Episode13 偶然の再会 (S-side)
よりに寄ってこんなくそ寒い日が面接の日だなんてさ、俺ってよっぽどついてないよな。
今し方志望大学の面接を終え、校門をでたところだ。やっとこれで受験というものから解放されるのかと思うと、急に気分転換したくなった。寄り道でもして帰るか。
道路には薄っすらと雪が残り、日陰のあたりじゃ氷状になっていて、気安く歩ける状況じゃない。こんなところでぶざまにこけるなんてのはあり得ない。女の子ならまだしも、男の俺が転んだんじゃ、可愛くもなんともねえし。
そんなこと考えながら歩いていると、偶然にも俺がさっき想像したとおりのことが5メートルほど先で起こっていた。可愛い声で悲鳴があがり、道路に女の子座りしてる子が居る。その子のまわりには人が居ない。このまま追い越して素通りするのもあんまりだ。
その子の側に寄り、手袋をはめたままの手を差しだした。
「すみません。ここんとこが凍ってて転んじゃったんです。はずかしい……」
俯いたまま恥ずかしそうに彼女は言う。ひょいと立ち上がらせてあげて、膝についたべた雪を手で払ってあげた。それからゆっくりと顔をあげ、彼女のことをみた。
「あっ!」
お互いを指差し、驚きの声が重なった。
「祥大くんだ。うそお、こんなところで会うなんて、びっくりした」
「俺も。なんで? 家この辺なの?」
「祥大くんこそ、この辺に住んでるとか?」
「俺は大学の面接でさ、ほらそこの大学がそうだよ」
「あたしも入学する予定の短大がこの近くだから、それで最後の見学にと思って来たの」
「ああ、そうなんだ、学校近くなんだね」
「うん。そうみたいだね。ねえね、祥大くんこれから時間とかある? せっかくだしお茶でもしてかないかなと思って」
「ああ、いいよ」
両膝とそれとたぶんミニだからお尻もべた雪で濡れているはずだろう。濡れたところから体温が徐々に奪われてしまうはずだ。ちんたらと店を探すのは酷だと感じて、辺りを見渡して目についたコーヒーショップに向かうことにした。
大学に近いこともあり、客の大半は学生のようだ。
「俺はブレンドにするよ」
「だったらあたしも同じで」
「会うの久しぶりだね。ああ、そうだ。ごめんねって謝っとかないと。ガクがその、メグちゃんとの付き合いを断っただろ。ガクからそう聞いたからさ。メグちゃんに悪いことしちゃったね、ずっと気になってたんだ」
「ううん、優しいね祥大くん。あたし実はね、今すごく気になる人がいて。今はその人のことで頭がいっぱいだから平気。気にしないで」
「そうなんだ。好きな人できたんだ」
「うん」
顔赤くしながらそんなこと告白する姿って、結構可愛いもんだよな。俺には瑠花が居るからさ、なびくとかはないんだけど単純に男としてそう感じるんだ。
「こんなこと言って、だいじょうぶかどうかわかんないけど」
「なに?」
「実は瑠花のことなの。最近あまりよくない友達とつるんでて、あたしたちとの交流は途絶えがちなんだ。この間もその子と一緒に学校サボってたみたいだし、ちょっと心配で」
「瑠花が? うそだろ、あの瑠花が?」
「嘘じゃないよ。その子は一風変わった子だから、瑠花が影響されないとも限らないし」
「ありがとうメグちゃん。あいつのこと心配してくれてさ。それとなく探りいれてみるよ」
「あたしがチクったってこと、伏せといてほしいんだけど。だって、その子ちょっとおっかないし、もし……」
「わかってるよ、絶対言わないから。けどやばいな、あいつ。大事な時期なのに大丈夫なのか」
「そうだ、いいこと思いついた。祥大くんはこれからも瑠花のことが心配になるだろうから、瑠花の行動がおかしい時は、あたしが連絡してあげる」
「いいの?」
「ぜんぜん、へいきだよ」
俺はメグちゃんからの申し出をありがたく受け入れることにした。そしてお互いのメアドを交換しあった。瑠花の様子をさぐる為には必要だと感じたからだ。
あいつはここんとこ元気なさげで、家でもあんまり笑わなくなった。たまに笑ってる顔がなんか嘘くさい気がして、おかしいと感じてた。
瑠花が瑠花らしくなくなるのは、俺には耐え難いことだ。
いつもの無邪気で天然な瑠花でないと俺、拍子抜けしちまうんだよ。
瑠花、本当におまえ、だいじょうぶなのか?
いったいどうしちまったんだよ。




