか考えた事とかなかったのか?」
「リベルが言ってたした通り、私は好戦的ではなく、ただ邪魔してくる同族を蹴散らしていただけで今の自分がいるので、魔王などには興味などありませんでした。」
「じゃあもし魔王軍にいたら、お兄様と戦っていた可能性もあったんだね。」
「あぁ。だからこそ運が良かったと思ってるよ。」
王の称号を持ってる敵は俺も何度か見たけど、あれとはもう戦いたくないって思うほど実感してるから、これ以上は考えない方がいいな。
「と、とりあえず行動を開始しようか。まずは手始めにスコーピオンのアジト周辺を隠れながら行ってみようか。」
「了解。」
「かしこまりました。」
俺は二人を連れて行動を開始し、早速敵の巣窟の周辺を探っていく事にした。
しばらく歩いて周辺を見たりしていると、前方から異能者が数人歩いてきていて、スキルで識別をしたら全員既に人を殺めた集団だった。
「早速、人殺し集団のお出ましだな。アジュール、お前の実力を見させてもらうぞ。」
「お任せ下さい、我が主。」
アジュールはそう言って俺の前を歩いていき、異能者集団も俺たちに気付いたみたいで、ニヤつきながら攻撃する構えになった。
「おいおい、男一人に女二人とか、何勝手に贅沢な思いしてるんだ。」
「おい姉ちゃん、そんな男より俺たちと遊んだ方が楽しめるぜ。」
前にいたチャラそうな男がそう言うと、アジュールの背中しか見えないけど、明らかに不機嫌になっていくのが分かった。
「痴れ者が……我が主を侮辱するとはいい身分だな。」
「アジュール、言っておくがそいつらは生かさなくてもいいぞ。」
「そうですか。でしたら目立たずに葬り去ってやりましょう。」
アジュールは羽を出現させて上に上がると、手から黒い球体を出してそれを光らせた。
「うおっまぶしっ!」
「何だよこの光!? 前が見えねぇ!!」
黒い球体が眩い光を出すと、次第に異能者たちの体から煙が出始めた。
「ぎゃああああ!」
「熱い熱い熱い!」
「目が! 目が焼けるううう!」
異能者たちは次々と苦しみ出して、早い段階では既に体が発火して黒焦げになってる奴もいた。
「下等な生物が、黒い太陽によって焼け焦げろ。」
アジュールがトドメと言わんばかりに火力を上げて、異能者たちは跡形もなく灰になってしまった。
「……どうでしょうか? 少し張り切ってしまいましたが。」
「イヤイヤ張り切りすぎだっての。敵さん焦げるを通り越して灰になっちゃったよ。」
「今の太陽、バリ熱そうだった。」
アジュールの前にいた異能者をもう一度見てみたけど、どういった原理で熱を放出させてから対象だけを焼き殺す事が出来るのかが分からなかった。
いいや、わからない訳じゃない。
ただスキルや魔法で太陽を創り出すのは可能なのか?
もし可能なら下手すれば星を作る事もできる力になるな。
「アジュール、仮にお前がもし全力を出したとならば、ソレはどこまで可能になるんだ?」
「分かりません。ただ可能なのは人間以外だけですし、規模が大きいほど魔力の消費も激しいので、今は不明と言っていた方がいいです。」
自分でも分からないとなると、やればできるかもしれないって事だよな。
もしそうなった場合は、俺やアイツが黙っていないだろうな。
……今は様子を見る方針でいくか。
「まぁお前の実力を見る事もできたし、今度は俺の番だな。」
「お兄様、私はまだなの?」
「あぁ‥‥シルヴィアは俺の次って事で頼んだ。」
「うん、分かった。」
シルヴィアは仕方ないと思ったのか、それ以上は何も言わないで頭を撫で撫でを要求してくるだけだった。
シルヴィアの頭を撫でながら周辺を歩いていると、また異能者らしき集団が血を拭きながら笑いあっているのが分かって、俺はまた“無慈悲の断罪”で確認してから近づいた。
「随分楽しそうな話をしてるけど、どんな事があったんだ?」
「あぁ? 誰だお前?」
「何って、ただの通行人ですよ?」
俺がそう言ってホントに普通の通行人だと思ったのか、異能者たちはニヤつきながら俺に近づいて来て、一人が俺の胸ぐらを掴んだ。
「運がないな兄ちゃん。ここで俺たちのサンドバッグになってくれ。」
「おいおい俺は困るね。あと苦しいから切り離すね。」
「はぁ? 何を切り‥‥は‥な‥‥」
