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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
SPICY APPLE PIE
52/66

Episode10 エスケープ


 ずんずんとひっぱられていく。

 繋がっている部分は凍りついた心にまで暖かさを届けてくれるみたいに、頼もしいその手に視線を預けたまま、惰性で動かしているような足で一生懸命彼女について走る。

 さっき走ってきたばかりの廊下を引き返して、校庭を横断し校門を抜けた少し先でやっとペースを落としてくれた。きれいにまとめてアップにしてきた髪が走ったおかげで緩んで乱れているけれど、あの嫌な空気が流れる場所から、あたしを連れだしてくれた幾美ちゃんに感謝している。

「幾美ちゃん、あのね」

「この格好のままじゃ、まずいよね? 家に寄って着替えてから出かけようね」

 あたしの言葉を遮るようにして話す幾美ちゃんは、わざとそうしているかのようだ。

 幾美ちゃんの住むマンションにあがらせてもらい、あたしに合いそうな服を適当に選んでくれて、それを着て再び出かけることになった。

 幾美ちゃんが連れて行ってくれたのは街のゲームセンターだ。あたしが普段出入りすることがない歓楽街にあるこの場所は、まわりをよく見渡すといかにも無職だよねって人、仕事中なのにさぼってるでしょ的な人、主婦っぽい人に年配のおじさん、おばさん。あたしはてっきりこういう所は不良のたまり場なんだと想像していたけれど、そのイメージは違っていていろんな世代の人が自分にあったゲームを楽しんでいるそんなところだった。

 太鼓を叩くゲームや銃で敵をやっつけるゲームは他でやったことがあったけど、コインを使ったゲームは今日初めてやった。真ん中の透明の円柱の中にたくさんのコインと細工がしてあって、うまくコインを所定の場所に納めると目の前にあるデジタルの画面がスロットのように絵柄を回転させ、柄が並ぶとポイントが加算される仕組みだ。やってみるとこれがけっこうおもしろい。幾美ちゃんとふたりで夢中になってやっていたら、3時間もの時間を費やしていてランチタイムを逃がしてしまうところだった。




 駆け込みセーフで近くのカフェに滑りこみ、日替わりのランチを食べながら、やっとゆっくりと話をするチャンスが訪れた。まったりと食後のコーヒーを堪能し、カップを受け皿の上に置く幾美ちゃんのほうからさりげなく話を切り出してくれた。

「朝のあれ、気にすることないよ。あんな悪質な悪戯するやつの気がしれない。ああいうの嫌いなんだよね陰湿だもの」

「幾美ちゃん、あたしね祥大とは同棲とかそういうんじゃなくて、ちゃんと事情があってのことで。幾美ちゃんにならわかってもらえそうな気がするから、ちゃんと話すね」

「あたしはね、あんなこと書かれていたからって瑠花のことを無視したりなんかしない。本当の友達ってのはそういうものでしょ?」

 彼女の口から飛び出した『友達』という言葉は、きらきらとした宝石のようにあたしの心の奥のほうまで届けられ、その輝きが不安でたまらなかった気持ちを力づけてくれた。

 クラスの皆がそっぽを向いても、たったひとりでも頼もしい彼女が味方になってくれるだけで随分と心の負担は軽くなるはずだ。それでもやはり普段から行動を共にしているメグたちには、どうしても理解してもらいたいという気持ちがあって、それを思うとゆううつな気分は逆戻りしてくる。


「あたしの母親の再婚相手が祥大の父親で、あたしたち高2の冬に兄妹になったの。だから一緒に暮らしていて、一緒に暮らすうちにお互いを好きになっちゃって、だから」

「わかるよその気持ち。それで、ふたりがそういう関係だってことは親は知らないんだよね?」

「ううん、ふたりとも知ってるよ。最初は隠すつもりだったんだけど、あたしって隠すの下手だからすぐにバレて。でもあたしたちもびっくりするくらいこうなることを親たちは密かに望んでいたようで祝福してくれたの」

「すごいっ、ぶっとび! 瑠花たちの親すごいよ、理解あるっていうかすごい。それだったら瑠花は何も悩むことなんてないんだよ、堂々としてたらいいんだよ」

「でも。皆には理解してもらえそうにない気がする……」

「弱気にならないで。あたしもついてるんだから、これでも結構あたし、切り札持ってたりするんだよ」

 そう言って、幾美ちゃんはにんまりと笑ってみせた。




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