第35話(累計 第81話) 邪龍ヴリトラ、降臨!
「ヴィロー。敵の動きは?」
【先程、ラウドより西に二.五キロメートル。上空、二百メートル付近で停止しました。敵の大きさ……。全長が三百メートルにも及ぶ巨体です。外見は巨大な亀状のものから長い首が伸びています。あ、首の先に通常のギガスの上半身があります! もしや、これはヴリトラでは?】
朝の砂漠、戦場に舞い戻ったヴィローと僕たち。
首を上にあげて、空を舞う巨体に眼を向ける。
その巨体はせっかく昇った朝日を遮り、ラウドの街方向に長い影を伸ばしていた。
「とりあえず、呼びかけてみようか。いきなり撃ってくる気配もないし」
「そうね。最初の宣言は脅しだったのかしら? デイアーナさんの撤退には手出ししなかったですし」
「わたし、あんまり怖い気がしないの。どーしてかなぁ?」
【そうですね。敵意がいまひとつ感じないですし、呼びかけてみましょう】
二人の姫たちに強敵を前にする緊張感は無く、僕も今は落ち着いている。
師匠と久方ぶりに会話出来た事もあるのだろう。
「では。あーあー。聞こえますか、プロトさん。おはようございます。こちらはラウド騎士団、出張騎士。トシミツ・クルスです。戦う前に貴方とお話をしたいと思います」
……伯爵様は、僕を正規騎士団に招き入れたかったんだけど、僕自身は自由に動きたかったから、出張騎士として今は雇ってもらっているんだ。
「随分と待たせてくれましたわね。ええ、わたくしこそ、プロト00。人類の上位種ノルニルシリーズの長女にて人類を導く母ですの。トシ様、貴方なら戦う前に話し合いにくると思い、撤退を見逃してあげましたわ」
目の前の巨体。
亀と蛇を合わせたような悪夢のギガスから、妙齢の女性の声がする。
「プロトお姉様。お初にお目にかかりますの、わたしはエヴァです。わたしの運命を随分と酷いものにしてくれましたわね」
「あら。口が悪い子ね、エヴァちゃん。わたくし、貴方が死なない様に、ちゃんと監視はしていましたのに」
「プロトおねーちゃん! エヴァおねーちゃんの事を知ってていたのに、どうして助けてくれなかったの!?」
……この辺りの話はレダさんにも少し聞いていたけれど、酷いな。自分の妹たちも道具として扱うなんて。もしかしてプロトさんは、自分達が作られた存在だからって、命として見ていないのかな?
「だって、そうした方が面白いからに決まっているわ、リリちゃん。過酷な環境に追い込んだノルニルシリーズが、パートナーに対し依存性を何処まで持つか。わたくし、試してみたかったですの。レダの場合は、逆に相手から依存性を何処まで持たせるかの実験だったわ。でも、まさかアルクメネまでパートナーに依存してしまうなんて思わなかったわ。もしかして、これはわたくし達の生まれ持った特性かしら?」
「……プロトさん。つまり、貴方にとって姉妹すら人類を導くための道具なのですか?」
「いいえ、違うわ、トシ様。わたくし自身すらも道具ですの。真の主は、わたくしたちの末の弟であり夫、アダム∞ですから。わたくし達はアダムからの精を受け、新たなる人類の母となるのです!」
プロトは、自らすら道具と言い放つ。
そしてアダムという弟によって、新たなる人類を生み出すと語った。
「おねーちゃん。なら、今の人類。トシおにーちゃんやアルおじちゃん達はどうなるの?」
「旧人類に関しては、わたくしのジャマをしない限り生きてても良いですわ。農作業や機材メンテなど、汚れ仕事をしてもらう人材は沢山必要ですし。ですが、何も考えない愚か者やジャマをするものは生きていく資格はありません。そう、今こちらに向かってくる馬鹿のような者は……」
リリの問いかけに、蛇の頭部にあるギガスの上半身は女性らしいしぐさで答える。
そして最後に、とある方向に指を向けた。
その先には……。
「プロト様ぁ。私は、パブロ・レリヤはラウドより無事逃げ延びてきましたぁ。貴方さまの温情を頂き、再度愚か者たちの粛清を……」
E級ギガスが、ラウド方向から走ってくる。
ギガスから聞こえてきた声、それはカレリア人事委委員長のものだった。
「トシ殿、済まぬ。パブロを取り逃がしてしまった」
ヴィロー宛に伯爵様からの通信が入る。
それによれば、リリによって感電無力化していたはずのパブロ。
突然、兵士達を振り切って逃げ、警備兵用に待機状態だったE級ギガスを奪って逃亡したらしい。
「パブロ。貴方の仕事は終わりました。貴方のような下品な愚か者の居場所は、もうどこにもありません。さようなら」
僕が制止する暇も無く、ギガスの指先から火球が放たれる。
「プ、プロト様ぁ! ぎゃー!」
それはパブロの乗るE級ギガスを直撃した。
一瞬の爆発の後、戦場には高熱を受けた砂が溶けて固まった緑色の石だけが散らばっていた。
「可愛い妹たちを犯して喜ぶものは新世界に不必要なの。ん、あら。トシ様。どうなされたのですか?」
「……貴方は可哀そうな存在だと思っていました。そう、今までは」
僕は怒りに震えながら、プロトに言い放った。
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