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124、虎福丸の領地開発②

永禄五年(1562年) 一月上旬  京 伊勢貞孝の屋敷 伊勢虎福丸


 正月は客が多い。(つる)千代(ちよ)……未来の蒲生(がもう)(うじ)(さと)の父親が来たのには驚いた。顔が(いか)めしい。これでまだ二十代と言うのだから老けて見えるな。蒲生(がもう)(とう)太郎(たろう)(かた)(ひで)がごほんと(せき)をする。不機嫌なのか? 顔が怖いよ。


「明けましておめでとうございまする。ご隠居、(じょう)(てい)入道(にゅうどう)も虎福丸様とは今後もよしなに、と」


 にこやかな顔になった。なるほど、笑顔を作ろうとしていたわけね。それにしても隠居の代理か。あの馬鹿当主は使者も寄越さんのか。


「そう言えば、足利(あしかが)御一門(ごいちもん)(しゅう)()良家(らけ)の奥方が参られたとか。もしかして三河の件でしょうか」


 耳が早いな。その通りだよ。ったく六角の甲賀忍びが屋敷をうろついている。一色、武田の忍びもいる。困ったものだ。


「そうですね。隠すことでもありませぬ。それにしても吉良の奥方(おくがた)(こと)(ほか)、美しい女人(にょにん)でした。伊勢と吉良が付き合うことはそんなに不自然でもありますまい」


 伊勢は足利家臣で(まつりごと)を行う。二百年以上幕府の中枢(ちゅうすう)(にな)ってきた。吉良家も足利家を親族衆として支えた。付き合いがあるのは自然だ。


「いやはや。探るようなことを言って申し訳ありませぬ。近江にも織田殿の誘いがよく来まする。ともに美濃を攻めぬかと。大殿は笑って相手にはしておりませぬが」


 織田がねえ。織田も六角を味方につけたいのか。そうだろうな。同盟を結んだとはいえ、松平は表面上今川に従属している。今川は隠居の今川義元を討たれたものの、大半の重臣が生き残っている。噂では伊勢虎福丸の予言を今川義元が信じ、家臣たちを安全なところに逃がしたという話がある。本当かよ。どうも史実の桶狭間の戦いとは違うらしい。


「公方様は一色と織田の争いを止めたいと(おお)せでございました。しかし止まらぬでしょうな」


「当家としても大殿や後藤(ごとう)但馬(たじま)(のかみ)殿(どの)が織田家を抑えているのですが、ははは……若にはその気がござらぬ(ゆえ)


 やはりあの馬鹿が足を引っ張っているのか。いつも火種を作る男だな。


「大殿は虎福丸殿に近江にまた来て欲しい。菓子など馳走(ちそう)したいと言っています。いかがですか。また近江で船遊びをしては。いい息抜きになるかと思いますが」


 そうだな。この畿内にいては息が詰まる。三好(みよし)日向(ひゅうが)(のかみ)も油断ならんし、幕臣にも馬鹿が多い。


 俺が承知したと伝えると蒲生藤太郎はニッコリとする。案外、外交の上手(うま)い男なのかもしれん。不快さはなかった。








永禄五年(1562年) 一月上旬  京 伊勢貞孝の屋敷 伊勢虎福丸


「むー」


 正月から忙しいな。少し休む。三河での荘園は素直に嬉しかった。伊勢家の威信が高まったのだろう。大船建造は順調に進んでいる。淡路の海賊に若い男がいる。海の男で気持ちの良い男だ。名は船越五郎(ふなこしごろう)()衛門(もん)。所属は三好の家臣だが、安宅(あたぎ)水軍(すいぐん)安宅(あたぎ)摂津(せっつの)(かみ)が毛利家に預けられたので自由に動いているようだ。


 この船越、史実では小西行長の水軍で活躍したり、関ヶ原の戦いでは家康の側近になった数奇(すうき)な生涯を送った武将だ。


 譜代家臣じゃないけど、伊勢家臣には水軍ができる者はいないからな。船越を頼りにしよう。


 どんどん人材が集まって来る。山城(やましろ)(のくに)にある伊勢の荘園では剣道場も開かれた。


 資金は俺が出した。剣豪の塚本卜伝(つかもとぼくでん)の弟子たちを招いた。家臣たちの中には喜んで稽古(けいこ)に行く者がいるという。いい傾向だ。


 あと絵師も(やと)った。信長の絵を書かせている。信長の絵は売れるようだ。あの今川義元を討ったのだ。人気が出るわけだ。


 家臣でも絵の得意な者を弟子入りさせている。伊勢家の領内は(にぎ)わっている。


「若……」


 ()()してくれている女中の五十鈴(いすず)がクスクス笑っている。普段は厳しいがよく見るとこんなにも可愛い女なのだな。五十鈴が俺の腹を()でた。


「若、ねんね、ねんね……」


 おい、やめろ。眠くなる。幼児ってのはすぐ眠くなるからな。うむ。また寝てから商売のことは考えるか……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 虎君の周りは賑やかで何より。 こんな穏やかな日がいつまでも続けばいいけど時代が許さないなぁ・・・。
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