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156/248

156、大海(おおみ)の戦い②

永禄五年(1562年) 一月中旬 三河(みかわ)(のくに) 大海(おおみ) (ほん)多忠(だただ)(ざね)


「次は馬場の部隊か。(うで)が鳴るわ」


 木村(きむら)三七(さんしち)明利(あきとし)佐野(さの)雅楽(うたの)助泰(すけやす)(つな)原田(はらだ)()()衛門(えもん)小柳津(こやなづ)助兵衛(すけべえ)(うなず)いた。皆、本多では家老だ。敵は馬場(ばば)美濃(みのの)(かみ)(のぶ)(はる)。武田の猛将として知られる。心してかからねば。


 (おい)の平八郎が馬を寄せてくる。


「鉄砲隊を動かす。それで敵の出足(であし)(くじ)く。叔父上、その後で突っ込んでくれ」


 平八郎が笑みを浮かべている。今、先陣は榊原がやっている。そこに本多隊が加わる。それで馬場は持つまい。


「分かったわ。馬場(ばば)美濃(みの)は慌てるな」


 平八郎が嬉しそうだ。水を得た魚だな。松平は追い込まれていた。それが今や、虎福丸殿を得て、息を吹き返しつつある。虎福丸殿には頭が上がらぬわ。轟音(ごうおん)(ひび)いた。馬を走らせる。馬場の軍は大きく乱れていた。









永禄五年(1562年) 一月中旬 三河(みかわ)(のくに) 大海(おおみ) 伊勢虎福丸


「ふむぅ。武田軍、大きく崩れましたなぁ」


 精悍(せいかん)な顔つきの男がぼそりと言った。三好(みよし)豊前(ぶぜん)(のかみ)(よし)(かた)。三好長慶の弟だが、この三河で蟄居(ちっきょ)させられている。謀略家で油断できん男だ。今回の武田の三河攻めも豊前(ぶぜん)(のかみ)主導(しゅどう)したんじゃないかと疑いたくなる。三好(みよし)(よし)(なが)では若すぎる。背後で操る黒幕がいるのだろう。ただ豊前(ぶぜん)も策士だ。俺の前で尻尾は出さない。


「松平は酒井、石川の軍が加わっている。対して武田軍は本軍の義信が出てきた。やはりな、三河の国人衆が戦う気がない」


 武田軍は意外と弱かった。というより、松平が強すぎるのだ。武田は北信濃(きたしなの)(ふか)()(じょう)武田(たけだ)(のぶ)(しげ)を配置しているし、秋山信友らが美濃に攻め込んでいる。ある意味、主力部隊はいないし、オールスターではない。やはり、信玄に比べると用兵がイマイチだ。信玄も初期は負け戦も経験している。義信は若すぎる。それに松平には鉄砲隊と弓隊を増強してある。京で手に入れた最新の武具も供給(きょうきゅう)してある。


 強くなった松平に武田は歯が立たない。大久保、成瀬(なるせ)の部隊がさらに武田本陣に攻めかかる。織田軍の佐久間、梶川、水野といった諸将(しょしょう)も武田本軍を援護(えんご)するために出てきた飯富(おぶ)の軍と交戦している。


「あの武田が呆気(あっけ)ないものですな」


 豊前(ぶぜん)呆然(ぼうぜん)としている。武田の強さは畿内(きない)にも聞こえている。その武田が防戦(ぼうせん)一方(いっぽう)だ。


「今川氏真が北条兄弟を闇討(やみう)ちし、伊勢虎福丸に味方した……そういう流言を流しております」


「ハハハ。もう笑うしかないの。全く大した童子(どうじ)だ。そなたは」


 豊前が笑い声を上げる。もう笑うしかないのだろう。武田本軍が逃げるように退いていく。勝負あった。もう午後三時くらいだろう。決戦に勝った。これで新しい道が開ける。野心が疼く。もっと三河を豊かな国にしてやろう。そして京に物を運ばせるのだ。伊勢家はもっと豊かになるだろう。


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