表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

142/248

142、虎福丸の三河開発

永禄五年(1562年) 一月中旬 三河(みかわの)(くに) 岡崎城 松平景(まつだいらかげ)(ただ) 


 野依(のより)二郎(じろう)()衛門(えもん)がゆっくりと上座に座った。隣には水野宗(みずのそう)兵衛(べえ)(ただ)(しげ)殿(どの)が座る。


「虎福丸殿、稲葉山城にて武田への(にら)みを()かしておりまする。このたびは名代(みょうだい)として家臣の二郎左衛門殿が(まか)()した(よし)。各々(おのおのがた)、虎福丸殿よりの(めい)をしかとお聞き下され」


 宗兵衛殿がにやりと笑みを浮かべる。食えない男だ。虎福丸殿に()り寄り、織田・武田とも通じている。こういう男だが、なぜか憎めない。


「幕府奉行・伊勢虎福丸が家老、野依(のより)二郎(じろう)()衛門(えもん)でござる。虎福丸様は検地をせよとの命を下された」


 家臣たちがどよめく。 検地? そんなことはとっくにやっておる。虎福丸殿の名代は何を言っておるのだ?


「領内の検地を厳しく行う。よって新田(しんでん)を生み出す」


 新田……。それは考えたことはなかった。百姓の機嫌を損ねたら一大事。百姓たちとの付き合いはよくよく慎重にやるべきだ。


 ただ百姓たちも豊かになれば喜ぶ者が出よう。


「取り立てるのではなく、百姓たちに道を示す。岡崎城で祭りを行って人を集める。他にもありまするぞ。大船の建造。遠く関東との交易。堺や四国、九州にも船を出しまする」


「と、虎福丸様は、本当に(ぜに)(もう)けには熱心でございまするな」


 酒井左衛門尉殿(さかいさえもんのじょうどの)が上ずった声を上げた。本当だ。呆気(あっけ)にとられるわ。(ぜに)(もう)けの虎福丸と噂されていたが、ここまでとは。


「はっはっは。まだまだ策はありまする。今川も北条も攻めては来ませぬ。皆様には存分に(まつりごと)に力を振るっていただきたく」


 二郎(じろう)()衛門(えもん)殿(どの)が頭を下げる。横柄(おうへい)な感じはしない。


 皆の顔が明るい。敵の大軍が迫っているというのに、な。虎福丸様のおかげよ。我ら松平衆は(ほろ)ぼされずに済みそうだ。





永禄五年(1562年) 一月中旬 美濃(みのの)(くに) 稲葉山城 宿 伊勢虎福丸


「万事、うまくいったか」


 声が響いた。部屋には誰もいない。三河には二郎(じろう)()衛門(えもん)の八百を向かわせた。俺は畳の上で寝転がる。


「フフフ。三河で得た利を俺の領地に回す。三河からは銭が生み出されるのだ。これ程の巨利(きょり)到底(とうてい)()られぬぞ」


 笑いが止まらん。今川も北条もおたおたしている。俺は稲葉山城主の一色喜(いっしきき)太郎(たろう)に調略を仕掛けた。武田が美濃を狙っていると。


 ()太郎(たろう)は東美濃に兵を送った。武田は身動きが取れない。ざまあみろといったところだ。


 そうこうしている内に佐竹からの書状が届いた。佐竹(さたけ)(よし)(あき)は乗り気だ。越後の上杉にも声をかけて、北条を攻めると息巻いていた。


 それと佐竹は俺に会いたがっている。常陸(ひたちの)(くに)に来てみないかとのお誘いだ。


 モテる男は辛いね。


 米、麦、大豆、野菜などを三河では作るように指示した。これで生産力は倍増する。それと農業技術の伝授だ。現代知識で無双してやる。


 北条の大軍は三万とも称される。駿府(すんぷ)の今川氏真のところに駐留(ちゅうりゅう)している。北条氏政、氏照兄弟はじめ、重臣たちが揃う。


 ただ一歩も動かない。北条家中でも()めたらしい。俺は北条と同族だ。攻めることができないというのだ。


「北条氏政、良い男だな」


 北条氏政は俺の肩を持ってくれた。今川の動きも鈍っている。


「あとは桐野(きりの)河内(かわち)だ」


 桐野(きりの)河内(かわち)を思い出す。俺の領地だが、波多野に取られた。今回の行軍は波多野を油断させるためでもある。


 丹波に香西(こうざい)道印(どういん)という坊主がいる。この男、信望があって畿内にその名を知られていた。あの細川晴元の忠臣だ。俺は坊主の娘を預かることになっている。


 香西の狙いは俺との共同戦線だ。やはり細川家の人脈は(すご)い。さすが元天下人だ。


 香西(こうざい)道印(どういん)が兵を挙げる。そして桐野河内を攻略する。俺は桐野河内に戻って坊主と同盟を結ぶ。そういう計画だ。


「フ、フフ。三河も桐野(きりの)河内(かわち)も俺の物だ。運が開けてきたかもな」


 俺は立ち上がる。少し城下町をぶらぶらするか。美濃の女は巨乳で美人が多い。見ただけで(いや)される。侍女に欲しいわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっと蒔いてきた種が芽吹こうとしていますね。 これまで綱渡りの連続でハラハラしていました。 虎福丸の逆襲に期待です。
[一言] 虎君三河開拓に着手したか。順調に行くことを祈る。 美濃で美女絡みの問題が起きなければいいけどね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