第31話:文化祭の準備完了!?
文化祭でみんなでダンスをすることになったけれど、総監督を任命されてしまった。僕はクラスメイトたちと協力できてるだろうか。僕はこれまで動画を作るのにも、音楽を作るのにも一人でやってきた。
ゲームもMMORPGでは一応みんなとパーティを組んでいるけど、いい人ばかりだから何とかなってきただけ。誰とでも組めるわけじゃない。
その辺りのことは「えんじょう」こと二見さんも知っているので、気にかけてくれていた。だからこそ、今回のテーマである『二見さんを最大限輝かせる』でも恥ずかしがらずについてきてくれている。
いや、正確には、「恥ずかしいから嫌」とは言われたけれど、僕に考えがあるからと押し切っている状態だ。それに、彼女にも一部ダンスを覚えてもらう必要があった。
「なんか今度の文化祭、体育館を使うクラスがあんまないらしいよ」
朝の登校中に、天乃さんがどこからか聞いてきたらしい情報を言った。駅から学校までは比較的広い歩道が完備されているので、三人並んで歩いても特に迷惑にならない。僕と二見さんと天乃さんは三人並んで歩いていた。
「へー、そうなんですか」
「昔と違ってあんまりバンドとかいないらしくて、プログラムを決めてる先生が困ってた」
そういう時代なのかもしれない。昔はバンドブームなんてのがあったらしいけど、今は別に楽器とか無くても音源は作れるし、ボーカルがいなければボーカロイドに歌わせればいいだけだ。「バンドじゃないと」って言うのは特にないかなぁ。
「流くんのクラスはダンスだったら、体育館の方がいいんじゃないの?」
「とんでもない。体育館だと持ち時間が10分とか15分とかになるし、今のうちの戦力じゃ間が持ちません」
「ふーん、そうなんだ。昨日、遅くまで何かやってたからその準備かと思った」
「いえいえ、文化祭はあってますけど、体育館は考えてないです」
天乃さんは「ふーん」という感じだった。僕が部屋で何をしているのかが興味津々だったらしい。別に変なことをしていた訳じゃないのだけれど……
「流星くん、今日のHRでも何か発表するんですよね?」
今度は二見さん。昨日やっていたことは二見さんにも知らせてない。
「そうなんですよ、今日は秘策を準備しました」
「秘策ですか?」
二見さんが聞き返した。二人とも興味があるらしい。ただ、クラスの出し物の話題なので、天乃さんはあまり話題に入れないでいるみたいだった。ここはしょうがない。クラス違うし。
「はい、みんなが楽になり、僕の目的が達成できる秘策です」
「流くんの目的ってなにかな?」
ここで再び天乃さんが入ってきた。話題には入りたかったらしい。
「『二見さんを最大限輝かせる』です」
「それホントに何とかなりませんか?恥ずか死にます」
「まあまあ」
なんとか宥めて、密かに計画を進めることにした。
文化祭については、僕は一人で進めないように注意していた。「歌」、「ダンス」、「撮影」の3つに分けてリーダーを設定した。
「歌」は貴行と日葵にお願いした。彼らに任せればみんなついてくるので、トラブルがない。
しかも、二人は歌が上手い。彼らに頼んで、クラスメイト1人1人に歌ってもらい、それを素材にして、僕が1つの歌に合成することにした。
歌が上手い人、苦手な人がいるので、1人分ずつ微調整していい具合の歌に仕上げていった。なにも当日歌う必要はないのだから。音源として録音して僕が手を入れた。
音楽は僕が作った。音楽ソフトがあったので、それをベースにした。クラスにはピアノが弾ける女子やギターができる男子がいたので、そこぞれ個別に録音させてもらい、予定調和にならないように時々わざとノイズを入れ、それ込みでちゃんと曲として成立しているように調整した。
こういう手作り感は、コンピュータでは作りにくい。人の演奏を取り入れることでライブ感がより上がったと思う。
これら2つの作業は、僕が元々音楽をちょっとだけやっていたので、楽しい作業だった。
一方、「ダンス」については僕は完全に素人だった。山田愛、平松舞、筒井美衣の三人の女子……相変わらず僕は名前が覚えられないでいる。
愛、舞、美衣の「一人称代名詞トリオ」と心の中で呼んでいて、ダンスに関しては経験者の彼女らに任せている。先日、打ち合わせの中に僕はちょっとだけ失敗したことがあった。
「『一人称』はずっと中央でダンスなんで……」
「ん?高幡くん。その『一人称』ってなに?」
しまった、山田さんに聞き返されてしまった。僕は心の中だけで呼んでいた「一人称代名詞トリオ」をつい口に出してしまった。
「ごめん、三人の名前が愛、舞、美衣だから、勝手に『一人称代名詞トリオ』って呼んでてて……」
