176、高野林城攻略
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 八木城 伊勢虎福丸
「若、三好からの使者が」
「待たせておけ」
河村権之助がニヤリと笑む。三好からの使者が来た。戦勝祝いなのだという。俺は畳に敷いた近江の地図に見入っている。そこに越前と若狭の地図も敷いてある。
おおまかな地図だ。敦賀まではやはり朽木を通らないわけにはいかない。それと高島という武将がいる。ここも通過点だ。
「のう、権之助。任せておいた家老ヶ岳城なのだがな。空にして南に行くぞ」
「出陣ですか」
「うむ。香西入道殿もやる気だしな。細川京兆家も喜んでいる。丹波は細川の土地だ。京兆家としては俺のおかげで勢威を示せたと思っているのだろう。兵も増えた。そなたには五千の兵を任せる。留守は左衛門尉に命じる」
「良きお考えかと」
左衛門尉も疲れているだろうし、もう年だ。あまりきついことはさせられない。
「並河衆は降伏しましたが、手強いのは丸岡城です。それと高野林城ですな。京の桂川までは時がかかりまする」
「良い。高野林城、丸岡城は落としておきたい」
南の拠点である二城を落とせば、八木城の内政は安定したものとなる。権之助が俺をジッと見る。そんなに見るな。不安なのか。まあ三好も裏切るかもしれんしな。
出陣の支度を整えよう。伊勢の領地をもっと広げるのだ。
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 高野林城付近 伊勢虎福丸
三好の使者である三好日向守は戦勝祝いを言いに来た。それと高野林城を攻めないように圧力をかけにきたのだ。俺はやんわりと断ると日向守はニコニコ笑っていた。やはりな。六角、朽木、波多野、朝倉、そして若狭武田氏の家臣たち、この者たちを操っているのは三好だろう。俺の力を削ぎたい。そういう思いが見え隠れしている。
甘いな。それなら六代将軍義教のように守護大名たちを抹殺するべきだ。それなのに俺を野放しにしている。どこかで余裕がある。畿内の覇者であるという余裕が。三好はどこかのんびりしている。伊勢家を、俺を侮る気持ちがあるのだろう。
だが、高野林城、丸岡城が落ちても余裕でいられるかな。畿内に虎福丸ありと示しておこう。
「申し上げまするっ、高野林城の城主が降伏を申し入れて参りました。娘を人質に出したいと」
本陣に使番が駆けこんできた。重臣たちが顔を見合わせる。まあ三百程度の兵しかいない。震え上がっただろうな。
「人質はいらぬと伝えろ。かわりに城兵は参陣せよ、権之助の軍に寄騎すべし、な」
「はっ」
高野林城は呆気なく手に入った。もっと激しく抵抗されると思ったがな。次は今岡城だ。足利一門の福井因幡守貞隆と弟の福井善次郎広政の兄弟だ。戦上手の兄弟で仁義に篤い名将でもある。手ごわい相手だ。けれど進むしかない。
できれば降伏してくれると嬉しい。福井兄弟が手に入れば伊勢軍は強力に強化できる。また内政にも長けている二人だ。ぜひとも欲しいな。何とかして降伏させよう。そうしよう。




