177、並河城攻略
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 並河城付近 伊勢虎福丸
「並河城に兵が立て籠っておりまするっ」
騎馬武者の報告に本隊はざわついた。並河は降伏したはずだ。敵がいるのはおかしい。
「波多野の兵が並河城を乗っ取ったか。構わぬ。権之助の軍に攻めるように命じよ」
俺は輿の中から命じる。また騎馬武者が走っていく。権之助に伝えるのだろう。
並河城が簡単に乗っ取られたとすると波多野の力は強いのだろう。山の中でのゲリラ戦が強い連中だ。どこにでも現れる。
「ここに本陣を敷く。並河城を落とすぞ」
俺は床几を持ってこさせる。簡単に城は落ちるはずだ。その次は丸岡城には降伏勧告する。福井兄弟もこの大軍には降伏するはずだ。
夕方までに城兵は降伏した。並河の重臣で降伏に納得のいかない者もいたらしい。それでも大軍に驚いて降伏を申し出てきた。処分はなく、不問に付す。
城に入ると俺は福井兄弟の調略に本格的に乗り出した。福井兄弟はこの地域のまとめ役だ。それに足利氏の末裔と称している。名門意識も強く、土地へのこだわりが強い。
説得するのも難儀だろう。
福井の所に使いに行った並河掃部入道が帰ってきた。俺は部屋に招き入れる。
「因幡守は足利尊氏公の末裔にして降伏することは意地でもできぬと。それと虎福丸様は不忠の臣であると申しておりました」
掃部入道が額に汗して、俺の様子を窺う。福井因幡守、頑固な男だ。足利の家人に過ぎん俺には頭を下げられぬということか。
「領地も与える、年貢も安くする。軍役にもこちらから銭を出すと申すに」
「やはり因幡守はそれが気に入らぬのでしょう。足利の一族であることにこだわっておりますから。波多野孫四郎とて因幡守の前では追従を申しまする。それはもう大威張りでございます」
「ふむ。では力で分からせるしかないな」
掃部入道がぶるっと体を震わせる。戦いたくはないが、屈せぬというのなら戦うしかない。足利の一門だろうが、伊勢家に従ってもらう。そうでないと騒乱は収まらぬ。
「弟の兵庫が丸岡城には通じておりまする。水の手を絶ち、兵糧攻めもできまする」
「相分かった。並河兵庫に聞くとしよう。大儀である。掃部入道。そなたには世話になっている。これからもよろしく頼むぞ」
「ははーーーーーーっ」
掃部入道が平伏する。掃部入道は優遇してやろう。この辺りの土地はこの男が詳しい。史実の光秀や加藤清正が並河一門を優遇したのが分かる。この一族は領地の運営に使える。重臣に加えるのも良いかもしれぬな。