「イチニンショウ!気づかなかった!」
「ホントだ!」
「なんかカッコいい!」
この日を境に彼女らは、自らを「イチニンショウ」と名乗るようになった。元々、同じダンス教室に通っているので三人で組むことがあったけど、別にチーム名とかなかったらしい。まあ、僕としては名前を覚えなくていいから助かったけど。
イチニンショウはダンスについてとても優秀で、クラスメイトのパート分け、練習について上手く進めていた。三人の習熟具合も中々で1週間経過したころにはある程度見れるところまで仕上げてきた。
3人並んでのダンスだと、ほんの少し動きがズレるのだけど、これは練習と共にズレは少なくなっていくだろう。
「撮影」に関しては、猪原に頼んだ。彼は学校に来るようになったけれど、彼の取り巻きである坂中と向田と共に教室内で孤立していた。
あれだけ大騒ぎして啖呵を切った上に自滅して負けたのだ。バツも悪いのだろう。
「ざまぁ」なのだけど、実際は放置しておくと、こちらの気分も良くない。彼らにクラスの全員に近寄る切っ掛けを作りたいと思った。
僕としても撮影係が必要だったので、彼ら3人に動画撮影を頼んだ。撮影の範囲は、打ち合わせの様子や練習風景、ダンス風景など色々だ。
面白くない顔はしていたけど、前回負けてバツが悪いのだろう。言われた通りに撮影してくれていた。これ以上クラスの反感を買わないようにと思っただけかもしれない。それで十分だった。
こうして、役割分担することでできるだけ多くの人に参加してもらった。そうでないと、僕は何でも一人でやってしまう。
誰とも協力できない人間だ。今回はそれだと最終的に二見さんが悲しい思いをしてしまう。僕は努めて人に仕事を振り分けた。
***
みんなの歌声、曲、動画が集まった頃、僕はそれらを1つの動画に仕上げていた。その動画では、歌と共にみんながダンスしている。
イチニンショウを中心に10人ぐらいが踊っているように見えるようにしたものだ。イチニンショウのダンスは動きを少しずつ合わせ、三人のズレを最小にしたものをメインに据えた。
少し見栄えが良くなるように、エフェクトを追加した。
エフェクトとは、動画中の人物の動きに合わせて光や幾何学模様を追加して、動きに目が行くようにしている。例えば、手を動かすとその軌道を光が追いかける様な効果のことだ。
さらに、スローモーションやファストモーション(倍速)を取り入れて、普通のダンスもすごく難しいことをしているようにした。
バック(背景)が教室だとゴチャゴチャするので、テクスチャを使って、教室はもちろん、校庭とか、グラウンドとか、下駄箱前とか学校の色々な場所でダンスしているように編集した。
他にも、グリッチ エフェクトとか、モーショントラッキングとか、レンズフレアとか、パーティクルとか、画面分割とか、LUT カラー補正とか……とにかく僕が持てる技術を結集させてカッコイイ動画に仕上げた。
今日のHRの時に、これを例のプロジェクターを使って黒板に映し出した。
「「「……」」」
教室が静かになってしまった。
「……なんだよ、これ」
貴行の口から言葉は漏れた。クオリティが低かっただろうか。それとも、勝手に一人で編集してしまったから不満とか!?僕の中に緊張が走った。
「すげえ!完成度がハンパないな!最高にカッキーぜ!」
あれ?良かった?
「すごい!すごい!こんなのを待ってた!」
「プロじゃなくてもできるんだな!こういうの!」
「てか、もうプロだろこれ!」
「ちょっと私たちのダンスイケてる!?」
みんなに好評だった。僕は肩の力が抜けた。
「流星くん、この動画はどうするんですか?文化祭の出し物として、この動画を流すってことですか?」
二見さんが珍しくみんなの前で質問した。
「いや、これはみんなのダンスのバックで流すために作ったんだ。動画が中心にあると、人はあちこち見なくて済むし、リアルタイムで踊っている人の多少のずれとか、失敗は、観客には見えにくくなるんだ」
「つまり、ダンスは完璧じゃなくても、それなりのクオリティに見えるというか、そう感じるってことですか?」
「その通りです」
「「「おおー!!」」」
僕の作戦は概ね好評だった。引き続きダンスの練習はしてもらわないといけないけど、そこそこのレベルになれば、見ている人にはすごくカッコイイダンスに見えるように動画がサポートするってわけだ。
みんなが喜んでくれたことで、僕の肩の荷は半分くらい降りたと思っていいだろう。教室で発表するダンスとしては、十分なクオリティになると思われる。
あとは、練習を続けて、本番を迎えるだけ。よかった……と思った翌日に早速事件が起きたのだった。