胸ぐらを掴んでた男の腕は突然切れて、一瞬何をされたか分からなかったけど、切られた事を認識した瞬間に来る痛みと恐怖に襲われ出した。
「うわあああああああああああ!! う、腕があああああ!!」
「うっせぇな。社会の汚物なんだからとっとと消えろよ。」
そういって俺は目の前の男の体を切り刻んでバラバラにさせ、それを見ていた他の異能者どもも一緒に切り刻んで殺していき、わずか数秒で目の前にいた異能者たちは全員バラバラとなった。
「はいおしまい。どうだった?」
「お、お見事です。」
「お兄様、今のって闇?」
「そ。俺の闇魔法の一つ、“死狂い”。リロードなしの最速攻撃だよ。」
彼が使った“死狂い”とは、二日前に亜種のミノタウロスを倒す際に使った魔法で、その攻撃は何よりもノーモーションからくる出せるのと、リロードが不要なのが特徴だ。
使用するのは自分の手だけで、片手で最大7本の凶線という斬撃を放つ事ができ、全部が全部黒い線だが形は全く違う。
それぞれ斬撃にはそれぞれ名前があり、『島・波・刻・点・細・切・鎖』と呼ばれてる。
「一気に7本出してましたけど、それ以上は出せないのですか?」
「片手で最大だ。両手でやって14本だけど、1秒間で最大42本は可能だし、射程もそこそこあるからかなり強いよ。あとは魔力も低コスト。」
「お兄様、今度それ全部弾いてみたいから使って。」
「やめろ、普通に死ぬわ。」
シルヴィアにツッコミながら死体を焼却していき、燃えカスになったのを確認してから次に行こうとしていた時に、ポツポツと雨が降り始めてきたのがわかって、一旦雨宿りをするために屋根がある場所に避難した。
屋根の下に避難した瞬間に雨脚も強くなっていき、前が見えなくなる程の土砂降りになってしまった。
「一気に雨が降ってきたね。」
「予備の服がないからこのまま止むまで待つとするか。」
「“夢の世界”に一度戻りますか?」
「いや、ただの夕立だろうし、このまま待とう。」
そうしてしばらくそのまま雨が止むのを待っていたら、スマホから着信音が鳴って見てみると、母さんからだった。
(母さんから? 何かあったのか?)
とりあえず電話に出てみると、母さんの向こうで誰かが鳴いてる声が聞こえてきた。
「母さん、どうしたの?」
『……零くん、落ち着いて聞いてね。』
母さんの声も変だと思い、何だろうなと思いながら聞いてみると、次に恐ろしい事が聞こえてきた。
『……さっき警察から話が合ってね……叔父さんと叔母さんが家で殺されてたの…』
「――――――――は?」
俺は母さんから簡潔に話を聞いてからすぐに二人に何も言わないで“夢の世界”に行って、異能者狩りは中止と言って送った後、“隠蔽”を使って羽を展開してすぐに家に向かって飛んだ。
雨に濡れるとか何も考えないでただ一心不乱に飛び続け、10分間飛んで家の前で降りて中に入ると、そこには学校での襲撃の際に警察に指示していた刑事さんが母さんと話をしていた。
「零くん……」
「やあ、また会ったね。」
「貴方は、あの時の…」
俺は母さんに何があったのか話を聞こうとしたけど、その前に濡れた体を拭いてきてと言われて洗面所に向かい、タオルで体を拭いてから服に着替えてまたリビングに向かった。
「母さん……叔父さんと叔母さんは?」
「それは私の方から説明しよう。」
刑事さんはそう言って警察手帳を見せてきてから自己紹介をしてきた。
「まずは自己紹介から。私は警視庁捜査官の野々宮雄一で、被害者の隣の家の住民からの通報を受けて駆け付けたんだ。」
「白崎零です。それで、叔父さんたちは?」
「その前にまずはあの時の礼を言わせてほしい。助けてくれてありがとう。」
「いえ、そんな……」
「……それで話すけど、まず一言言うなら、二人は何者かによる他殺だと分かったよ。」
俺はその言葉に衝撃を受けて言葉を失った。
それから話を聞いていくと、今日の深夜3時頃に殺害されたとの事で、叔父さんたちは腹に複数回も棒みたいなもので殴られた跡が残っていて、骨が心臓に刺さってしまい亡くなったそうだった。
「……犯人は見つかりそうですか?」
「まだ分からない、だけど隣の人から聞いた話によると、パワースーツのような物を着ていたみたいで、ヘルメットには「4」って数字が光ってたみたいだそうだ。」
