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第37話:彼女が初めて部屋に来た

週末、二見さんが僕の部屋に来る。

この場合の「僕の部屋」は、五十嵐家の僕の部屋。


掃除もした。と、言うか、散らかすほど物を持っていない。殺風景と思われたらどうしよう。



(ピンポーン)「インターホンが鳴った!」



別に誰に言ってる訳でもないけれど、口に出している辺り、僕は緊張しているのだろう。


滑り落ちるがごとく速さで階段を駆け下りて、玄関に向かったら、既に天乃さんがドアを開けて二見さんを招き入れていた。



「いらっしゃーい」


「本日はお招きいただきありがとうございます。これ…『バウム堂のキャラメリゼ』です」



そう言うと、紙袋を天乃さんに手渡した。

メチャクチャちゃんとしてる。対応が大人だ。



「これメチャクチャいいヤツじゃない!?1日10個限定とかって」


「駅で勧められて」



紙袋は真っ白でお店のロゴしか入っていない。高級感がすごい。



「あと、これも」


「え?ふたつ?」


「ウーピーパイです。これも勧められて」


「あり…がとう?」



天乃さんがちょっとたじろぐ。こっちもお菓子かな?聞いたこともないんだけど。



「最後、これも。スーパーの前で焼芋売ってて美味しそうだったから……」



なんか色々持ってきてくれたみたい。色々迷ったのかな。



「わ!ありがとう!気にしなくてよかったのに。後で出すね」


「よかったら皆さんで」



二見さんは真っ白なロングのワンピースを着ていた。一番目を引くのは、胸の谷間が見えること。


この服で外を歩かせたくないと思えるほどには、僕をやきもち全開にさせる服。袖はフリルになっていて、シースルー。


スカート部分は下に膝上10センチくらいのミニスカートをはいているのだけど、表のスカート部分もシースルーになっていて可愛い中にもエロさがあって、実に僕好みだった。


それを見ただけで、色々考えてくれたんだろうなぁ、と分かる。


天乃さんが全部対応してくれている。それじゃあイカン!



「い、いらっしゃい!」



ぎこちなく右手を挙げて挨拶をする僕。笑顔で固まっていた。

横からさりげなく肘でツンツンと天乃さんに(つつ)かれた。


はっ、と我に返ったら、天乃さんが視線で二見さんの方に送った。

あ、「服を誉めろ」ってことか!



「ワンピース、エロ可愛いです!目を奪われました」


「よかったです」



二見さんがにっこり笑顔を向けてくれた。

果たして「エロ可愛い」は誉め言葉として正しく伝わっただろうか。



「あ、玄関もナンなので、僕の部屋に……」


「はい」



僕は2階の僕の部屋へ二見さんを案内する。部屋に案内して彼女が座るところが無いことに気が付いた。


僕は普段座布団なんて使わない。ベッドに寝転がって過ごす。

勉強をしていた時は、パソコンを置いているローテーブルの狭い空いたスペースでしていた。



「ごめん、座るところ考えてなかった」


「あ、お気遣いなく。ベッドに座っていいですか?」


「あ、はい。よければ」



そう言うと、ベッドの足元の部分にちょこんと座った。もしかして、中央は僕のために空けてくれているという事だろうか。



「綺麗にしてますね」



二見さんが部屋を見渡しながら言った。



「まぁ、居候(いそうろう)みたいなもんだから」


「居候なんですか?」


「寝泊まりはしてるけど、まだ自分の家感(いえかん)はあまりなくて……」


「そうなんですか」



少し残念そうな二見さん。僕の本当の家の方がよかったのだろうか。人となりを見る的な意味だろうか。僕は勝手に解釈していた。



「初めては流星くんの部屋がいいと思っていたので……」


「ぶっ!」



下ネタだった。こういう時、僕はなんて言ったら正しいんだろう。

そして、どこまで本気なのか。



「ちゃんと予告通り、上も下も内も外も勝負服にして来ましたよ!」



想像しちゃうからやめて。



「見てみますか?」



コンコン、とそこでドアがノックされた。誰も来る予定はなかったので、二見さんと顔を見合わせた。「僕も誰か分からない」と表情で伝えた。



「飲み物とお菓子を持って来たよ」



天乃さんだった。ローテーブルにジュースとお菓子を持ってきてくれた。



「ありがとう」


「あ、お邪魔だった?私はこれを置いたら失礼しますのでー」



オカンか。よく分からないけど、イメージ的に実家のオカンか!

