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153/248

153、岡崎城防衛戦

永禄五年(1562年) 一月中旬 三河(みかわ)(のくに) 岡崎城城下町 (つつみ)(かつ)(なが)


「殿、岡崎に火の手が……」


「遅かったか」


 岡崎城の方から火が見えた。留守役の者たちがいたはずだが。


 千代丸が(わたり)(じょう)の方に援軍に向かった。岡崎城に来てみたらこの有様だった。許せぬ。武田め、どこまでも卑怯(ひきょう)な者たちだ。


 (かち)武者(むしゃ)を突撃させる。武田の軍勢は民家に押し入っているところだった。


「不届き者を斬れ」


 武田の軍勢が慌てて退いていく。追いかける。(のが)すことはない。


 銃声がした。(とき)の声が上がる。城の方からだ。岡崎城は落ちていなかったらしい。城から打って出たのだろう。大久保(おおくぼ)大八郎(だいはちろう)殿(どの)が留守を預かっていた。大久保勢が突っ込む。我らもそれに応じて武田勢を攻める。


 槍合戦になった。弓隊が出て援護(えんご)する。


 第二陣の松井(まつい)左近(さこん)殿(どの)の軍勢が加わる。武田勢が押された。一人、また一人と逃げ出す。


 昼前には勝負はついた。


「おお、刑部(ぎょうぶ)殿(どの)っ」


 大久保(おおくぼ)大八郎(だいはちろう)殿(どの)が馬で()けてくる。馬廻(うままわ)り衆も一緒だ。


「いやぁ、武田が攻めてきた時には討ち死にを覚悟しましたが、助かった。ありがとうございまする」


 大八郎(だいはちろう)殿(どの)が笑みを浮かべる。勝ったのだ。岡崎から敵を追い払った。


「武田め、今川氏真の手を借りたのでしょうが、油断ならぬ奴」


「真に。まさか南から攻め寄せるとは」


 危なかった。しかし、若は武田と今川の策に気づいていた(ふし)がある。相変わらず、恐ろしき御方(おかた)よ。諸葛孔(しょかつこう)(めい)のような軍師の才まで持ち合わせておられるとは。やはりあの御方(おかた)(すご)い。戦国の世を生き抜くだけの強運の持ち主だ。










永禄五年(1562年) 一月中旬 三河(みかわ)(のくに) 岡崎城 大広間 伊勢虎福丸


「もう虎福丸殿ってば、母は生きた心地がしませんでしたよ」


 田原(たはら)御前(ごぜん)が俺を抱き寄せた。いい匂いがする。松平元康の義母(ぎぼ)である田原(たはら)御前(ごぜん)はこの松平家を差配(さはい)する(ひめ)大名(だいみょう)でもある。美人で子供がたくさんいるようには見えない。俺のことを可愛がってくれて母親代わりを自任している変わった女だ。


「まあまあ、御前(ごぜん)、落ち着かれませ。岡崎は堅固(けんご)な城にて易々(やすやす)とは落ちませぬ。武田は尻尾を出してきた。隙を見せた。ここから虎福丸は武田を討ちまする。三河に平和を取り戻す」


 俺はハッキリ言う。御前(ごぜん)が嬉しそうな顔をする。


(わたり)(じょう)にも千代丸を(つか)わしました。これも勝った。松平兵は強いです。伊勢家の兵も十分(じゅうぶん)(きた)え上げてある。武田(たけだ)太郎(たろう)義信(よしのぶ)(あな)(やま)(ひこ)(ろく)(ろう)(のぶ)(きみ)武功(ぶこう)なき者。負けるわけがない」


「まあ、さすが伊勢の虎福丸殿。そういう強気なところ、頼もしいですわ」


 御前(ごぜん)が俺を強く抱きしめてきた。俺もされるがままになる。


 岡崎城の防衛に成功した。次は(あお)野城(のじょう)を攻める。武田を南から一掃(いっそう)する。関東では宇都宮、太田といった諸将が佐竹に同調する動きを見せている。


 今川・北条連合軍は六万に達しようとしているが、北条(ほうじょう)(うじ)(まさ)(うじ)(てる)兄弟(きょうだい)は弱気になっている。北条も領地に帰るかもしれん。そうすれば、敵は武田・今川のみだ。各個(かくこ)撃破(げきは)で勝てる見込みが出てくる。


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