142、虎福丸の三河開発
永禄五年(1562年) 一月中旬 三河国 岡崎城 松平景忠
野依二郎左衛門がゆっくりと上座に座った。隣には水野宗兵衛忠重殿が座る。
「虎福丸殿、稲葉山城にて武田への睨みを利かしておりまする。このたびは名代として家臣の二郎左衛門殿が罷り越した由。各々方、虎福丸殿よりの命をしかとお聞き下され」
宗兵衛殿がにやりと笑みを浮かべる。食えない男だ。虎福丸殿に擦り寄り、織田・武田とも通じている。こういう男だが、なぜか憎めない。
「幕府奉行・伊勢虎福丸が家老、野依二郎左衛門でござる。虎福丸様は検地をせよとの命を下された」
家臣たちがどよめく。 検地? そんなことはとっくにやっておる。虎福丸殿の名代は何を言っておるのだ?
「領内の検地を厳しく行う。よって新田を生み出す」
新田……。それは考えたことはなかった。百姓の機嫌を損ねたら一大事。百姓たちとの付き合いはよくよく慎重にやるべきだ。
ただ百姓たちも豊かになれば喜ぶ者が出よう。
「取り立てるのではなく、百姓たちに道を示す。岡崎城で祭りを行って人を集める。他にもありまするぞ。大船の建造。遠く関東との交易。堺や四国、九州にも船を出しまする」
「と、虎福丸様は、本当に銭儲けには熱心でございまするな」
酒井左衛門尉殿が上ずった声を上げた。本当だ。呆気にとられるわ。銭儲けの虎福丸と噂されていたが、ここまでとは。
「はっはっは。まだまだ策はありまする。今川も北条も攻めては来ませぬ。皆様には存分に政に力を振るっていただきたく」
二郎左衛門殿が頭を下げる。横柄な感じはしない。
皆の顔が明るい。敵の大軍が迫っているというのに、な。虎福丸様のおかげよ。我ら松平衆は滅ぼされずに済みそうだ。
永禄五年(1562年) 一月中旬 美濃国 稲葉山城 宿 伊勢虎福丸
「万事、うまくいったか」
声が響いた。部屋には誰もいない。三河には二郎左衛門の八百を向かわせた。俺は畳の上で寝転がる。
「フフフ。三河で得た利を俺の領地に回す。三河からは銭が生み出されるのだ。これ程の巨利は到底得られぬぞ」
笑いが止まらん。今川も北条もおたおたしている。俺は稲葉山城主の一色喜太郎に調略を仕掛けた。武田が美濃を狙っていると。
喜太郎は東美濃に兵を送った。武田は身動きが取れない。ざまあみろといったところだ。
そうこうしている内に佐竹からの書状が届いた。佐竹義昭は乗り気だ。越後の上杉にも声をかけて、北条を攻めると息巻いていた。
それと佐竹は俺に会いたがっている。常陸国に来てみないかとのお誘いだ。
モテる男は辛いね。
米、麦、大豆、野菜などを三河では作るように指示した。これで生産力は倍増する。それと農業技術の伝授だ。現代知識で無双してやる。
北条の大軍は三万とも称される。駿府の今川氏真のところに駐留している。北条氏政、氏照兄弟はじめ、重臣たちが揃う。
ただ一歩も動かない。北条家中でも揉めたらしい。俺は北条と同族だ。攻めることができないというのだ。
「北条氏政、良い男だな」
北条氏政は俺の肩を持ってくれた。今川の動きも鈍っている。
「あとは桐野河内だ」
桐野河内を思い出す。俺の領地だが、波多野に取られた。今回の行軍は波多野を油断させるためでもある。
丹波に香西道印という坊主がいる。この男、信望があって畿内にその名を知られていた。あの細川晴元の忠臣だ。俺は坊主の娘を預かることになっている。
香西の狙いは俺との共同戦線だ。やはり細川家の人脈は凄い。さすが元天下人だ。
香西道印が兵を挙げる。そして桐野河内を攻略する。俺は桐野河内に戻って坊主と同盟を結ぶ。そういう計画だ。
「フ、フフ。三河も桐野河内も俺の物だ。運が開けてきたかもな」
俺は立ち上がる。少し城下町をぶらぶらするか。美濃の女は巨乳で美人が多い。見ただけで癒される。侍女に欲しいわ。




