Episode17 辛い制裁 (S-side)
俺たちの検証を実証するためには、もうひとり協力してもらわないといけない人物がいた。
それは俺に瑠花のことを小まめに報告する為に頻繁にメールを送ってくれているメグちゃんだ。大学の面接の日に偶然町で出会ったメグちゃんから、その後いろいろと情報をもらっていたんだ。
『この間送ってくれた写メのことで相談したいことがあるんだけど、今日の学校帰りに会えないかな?』
ものの1分もしない内にOKだという返信が返ってきた。
場所はこっちで指定して夕方の6時に待ち合わすことになった。
「祥大くん」
「ごめんね、わざわざ来てもらってさ」
「いいの、こうして会えるのも楽しいし」
「そう? じゃあよかった」
「うんっ」
元気のいい返事が返ってくる。
「あの送ってくれた写メさ、よくあんなの撮れたね。相手の顔まではっきりと写ってたし、俺かなり動揺したんだけど」
「バイトの帰りにね偶然みかけたんだ。携帯をいじっていたら、ちょうどそこに瑠花を乗せたあの車が通って、あたしもびっくりして目を疑ったんだよ。信号が赤になって停車したところをパシャって撮ったんだ。祥大くんに知らせなきゃって必死だったんだ。あれはおそらく援交だと思うの」
「援交……、やっぱそうだよな。あれから瑠花と会って俺たち話し合ったんだ。で、あいつとは別れることにしたんだ」
「あの子否定しなかったんだ。最近の瑠花の行動はおかしいなって思ってたの。隠れて援交してたんだね。あたし、そういうの許せない。祥大くんみたいにすてきな彼氏が居るのに他の男となんて、あたしだったら、そんなこと絶対しない。祥大くんのこともっと大事にすると思う。だって、祥大くんは……」
「?」
「ううん、なんでもない」
「協力してくれてありがとう。そういうことだから、もうあいつの情報はメールしてくれなくていいよ。面倒だっただろ、ごめんね」
「面倒だなんて思ったことないよ。これからも普通にメールしてもいい?」
「いや、それはちょっと」
「えっ、どうして? ダメかな? あたし、これからも祥大くんと交流持ちたいなって。実は初めて会ったときからそう思ってて」
「ごめん。実は俺いまさっき、嘘ついたんだ。本当は瑠花とは別れてなんかないし、今でも一緒に暮らしてる。知ってるんだろ俺たちが一緒に住んでるってこと。メグちゃんが学校でその噂広めたんじゃないのかなって?」
彼女の目に明らかに動揺の色が走ったのがわかった。
「ひどい。祥大くんはあたしのことそんな風にみてたの? 瑠花をかばうの?」
「かばうんじゃなくって、無言電話や知らないメアドからのメール、あれメグちゃんじゃないのかなって気づいたんだ。嫌がらせにしては妙に親しげだったし、楽しんでる感じもした。決定的だったのはメグちゃんとメアド交換してからぱったりとやんだこと。だから悪いとは思ったけど、連れに頼んで学校の帰り道尾行させてもらった。メグちゃんも俺のことつけてたよね?」
「それは……」
ああ、ちょっと限界に近づいてきた。
晴哉たちの考えたシナリオ通りに彼女を誘導するも場の苦しさを感じずにはいられない。
いやいや、瑠花が受けてきたことを想像したら、そんなことは言ってられないんだった。
ここは心を鬼にして――。
瑠花から笑顔を奪ったのは、今目の前にいるこの子なんだから。
「でも祥大くん。瑠花が援交している事実は消えないんだよ。あたしが居なかったらそんな事実も知らないまま祥大くんはあの子に騙され続けてたんだよ」
自分のしたことを棚にあげて開き直ってる?
「ちょっとその写真みせて」
テーブルに開いたままになっている俺の携帯を手にとってみている。
「ははーん、それって俺だわ」
知らない男が急に現れたことに愕然とするメグちゃんに、にやりと含み笑いを向けているのは幾美ちゃんの彼氏の頼人さんだ。
「この人、あたしの彼なの。瑠花のことを家まで送ってって頼んだのもあたし。だからメグが期待しているような援交とかそういうんじゃまったくないんだけど」
「なんで幾美がここに居るのよっ」
メグちゃんが逆キレした。すごい剣幕で怒り、テーブルを拳でどんっと強く叩いている。
「ガクが悩んでこっそり俺に相談してきてたんだけどさ、あんたってガクの前で祥大のことばっか質問してたんだってな。あいつ、真剣に付き合おうか悩んでたってのにいいように利用するなんてひどいよな」
「晴哉のいうとおり。あたしだって瑠花のこと恨んでなんかないし、なのにメグは瑠花にひどいこと言ったでしょ」
別のテーブルでこちらの様子を伺っていた晴哉と有未香まで乱入してきた。ちょっとこれはいくらなんでもまずいんじゃないのか?
「要するに祥大くんのことを好きになったから、瑠花が煙たかったってことなんでしょ。だったら正々堂々とすべきよ。瑠花を貶めたりなんかせずに自分のことアピールするなりなんなりして、がんばればよかったんじゃないの。あんなことしたら終わりでしょ」
幾美ちゃんのするどい一撃にしくしくと泣き始めてしまった。
これは騙し討ちみたいなもんだ。ちょっと行き過ぎだったんじゃないかと、俺は心を痛めていた。
別の席で様子を見ていた他のメンツまで参入してのこの騒動なんだから。
『もう、いいよ。よそうぜ』そう言おうと息を吸い込んだ時だった。
「やめて、もういい。もういいからやめて。メグぅ……」
頬にはすでに流したであろう涙の跡をつけた瑠花が、有未香と晴哉をかき分け、俯いて泣いているメグちゃんを両腕でしっかりと抱きしめ、皆からかばっている。
おまえって。なんでこうなんだ。
自分が辛い目に合わされていたことを忘れているわけじゃないくせに、まったく。
瑠花、おまえってやつは。
俺は益々、瑠花のことを好きだと感じて感情が激しく高ぶった。
「メグちゃんすまない。こんな風に騙し討ちみたいなことして悪かったって思ってる。けど俺、そのなんていうか、こいつ以外ムリなんだよ。俺には瑠花でなきゃだめなんだ」
恥ずかしげもなく、皆のいる前でこんなこと言っている。瑠花の前以外では今でもクールで通しているはずの俺が、こいつでなきゃだめなんだって宣言している。
そう言わせてしまう瑠花は、俺にとって初めて出会った胸が苦しくなるほど恋しい。そう感じさせてくれる無二の存在なんだよ。




