180、今岡城攻略
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 今岡城 伊勢虎福丸
殺気立っているな。俺は家臣たちを見回す。福井の重臣が並んでいる。俺を睨みつける者。不快そうに顔を歪める者、それぞれだ。
「虎福丸殿、何故ここに来たのだ。我らは敵同士。足利尊氏公の子孫たるそれがしは潔く伊勢軍と戦って死にたい。一族郎党、妻も子も覚悟ができておりまする」
「早まられるな。尊氏公とて九州に逃げて再起を図った。足利はしぶとくずるく生きていくべきだ。公方様も毛利を頼って逃げて行ったではないか」
「尊氏公……言われてみればそうだが……」
「ここで滅ぶのも美であろう。だがな、因幡守殿、足利の親類衆として我が家で力を使うべきだ。尊氏公ならば降伏してでも生き残りますぞ」
「……」
「では波多野につきますか。波多野孫四郎、悪逆の振る舞い、武士とは思えぬ非道なり。丸岡城も奪って己の物にしようとしますぞ」
「何を言う。孫四郎殿は礼を重んじ、福井家を立ててくれる」
福井因幡守は怒ったように言う。甘いな。利用されているだけだ。
「足利の威を借りたいのでしょう。では越中守殿はなぜ死んだのだ。越中守の侍女が毒を盛ったのだ。そうに違いあるまい。孫四郎は信じるにあたらぬ」
波多野越中守晴通は波多野の前当主だ。二年前に病死した。忍びを使って調べさせたが、女中が毒を入れた可能性が高かった。恐らくこの女はくノ一だろう。
「その女中を捕えて問い詰めました。もう口は割った。次は福井因幡守殿を討つつもりであったと申しておりましたぞ」
「まさか。信じられるか」
「嘘だと思うなら密書を見せましょうか。ほら」
俺は密書を十通取り出すと、因幡守の家臣に渡す。もちろん偽造したものだ。もちろんくノ一も捕えてはいない。こちら側の用意した偽物だ。ただ福井因幡守は極限の緊張状態にある。疑心暗鬼に陥る可能性は高い。
時間が立つと福井因幡守が重い息を吐く。
「波多野孫四郎め、我が娘に懸想しておったとは。不届き至極」
偽物の書状の中に本物もある。因幡守の大事な二人の娘を孫四郎が欲しがっているというものだ。足利の姫に波多野の子を産ませる。どす黒い欲望を感じる気持ち悪い書状だ。
「足利を、我らを蔑ろにする波多野孫四郎はもう許せぬ。虎福丸殿、福井一門衆、虎福丸殿にお味方致す。この福井因幡守、伊勢家の家臣となって伊勢家を盛り立てまする!」
因幡守が平伏する。重臣たちもだ。俺はホッとする。どうやらうまくいったようだ。さらなる領地開発、内政に力を振るうことができる。
人材が揃う。奉行所も拡張せねばならんな。




