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第14話:取り戻す僕の日常

天乃さんとスーパーで買い物をして帰った。因みに、米は10kg買って帰りました。なぜか天乃さんご機嫌。良い主婦になりそうだ。


そして、今日の夕飯は、麻婆豆腐らしい。スーパーで材料を買っている時、教えてもらった。



「りゅ、流星くん……」



リビングのソファに座って夕飯の出来上がりを待っていると鉄平さんが顔を青くしながら聞いてきた。



「どうしたんですか?鉄平さん」


「流生くんは……その……辛い物はだいじょうぶかな?」


「えー、まあ普通ですけど……」



鉄平さんは、週のうち5日くらいは普通に夜いるのだけど、2日くらいは夜勤らしくて夕食は別々に食べている。朝は早いらしくて僕が朝起きたら既に家を出ていることも多い。


だからこそ、食事の時間は楽しそう……なのだけど、今日の顔色はあまり良くない。



「天乃は、麻婆豆腐にすごくこだわっているのだけど、アニメか何かの影響でとんでもなく辛いんだ……」


「そうなんですか」



まあ、辛いと言っても限度はあるだろうし。



「あ、いま限度があるって思ったよね?そう思ったよね?その8倍くらい辛いからね!」



鉄平さんも勘がいいのかな?それとも僕が表情に出やすいのだろうか……



「はーい、できたよー!お皿運んでー」



天乃さんの声がした。料理を運んで、テーブルに料理が並んだ。

問題の麻婆豆腐は色が真っ赤だった。明らかに辛いだろうこれは!

なんのマンガを見たんだ!?作者連れてこい!



「はい、じゃあ、いただきましょう」


「う、うん……僕は少しお酒を飲むからゆっくり食べるよ」



なぜ、鉄平さん麻婆豆腐を避ける!?



「いただきます」



パクっ……辛いーーーーっっ!辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い!!


仰け反る程辛い!!のたうち回るほど辛い!!

……ただ、辛いのは一瞬。それを過ぎたら……旨味が来た!!


旨い旨い旨いうまーーーーーっ!



「旨い!うまいです!天乃さん!」


「ホント!?この良さが分かる!?」


「これはいいものです」


「ちょ、流星くん本当かな?」



鉄平さんがちょっと引いてる。多分食べたんだろうな、過去に。そして、辛さの向こう側に行けなかった、と。



「今日は手加減したとか?」



鉄平さんがレンゲで麻婆豆腐を一口食べる……



「からーーーーーいっっっ!辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い!!」



鉄平さんが座ったままジタバタし始めた。お気の毒に……

意外なメニューがあったものだ。まだまだ天乃さんの奥は深い……



***


夕飯の後、僕は以前の調子を取り戻すべくMMORPG(オンラインゲーム)にログインすることにした。


パソコンはつい先日家から持ってきた。本体、モニターと少しずつ持ってくる必要があったので、ちょっと大変だった。五十嵐家のネット環境はあまり良くない。オンラインゲームにおいて回線速度はかなり重要だ。


ログインしたら、よく一緒にプレイしている人から心配してくれたメッセージがきていた。


ちょっと見てみると……「おさらぎ ふみ」さん、「通りすがりの叔父さんです」さん、「kairi_nagi」さん、「@inkyokujira」さん、「@newshinnya」さん、「ケタオ」さん、「@gufufu」さん、「ぽん太郎」さん、「@cody1405」さん、「@3412」さん、「@ShengRong」さん、「@Oxymoron-K」さん、……多い多い多い!