パワースーツにヘルメットの「4」って言葉で分かったのは、昨日の話でEシリーズというスコーピオンの幹部の事が頭からすぐに出てきて、その中でも「4」というのはE4って奴が犯人だというのが分かった。
「母さん、照は?」
「今は零くんの部屋にいるわ。」
「そうか。刑事さん、わざわざ話に来てくれてありがとうございました。」
「あぁ。こっちも君にお礼を言えてよかったよ。」
「では、失礼します。」
俺はリビングを出て二階に上がると、廊下で真莉亜と華怜が落ち込んだ表情で立っていた。
「零君…」
「お兄ちゃん…」
「…照はまだ俺の部屋の中か?」
「「うん。」」
「そうか。後は俺に任せて。」
そう言ってから俺は自分の部屋に入ると、ベッドの上で照が毛布を被って座っていて、顔の表情を伺う事はできなかった。
「……照、隣に座るぞ。」
「…………」
照から返事は帰ってこなかったけど、俺はそれ以上聞かないで横に座り、隣に座っても何も言ってこなかった時点で俺はもう察した。
これは本気でヤバイと。
「さっき下にいた刑事さんから話は聞いた。犯人はスコーピオンの幹部だって分かったよ。」
「…………」
「…なぁ照。お前があいつらに言わなかったのは、自分の不幸を他のみんなに持って欲しくないから言わなかったのは知ってるんだよ。」
「…………」
「でも俺はお前の気持ちはわかるんだよ。人が死んでいくのを見た事があるし、罪人を何人も殺してきた。」
「ッ…………」
「正直言って俺はこの社会じゃあ人殺しになるし、人の心が分からない訳じゃねぇけどよ、お前が辛いのくらいは分かるんだよ。」
「…………」
「だから照、俺にだけお前が抱えてるのを一緒に抱えさせてくれ。俺も、死んだ人たちの代わりに生きないといけないからよ。」
俺が声を掛けても何も反応がないから無理かなって思っていたら、照が俺の手の上に手を置いてきて、思わず照の方を見ると、そこには今にも泣きそうな顔をした照があった。
「……私…生きてていいのかな?」
「何でだ?」
「だって私が関わると、誰かが死んじゃうんだよ。もしかしたら零ちゃんや萌歌みたいに誰かがいなくなるのが怖いんだよ。」
「照……」
あぁ……何で罪人が生きて無害な人間だけが死んでいくんだろうなぁ。
この世界は、悪が多くて正義が少ない世界でもあって、正義が悪に正しい罰を与えないという醜い世界なんだ。
(あぁ……また異世界で冒険したいなぁ……)
出来れば今度は雄大な自然を堪能できるようなのんびりした旅がしたいな。
おっといけない、今はそんなの考えちゃいけないな。
「はっきり言うとな、照。俺は家族とか関係なしでお前が好きだったんだぜ。」
「――――…え?」
「言い方を変えるなら、笑っている時のお前が好きなんだよ。」
「笑顔?」
照は被ってた毛布から顔を出して俺を見てきて、目には涙が溜まっていた。
俺は指で照の涙を拭いて、そのまま頭を優しく撫でた。
「俺ってさ、いつもテレビで歌いながら笑ってる照よりもさ、こうやって遊びに来てから笑ってる照の方が好きなんだよ。」
「零ちゃん……」
「アイドルだろうが神だろうが、俺にとってはそんなの知らねぇよ。お前は白崎照であって、普通の女の子なんだからよ。」
「………グスッ」
「だから俺の時くらい、我慢しなくてもいいぞ。」
「ひっ……ひっく……ぅ、あああ…ぁああ!!」
零の言葉で我慢できなくなったのか、照は俺に抱き着いて泣き始めた。
突然のストーカー被害から始まって、それから両親の殺人となっての独りぼっちになってしまうんじゃないかという恐怖に耐えていたせいか、感情の制御なんてもう何時壊れてもおかしくない状況でもあったのだ。
しかし零の温かい言葉のおかげで自分は独りじゃないという安心か、それとも普通の少女として見てくれている零への嬉しさなのか、もう今の彼女を縛る呪いは完全に無くなった。
(叔父さんと叔母さんの仇は、必ず取ってやる……)
照が泣き止むまで零は頭をずっと撫で続けて、それと同時に二人を殺した「E4」には慈悲などいらずに殺してやると思いながら、憤怒の中にある怒りの炎を燃やしていた。
そして彼女の泣き叫ぶ声は、激しく振り続ける雨と一緒に部屋に響き渡った。
寝ては起きて、寝ては起きてを繰り返しているせいで体がなまってしまった。




