Episode6 甘い空間
夕方になるとこの冬初めての雪が降りだした。
眠る前、カーテンから顔だけをのぞかせて窓の外を確認してみたら、外灯の明かりの和らいだ光にちらつく雪たちがみえる。しばらくの間繰り返し空から落ちてくる紙ふぶきのような雪に吸い込まれるように見入っていたの。
「なにしてんの? おっ雪か、まだ降ってたんだな」
「しょ、祥大、びっくりしたぁ」
いつの間にか部屋に忍び込んできていた祥大が、あたしの頭に顎をのせ同じように雪を眺めている。背中に祥大の体温が徐々に伝わってくると感情が高ぶり愛おしさが増していく。
ふたりで行った初詣をきっかけにギクシャクした関係にピリオドを打ったあたしたちは、ひとつ屋根の下、甘い時間を共有する。
後ろから羽交い絞めにされ、カーテンから剥がされたあとは、そのまま後退する祥大がベッドに腰を下ろし同じく座らされたあたしはぎゅっと強く抱きすくめられている。されるがままになっている従順な自分に対してまで甘さを感じてしまう。
「来週末、センター試験でしょ。勉強しなくていいの?」
「どうしても解けない問題があってさ」
「数学? 祥大でも手こずっちゃうほど難しいんだ」
「難しいというより、もやもやする感じ」
「もやもや?」
「そう、もやもや」
「……?」
「瑠花のことがちらついて集中できないから、先にこっちから片付けにきたんだ」
「あのこと? もうあたし気にしてないよ。祥大を信じてるもん」
そうだよ。初めから祥大のことを疑ったりなんかしてなかったもの。好きすぎるが故の悲劇。ショックが大きかっただけ。いつまでも引きずって関係を壊すなんて馬鹿げている。
「違うの。おまえを抱きたくて勉強どころじゃなくなった」
「……? ……! きゃっ」
突然強い力が加わり、小さな悲鳴をあげたけど、その後はなすがまま。
ひとつずつ問題を解いていくようにして祥大はあたしのことを抱く。久しぶりに肌をあわせたせいか、いつもより祥大が激しいように思えた。
暖房が切れたぴんと冷えた部屋の中、不自然に汗ばむあたしの額に張り付いている髪を腕枕をしながら優しくぬぐってくれている。
「今日のおまえには異常に萌える。シャンプー変えた?」
「わかるの? ローズの香りのやつに変えたんだ」
「どうりで、薔薇はやばいよ」
「そんなことないって、普通に売ってるやつだもん」
「いや、やっぱまずい。またもやもやしてきた!」
汗が完全にひくことも許されないまま、祥大があたしの身体に唇を這わせ、もう一度熱い時間を共有していった。
祥大は勉強しなくてもだいじょうぶなのか? 頭の隅に少しひっかかりながらも甘い誘惑から逃れられないあたし。
漏らす息にか細い声が混じり、ボルテージが昇りつめていく。




