第18話(累計 第64話) 悲しきレダ。
「ママぁ。こっちだよぉ」
「はい、ラザーリ様」
まるで幼子の様にレダさんにじゃれつくラザーリ。
眼鏡を掛けた線の細い三十歳ほどの優男が、十六歳くらいの美少女をママと呼ぶ。
そんな様子を僕らは、じっと見ている。
「伯爵様。もう、これは彼に罰を与えるのは無理ですね」
「ああ。こうなってはしょうがあるまい。彼はワシが預かろう。共和国に送るのも酷じゃのぉ。いくら尋問しようとも、もはやまともな返答は返ってはこないじゃろうし」
すっかり幼児化してしまったラザーリ。
彼とレダさんを僕らは保護し、共和国の査察部隊には渡さなかった。
彼らに渡しても、貴族連合に突き出しても、ましてやカレリアに返しても、ラザーリは碌な扱いを受けないだろうし、殺されてもおかしくない。
「ママぁ。これ、美味しいね」
「ええ、そうね。ラザーリ様」
お菓子を食べて、満面の笑みを浮かべるラザーリ。
それを慈母の表情で見守るレダさん。
……これを引き離すのは、僕はしたくないよ。
「ということで、後はワシに任せておけ。彼とレダちゃんの身柄くらいは守ってやるさ」
「伯爵様。またご無理をお願いして申し訳ありません」
……レダさん、顔はリリやエヴァさんと同じなんだけど、表情が違うのか母親っぽいイメージがするよ。
レダさん、直毛黒髪でヘーゼル眼。
長い耳や白い肌はリリと全く同じだが、彼女の身長は160センチ弱くらいある。
年恰好からすれば、リリ、レダさん、エヴァさんという感じの順番だ。
リリが妹なら、エヴァさんが少しイジワルな姉。
そしてレダさんが母親代理の姉という感じだ。
……レダさんに聞いても組織の事は、これ以上は教えてくれそうもないし。けど、ノルニルシリーズが全部敵に回るのは嫌だなぁ。
僕は、保護直後にレダさんから聞いた話を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「すいませんが、少しお話を聞かせてくれませんか、レダさん?」
「貴方がたには、これ以上話す事はないですの。わたしはラザーリ様を守る事が最優先ですし」
神話級ギガスを撃破した後、僕らはレダさんとラザーリを保護した。
混乱していたラザーリはリリやエヴァさんが魔法で眠らせている。
リリがラザーリの頭の中を覗き込んだら、燃え盛る草地ばかりで本人が何処にも居なかったらしい。
「レダおねーちゃん。ラザーリさん、寝かせてきたわ。あの人、悲しい事ばかりで心が壊れちゃったの」
「レダ。貴方はわたしと同じノルニルよね。貴方たちは、一体どういう存在なのかしら?」
「そんな事を貴方たちに答える義務はあるのかしら? まあ、ラザーリ様の安全を保証してくださるなら、考えないでもないわ」
……やっぱり三人とも姉妹だよね。年恰好や肌、髪や瞳の色が違うけど、顔かたちや雰囲気がそっくりだよ。
撃墜した機体から出てきたとき、レダさんは泣き叫ぶラザーリを抱きしめ、絶対に何からも守るという印象を僕らは受けた。
だからこそ、共和国には彼らを渡さず、僕らが一時保護している。
……この辺り、僕らが伯爵様から派遣されているという立場があるから可能なんだ。この間までみたいに共和国の傭兵なら、彼らに引き渡すしかなかったけど。
「ああ、分かりました。多分、もうラザーリさんから情報は聞けないようですから、貴方と司法取引をします。レダさん、貴方とラザーリさんの身柄は僕が守ります」
「では、何をお話すればいいのですか。えっと、トシ様。最初に申しておきますが、わたしの姉妹らが居る場所はお教えできません。例え姉妹と敵対する事になっても、彼女達の命は奪えませんから」
レダさん、ラザーリを守れるなら僕との取引に応じるとの事。
彼女は姉妹を害する行動はとれないが、それ以外は話してくれそうだ。
「でしたら、お願いします。貴方がたは、全員姉妹からなる組織なのですね」
◆ ◇ ◆ ◇
「エヴァさん。この先、敵。お姉さまたちはどう動くと思われますか?」
「そうねぇ。わたしを含めて、この地に三人のノルニルシリーズが揃い、全員が自分達の敵。なら、ここを叩きにくる可能性が高いですわね。姉が世界のバランサーを自称する以上、ラウドに力が集まり過ぎるのを嫌うでしょうし」
僕は、リリがレダさんと一緒になって幼児化したラザーリと遊んでいるのを横目で見ながら、今後の事をエヴァさんに聞いてみた。
敵はエヴァさんやリリの姉、プロト00を中心としたノルニルシリーズ。
彼女達は人類の上位種。
人類を導くものとして、歴史の裏で暗躍していたとの事だ。
「ラウドの街が僕たちに巻き込まれるのは嫌ですね。かといって、僕らが離れても、ラウドを襲う可能性は十分ありますし」
「わたし達抜きでもラウドは、今や世界最大の都市になりつつあるわ。ここが共和国でも貴族連合でもない第三勢力になるのを嫌うでしょう。もしくは、全部の共倒れを狙って、貴族連合や共和国の強硬派を焚きつける?」
どう考えても、プロトは僕らやラウドを放置はしてくれないだろう。
今回、レダさんから自分達の情報が流れただろう事は、十分予想しているだろうし。
……今更、情報漏洩の為の口封じはしないだろうけれど、『力』としての排除はあり得るだろうし。
「でも、戦いたくはないですよね、エヴァさん。お姉さん方とは?」
「そこは気にしていないわ。レダも言っていたでしょ? 姉、プロトは、最初からわたしが酷い目にあっているのを分かっていて放置、いえ、その状況を利用したのですもの。レダだって、ラザーリ共々もう用済みになったから、救援も送らなかったのですし」
僕らがキャラバンから離れた後の共和国査察部隊。
大した抵抗も受けずにカレリアに進行。
査察部隊は、僕たちの報告通りの「地獄」。
子供たちが運営を行う街。
そして、大人達がむりやり強制労働をさせられていた農場を見たとの事。
……ギガスを整備に来ていた量産型ノルニルの少女達は既に逃げていたんだ。大半の民主労働党の指導部は身柄確保できたらしいけど、ナオミや他の女の子に酷い事をしていた人事委員長とやらは、取り逃がしたんだって。
「結局、プロトさんはカレリアで何がしたかったんだろうね。何かの実験?」
「そこはわたしにも分からないわ。逆転した共和国と貴族連合のパワーバランス、力の天秤をもう一度貴族連合側に戻すべく、共和国を混乱に導こうとでもしたのかしら?」
「その割には、貴族連合の侵略部隊も撃破されちゃったし、ラウド以外の勢力は皆、力を失った気がするね」
僕とエヴァさんは、その後も色々と話し合ったが、結局敵が何を求め、次にどう動くのか分からなかった」
「トシおにーちゃん! いつまでもエヴァおねーちゃんと遊んでないで、わたしとも一緒に遊ぼうよぉ。ナオミちゃんも連れてきて良い?」
「はいはい。今しばらくは待ちますか、エヴァさん」
「そうね。何時でも戦える準備だけは、しておきましょう。リリちゃん、今から行くわ!」
無邪気なリリの笑顔を見ても、僕の心の中の不安は完全には消えなかった。
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