表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/248

112、六万の兵を率いる童子

永禄四年(1561年) 十二月中旬  山城(やましろ)(のくに) 御所 伊勢虎福丸


「新しき管領(かんれい)は八郎どのですか……」


 細川八郎晴之(ほそかわはちろうはるゆき)。十二歳。細川晴元の次男だ。史実では何した人物だっけ? 記憶にないな……。


「それに政所の奉行に杉原(すぎはら)兵庫頭(ひょうごのかみ)殿(どの)……」


 俺は義輝に(もら)った書状に書かれてあることを声に出す。

 こいつも誰だっけ? というレベルだな。細川藤孝が良かったな。


「はっはっは。それだけではない。政所の奉行衆には幕臣を百人ばかり足しておる。政所の屋敷も増やす。フフフ。京は(にぎ)やかになろう」


 義輝がうんうんと頷いている。同席しているのは六角右衛門督(ろっかくうえもんのかみ)(よし)(はる)、その父で隠居の六角承(ろっかくじょう)(てい)入道(にゅうどう)、お馴染(なじ)みの畠山(はたけやま)尾張(おわり)(のかみ)高政(たかまさ)安見(やすみ)美作(みまさか)守宗房(のかみむねふさ)、大和の筒井家から来た筒井(つつい)玉林坊(ぎょくりんぼう)(じゅん)(せい)、播磨の大名・赤松(あかまつ)出羽(でわ)(のかみ)(よし)(すけ)といった面々に加え、大舘(おおだて)陸奥(むつ)(のかみ)晴光(はるみつ)といった幕府の重鎮(じゅうちん)が参加している。


「三好は戻らぬ。予の天下よ」


 義輝は有頂天になっている。無理もない。京も播磨(はりま)近江(おうみ)も足利の勢力圏(せいりょくけん)に入った。前管領(ぜんかんれい)(ほそ)(かわ)晴元(はるもと)に力はない。義輝は力を得ようとしている。


「虎福丸、そなたには奉行になって欲しい。それと旗本衆を作る。力を貸すのだ」


「はっ」


 いわば(よし)(てる)直轄(ちょっかつ)の軍だ。足利に旗本はいない。あるのは権威と血統のみ。だがそれ故に十三代まで続いたのだ。


「百姓を兵にする。そうだな。京中(きょうじゅう)()り歩いてみようか。ふわっはっはっはっは」


 新しい体制が始まる。同席した者たちが口々に義輝を()める。俺が兵を任され、奉行にまで取り立てられた。おいおい、俺は三歳の幼児だぞ。正気かね?







永禄四年(1561年) 十二月中旬  尾張国 小牧山城 信長の部屋 柴田勝家


「ふわっはっはっは。(すご)いの」


 殿が立ち上がり、部屋の中を歩き回っている。一体どうしたのだ? 


「殿、どうされました?」


 御側室(ごそくしつ)であるお(たつ)(さま)が聞く。殿の三男である三七様の母親だ。美しい御方よ。殿が夢中になるのも分かるわ。


「甥御殿が、虎福丸殿が足利の兵を率いることになったそうだ。しかも募兵(ぼへい)には六万の兵が集まったという」


「ろ、六万……」



 俺は思わず声を上げた。六万、馬鹿な。虎福丸殿は三歳か、二歳の赤子も同然! そ、それが六万の兵を従えるだと?


足利(あしかが)千寿(せんじゅ)(こう)は四歳で鎌倉攻めのために二十万七千騎(にじゅうまんななせんき)が集まったと聞く。はっはっは。さすがじゃの。甥御殿は。千寿公には劣るが、大義は甥御殿にあると皆、知っているのだろう」


「ウフフ。虎福丸殿はどこまでも登っていかれる竜ですわね」


 お辰様が花のような笑いを漏らす。思わず、見惚れてしまったわ。


「そうだ、虎ではなく竜よ。フフフ。権六。猿を呼べい」


 さ、猿殿、木下藤吉郎殿か。あの無類の話上手にて銭をよく持っている御仁(ごじん)よ。ゆくゆくは猿殿には家老となり、殿を支えてもらわねばならぬ。それくらいの傑物(けつぶつ)よ。話していて楽しい。猿殿がいれば、織田も大きくなるだろう。


「猿、早く来い。フフフ。(おい)御殿(ごどの)のことを話したくてたまらぬわ」


 殿がお(たつ)(さま)膝枕(ひざまくら)に頭を預ける。お辰様がクスクス笑いながら、殿の頭を()でた。殿はまるで童子よ。猿殿はどこにおるのか。早く殿に会わせたわい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
勝家が藤吉郎をここまで評価しているイメージなかったな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