200、園部攻略
永禄六年 (1563年) 一月上旬 丹波国 八木城 伊勢虎福丸
「荒木山城守氏義、こちらに返り忠の由」
弥七郎が俺の部屋にやってきて言った。首尾は上々だ。園部の領主たちは弥七郎の調略に応じた。荒木山城守がその代表だ。
俺は新庄城の守りが固いと見て、西の園部に注意を向けた。園部は山に囲まれたところに平野が広がっている。肥沃な土地だ。開墾すれば生産力は格段に上がる。欲しい。そう思う。
荒木たちの寝返りは信じない。どうせ罠だろう。巫女に化けたくノ一が園部では目撃されている。弥七郎の目はごまかせない。
波多野孫四郎は悔しいだろう。戦で活躍もできず、家臣も次々と俺に寝返っている。ここで荒木を使って一泡吹かせる、そんなところか。
いいだろう。策に乗ったふりをして騙してやる。
「弥七郎、園部の地を攻めるぞ。兵は四万を集めようと思う。新しい兵も増えたし、鍛えるのに丁度いい」
「良きお考えかと」
弥七郎が笑顔で頷いた。
「山城守を罠に嵌める。そうだな。俺が徳雲寺に向かう。つまり、本陣が囮になる」
弥七郎が目を見開いた。作兵衛や三郎兵衛もだ。
「若、危ないですぞ」
「大丈夫だ。すぐに引き返す。振りだけだ。敵は慌てるだろう。追ってきたところでこちらも奇襲する。そうでないと小山城に籠られると厄介だ。野戦で山城守を叩いておく。それで良かろう」
「ですが……」
三郎兵衛が眉根を寄せる。危険が大きすぎる。そう思ったのだろう。危険だがやるしかない。あまり園部攻略に時間をかけていれば新庄城の敵が南下してくる。ここは園部を手にし、波多野の力を削いでおくことだ。俺が強く言うと皆黙った。よし、この作戦で行こう。
多少無茶しないと山城守も追ってこないだろうからな。
永禄六年 (1563年) 一月上旬 丹波国 小山城付近 伊勢虎福丸
次々と繰り出される兵に山城守の軍はたじたじになった。やはり伏兵がいた。およそ二千程だろうか。俺が徳雲寺に布陣すると偽情報を流すと取り囲むように部隊が配置されていた。
俺は一万の本陣で退いた。もちろんわざとだ。山城守の軍は調子に乗って城下町に兵を出してきた。ここに伏せておいた兵を決起させる。その数四千。民家に隠れていた部隊に山城守は気づかなかった。それと三郎兵衛の堤軍二万をうろうろさせた。小山城に近寄らせないふらふらした動きだ。山城守はこの動きにも惑わされた。小山城の北に山がある。そこに蜷川丹後守の二万が布陣している。丹後守が一気に南下して本陣に加わった。油断した山城守の軍は蹴散らされる。
「若、小山城が落ちました」
作兵衛が嬉しそうな顔で報告してくる。山城守は山に逃げ込んだようだ。
「良い。良いぞ。フフフ」
俺は笑うのを止められなかった。難航すると思われた小山城がこうもあっさり手に入った。
もう園部の中心地は俺の物になったのだ。俺は城下町を手に入れた。
肥沃な地がまたしても俺のモノになったのだ。これが笑わずにいられるか。
「作兵衛、小山城に入るぞ」
「ははっ」
作兵衛が喜色満面で言う。伊勢軍の志気は高い。良いことだ。この勢いを殺してはならんな。




