198、八木の領地開発
永禄五年 (1562年) 七月上旬 丹波国 北広瀬城 伊勢虎福丸
「随分人が増えたな」
伊勢軍の支配領域が広がり、税も安いので移住者が増えた。かつての桐野河内の比ではない。もはや三好や六角を凌駕する動員兵力と兵糧を手にしている。敦賀で国際交易もしているので荷もどんどん来る。それと但馬だ。但馬の港に明国の船が来ている。
これに俺は目を付けた。但馬国は山名家が仕切っている。山名の隠居・山名祐豊には京や河内の名馬や刀を送っている。山名祐豊からは友好的な返書が届いた。どうやら気に入られたらしい。
明国を通してフィリピン、インドネシア、タイ、インドの品も手に入れた。逆も然りだ。こちらで作った工芸品も輸出している。
山名一族は足利の重臣で幕府創立の功労者でもある。ただ三代将軍義満に討伐されてかつての勢威はない。
そこで現れたのが山名祐豊だ。バラバラだった国人衆をまとめ上げ、隣国の因幡に弟を送り込んで支配。まさにカリスマと言っていい。
戦国期に力を取り戻した山名家。これと手を組まない選択肢はない。
「他国者は羨ましがっておりまする。伊勢家は豊かであると」
丹後守が言う。そうだ。それは良いことだ。伊勢家の領内なら平和だからな。畿内の情勢はきな臭いし、戦は絶えない。
野心家の三好三人衆が政局を乱すのでそれよりは伊勢家の領地が安全だとなる。京の民は応仁の乱や天文法華の乱で戦乱を経験し、嫌気が差している。平清盛に始まって武家の政治はやはり軍事衝突が起きる。京の民も一部は領内に逃げて来た。
「戦に次ぐ戦で勝ち得た平穏だ。まだ終わらんぞ。丹後よ。商人町を八木に作る。それも三カ所だ。そこでな、異国の品を売る。京や堺から客も来るようにする。面白いことになるぞ。家臣の身内からな、商人になりたい者を募る。戦よりも銭儲けが向いている者もいるだろう。八木の地は生まれ変わるだろう」
「異国にございますか……確かかの平清盛公も三代将軍義満公も異国の地との交易で利を上げたのでございました。若もそのようにするのでございますか」
「そうだ。蔑む者には言わせておけばいい。伊勢家はとにかく利を上げる。そして新しき物を作り上げる」
転生者の強みだな。転生前の知識が戦国時代での生き残りに役に立っている。平清盛、足利義満、そして田沼意次、国を豊かにした先人たち学ぶべきことは多い。そして未曽有の殖産興業を成し遂げた明治期の井上馨と内務省の役人たち。
彼らを手本にしながら領内の景気を盛り上げていく。いい流れができている。これでますます伊勢家は隆盛する。史実通り滅ぼされてたまるか。俺はこの時代で生き残って内政をやるぞ。




