第34話(累計 第80話) ラスボスを前にして。
「え、三千メートルも遠くで、あの大きさ?」
僕の視界の中。
昇る太陽を殆ど覆い隠す程の巨体が、空に浮かんでいる。
【す、凄い。魔力量が現在の私の十倍を越えています! あんな巨体を浮かばせるほどの重力制御だけでも、お、恐ろしいです】
機械知性であるヴィローの声が、珍しく恐怖に震えている。
今までに、そんな事は無かった。
……これは不味いぞ! プロトさんが直接攻めてきたのか。
「エヴァさん、急ごう。師匠、アルクメネさんも一緒にヴィローへ。リリ! こっちに来てぇ」
「おにーちゃん、ちょっと待ってて。妹ちゃん達を安全な場所に逃がさなきゃ」
僕はエヴァさんの手を握り、ヴィローの方に向かう。
師匠も空を見上げながら、アルクメネさんと一緒に僕の方へ走って来た。
だが、遠くに見えるリリは妹たちに抱きつかれたまま、動こうとしていない。
「ヴィロー。とりあえず、リリを拾いにいくぞ」
【御意】
コクピット内に皆を無理やり押し込んで、ヴィローを立ち上がらせる。
そしてリリの元へ向かった。
「おにーちゃん。この子どうしよう」
「一旦コクピットに突っ込んで、ここから安全な場所まで逃げよう。後の事は、今は考えないで」
ヴィローの腕でコクピットにりり達を一旦突っ込む。
定員が三人のコクピットに七人はかなり苦しい。
その上、僕以外は全員見目麗しい女性ばかりで、何か良い匂いもするのは、戦闘中ながら不謹慎な事を考えてしまう。
……平常心、平常心。
視界の中に飛び込む、柔らかそうな曲線たちから眼を外し、僕は叫ぶ
「伯爵様、敵は危険です。一旦、散開して後方へ逃げましょう。部隊を編成し直すのです」
「う、うむ。騎士団! 一旦、後方へ動くぞ。体勢を立て直すのだ」
「御意!」
僕の指示でどんどん後方に撤退していく騎士団。
しかし、プロトらしき機体は、ゆっくりとラウドへ迫るだけで何の行動もしない。
【おかしいですね。急に転移してきたにもかかわらず、そこから先はステルスをすることもなく、姿を見せたままゆっくりこちらに進むだけ。撤退する時間までくれています】
「トシ坊。多分だけど、プロト嬢ちゃんは見せつけているのさ。自分がどれだけ強大な存在なのかって」
ヴィローの呟きに、師匠が答える。
確かに師匠の言うとおり、プロトの動きは示威的に見える。
まるで自らが巨大で偉大なる存在であるかを見せつけるかのように。
「あ! そういえば、プロトさんに逢った人は皆、彼女は自らが人類の上位種だと宣言していたな。と、いう事は今回の行動は、自分の偉大さを僕らに見せつける為なのか!?」
「だとしたら、イヤらしいですわね。わたしの姉にしては器が小さいですの」
「そーだよね、エヴァおねーちゃん。他のおねーちゃん達はみんな、自分の考え、思いで行動しているの。でも、プロトおねーちゃんには、何も感じないの。外見だけ偉そうにしていても、空っぽだもん」
エヴァさんやリリは、プロトの行動は情けないという。
自らの器を見せるのは、空っぽな自分を偽るためだと。
「確かにプロトお姉様は、わたし達を勝手に生み出した人類への怒り以外は感じませんでしたわ。いつも、カッコつけてお酒を呑んでいたのも、もしかしてポーズだったのかしら?」
……ぷ! だとしたら、案外と可愛い人かもしれないな。確かに僕もリリが生み出された理由を聞いて、怒りを覚えたもん。緊急時には全ての人類の母として、愛も無しに子を成せってのは非人道的だよ。
アルクメネさんのツッコミに、僕は内心吹き出してしまった。
「おにーちゃん。可哀そうなおねーちゃんを止めよう」
「うん、リリ」
僕は緊急事態にでも、僕に微笑んでくれるリリの笑みを見て勇気が湧いてきた。
「さあ、一旦。リリとエヴァさん以外は、ここから降りて騎士団の指示に従って逃げてください。師匠、貴方もですよ? アルクメネさん。妹さん共々師匠をお願いします」
街の近くまで一旦飛んで逃げた僕ら。
ぎゅうぎゅう詰めだったコクピットを開き、待機してくれていた騎士団の人の師匠らを渡した。
「トシ坊。これで別れかもしれないから、一言……。ん、どうした? アルちゃん?」
「お姉様。貴方の命はわたしが全力で守ります。なに、プロトお姉様が停止スイッチを押しても、わたしがお姉様の心臓を動かすのでご安心を!」
せっかく雰囲気を出して、僕に「遺言」を語ろうとする師匠を黙らせるように抱きつくアルクメネさん。
真剣な顔で師匠を守ると言い張る。
「ということなので、戦闘が終わったらもう一度ゆっくり話し合いましょう、師匠。お身体の事もマザーさん、遺跡宇宙船の中枢知性に聴けばなんとかなるかもですし」
「そだね。じゃあ、これだけ言っておくよ。絶対に死ぬな! じゃあ、頑張れ少年」
「はい!」
アルクメネさんに引っ張られるようにして苦笑しながら僕に手を振ってくれる師匠。
「貴方たち、ちゃんとおにーさん達のいう事を聞いて、危なくない場所でおねーちゃん達を待っててね」
「うん」
「終わったら一緒に遊んで」
リリはリリで、別れ際にノルニルの妹たちをぎゅっと抱きしめている。
「さあ。皆でプロトさんをぶっ倒してから、お説教をするよ。こんな馬鹿な事はもう終わらせる必要があるからね」
「うん、おにーちゃん」
「まったく、お人好しの馬鹿も、ここまで来たら見事だわ。わたしに、幸せのゴールを見せてくださいませ、トシ」
【さあ、姫様方。参りましょう、戦場へ。まだ、こちらには隠し玉も温存してますから】
……アカネさん。結局、師匠との闘いには間に合わなかったけど、プロトさんとの戦いには間に合ってくれると助かるね。流石に、あれだけの巨体を相手にするのは、少々厳しいもん。
「ふぅ。じゃあ、行こう、皆。トシミツ・クルツ。マハー・ヴィローチャナ。発進!」
僕はスロットルを押し込み、再び迫りくる強敵に向かって飛びかかった。
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