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2025年 年賀状

母の年賀状

作者: 鈴木 澪人

 「じゃあ、お買い物に行ってきます」


 母親の軽快な声に私は「いってらっしゃーい」と返事をした。

いつも反応のない父親も小さく「ん」と答えていた。


 会話はないけど、リビングには父、私、弟が珍しく揃っていた。


しばらくすると父親が私達にダイニングテーブルに着くように言った。

弟は面倒な表情で私の隣に座り私は父親の正面に座った。

父親が小さく咳ばらいをすると一枚の年賀状をスッと机の上に差し出す


「年賀状は毎年父さんが担当しているのは知ってるよな。今年もそうなのだが母さんの年賀状の一枚をこのチャコちゃんがおやつで汚してしまったんだ。宛先をよく見ると会社名も記入している。もしかすると母さんの取引先かもしれん」


犯人の猫のチャコちゃんを膝に乗せたまま真剣な表情の父親につられその年賀状の送り先を見ると私は思わず「あっ」と声を出してしまった。


「やっぱり取引先の人だったのか」父親は私の反応に一層落ち込んだ。


お父さん、違うのよ。その宛先の人は今女性に人気の

「お姉さま達に甘えたい、でも僕がその気にになったら本気で奪っちゃうかも系アイドル」の

今夜to騎士(こんやトゥナイト)じゃん! 騎士(ナイト)なのに守らないで奪っちゃうの?って少し炎上しかけてたアイドルじゃん!っていうかお母さんの推しの趣味!どうなってんの?


お父さんもそんな仕事上の失敗みたいな悲しい顔しないで!あ~企業名にそっと指を添わせて切ない顔しないで!多分それは所属事務所の名前だよ!そこまで有名なアイドル事務所じゃないからね!アイドルに興味のないお父さんは知らないよね!


「親父、そんなに落ち込まなくても母さんにもう一度書いてもらえばいいじゃん。ちなみに俺は年賀状の予備とか持ってないからね。新年のあいさつはスマホで済ませてるし」


弟は軽く父さんを慰めながらその汚れた年賀状を確認すると一瞬私の方を見て軽く睨んでから


「…。これファンレターっていうの?今ちょっとバズってるアイドル宛てに書いてるやつだから。あんま気にしなくてもいいんじゃない?じゃあそろそろ俺勉強しに塾に行ってくるわ」


弟よ、爆弾をおいて逃げるのはやめて欲しかった。


年賀状の裏面には達筆すぎて何を書いているのか分からない母親の推しへの想いが書かれていた。


「にゃ~ん」チャコちゃんのご飯を所望する鳴き声が静かに部屋に響いていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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