天乃さんは、ジュースとお菓子を置いたらそそくさと部屋から撤退していった。



「……」



二見さんがドアの方を見ている。



「ごめん、気になる?」


「いえ、『お姉さん』と考えたら普通のことなんですけど、『同級生』って考えたら、流星(りゅうせい)くんと同棲(どうせい)している訳で、急に嫉妬心が沸いてきました」



事もなげに言った。同棲ではなく、同居(どうきょ)と言ってほしい。



「いやいや、姉だから」


「そういうことにしておきましょう」



二見さんが僕の部屋のベッドに座って笑っている。



「白い服って、意外と着こなしとか難しいよね」


「似合ってますか?」


「うん、すごく。可愛すぎてそのまま外を歩かせたくないくらい」


「あれ?それは独占欲的な?ですか?」


「…まぁ」


「それならよかったです。私もしっかり流星くんの気を引いておかないといけませんから」



彼女はいつも何に怯えているのか。僕如きのモブじゃないか。



「では、早速ですけど、どうぞ」



彼女がベッドに座ったまま、目を瞑って(あご)を少し上げた。それはキス顔っぽくて……いや、キス顔だ。「キスしていいよ」ってこと!?


ベッドの横に座っている僕は若干フリーズ気味。



(コンコン)「失礼しまーす」



ここでまた天乃さんがノックした。なんか昭和のラブコメのにおいがする。

返事をすると、天乃さんが入ってきた。



「ごめんね、ストロー忘れちゃて。持って来たから。はい、置いたら退散します」



一方的にしゃべって、ストローをローテーブルの上に置いて去って行った。



「……」

「……」



僕は、両掌を二見さんの方に向けて「ちょっと待って」のポーズをした。

二見さんも無言でコクリと頷いた。


僕は、静かにドアの方に向かい。(おもむろ)にドアを開けた。



パタン、と天乃さんが室内に倒れてきた。



「あ、ああ、ごめん。ほら、おしぼりも持ってくるの忘れたから!はい!おしぼり!」



「それじゃー!」と言って、1階に逃げるように走っていってしまった。



二見さんの方を見ると笑っていた。



「『平成』じゃなくて、『昭和』でしたね」


「たしかに。すいません。せっかく来てもらったのに」


「なんかすごく気にかけられていて、やきもちです」


「何言ってるんですか。僕の彼女は二見さんだけです」



勢いで言ってしまったけど、それなりに破壊力はあったみたいで、二見さんが赤くなって下を向いてしまった。


そして、その言葉はブーメランのように、自分にも効いていて僕も恥ずかしくなってしまった。



「その……二見さんは、『えんじょう』で、僕にとっては気が許せる人だけど、見た目はすごく可愛いので十分今でも緊張する相手です」


「それは嬉しいような、少し残念なような……」


「だから、抱きしめてもいいですか?」


「……はい、よろこんで」



真っ白なワンピースに包まれた彼女をベッドに座ったまま抱きしめた。


彼女の背中に手を回したら、物凄く華奢(きゃしゃ)で力を入れ過ぎたらどこか折れてしまうんじゃないかと思う程だった。


僕の腕にすっぽり入るくらいの大きさ。そして、抱きしめると感じるいい匂い。

一拍置いて、彼女も僕の腰のあたりに手を回してくれた。



「……もっと、ぎゅっって抱きしめてください」



華奢な彼女なので、遠慮していたら、それがお気に召さないらしい。僕は一段階力を入れて抱きしめた。なんかそれが良かったらしい。彼女は何も言わなかったけど、満足したのが伝わった。


そして、どちらともなく少し離れて、見つめ合った後キスを交わした。


僕が二見さんの背中に手を回したままキスをしたら、彼女は僕の背中を撫でるみたいな仕草。うっ、メチャクチャ可愛い……なんかわからないけど、愛情が心の底からドバドバ溢れてきた。


その後、自然と二人の顔が離れて、僕は二見さんの、二見さんは僕の目を見た。



「二見さん……いや、エンジェル……」



ああ!もう、僕はなんて恥ずかしいことを口走っているんだ。


自分の彼女を「エンジェル」って呼ぶ痛いヤツみたいになってる!

