表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/248

159、守護代拝命

永禄五年(1562年) 一月中旬 山城(やましろ)(のくに) 京 御所 伊勢虎福丸


遠路(えんろ)大儀(たいぎ)でござったな」


 上座(かみざ)に座るのは見知らぬ男だった。義輝ではない。誰だ?


「お忘れかな。高備中(こうのびっちゅう)(のかみ)にござる。将軍(しょうぐん)名代(みょうだい)をしておりまする」


 俺はじっと男の顔を見た。若い。まだ三十くらいだろう。


「琴姫の母はそれがしの妹でしてな。ふむ……虎福丸殿?」


 琴姫は義輝の長女だ。まだ六歳と聞いている。それにしても誰だ。この男は。


大樹(たいじゅ)は宮中にて()らわれました。そして(こと)(ひめ)(さま)に幕府を託され、毛利家を頼って逃げました」


 ……は? 毛利だと。毛利ということは吉田郡(よしだこおり)山城(やまじょう)か。よくも遠くまで逃げたものだな。


 義輝の奴、宮中で捕えられたか。(おび)き出されたんだろう。三好もあくどい手を使う。義輝でなくとも(だま)されるな、こりゃ。


「虎福丸殿、三河で松平(まつだいら)蔵人(くらんど)を助けて、武田を打ち破ったこと。足利家は虎福丸殿の功に応えねばなりませぬ。大和守護代に任ずる。よろしいか?」


 大和(やまと)守護代(しゅごだい)。おいおい京から遠く離れているし、三河じゃないじゃないか。大和は松永弾正が治めている。松永の補佐役か。俺の力を()ごうというのか。


「このこと細川(ほそかわ)()一郎(いちろう)(ふじ)(たか)殿(との)はご承知か」


 俺は強く出る。備中(びっちゅう)がにんまりと笑みを浮かべた。


「もちろんでござるよ。幕臣も皆、虎福丸殿の大和守護代を望んでおる」


「左様か。今は三河で忙しい。大和守護代はできぬ」


 俺は立ち上がる。備中(びっちゅう)が口を開けていた。呆然(ぼうぜん)としている。


「虎福丸殿、将軍家に弓引くつもりか」


「弓など引かん。三河は俺が何とかする。口出しは無用」


 俺はドカッと、男の目の前に座った。誰も幕臣たちは動かない。


「ヒィ」


 備中が転げる。情けない。三好の名代がこのザマか。俺は背を向ける。


備中(びっちゅう)殿(どの)、他に言うことはござりまするか」


「な、ない! ヒィィ」


 備中が恐ろしい者を見るように俺を見ている。全く小物だな。殺す価値すらない。


「では御免(ごめん)


 俺は足早(あしばや)に部屋を出ていく。小物に構っている暇はない。俺は忙しいのだ。










永禄五年(1562年) 一月中旬 山城国 京 三好義長の屋敷 伊勢虎福丸


「すまぬな。虎福丸殿。大和守護代を引き受けて欲しい」


 今度は三好義長本人が頼んできた。居並ぶ家臣団がギロリと俺を(にら)むように見る。そんなに睨むな。食べてもおいしくないぞ。


「天下は定まった。三好が天下の差配(さはい)をする。大和の守護は三好にとって欠かせぬのだ。虎福丸殿に頼みたい」


「では三河はいかが相成(あいな)りましょうや。三河は伊勢家が所領。見捨てるわけには参りませぬ」


 義長が笑みを浮かべる。まただ。目は笑っていない。義長は変わった。冷酷な天下人へと変わったのだ。


大和(やまと)守護代(しゅごだい)をしながら三河を守ればよい」


 沈黙が場を支配する。三好家の家臣たちも息を飲んでいる。


「虎福丸殿、そなたと戦いたくはない。天下を治めようではないか。義輝様は逃げた。もう力はない。三好と伊勢で共に天下をいただこうではないか」


 三好(みよし)(よし)(なが)は満面の笑みだった。まあいい。譲歩(じょうほ)を引き出せた。このまま、三河に戻ろう。戦の指揮は俺が取る。


「守護代のお話、()(がた)く引き受けまする」


 俺は頭を下げた。(よし)(なが)は俺を手に入れたかったのだろう。だから足利を乗っ取った。そう思うしかない。これで義輝の力はなくなった。三好が畿内の覇者になる。まずは今川を討つ。その後で牛久保の牧野を片付ける。


 三河では産業を(おこ)す。もっともっと(もう)けるぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 南都勢の仏教勢力とぶつけようとしてるのか?
[一言] 大和守護代、虎君にとって吉か凶か・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