凄く心配かけていたみたいだ。いつも一緒にプレイしていた人はまだまだいるから、その人たちにも、近々あいさつ回りしておいた方がいいな。



FPS(表示速度)を目いっぱい落として、少しでも有利になるように設定を頑張った。



『「世界先輩」遅いっスよ』



おお!何とかログインしてボイチャもできた。ちょっと厳しいけど。



「『えんじょう』久々だな。今日は何する?」


『来週からのイベントに備えて経験値とジュエルを稼いでおきたいっス』



よし、リハビリがてらそれいくか。



「うし、来週からのイベントに備えてジュエル稼ぎにいくぞ!」


『喜んで!』


「稼ぐぞ経験値!」


『喜んで!』


「無課金バンザイ!」


『無課金バンザイ!』



 いつもこんなノリだ。「えんじょう」がいたからこの新しいゲームが出ても、浮気せずに続けられているといってもいい。


 今日はひたすら経験値稼ぎになりそう。指が動きを覚えているので、ほぼ「えんじょう」とのダベりタイム。


狩場に着いたら後は脳みそは使わない。ひたすら「えんじょう」と共に敵を倒していく。


実際、色々は指が覚えているものだ。通信の遅さこそあれど、その差も考慮に入れて、コントローラーさばきは通常運転だった。



『「世界先輩」最近、何してたんスか?』


「ちょっと……ね」


『「世界先輩」がいないからこっちは大変だったんスよ』



まあ、パーティで火力が弱くなれば苦戦したことは想像に(かた)くない。他のメンバーにも謝りを入れとくか。相変わらず「えんじょう」のボイチェ設定は「少年2」。僕は「男性2」。


それぞれ肉声がボイスチェンジャーで変わるので、色んな声が楽しめる。ほとんどの人が「設定1」で使うのに、何となく「設定2(マイナー)」を使うあたり、僕も「えんじょう」も同じこだわりを感じる。



『今日は何してたんスか?ログイン遅くなかったっスか?』


「ちょっと『買い物』をね」


『買い物スか?』


「そ。夕飯の」


『めっちゃリアルっスね』


「ま、ね。あ、日曜は遅くなると思う」


『あ、ボクも日曜日はちょっと……』



珍しいな。「えんじょう」はガチ勢だから、いつでもオンラインだと思ったけど。多分、引きこもりだし。



「なにかあるの?」


『「世界先輩」の方はなんかあるんスか?』


「へへ、デートだよ」


『で、デートスか?いいっスね』


「めちゃくちゃ可愛い彼女なんだよ!」


『そ、そうなんスか』



あ、ちょっと「えんじょう」がひいてる。彼は話から推察すると、引きこもりみたいだからな。ちょっと自慢になってしまったかもしれない。



『デートってどんなとこに行くんスか?」



どうやら興味はあるらしい。嫌味にならない程度答えておくことにしようか。



「これから考えるんだけど、月並みだけど映画とかかなぁ」


『いいんじゃないスか、映画。デートっぽくて』



だよね。デートっぽい、よね。なんかワクワクしてきた。



『彼女がどんな服を着てきたら嬉しいスか?』


「そうだなぁ、可愛い彼女だからなんでもいいんだけど……」



そう、二見さんは可愛いし、スタイルもいいので何でも似合いそう。



『可愛い系とか、セクシー系とか、お姉さん系とか……』


「そう言われたら、『可愛い系』かなぁ」


『そうなんスねー、いいっスね。デート』



色々話していると、ここらで予定のミッションは終わった。



「あ、終わったね。今日はぼちぼち終了しようか」


『はいス』



ここは五十嵐家。あまり遅くまでやりこむことはできない。他人と住むとなると必ずなにか制約がつくものだ。



「お疲れ様、っと」



もう「えんじょう」に声が届いているとは思わないけど、一人口に出した。


さて、僕も明日の服などを準備しておくか。明後日は日曜日。二見さんとデートだ。事前に場所と時間は決めていたので、服など準備を怠らないようにしたいところ。


ただ、あと他に必要なものが思いつかない。こういった時の相談相手は……貴行に聞いてみるか。日葵と出かけるのに何か心掛けていることがあるかもしれない。



『デートのとき心がけてる事とかある?』



電話は何かしてたら悪いし、貴行にメッセージを送る。



(ペポペポペン)すぐに電話が鳴った。



『流星!デートか!二見さんか!?』



そういえば、貴行にちゃんと言えてなかった。二見さんと付き合い始めたこと。日葵は会話の中で気づいたみたいだし、二見さんと協力関係を築いたみたいだから大丈夫だろう。



「そうなんだよ。実は、二見さんと付き合うことになって……」


『まじか!?いつから!?』


「あのカラオケの日なんだけど……」


『まじか!ついこの間じゃん!』



貴行が凄く驚いている。「まじか」しか言わなくなってる。相手が焦ると自分が冷静になるから不思議だ。僕は、貴行に電車で痴漢から救ったことやカラオケでのことなどを掻い摘んで話した。


その対価として、デートの心得を教えてもらったのだった。他にも日葵との関係についても聞いてみた。顔を見て話すと話せないけど、電話だとなんか話せた。やっぱり、(聞くまでもなかったけど)日葵のことはすごく意識しているらしい。


同じ悩みを分かち合いたいので、ぜひ告白してほしいと背中を押すことを言っておいた。


そんな事を話しながら、少し形は変わってしまったものの、僕の日常が戻ってきた事を実感していた。


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