彼女の本名が「エンジェル」なんだからしょうがないんだよ!



「流星くん、私の本名(なまえ)を呼んで少しニヤッとするのやめてもらっていいですか?」


「それを言うなら二見さんも!」



僕たちは顔を合わせて「そろそろですかね」「そろそろですね」と小さい声で確認した。



(コンコン)「失礼しまーす。おもたせだけど……」



二人とも笑いがこぼれた。



「はーい」



焼き芋を持った天乃さんが入ってきた。



「天乃さん」


「は、はひっ!おじゃっ、邪魔だったかな!?」



天乃さんに声をかけたら背筋がピーンと伸びて答えた。



「僕ら、これから一緒にゲームするんですけど、一緒にやりませんか?」


「ゲーム?」


「対戦ゲームがあります。家からゲーム機を持ってきていたので」



残念ながら二見さんの勝負下着は見られなかったけれど、二見さんとは心のつながりのような物を感じた。具体的な何かじゃないけど、でも、僕らは大丈夫だ。



「あ、流星くん、最近ログインしました?オンラインゲーム、私の方はメチャクチャメッセ届いてましたよ?」


「え!?嘘!」



慌ててPCを立ち上げて、ログインする。このところテストの点数勝負の後は、文化祭で全然ログインできてなかった。


「さくた」さんからメッセージが届いています。

「あばば」さんからメッセージが届いています。

「@onigirikurokoge」さんからメッセージが届いています。

「konnii」さんからメッセージが届いています。

「Taka」さんからメッセージが届いています。

「@tonozaki」さんからメッセージが届いています。

「@akanuke」さんからメッセージが届いています。

「@makise1234」さんからメッセージが届いています。

「@masafumi09」さんからメッセージが届いています。

「ガジョテン」さんからメッセージが届いています。


ぎゃー!いっぱいメッセが来てた!二見さんと天乃さんがスポーツ系のゲームをしている間、僕は返信に追われていた。



「流くん!せっかく二見さん来てくれてるんだから、パソコンばっかりじゃなくて、こっちに来て一緒にゲームやろ!」


「あ、はぁ」



その後は、三人でゲームをして過ごした。三人同時プレイといったらレースゲームしかなかったけど。


カートに乗って、コースをNPC含めて8人で競う。途中拾ったアイテムを使って相手の邪魔もできる。


その他、コースアウトすると奈落の底に落ちるし、ジャンプの時は飛びすぎるとイカロスのように太陽の熱でマシンがバラバラになるという中々の鬼畜仕様だ。



「これすごく難しくない!?初心者に優しくない!」



天音さんはご不満の様子。ジャンプするとコースをショートカットできるのに、高く飛びすぎるとマシンがバラバラになるのが意味が分からない。



「神話の時代から太陽には近づきすぎてはいけないのです」


「二見さん、それ絶対飛ばせないように言ってるでしょ!?」



このゲームはどれだけショートカットできるかが勝負なのだから。飛ばなければ勝てはしない。



「太陽に近づいたらマシンはバラバラになるんですけど、星に近づいたらどうなるんでしょうね?」



二見さんが、天音さんに聞いた。



「え?星もあるの?」


「いいえ、ありません」


「絶対、揶揄ってるでしょ!」


「ふふふ」



何だこの会話。



「それにしても、二見さん、なんで焼芋だったの?」


「あ、それはすごくおいしそうだったので。『紅はるか』ってすっごく甘くなる品種で焼芋にしたら、糖度30度になるらしくて……」


「二見さん、焼芋好きなんですね」


「……まあ、はい」


「今日はみんなで一緒に食べましょう」


「はい」



二見さんが持ってきてくれた焼芋は、とろっとろで金色で甘くて美味しかった。

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